川村内科診療所様 https://kawamuranaika.jp 顎関節症、詰め物、金属アレルギーなど歯や顎の相談はお気軽に。プロスポーツ選手使用の実績あるマウスピース(マウスガード)。湘南台、藤沢市、鎌倉市、茅ヶ崎市、逗子市の方はぜひ。 Sun, 17 Mar 2024 03:22:28 +0900 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=5.4.15 2024年2月24日グレンツゲビート研究会 発表 https://kawamuranaika.jp/blog/etc/7633 https://kawamuranaika.jp/blog/etc/7633#respond Sun, 17 Mar 2024 03:22:28 +0000 https://kawamuranaika.jp/?p=7633

]]>
https://kawamuranaika.jp/blog/etc/7633/feed/ 0
高齢者RSウイルス感染の実際と予防戦略 松瀬厚人教授 https://kawamuranaika.jp/blog/etc/7575 https://kawamuranaika.jp/blog/etc/7575#respond Wed, 21 Feb 2024 10:19:00 +0000 https://kawamuranaika.jp/?p=7575 2024年2月13日 

演題「高齢者RSウイルス感染の実際と予防戦略 ~アレックスビーへの期待~」

演者: 東邦大学医療センター大橋病院 呼吸器内科教授 松瀬厚人先生

場所: 横浜ベイシェラトンホテル

内容及び補足「

RSウイルス(respiratory syncytial virus)は、ニューモウイルス科オルソニューモウイルス属に属するマイナス鎖のRNAウイルスの一種。学名はヒトオルソニューモウイルス(Human orthopneumovirus)直訳:呼吸器合胞体ウイルス。

環境中では比較的弱いウイルスで、凍結から融解、55℃以上の加熱、界面活性剤、エーテル、次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系消毒薬などで速やかに不活化される。呼吸器感染に際して、隣接する細胞の細胞膜を融合させ多角形の巨細胞様の構造物を形成する。これを合胞体またはシンシチウム(syncytium)という。

インフルエンザなどの強いウイルス感染した細胞は死滅脱落することが多い。

https://ja.wikipedia.org/wiki/RS%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9

RSウイルスの表面にはFタンパク質とGタンパク質が存在している。

Fタンパク質はウイルス膜とヒト細胞の膜融合を媒介する。サブタイプ間で高度に構造が保存されている。

Gタンパク質はヒト細胞に吸着に関与しており、AとBのサブタイプが存在する。

https://microbiologynote.com/ja/%E5%91%BC%E5%90%B8%E5%99%A8%E5%90%88%E8%83%9E%E4%BD%93%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9-RSV-%E5%AE%9A%E7%BE%A9-%E6%A7%8B%E9%80%A0-%E3%82%B2%E3%83%8E%E3%83%A0%E8%A4%87%E8%A3%BD-%E7%97%85%E5%9B%A0/

RSウイルスの感染様式は、ウイルスの飛沫感染、直接的・間接的接触感染である。通常感染者は3~8日間感染力を持続するが(Centers for Disease Control and Prevention, 2018. RSV transmission.

https://www.cdc.gov/rsv/about/transmission.html)、高齢者はより長期間にわたりウイルスを輩出する可能性がある(National Foundation for Infectious Disease (NFID). Respiratory syncytial virus in older adults: a hidden annual epidemic. September 2016.

https://www.nfid.org/wp-content/uploads/2019/08/rsv-report.pdf)。

RSウイルスの基本再生産数は3以内と報告されている。

Infect Dis Model 2018;3,23-34

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2468042718300071?via%3Dihub

https://gskpro.com/ja-jp/disease-info/rsv/definition/

 

基本再生産数は新型コロナウイルスよりは低いが、インフルエンザとほぼ同程度であるといえる。

 

RSウイルスは2歳までにほぼ100%感染するが、自然感染後の免疫応答は不完全で長く続かないため、生涯にわたって繰り返し感染する。感染の症状は幼少期にはひどく、その後軽度になり、免疫力が低下する高齢者においては重症化する頻度が増加してくる。

https://gskpro.com/ja-jp/disease-info/rsv/about/

 

RSウイルスの季節性は、地理的な場所と気候に大きく依存していると考えられており、温帯地域での毎年の季節パターンは秋から冬の3~5か月に限定されていたが、これらの関連性は証明されていない。熱帯地域では湿度が高く気温が安定しているため、大きなエアロゾルの飛沫が一年中RSウイルスの感染を維持していると考えられている。

Hum Vaccin Immunother. 2018 Jan 2;14(1):234-244.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/21645515.2017.1403707

PLOS ONE 2013;8:e54445

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0054445

 

日本においては2018年、2019年のRSウイルス感染の定点当たりの報告数は、いずれも第37週にピークが見られたが、Covid-19のパンデミック下の2020年および2021年は傾向が異なり、例年より早いピークが見られ、第8週以降減少を続け、第21週はゼロ近くまで低下し、その後第52週までわずかに増加したが低いレベルを保ち、明らかなピークの形成は見られなかった。2021年第一週も0.08と低いレベルであったが徐々に増加し、第10週には過去の数値を上回り、第16~18週にいったん減少に転じたものの、第19週より断続的に増加し、第28週には5.99とピークを迎えた。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/rs-virus-m/rs-virus-idwrs/11487-rsv-20220916.html

 

2019年4月~2020年7月にかけて国内10拠点において1000人の65歳以上の高齢参加者の急性呼吸器疾患の頻度を検討したところ、RSウイルス感染症は7月~10月にかけて多かった。

BordeP = 百日咳、CoronaV = Coronavirus、hMPV = Human Metapneumovirus、MycopP = Mycoplasma Pneumoniae、Para = Parainfluenza、Rhino/Entero = Human Rhinovirus/Enterovirus、RSV = Respiratory Syncytial Virus

Influenza Other Respir Viruses. 2022 Mar;16(2):298-307.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/irv.12928

 

高齢者の呼吸器系ウイルス感染による臨床症状の頻度を見てみると、下図のように報告されているが、症状だけでRSウイルスの感染を診断することは困難である。

Infect Dis Clin North Am 31 2017 767-790

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0891552017300600

 

患者を診てきた印象としては、インフルエンザ感染症よりは華々しくはないが長く続くといった感じである。

 

診断方法

培養:このウイルスは熱、凍結融解、㏗、塩濃度、タンパク濃度に不安定なため、適切な保存液を用いて氷冷(4℃)し迅速に搬送しなければならず、感受性のあるHep-2細胞やHeLa細胞に接種して、3~4日の培養で合胞体の毛生成を示す特徴的な細胞変化を見届けるか免疫染色をする必要があり、一般開業医では困難。

抗原同定:小児では、ウイルスの排出量が多いので簡易キットで検出可能であるが、ウイルスの排出量が少ない成人や高齢者では困難。

血清診断:ペア結成で測定する必要があり、非現実的。

RT-PCR:コストが高いため、一般開業医では困難。

 

ブラジルの3次救急病院で2005~2013年の間に急性呼吸器感染症で受診した1380例(0~91歳:平均28.1歳)のうち239例17.3%(小児23.9%、成人12.9%)がRSウイルス感染症と診断された。

RSウイルス量は成人よりも小児が圧倒的に多く、外来症例よりも入院症例で多かった。

Braz J Infect Dis. 2023 Nov-Dec;27(6):103702.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1413867023009625?via%3Dihub

 

Film Array 呼吸器パネル2.1はCovid-19を含む気道感染症が疑われる患者から採取した鼻咽頭ぬぐい液(NPS)に含まれる複数の呼吸器ウイルス・細菌の核酸を同時に勝つ定性的に検出し同定するために、Film ArrayシステムまたはFilm Array Torchシステムと共に使用することを意図した、PCRに基づくマルチプレックス核酸検査法である。

呼吸器パネル2.1を使用して以下の微生物の種類及び亜型を同定する。

https://www.biofiredx.qarad.eifu.online/ITI/JP/all?keycode=ITI0105

 

治療

基本的には酸素投与、輸液、呼吸管理などの支持療法が中心。気管支拡張剤およびステロイドの効果については多数の臨床研究がなされているが、期間資格著座位については、限られた効果にとどまるか効果がなかった盗する報告が多いが、効果があったとする報告もあり、一定の見解は得られていない。ステロイドについては、症例対照研究で効果がなかったと報告されている。

米国で唯一治療薬と認可されているのはリバビリンであり、微小粒子のエアロゾルとしての吸入にて用いられている。

現在RS治療薬としてALS-008176(N Engl J Med 2015; 373:2048-2058)の知見が行われている。

 

予防

ワクチンが開発された。

ヒト血清由来の抗RSV免疫グロブリンと遺伝子組み換え技術を用いて作成された、RSVのFタンパクに対するモノクローナル抗体製剤パリビスマブが先天性心疾患を有する生後24ヵ月以下の乳幼児においてRSV流行開始時に心疾患の治療を受けている者、重度の免疫不全状態の小児、RSV院内感染事例で、適切な対策を実施しても制御できない場合、使用を考慮してよいとなっている。

 

50例の急性気道感染の成人外来患者でFilm Array呼吸器パネルを用いて検査を行った。28例の患者で病原体を検出した。インフルエンザウイルス14例、RSウイルス6例、ヒトライノウイルス6例であった。

A上気道感染症例20例、B急性気管支炎8例、C肺炎22例では下図のような頻度であった。

J Infect Chemother. 2018 Sep;24(9):734-738.

https://www.jiac-j.com/article/S1341-321X(18)30151-X/fulltext

 

RSウイルス感染症の症状は、4~5日の潜伏期間の後、発熱、鼻汁、咳嗽などの上気道症状で発症。

70%は上気道炎のみで数日で軽快。

30%では咳嗽の増強、喘鳴、呼吸困難などの下気道炎(気管支炎、細気管支炎、肺炎)の症状が出現する。

発熱は病初期に多い。

ウイルス 2005 55(1)77-84

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsv/55/1/55_1_77/_pdf/-char/ja

 

RSウイルス感染症の重症化リスク要因として以下のものがあげられる。

年齢:特に60歳以上

https://www.cdc.gov/rsv/high-risk/older-adults.html

基礎疾患:喘息、COPD、うっ血性心不全、冠動脈疾患、糖尿病、CKDなど

https://www.cdc.gov/rsv/high-risk/older-adults.html

https://academic.oup.com/cid/article/74/6/1004/6318216?login=false

https://link.springer.com/article/10.1007/s12325-020-01230-3

免疫機能の低下:

https://www.cdc.gov/rsv/high-risk/older-adults.html

加齢に伴う肺組織の変化、上皮バリアの変化、粘膜繊毛クリアランス、組織の弾力性などが関与している。

 

Kaiser Permanente Southern California electronic medical recordsがら 2011年1月1日~2015年6月30日までの60歳以上の入院症例のデータを用いて解析した。645例のRSウイルス感染症と1878例のインフルエンザ感染症症例で検討した。それぞれ平均年齢は、78.5歳、77.4歳、うっ血性心不全は35.3%、24.5%、閉塞性肺疾患は29.8%、24.3%、喘息は26.0%、18.6%であり、RSウイルス感染症例で高齢であり、頻度が高かった。

インフルエンザ感染者と比較し、RSウイルス感染者は7日間以上の入院のORは1.5、ICU入院のORは1.3、COPDの増悪のORは1.7、喘息の増悪のORは1.5、退院後の在宅医療サービスを必要とした症例のORは1.3、入院中の死亡率のORは1.1、入院後6か月以内の死亡率のORは1.2であった。

入院後1年以内の生存率は、下図のように変化しており、インフルエンザ感染症よりもRSウイルス感染症例で有意に低値を示した。

Clin Infect Dis 2019 Jul 2;69(2):197-203

https://academic.oup.com/cid/article/69/2/197/5193205?login=false

 

Hospitalized Acute Respiratory Tract Infection (HARTI) Studyは

2017年から2019年にかけて12カ国40施設で、急性気道感染症で入院した成人の入院中及び入院後の重症化及び医療資源利用(MRU)への進展の危険性を比較した研究である。

全体として366例のインフルエンザ、238例のRSウイルス、100例の人メタニューモウイルス(hMPV)感染者が登録された。

RSウイルス群はインフルエンザ群よりも恒例で危険因子の頻度が高く、入院前の症状の持続が長かった。RSウイルス群とhMPVぐんは、より多くの気管支拡張薬、副腎皮質ステロ委で、酸素供給を受けた。集中治療室への入院や合併症には有意差はなかった。退院後3か月以内の再入院は、20~33%で発生し、RSウイルス群とhMPV群の割合が高かった。院内死亡はRSウイルス群で2.5%、インフルエンザ群で1.6%、hMPV群で2%に発生した。

Open Forum Infect Dis. 2021 Oct 5;8(11):ofab491

https://academic.oup.com/ofid/article/8/11/ofab491/6381446?login=false

 

乳児期のウイルス誘発性喘鳴エピソードは喘息の発症に先行することが良く見られており、RSウイルストライのウイルスの感染による差を終生から6歳まで259例の小児で前向きに追跡した。

喘鳴疾患の90%でウイルスが確認され、出生から3歳までの喘鳴は6歳での喘息リスクの増加と関連していた(RSウイルスのOR:2.6、ライノウイルスRVのOR:9.8、RSウイルスとRV両者のOR:10)。

Am J Respir Crit Care Med. 2008 Oct 1;178(7):667-72.

https://www.atsjournals.org/doi/10.1164/rccm.200802-309OC

 

肺樹状細胞(DC)は、アレルギーとウイルス感染において重要な役割を果たす。システイニルロイコトリエン(cysLT)のレベルは、アレルゲン感作およびウイルス感染後に増加し、DCの遊走と機能を調節すると考えられている。Dermatophagoides farinase(Df)アレルゲン感作とRSウイルス感染によるマウスの肺組織におけるCD11陽性DC数とLT濃度を測定した。

Dfアレルゲン感作マウスDf群(b)、RSV感染マウスRSV群(c)、Dfアレルゲン感作RSV感染マウスDf-RSV群(d)とコントロールマウス群(a)で検討したところ、RSウイルスの感染は、Dfマウスのアレルギー性気道炎症を有意に増強し、Th1およびTh2免疫の増加を伴い、DC数とcystLT濃度は、Dfマウス群とRSV群で有意に増加し、Df-RSV群ではDf群よりも増加した。

RSウイルス感染により、喘息患者の肺組織におけるDC数とcystLT濃度が増加し、アレルギー性気道炎症が増強する可能性が示された。

Allergology International. 2007;56:165-169

https://www.jstage.jst.go.jp/article/allergolint/56/2/56_2_165/_pdf/-char/ja

 

参:

イエダニ抗原誘発喘息モデルにRSウイルスを感染させ喘息が増悪するグループでは気道抵抗性(AHR)の値や、MMP-12レベル、好中球数の顕著な上昇が見られる。

野生型WTマウスとMMP-12ノックアウトKOマウスを用いて喘息増悪モデルを作成したところ、MMP-12KOマウスではAHRと軌道への好悪中級浸潤が抑制された。皿も、増悪グループで増加する好中球を枯渇したところ、AHRの上昇が抑制された。MMP-12が好中球を浸潤させ、好中球の増加が喘息の増悪に関与していることが判明した。このMMP-12はM2様マクロファージにより大量に産生されることが見いだされた。

喘息グループに多く存在するM2様マクロファージは、喘息を増悪させるMMP-12を大量に産生する。喘息増悪グループのマクロファージは、インターロイキンIL-4受容体(IL-4Rα)を高発現する。In vitroの実験で、マクロファージにIFN-βを加えるとIL-4Rαが抗発現し、これまでと同じ濃度のTh2サイトカイン(IL-4やIL-13)を加えると、限界を迎えていたMPP-12レベルがさらに促進された。

以上の結果から、RSウイルス感染によって誘導されるINF-βがM2様マクロファージのIL-4Rαの発現を上昇させ、Th2サイトカインに敏感に反応させ、MMP-12を抗発現させていることが示唆された。

MMP-1は好中球走化性因子であるCXCL1やTh17細胞からのIL-17A産生を促進する。上皮細胞にMMP-12が作用するとCXCL1が誘導され、また、MMP-12はINF-β産生を阻害するため、喘息増悪グループではウイルス量が増加し、結果としてIL-17A産生が誘導される。

喘息治療に使用される吸入ステロイドの一種であるデキサメタゾンを投与しても喘息増悪の改善は見られなかった。一方、MMP-12阻害剤(MMP408)を投与すると好中球浸潤が抑制され、喘息の増悪が改善された。

https://www.u-presscenter.jp/article/post-46857.html

 

19の研究1728例でCOPDの増悪におけるウイルスの役割(AECOPD)を検討した。ライノ/エンテロウイルス16.39%、RSウイルス9.90%、インフルエンザウイルス7.83%、コロナウイルス4.08%、パラインフルエンザ3.35%、アデノウイルス2.07%、ヒトメタニューモウイルス2.78%であった。

J Clin Virol. 2014 Oct;61(2):181-8.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1386653214002583?via%3Dihub

 

2011年1月㏠から2015年6月30日までの間に南カリフォルニアのカイザーパーマネンテで664例のRSウイルスによる入院があった。61%が女性で、64%が75歳以上であった。慢性疾患が30%にみられ、肺炎に至った症例は66%であった。26回/分以上の頻呼吸が56%にみられ、21%が人工呼吸器が必要であり、18%が集中治療室に入院した。

入院中の死亡率は5.6%(60-74歳は4.6%、75歳以上では6.1%)、入院後の一か月、3か月、6か月、12ヶ月後の死亡率はそれぞれ、8.6%、12.3%、17.2%、25.8%であった。

J Infect Dis. 2020 Sep 14;222(8):1298-1310

https://academic.oup.com/jid/article/222/8/1298/5863549?login=false

 

COPDは、慢性気管支炎、肺気腫、リモデリングを特徴とする肺疾患であり、効果的な治療法はほとんどなく、現在利用可能な治療法はどれも病気の進行を予防したり、特徴的な症状を標的にした治療法ではなかった。発症と親交は不均一であり、2009年時点では新しい治療法の開発もあまり進んではいなかった。

Lancet 2009 374 744-755

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0140673609613428

 

COPD患者241例から喀痰サンプルを四半期ごとに収集し、2年間にわたって安定した状態でRSVのPCRでRNA量を測定したところ32.8%で検出された。高頻度に検出された18例の一秒量の低下速度は101.4ml/yearであり、低頻度で検出された56例の一秒量の低下速度51.2ml/yearに比べ2倍の低下速度であった。

Am J Respir Crit Care Med. 2006 Apr 15;173(8):871-6.

https://www.atsjournals.org/doi/10.1164/rccm.200509-1489OC

 

 

RSウイルスはヒトにおける多くの観察から、肺外組織が血行性にRSウイルスに感染し、このウイルスを保有し、潜伏感染の持続を可能にする考えを支持している。動物実験からRSウイルスが胎盤を介して母親の気道から胎児の気道に伝染し、発育中と成人期の方法で肺に持続する可能性が示唆された。

Curr Opin Pharmacol. 2014 Jun:16:82-8.

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1471489214000393?via%3Dihub

 

RSウイルスワクチンの歴史

RSウイルスが1956年に発見されてワクチンの開発が間もなく始まった。

不活化ワクチンが試作されたが、予防するどころか感染を招き死者まで出て1960年代の臨床試験は悲惨な結果であった。『抗体依存性感染増強』という適切な保護作用のない抗体を人体が作り出し、感染をむしろ悪化させてしまう現象である。

この原因は、RSウイルスのGタンパクが誘導する過剰な2型免疫応答であった。現在はFタンパクを光源としたワクチンが開発されている。

2013年に厚生労働省が開発企業に対してRSウイルスワクチンの開発要請を行った。

2023年5月にFDAが2023年9月日本でも承認された。

GSKが開発したアレックスビーは不活化ワクチンの一種で、RSVのFタンパク質の抗原RSVPreF3と細胞性免疫応答を高めるアジュバンドであるAS01Eを組み合わせたもので、液性免疫応答及び細胞性免疫応答を持続的に誘導する構造になっている。

https://gsk.m3.com/contents/arexvy/2023/202310O09O/index.html?cid=202310O09O&from=pc

 

アジュバントAS01の量は、シングリックスの半分の量となっている。

アレックスビーの投与によりCD4+T細胞の出現頻度は191から、31日後には1339に増加し、6か月後でも666認めた。

RSV OA=ADJ-006試験は、RSVワクチンの接種歴及び免疫抑制状態などのない60歳以上の成人24966例(日本人1038例)を対照に行った、無作為化、観察者盲検、プラセボ対照の国際共同第3相試験である。

3シーズンを追跡、シーズン2開始前にアレックスビーを年一回追加接種群と痰回接種群、およびプラセボ群で免疫学的検査をDay1、Day31に行い、抗体価/抗体濃度を測定した。

主要評価項目はRSV感染による下気道疾患の初回発現に対する有効性を検討し、副次評価項目としては、RSV感染による下気道疾患の初回発現に対するベースライン時の併存疾患別有効性などを検討した。

本試験におけるアレックスビーの有効性は82.58%で予防効果が検証された。

また、一つ以上の注目すべき併存疾患(慢性閉塞性肺疾患、喘息、慢性呼吸器/肺疾患、1型または2型糖尿病、慢性心不全、進行した肝疾患または腎疾患)を有する集団におけるRSV感染による下気道疾患の初回発現に対する有効性は94.61%であった。

サブタイプA,Bに対する効果84.6%と80.9%も有意さは認めなかった。

N Engl J Med 2023; 388:595-608

https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa2209604

安全性については下表のように、特定有害事象/重篤な有害事象が認められた。

摂取後4日間の特定有害事象はアレックスビー群で多く認められたが、接種後6か月間に報告された重篤な有害事象においては、両群間で有意な差は認めなかった。

健常者、プレフレイル、フレイルの3郡に分けた有効性ではそれぞれ79.95、92.92、14.93であった。ただこの研究におけるフレイルの定義は寝たきりの状態であり、一般的に日本で言われているフレイル状態は、この分類のプレフレイルに該当するので、フレイル状態の高齢者に対してアレックスビーは有効であると考える。

N Engl J Med 2023; 388:595-608

https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa2209604

アレックスビーの副反応は下図のように局所の反応が主であり、プラセボとの差がある。

しかし、死亡に至った有害事象は、アレックスビー群で49例(0.4%)プラセボ群で58例(0.5%)にみられ、アレックス例で死亡に至った主な有害事象は心筋梗塞7例、COVID-19 肺炎5例であった。

https://gskpro.com/ja-jp/products-info/arexvy/clinicalstudy/#2

 

現在呼吸器感染の主な病原体である新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、肺炎球菌、RSウイルスについて、はじめの3者は治療薬もありワクチンも存在するが、RSウイルスはまだ治療薬が存在しないので、ワクチンでの抵抗力増強が必要である。

 

参:RSウイルスによる下気道疾患及び重症疾患に対する、RSウイルス流行期2シーズン(追跡期間中央値:18か月)にわたる単回投与の有効性が示された。

https://jp.gsk.com/ja-jp/news/press-releases/20230706-gsk-shares-positive-data-for-arexvy-its-respiratory-syncytial-virus-older-adult-vaccine-indicating-protection-over-two-rsv-seasons/

]]>
https://kawamuranaika.jp/blog/etc/7575/feed/ 0
https://kawamuranaika.jp/blog/jyunkanki/7525 https://kawamuranaika.jp/blog/jyunkanki/7525#respond Tue, 13 Feb 2024 09:02:22 +0000 https://kawamuranaika.jp/?p=7525 2024年2月9日 

演題「音声バイオマーカーを用いた地域包括心不全連携」

演者: 横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター内科講師 岡田 興造 先生

場所: 南区医師会館

内容及び補足「

65歳以上の高齢者の割合が人口の7%を超えた社会を高齢化社会、14%を超えると高齢社会、21%を超えた社会を超高齢化社会、28%超えた社会を超超高齢化社会と呼ばれている。

令和2年10月1日現在、我が国の総人口は1億2571万人で、65歳以上の人口は3619万人となり、そうじんこうにしめるわりあいは28.8%で超超高齢化社会になっている。

内閣府「令和3年版高齢社会白書」

https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf

2022年11月に出された「第7回孤独死現状レポート」では、孤独死した人数について下記表のように発表されている。

男女とも50~70代の高齢者が多く、特に60代が最も多い。

2040年には4割の世帯が単独世帯になると予測されており(国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(2018年)」)、母数が増える分、孤独死も増えると予測される。

https://www.shougakutanki.jp/general/info/2022/kodokushi.pdf

 

これからの医療で問題になるのは、

老々介護

老々医療

地域格差

社会保障費の増加:2018年121兆円が2040ねんには190兆円と1.6倍に増加すると推定されている。

厚生労働省は「健康寿命の延伸」政策を掲げている。

2019年5月29日の「第2回2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」において「誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現」のための3本柱として、「雇用・年金制度改革等」、「医療・福祉サービス改革プラン」とともに「健康寿命延伸プラン」が発表された。

健康寿命延伸プランでは、2016年は男性72.14歳、女性74.79歳だった健康寿命を、2040年までに男女ともに3年以上延伸することを目指すこととなった。

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/hale/h-01-004.html

 

誰でもどこでも等しく質の高い医療が受けられることが必要であり、デジタルトランスフォーメーション、AIやIoTの活用、個別化、スマート化、疾病予防・重症化予防が重要となってくる。

 

日本では心不全患者が120満人以上存在し、循環器系疾患における死因第一位となっている。

平均入院期間が14~28日であり、平均入院費用は約120万円、再入院率が年間35%あり、患者負担が大きい疾患である。

 

令和余念の死亡を死因別にみてみると、心疾患は約23万人、脳血管疾患が約11万人と両疾患で30万人を超えている。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/dl/gaikyouR4.pdf

予防的な視点で診断、治療までがシームレスで行える必要がある。

心不全は完治しない進行する再発性の疾患である。

心不全の治療は心不全のステージにより異なる。ステージA、Bでは予防が主体であり、ステージC、Dとなると限られた治療薬が主体となる。

心不全で入院した患者14374例のうち追跡期間中に7401例が死亡した。入院回数が多くなるほどその予後は悪くなる。

Am Heart J. 2007 Aug;154(2):260-6

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17643574/

 

心不全のステージでもAとB、CとDで大きく異なる。

Circulation. 2007 Mar 27;115(12):1563-70.

https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.106.666818

 

心不全では、軌道や肺の浮腫、倦怠感など音声に影響する症状が多く、PST株式会社の音声解析技術により、心不全に特徴的な音声症状を音声解析で数値化することに成功した。

https://digitalist-web.jp/trends/domestic/z36Mb

治療内容や目標は各ステージ毎により異なり

ステージA:高血圧、糖尿病、脂質異常症、CKDなどのリスク管理

ステージB:IHD、心房細動、弁膜症、心筋症などの基礎心疾患の治療・管理

ステージC・D:心機能の改善、リモデリングの予防

が主体となる。

慢性心不全に対して、RASS系阻害薬、β遮断薬、SGLT2阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の投与により予後が改善することが判明した。RASS系阻害薬をサクビトリルバルサルタン(ARNI)に置き換えた四剤はFantastic Fourと呼ばれ、GDMT(guidline-derected medical therapy 診療ガイドラインに基づく標準的治療)と位置づけられるようになった。

Eur Heart J. 2021 Feb 11;42(6):681-683

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33447845/

 

2022年のAHA/ACC/HFSAの心不全治療のガイドラインは下記の図のように提唱された。

J Am Coll Cardiol. 2022 May, 79 (17) e263–e421

https://www.jacc.org/doi/10.1016/j.jacc.2021.12.012

 

DAPA-HF試験において、SGLT2iであるダパグリフロジン投与により、心不全の死亡率は100患者年あたり9.5⇒7.9人年と減少した。

これらの患者の96%にβ遮断薬、95%にRAAS系阻害薬、71%にMRAが投与されていた。

JAMA Cardiol. 2020 Aug 1;5(8):948-951.

https://jamanetwork.com/journals/jamacardiology/fullarticle/2765274

 

HFrEFに対する大規模RCTのデータで、ARNI+SGLT2iにβBlocker+MRAを加えた症例と従来のACE阻害薬あるいはARBにβBlockerを加えた場合の世簿の比較趣味レーションを行ったところ、ARNI+SGLT2i治療を行うことで、心血管死亡、心不全入院をすべて減らし、80歳の患者に投与すると、1.4年の寿命延伸効果が認められた。

 

Lancet. 2020 Jul 11;396(10244):121-128.

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30748-0/fulltext

 

CHARM試験において、糖尿病が合併しているとEFに関係なく、心不全患者の心血管罹患率及び死亡率を低下させた。

Eur Heart J. 2008 Jun;29(11):1377-85.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18413309/

 

冠動脈疾患は基礎に動脈硬化性疾患を有しており、動脈硬化性疾患の危険因子を生活習慣の改善や薬物治療でコントロールすることが重要である。特に、心機能、腎機能、糖代謝の状態の悪化は悪循環を招くことになる。

European Heart Journal, Volume 41, Issue 3, 14 January 2020, Pages 407–477

 

DELIVER試験

2型糖尿病の有無を問わず、左室駆出率LVEFが40%超えの心不全症例6263例に対してフォシーガ10㎎とプラセボの比較試験で、心血管死、心不全による入院または心不全による緊急受診のいずれかが最初に発生するまでの期間を主要評価項目とした。有意なリスク低下は投与13日目から認められた。

全体集団とLVEF60%未満群で主要複合エンドポイントのうちいずれかの初回発現までの期間を比較したところ、フォシーガ群におけるリスク低下効果は同等であった。

JAMA Cardiol. 2022 Dec; 7(12): 1259–1263.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9531091/

 

4744例のNYHA2~4のEF40%以下の心不全患者を登録した。最新の心不全入院がない群52.6%、12か月以内の群27.4%、12か月以上の群20%で心血管死または心不全の悪化の複合エンドポイントで追跡期間の中央値は18.2か月であった。

プラセボ群では、直近の心不全入院のタイミングに応じて主要アウトカムのリスクが段階的な勾配があり、2年間のカプランマイヤー率は21.1%、25.3%、33.8%であった。

ダパグリフロジン群は、主要アウトカムの相対リスクをそれぞれ16%、27%、36%低下させた。

 

より最近の心不全入院の症例は、2年後にダパグリフロジン投与に夜より大きな絶対リスク低下(2.1%、4.1%、9.9%)がみられた。

JAMA Cardiol. 2021 May; 6(5): 499–507.

https://europepmc.org/article/MED/33595593#free-full-text

 

DAPA-HFおよびDAPA-HFのメタアナリシスの結果11007例がエントリーされ、平均EFは44%であり、ダパグリフロジン群の心血管系死亡リスクのHRは0.86、全死亡リスクのHRは0.90、心不全による総入院及びMACEのHRは0.90と低下させた。

Nature Medicine 28 1956–1964 2022

https://www.nature.com/articles/s41591-022-01971-4

 

音声バイオマーカー

13種類の定型文を読み上げ、AIを用いて、音声による「軽症or中等症1」の心不全の判別を行った。

https://techable.jp/archives/180873

 

「あー」と発音させる。心不全患者の増悪時においては5秒以内に途切れるようになる。普段の会話では5秒以内に発語が終わるため、この変化に気づきにくい。そのほかには「ぱたか」を繰り返しえて発語してもらうことも行う。

AIで解析を行うと13個の特徴的な項目が検出できた。

 

心不全悪化により入院した38例を含む、心不全患者726例の音声データを記録し、心不全の臨床上の変化(NYHA分類)と、時間経過中のBNP濃度を比較した。いくつかの音声バイオマーカーと臨床症状およびBNPレベルとの間に有意な相関関係があり、データセットから抽出されたバイオマーカーに基づいてMLモデルのプロトタイプを作成すると、NYHA2以上を予測するためのMLモデルでは感度0.78、特異度0.75、AUC0.79、制度0.77の相関関係が認められた。

Circulation. 2022;146:A11315

https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/circ.146.suppl_1.11315

 

外来診療において、「あー」の発声持続時間を測定しているが、BNPが一過性に上昇していても、この持続時間に変化がない場合には、心不全の悪化によるBNPの上昇ではなく、それ以外の要因での変化であり、経過観察で元に戻るが、逆に、この持続時間が短くなっている場合には心不全の潜在性増悪の場合があり、早期治療介入で心不全入院を回避することが可能であったと考えられる症例を経験している。

音地域包括心不全連携に声バイオマーカーを利用することにより心不全の悪化を予防したり、早期治療介入ができる可能性があり、現在取り組んでいるところである。

 

 

参:音声バイオマーカーの研究は、はじめ神経性変性疾患の分野で行われてきた。

特にパーキンソン病では、音声障害が非常に頻繁(89%)であり、声の変化は早期診断のバイオマーカーまたは、疾患振興のマーカーとしての利用が期待されている。

パーキンソン病

パーキンソン病患者の音声障害は、主に発生と調音に関連しており、ピッチの変化、高周波スペクトルの高次の部分のエネルギーの減少、母音と子音の不正確な調音など、明瞭度の低下につながっている。声の変化は、病気の初期段階では、患者と医師の両方によって見落とされがちであるが、客観的な測定は初期段階のパーキンソン病患者の最大78%で声の特徴変化を認めている。

アルツハイマー病と軽度認知障害

声と言語の微妙な変化は、アルツハイマー病の前駆症状が現れる何年も前から観察されており、軽度認知障害の初期段階でも検出されている。両方の患者で、話すことを躊躇したり、発語速度を遅くしたり、単語をにつけるのが困難になったりするなどの障害、迂回やフィラー音(uh、um)の頻繁な使用、意味エラー、不定語、改訂、繰り返し、慎吾、語彙的および文法的な単純化、一般的な意味能力の喪失などが見られる。アルツハイマー病患者の談話は、一貫性の低下、信じがたい無関係な詳細が特徴的である。変化は、韻律的特徴(ピッチの変化と変調、発語リズム)があり、患者の感情により影響される。

 

多発性硬化症

多発性硬化症患者では、構音、呼吸、韻律の変化などに変化が見られ、声の特徴と発生行動を長期観察することで、脳深部刺激療法などの治療を開始する最適な時間帯を決定することが示されている。

関節リウマチ

高騰の病理学的変化が疾患の進行とともに起こり、音声品質機能の追跡が患者のモニタリングに役立つことが示されている。

メンタルヘルスと感情のモニタリング

ストレスレベルと発声機能、言語的相互作用の持続時間には関連がある。

うつ病患者ではコルチゾールの血清濃度が高い人ほど声に症状が見られ、うつ病症状の発見やうつ病の重症度の推定が可能である。

精神疾患では、音声の言語的側面が影響を受けやすく、統合失調症では、談話は支離滅裂になる傾向があり、ばらばらのアイデアの流れ、言葉の間の無意味な連想、またはトピックからの脱線がしばしばみられる。

消極性および演技性パーソナリティ障害患者では状況発派が顕著である。

冠動脈疾患

メイヨークリニックのチームが、冠状動脈疾患の病歴に関連するいくつかの特徴を特定した。

糖尿病

jitter, shimmer, smoothed amplitude perturbation quotient, noise to harmonic ratio, relative average perturbation, amplitude perturbation quotient などが、糖尿病患者と非糖尿病患者で有意な差を認めたとする報告があり、血糖コントロール不良や神経障害のアル2型糖尿病患者では、緊張感が強く、声の弱さがあることも示されている。

COVID-19

ケンブリッジ大学では音声バイオマーカーによるCOVID-19の診断はAUC80% であると報告しており、咳の音に基づく診断のプロジェクトが進行中である。

 

Digital Biomark 2021 5 78-88

https://karger.com/dib/article-pdf/5/1/78/2576243/000515346.pdf

 

参:PTS株式会社の研究開発:研究事例:

https://www.medical-pst.com/research/case

うつ病:音声バイオマーカー(Arousal Level Voice Index:ALVI)値がうつ病傾向の検出において有効な指標となることが明らかになった。

Sensors 2020, 20(18), 5041

https://www.mdpi.com/1424-8220/20/18/5041

 

認知症:「あー(3秒間)」と「ぱたか」の繰り返しのシンプルな発語タスクから非言語的な音響特徴量を抽出し、機械学習モデルにより、健常者・MCI患者・認知症患者の3群間判別を試みた。195件の音声データを用いて5分割検証を行ったところ、平均AUCは0.81、3群判定の正解率は66.7%であった。

Journal of Aging Research & Lifestyle, 12:72-76 2023

file:///C:/Users/jeffbeck/Downloads/2012645.pdf

 

]]>
https://kawamuranaika.jp/blog/jyunkanki/7525/feed/ 0
インフルエンザの診療・予防 Up to date 関雅文教授 https://kawamuranaika.jp/blog/kokyuki/7431 https://kawamuranaika.jp/blog/kokyuki/7431#respond Sat, 30 Dec 2023 06:19:02 +0000 https://kawamuranaika.jp/?p=7431 2023年12月22日 

演題「呼吸器ウイルス感染症の診療・予防 Up to date~インフルエンザを中心に~」

演者:埼玉医科大学医学部国際医療センター 感染症科・感染制御科教授 関雅文先生

場所: AP横浜

内容及び補足「

コロナ禍でも鳥インフルエンザは世界的に蔓延している。

https://www.maff.go.jp/j//syouan/douei/tori/attach/pdf/index-209.pdf

2022年まで日本ではインフルエンザの流行がなかったので、インフルエンザの免疫を失っている状況下において、鳥インフルエンザの流入には注意が必要である。

参:

インフルエンザウイルスは、A型、B型、C型の3型があり、A型インフルエンザウイルス:人だけでなく、鳥、豚、馬などの動物にも感染する。

鳥インフルエンザ:A型インフルエンザが引き起こす鳥類の疾病

我が国の家畜伝染病予防法では、病原性の程度及び変異の可能性によって、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)、低病原性鳥インフルエンザ(LPAI)および鳥インフルエンザの三つに分類される。

https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/#2

鳥インフルエンザウイルスはヒトの季節性インフルエンザウイルスとは異なる。感染した鳥の糞や感染した鳥の糞に汚染された水などを介して広がる。

毛並みが乱れたり、産卵数が減ったりするような軽い症状にとどまるものを「低病原性鳥インフルエンザ」(LPAI)と呼び、感染した鶏やアヒルなどが死んだりする鳥に対して強い病原性を示すものを「高病原性鳥インフルエンザ」(HPAI)と呼ぶ。

鳥インフルエンザの中で問題なのはH7N9インフルエンザであり、感染した人はほとんど100%に近い人が肺炎を起こし、家族内などの限局したヒト―ヒト感染が起こっている。鳥インフルエンザウイルスの中でヒトに感染しやすくなっているものとしてはH5N1 があるが、発生している数は少ない。

政府広報オンライン

https://www.gov-online.go.jp/prg/prg9687.html

 

国際獣疫事務局(WOAH)のモニーク・エロワ事務局長は、『世界各国が家禽に対する鳥インフルエンザのワクチン接種を検討し、この病気が新たなパンデミックに転じるのを防ぐべきだ』と訴えた。

https://jp.reuters.com/article/idUSKBN2XD07Y/

中国やベトナムなどでは鳥インフルエンザワクチンの鶏への接種が行われている。G7の中では、フランスでアヒルを対象とした鳥インフルエンザワクチン接種が、2023年10月から始まった。これを受け農林水産省は過熱されていないフランス産のフォアグラなどの輸入を停止した。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231008/k10014218811000.html

鳥インフルエンザの被害を減少させるためには、鳥にワクチンを接種するしかないと考えられるが、ワクチンを打つと鳥インフルエンザに感染した際に症状が軽微となるため、分かりにくくなり、ヒトへの感染が増える危険性が上昇する懸念がある。

ワクチンを打っていないと鳥は死亡するので、発見が早くなるが、殺処分する鳥の数は多くなる。

実際2022年12月に青森県の採卵養鶏業「東北ファーム」では、一か所の農場としては国内最多となる139万羽の殺処分を余儀なくされた。

読売オンライン 2023/03/16

https://www.yomiuri.co.jp/national/20230314-OYT1T50179/

Multiplex Polymerase Chain Reaction Analysisを使って、2023年の冬COVID-19のパンデミックが終わる頃、症状があり、CODIV-19患者との濃厚接触がある55例を検査したところ31例56.4%でウイルスの遺伝子が検出された。

症状および検出されたウイルス遺伝子の内訳を下記の表に示す。

J Infect Dis Microbiol 1(2)012 2023年5月10日

https://maplespub.com/article/detection-of-various-respiratory-viruses-other-than-sars-cov-2-by-multiplex-polymerase-chain-reaction-analysis-of-samples-from-symptomatic-patients-at-a-drive-through-style-outpatient-clinic-in-the-end-stage-of-the-covid-19-pandemic

 

世界と日本のインフルエンザ

インフルエンザは過去5年間の同時期と比較してかなり多い。

IDWR感染症週報2023年第50週

https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/idwr/IDWR2023/idwr2023-50.pdf

 

120カ国からのインフルエンザ情報を解析すると、2023年11月27日から12月10日までに59000例陽性でそのうち52260例(88.6%)がA型で、6740例(11.4%)がB型だった。

Aha17.9%がA(H1N1)pdm09で82.1%がA(H3N2)であった。BはすべてVictoriaであった。

https://www.who.int/tools/flunet/flunet-summary

 

日本での2023年第50週(12月11日~12月17日)のインフルエンザ感染者数を見ると

下図のようになる。埼玉県は多く、神奈川県は少ない。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/infection/dashboard/influenza.html

インフルエンザは子供の間で流行していてコロナは大人に多いといえる。

令和4年12月28日版厚生省Pressリリースで。令和4年第51週のインフルエンザの定点当たりの報告数が1.24となり、インフルエンザの流行シーズンに入ったと考え、新型コロナとインフルエンザの同時流行に注意を促している。

https://www.mhlw.go.jp/content/001032283.pdf

 

富山県衛生研究所の報告では2023年第8週(2月21日~2月27日)におけるインフルエンザ感染者は下図のように変化してきている。

感染者の年代分布を見てみると10歳未満で半数以上を占め、高齢者では少ない。

冬で歩かないこと、大家族が多いこと。子供がほとんど抗体を持たない状況になっていたことが一因であると推察されている。

インフルエンザの発生状況(富山県)第8週(2023/2/20~26)

https://www.pref.toyama.jp/documents/30855/influ202308.pdf

同時期のCOVID-19の感染者の年代分布は下図のようであり60歳代以上で約1/4程度を占めており、コロナは大人に多く、インフルエンザは小児に多いといえる。

https://www.pref.toyama.jp/documents/29028/covid19_202308.pdf

 

国立研戦勝研究所の2022/2023シーズンインフルエンザについての報告で、16都道府県の3565名を対象として、A/ビクトリア/1/2020(H1N1)pdm09、A/ダーウィン/9/021(H3N2)、B/プーケット/3071/2013(山形系統)、B/オーストラリア/1359417/2021(ビクトリア系統)の4種類のHI抗体価測定を行った結果が報告されている。

AH1系統のワクチン株は、2021/2022シーズンと同じA/ビクトリア/1/2020(H1N1)pdm09の感染リスクを50%に抑える目安となる1:40以上の交代保有率(図中の赤線グラフ)が最も高かったのは10-14歳群で、0-4歳群および40歳以上の各年齢群で20%未満の交代保有率であった。

AH3系統のワクチン株は、A/ダーウィン/9/021(H3N2)に変更となっているが、ほとんどの年齢群で1:40以上の交代保有率は30%以上あったが、0-4歳群は10%未満であった。

一方、B型にみてみると、B/プーケット/3071/2013(山形系統)ウイルスに対する1:40以上の抗体保有率は45歳以上の年齢群で低値をしているし、B/オーストラリア/1359417/2021(ビクトリア系統)に対する1:40以上の抗体保有率は、多くの年齢で20%以下であった。

https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoko2023.pdf

 

2022/2023シーズンの入院サーベイランスに報告された2023年第25週までの累積数はほかのシーズンに比べ急増している。

年齢別にみてみると、70以上の症例で多いが、2022/023年シーズンでは、0~4歳が最も多く、14歳以下でも多いことがわかる。

https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoko2023.pdfEur

 

マウスにインフルエンザと肺炎球菌を感染させた場合の肺炎の所見を検討してみた。Control(■)では、14日間では死亡はなかった。インフルエンザと肺炎球菌を同時感染させた群(●)では一日目に死亡例が出現し、3日後には全例死亡した。

病理所見では、同時感染例では、重度の気管支肺炎とMassiveは出血が見られた。

European Respiratory Journal 2004 24: 143-149

https://erj.ersjournals.com/content/24/1/143

 

2014年11月~2019年8月にかけてインターネットサーベイスラインシステムを利用して924例の重症インフルエンザ症例を検討した。60歳代以降で増加している。

死亡例は60歳以上で多数見られるが、30歳代でも死亡例がいる。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1341321X20303809

 

ヒト気管支上皮細胞の培養へのCovid-19、インフルエンザウイルスA(IAV)、RSVの感染を併用した、単回感染および重複感染による影響を検討した。

Covid-19感染後には腺毛細胞、基底細胞、杯細胞の存在と形状の変化はほとんど見られなかったが、IAV感染後には、腺毛細胞の著しい喪失、上皮の厚さの減少、及び細胞の脱落が見られる。72時間後には細胞数が有意に減少し、96時間までには上皮がほぼ完全に破壊されている。

RSVに感染した培養細胞は波状の外観となり、96時間後にはより顕著になったが、上皮の菲薄化はみられていない。

同時感染した培養では、IVA/Covid-19およびRSV/Covid-19の細胞変性の変化は単独の感染した培養組織とは区別困難で、COVID-19 の存在が細胞病原性を増強または減弱させていないと考えられた。

Covid-19の複製に対するIAVおよびRSVの影響を見るために、単回感染及び同時感染を実施し、0、24、48、72、および96時間後の感染性ウイルス量を定量した。単回感染では、COVID-19 の力価は、24時間後で徐々に上昇し、72時間後でピークとなった(A、B)。IAV力価は24時間後で上昇し48時間後がピークになった(C)。RSVはIAVよりも遅い速度で複製し、より低いピーク力価であった(D)。

重複感染では、COVID-19 の複製はIAVまたはRSVのいずれかの存在で有意に減少した。しかし、その現象の度合いは、異なっていた。

IVAの複製はCOVID-19の存在による影響は上かなかった(C)が、RSVとの同時感染では、COVID-19 の複製が減少し、48,72および96時間後に検出されるCOVID-19の感染性ウイルス量が有意に減少した(B)。

注目すべきは、COVID-19の複製に対するRSVによる減少は、IAVによる減少ほど強くないようであったことである(A、B)。

RSVの複製は、COVID-19 の影響は受けなかった(D)。

COVID-19ヌクレオシドタンパク質(N)、IVA核タンパク質(NP)、RSV融合タンパク質(F)に対する抗体を用いて免疫蛍光染色を実施した。

単回感染において、COVID-19 陽性細胞が72時間後で検出可能であり、その後、主に上皮の頂端部分で蛍光シグナルが増加していた。

対照的にIAV陽性細胞は、24時間後に出現しており、48時間後では、脱落細胞を含む頂端上皮のほとんどがIAV-NP抗原染色陽性細胞が見られ、96時間後には激減していた。

RSVシグナルは24時間後に検出された(図では96時間後にやっと観察できるように見えるが論文にはこのように記載してある)。

IAVおよびRSVの染色パターンは、単回感染及び重複感染で観察されたものは同様であった。

自然免疫応答のタイミングと程度を比較するために三つのインターフェロン刺激遺伝子(ISG)『ミクソウイルス体制タンパク質A(MxA)、インターフェロン誘導膜貫通タンパク質3(IFITM3)、ISG15』の発現レベルを調べた。タンパク質の発現レベルは、弱、中、強に分類した。

COVID-19に感染した組織では、IAVまたはRSVに感染した組織、同時に感染した組織と比較して、三つのISGすべて最も低い発言であった。

これらの結果は、COVID-19 がIAVとRSVと比較して弱い自然免疫応答を引き起こすが、同時感染ではIAVとRSVに対する応答が支配的であることを示唆している。

COVID-19の複製阻害がIAVまたはRSVによって引き起こされる自然免疫応答によるものかどうかを判断するためにIRF-3のリン酸化を阻害することで1型IFN応答を阻害する薬剤であるBX795 を投与して同様の実験を行った。

BX795 の存在下でのIAV同時感染においてCOVID-19が対照群よりも有意に高いレベルに複製され(A)、BX795 の存在下でもRSV同時感染でも、COVID-19の力価は上昇している(B)。72時間後以降に顕著である。

しかし、同時感染時におけるIAVやRSVの力価はBX795 の存在の有無による有意な差は認めなかった。

A:COVID-19とIVA同時感染のCOVID-19の力価、B:COVID-19とRSV同時感染のCOVID-19の力価、C: COVID-19とIVA同時感染のIVAの力価、D:COVID-19とRSV同時感染のRSVの力価、

 

組織切片においては、BX795 の存在でのCOVID-19とIAVの同時感染は、BX795 の非存在下での同時感染と比較して、上皮の病変の程度が低く、これは自然免疫応答によって引き起こされるアポトーシスの減少が原因である可能性がある。

しかし、COVID-19とRSVの同時感染にはこの変化は見られなかった。

ウイルス抗原の免疫染色を行ったところ、BX795 の存在下では両方のウイルス抗原が重複感染で観察された。これは、BX795 存在下では単一細胞と同時感染細胞が混在しており、ウイルス間の相互作用がCOVID-19の排除に至らなかったことを示唆している。

これらの結果は、

1.重複感染におけるCOVID-19の複製ブロックは、IAVまたはRSVによって引き起こされる自然免疫応答によるものである。

2.細胞の同時感染は、自然免疫応答がない場合に発生する可能背がある。

ことを示している。

つまり、Covid-19の複製は、IAVまたはRSVの両方によって阻害される。この阻害は、機能的な抗ウイルス反応に依存しており、阻害のレベルは二次ウイルス感染のタイミングに比例している。従って、他の呼吸器感染によりCovid-19に対する一過性の耐性が得られる可能性があると予測される。

J Infect Dis. 2023 Jun 15;227(12):1396-1406.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1341321X20303809

 

COVID-19のコロナ感染者6956例において583例にウイルスの重複感染が認められ、インフルエンザウイルスは227例、RSVは220例、アデノウイルスは136例であった。

重複感染による死亡率は明らかに上昇していた。

Lancet. 2022 Apr 16;399(10334):1463-1464

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(22)00383-X/fulltext

 

ウイルス間の相互作用についての研究がある。

ウイルス同士の相性があるようで、COVID-19とRSVには相互作用がありそうだが、COVID-19とIAVの間にはなさそうである。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2019 Dec 26;116(52):27142-27150.

https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.1911083116

 

2011年1月~2019年1月の間にインフルエンザ感染者をレトロスペクティブ・コホート研究がVeterans Affairs Informatics and Computing Infrastructure(VINCI)のデータ120806例のインフルエンザ患者を用いて解析された。

インフルエンザ診断から30日以内の入院患者で、無治療群4228例、抗菌薬のみの群671例、抗ウイルス薬のみ6492例、抗菌薬と抗ウイルス薬の併用群1415例で入院の相対リスクを推定した。

使用された抗生剤はマクロライド系抗生物質が最も多かった。

入院転帰の発生率を見てみると、未治療群で入院の割合が最も高く、抗菌薬と抗ウイルス薬の併用群で最も低かった。特筆するべきは、抗菌薬のみの投与群と抗ウイルス薬のみの投与群でほぼ同程度の効果があったということである。

最初の5日までで見てみると抗菌薬と抗ウイルス薬の併用投与は85%も入院リスクを低減している。呼吸器系入院では87%も入院リスクを低減している。抗菌薬のみの投与でも、それぞれ65%、67%も入院リスクを低減している。

Clinical Infectious Diseases, Volume 72, Issue 4, 15 February 2021, Pages 566–573,

https://academic.oup.com/cid/article/72/4/566/5715206

抗菌薬の投与により潜在する二次性肺炎を治療している可能性がある。

 

107例のインフルエンザA感染者に対してオセルタミビル治療群56例とオセルタミビル+アジスロマイシン併用のコンボ群51例で比較検討した。に群間で炎症サイトカインやケモカインの発現量には有意な差を認めなかったが、最高体温は3日目から5日目にかけてコンボ群のほうが有意に低かった。

PLoS One. 2014 Mar 14;9(3):e91293.

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0091293

 

COVID-19感染症という気道感染症の診療に大きなインパクトを与える疾患が登場したことにより、気道感染症の抗菌薬適正使用に関する提言の改訂版が令和4年11月20日に出された。

急性気管支炎に対する治療の考え方に、まずインフルエンザとCOVID-19の除外が組み込まれた。

参:急性副鼻腔炎の10-day markとdouble sickeningの概念の図が下図のように修正された。

急性副鼻腔炎診療アルゴリズムにおいて、先ずインフルエンザおよびCOVID-19の除外をすることが付け加えられた。

急性咽頭・扁桃炎の場合も同じである。

成人の場合は下図のアルゴリズムであり、

小児の場合は下図のようになった。

https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2211_teigen.pdf

 

感染症学会提言「抗インフルエンザ薬の使用について」が2029年10月24日更新された。

ノイラミニダーゼ阻害薬の有効性について多くの報告がなされており、ハイリスクの外来患者において入院を抑制すること、入院患者の致死率を抑制し、予防的投与はインフルエンザの伝搬を有意に減少させること、オセルタミビル投与は小児のインフルエンザ罹病期間を短縮させ、中耳炎発症のリスクを低下させることなどの報告がなされた。

2018年12月米国感染症学会(IDSA)が季節性インフルエンザの臨床ガイドラインを改定した。

インフルエンザ罹患時に合併症のリスクの高い患者(下表)に対してノイラミニダーゼ阻害薬による治療が推奨されている。

下記の患者については、インフルエンザが確定あるいは疑われたならば、ワクチン接種の有無に関わらず可及的早期に抗ウイルス治療を開始する。

下記のインフルエンザの合併症のリスクのない患者については、インフルエンザ確定あるいは疑われたなら、ワクチン接種の有無に関わらず、抗ウイルス治療のを検討してよい。

アジアでのインフルエンザが確定した成人入院患者を対象としたコホート研究で、ノイラミニダーゼ阻害薬の効果は48時間以内の投与で歳であったが、それを超えても有効性が認められたと報告されている。(Eur Respir J 2015; 45: 1642-52.)

https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=37

またパロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)は従来のノイラミニダーゼ阻害薬と異なり、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害によりウイルスの増殖を抑制する新しい作用機序の薬剤である。

国際共同第3相試験の結果で臨床的な有効性、罹病期間の短縮はオセルタミビルと同等で、ウイルス感染拡大を早期に大幅に低下させることが示されている。

単回経口投与で治療が完遂する簡便性もある。

北海道における0-18歳の患者における報告では、解熱までの時間短縮効果は、インフルエンザAではノイラミニダーゼ阻害薬と同等であり、インフルエンザB型では、パロキサビルが優れているとしている(Pediatr Int. 2019 Jun;61(6):616-618.)。

一方で、臨床例から検出されたウイルスでアミノ酸変異が認められ、パロキサビル低感受性株が報告されている。また、パロキサビル投与を受けていない患者からも低感受性ウイルスが検出されており、ヒト―ヒト間で伝播している可能性が示されている。

しかしながら、パロキサビル低感受性ウイルスが、臨床経過に与える影響については、エビデンスが十分ではないのが現状である。

健常者における治療では、アミノ酸変異を生じた例では、罹病期間の延長とウイルス感染かの再上昇が認められ、小児では、変異のない患者では罹病期間が43.0時間であるのに対して、変異が認められた患者では79.6時間と1.8倍延長している。成人では、変異のない患者での罹病期間49.6時間が、変異が出ると63.1時間と延長していたが、プラセボ群の80.2時間よりは短縮していた。

以上の点を鑑みて、この委員会では、パロキサビルの使用に関して、現在までに得られたエビデンスを検討した結果、以下のような提言を行っている。(単独投与が前提)

https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=37

 

20名のボランティアにインフルエンザAテキサス/36/91(H1N1)を経鼻的に感染させ、ウイルス力価や症状変化、サイトカインの推移を観察した研究がある。ウイルス力価は2日目にピークとなった。

体温変化は2日目がピークで漸減した。

鼻水の量は3日目がピークであった。

合計の症状スコア(●)、上気道症状(〇)、全身症状(■)は2日目がピークで、下気道症状(□)は漸増した。

鼻汁におけるサイトカインは下図のように変化した。

血中のIL-6は2日目にピークとなったがTNF-αは3日目まで漸増した。

J Clin Invest. 1998;101(3):643-649.

https://dm5migu4zj3pb.cloudfront.net/manuscripts/1000/1355/cache/1355.1-20201218131541-covered-e0fd13ba177f913fd3156f593ead4cfd.pdf

 

抗インフルエンザ薬の一覧を下表に示す。

アルゴリズムとしては入院管理が必要なA群と外来治療が相当のB群に分けられている。

厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/000574837.pdf

 

参:インフルエンザウイルスの増殖機構:新薬情報オンライン       

                                                 

この過程を細かく見てみる。

インフルエンザウイルスはヒトの粘膜上皮細胞にあるシアル酸レセプターに結合し、細胞内に取り込まれる。膜融合が起こり、その後脱殻し、ウイルスのRNAがヒト細胞内に放出される。

RNAはキャップ構造がないと翻訳は開始されないが、インフルエンザウイルスRNAにはキャップ構造がない。

ヒトのmRNAのキャップ構造がキャップ依存性エンドヌクレアーゼにより切断され、インフルエンザウイルスのRNAに結合し。このキャップ構造を起点(プライマー)として転写が開始され、インフルエンザウイルスが元から持っているRNA依存性RNAポリメラーゼにより伸長反応が促進される伸長反応の最後にポリA鎖(mRNAの安定性にかかわる)が付与され、mRNA転写が完了する。

その後、mRNAは翻訳が開始され、ウイルスのタンパク質が合成される。

このようにして出来上がったウイルス蛋白質とウイルスのRNAが合わさってインフルエンザウイルスが完成する。

ヒト細胞内で増殖したインフルエンザウイルスは、ヒト細胞表面に盛り上がり(出芽)、ノイラミニダーゼにより切り離され、ヒット細胞から遊離し、他の細胞に感染する。

https://saigaiin.sakura.ne.jp/sblo_files/saigaiin/image/E382BEE38395E383ABE383BCE382B6EFBC88E38390E383ADE382ADE382B5E38393E383ABEFBC89E381AEE4BD9CE794A8E6A99FE5BA8FE383BBE9A19EE896ACE381A8E381AEE4BDBFE38184E58886E38191E38090E382A4E383B3E38395E383ABE382A8E383B3E382B6E6B2BBE79982E896ACE38091.pdf

 

キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬パロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)の使用についての新たな提言(202311.27改訂)

1219歳、および成人の外来患者におけるパロキサビルの投与について

1. 臨床効果と抗ウイルス効果について

 インフルエンザAについてはオセルタミビルと同等の効果、インフルエンザBについてはオセルタミビルよりもより有効であった。

 年齢を問わずNAIよりも臨床症状の速やかな改善と安全性が確認された

 3編のRCTのメタ解析で年齢を問わずオセルタミビルと比較し、有症状時間の短縮、投与直後のウイルス力価およびRNA量を有意に減少させた。

 Network meta-analysisにおいてNAIと臨床効果は同等であり、ウイルス力価減少効果はハイリスク群においていずれのNAIよりも優れていた。

 一回投与で治療が終了するパロキサビル、ペラミビル、ラニナミビルの治療効果を12RCTのNMAによる解析結果では、症状改善まで、および解熱に至るまでの時間は、それぞれ、ペラミビル、パロキサビルが最も短く、投与後24および48時間後のウイルス排出量の減少効果はパロキサビルが最も優れていた。

2. 暴露後予防効果、およびNAI低感受性ウイルスの伝搬抑制について

 545例のindex caseに暴露された同居家族752例への予防投与のっ効果を検討した他施設共同二重盲検試験では、暴露後10日までにおけるインフルエンザ発症割合はパロキサビル投与群で1.9%で、プラセボ13.6%に比べ86%の発症予防効果を認めた。

3. 関連合併症の発症抑制効果

 ハイリスク群を対象とした先述のRCTおよび21編のRCTのメタ解析において、パロキサビルはプラセボに比較して、副鼻腔炎と気管支肺炎の合併を有意に抑制した。入院及び肺炎の合併は、有意差は出なかったが数では減少していた。

4. PA/138Xについて

 当初の解析でパロキサビル治療群にPA/138X変異を有するウイルスが健康成人で9.7%、小児で23.4~38.8%と高率に認められた。

 12~64歳の健康人の先行研究CAPSTONE-1試験でPA/138X変異の認められた症例のサブ解析では、ウイルス消失までの時間の中央値は延長し、症状緩和までの時間の中央値も12時間延長が見られたが、Day5以降については差を認めなかった。

 2019年にはパロキサビル治療歴のない入院中の小児から138X変異を有するA(H3N2)が検出され、その後PA/138X変異ウイルスの兄弟間感染事例の報告があり、PA/138X変異ウイルスの市中拡大が懸念されたが、その後国立感染症研究所での現行の解析法で見る限りPA/138X変異ウイルスの増加は確認されていない。

 

重症患者及び免疫不全患者におけるパロキサビルの投与

1. 重症患者における有効性について

 入院加療を要するインフルエンザAによる感染症790例の後方視的研究でオセルタミビとの比較において30日死亡率には差はないものの治療開始後の生産粗結晶からの回復に要する時間は短い結果であった。

 入院を要する重症インフルエンザ患者を対象としたオセルタミビルとパロキサビル併用群241例とオセルタミビル単独治療群125例の研究では、臨床改善を認めるまでに要する時間は97.5時間と100.2時間で有意差はなく、有害事象も認められていなかったが、併用群で抗がん剤患者において、両薬剤に耐性が出現したことが報告されている。

 我が国の入院患者を対象とした2つの後ろ向き研究では、オセルタミビルとの比較で死亡率を低下させ、有意に入院期間を短縮させた。

 これらの知見にょり、推奨/非推奨を現時点ではまだ論じることとはできないが、内服薬の薬理医学・薬行動隊が不安定となる患者(血液透析患者、ショック、等)を除き、パロキサビルを重症患者の治療に単独で投与することは可能と考える。

2. 免疫抑制患者における有効性について

 免疫抑制状態(含化学療法、HIV/AIDS、白血病/リンパ腫、骨髄移植、臓器移植、SLE、プレドニゾロン>20mg/日、Tacrolimus内服、等)と判断されたサブグループ103例の解析では、臨床効果指標の改善において、オセルタミビルとの間に差は認められなかった。

 薬剤の種類を問わず、重度の免疫抑制状態においてはウイルス排出が遷延するのみならず、薬剤低感受性ウイルスが排出されえることがわかっているのでこの点を留意する必要がある。

 

12歳未満の小児に対する投与について

1. 臨床効果について

 インフルエンザA感染例での効果

 1歳から12歳未満の小児を対象としたパロキサビルとオセルタミビの比較したランダム化二重盲検試験(miniSTONE-2)ではほとんどがインルエンザA感染例で有熱時間(41.2時間vs46.8時間)、発熱以外の症状が改善するまでに要する時間(138.1時間vs150.0時間)については、有意差を認めなかった。

 6歳から10歳までの患者を対象とした観察研究でも有熱時間は有意差を認めなかった。

 インフルエンザB感染例での効果

 0歳から7歳未満の小児を対象としたパロキサビル顆粒製剤を用いたオープンラベル第3相臨床試験では、有熱時間は30.7時間、発熱以外の症状が改善するまでに要する時間は41.7時間であった。同試験では、ほとんどの症例で投与4日目以降に感染性ウイルス量が再増加すること、また、約60%の症例で再発熱することが報告されている。

 12歳未満の小児を対象とした2つの臨床試験結果を問うお具した解析結果において、Bがた感染例でのパロキサビル投薬後有熱時間は、6歳未満では32.2時間、6歳から12歳未満では20.6時間であった。

2. 小児におけるPA/138X変異株について

 miniSTONE-2試験で19.3%の患者でパロキサビル投与後にPA/138X変異株が検出されており、特に1歳から5歳未満の小児での検出率が31.3%と高いことが報告されている。6歳から10歳に比較し6歳未満の小児で(H1N1:20.0%vs0.0%、H3N2:52.2%vs18.9%)パロキサビル投与後に変異株がより多く認められる。

 6歳から10歳までの小児を対象とした観察研究と1歳から12歳未満の小児を対象とした研究では、PA/138X変異株検出例と非検出例との間で、有熱時間(35.8時間vs69.5時間:p<0.0518)に有意差はないものの、発熱以外の症状が改善するまでに要する時間(42.8時間vs79.6時間)、感染性ウイルス排出時間(3日間vs6日間)についてはPA/138X変異株検出例で明らかに遷延することが報告されている。

以上まとめると12歳未満の小児に対するパロキサビル投与は慎重な適応判断が必要である。

https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/teigen_231130_nashi.pdf

 

インフルエンザの治療についての総括

早期発見から早期治療へ

普段から備えておく:ワクチン接種、マスク着用や手洗い、うがいなどの感染制御活動

ワクチンの接種状況としてコロナは91.3~92.7%、肺炎球菌ワクチン15.8%(令和2年)、インフルエンザ65.6%(令和2年)であり、もっとワクチン接種を行うべきである。

 

参:

コロナワクチン接種状況(2023年12月26日)

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/vaccine/

肺炎球菌ワクチン接種状況

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001173696.pdf

インフルエンザワクチン接種状況

https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2021/11/501r05f01.gif

 

]]>
https://kawamuranaika.jp/blog/kokyuki/7431/feed/ 0
RSウイルスワクチンへの期待 永井英明先生 https://kawamuranaika.jp/blog/kokyuki/7390 https://kawamuranaika.jp/blog/kokyuki/7390#respond Sun, 24 Dec 2023 08:33:02 +0000 https://kawamuranaika.jp/?p=7390 2023年12月10日 

演題「高齢者に必要とされる新たなワクチン ~RSウイルス感染症の疾病負担とワクチンへの期待~」

演者: 国立病院機構東京病院 感染症科部長 永井英明先生

場所: ウエスティンホテル大阪

内容及び補足「

2023年9月14日に米国疾病対策センターCDCは新型コロナウイルス感染症とRSウイルス感染症、インフルエンザによる入院患者総数は昨年並みで新型コロナウイルスのパンデミック水準を上回るとの見通しを示し、この3つのウイルスの同時流行する『トリプルデミック』の懸念が高まっており、RSウイルスのワクチン配布が秋に可能になるとした。

RSウイルスは1950年代にはじめて発見されたRNAウイルスで、幼児たちの呼吸器疾患の主要な原因として長らく認識されていた。一歳未満の子供たちの気管支炎のもっとも一般的な原因であり、米国で毎年6万人の子供が入院している。全世界では感染者数は6400万人、死亡者数は年間16万人に上ると推計されている。

https://www.niaid.nih.gov/diseases-conditions/respiratory-syncytial-virus-rsv

 

2017-2018、2018-2019、2019-2020年の3シーズンでニューヨーク州の3つの病院において急性呼吸器疾患の症状2種類以上が発現、または心肺基礎疾患の増悪により24時間以上入院した患者においてRT-PCR検査によりRSウイルス感染が確認された18歳以上の患者1099例において、RS 感染の入院比率は基礎疾患のある患者で上昇していた。

Clin Infect Dis 2022 74 1004-1011

https://academic.oup.com/cid/article/74/6/1004/6318216?login=false

 

RSウイルスの構造

膜と融合して細胞に侵入に関与するFタンパク質と、細胞の吸着に関与するGタンパク質がウイルス表面に発現している。

https://passmed.co.jp/di/archives/18678

Fタンパクは高度に保存されているが、GタンパクはAとBのサブタイプが存在する。ワクチンはFたんぱく質の構造を抗原とし、それにAS01Eアジュバントで免疫応答を増強している。

参:

RSウイルスは直径100~350nmの丸い粒子として表れることも、直径60~120nmで長さ10μmまでの長いフィラメントとして表れることもある。

ウイルスのエンベロープは、融合タンパク質F、付着タンパク質G、および低分子疎水性タンパク質SHの11の異なるタンパク質で構成されている。これらのタンパク質は別個のグループを形成し、長さ16nmの短いスパイクとしてウイルスの表面に存在する。

マトリックスタンパク質Mはウイルスの保護エンベロープの下に位置する。ウイルスの遺伝物質は、核タンパク質Nによって囲まれた一本のマイナスセンスRNAで構成される。RNAポリメラーゼタンパク質L、リンタンパク質Pおよび転写処理因子M2-1もヌクレオカプシドに結合している。

https://microbiologynote.com/ja/%E5%91%BC%E5%90%B8%E5%99%A8%E5%90%88%E8%83%9E%E4%BD%93%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9-RSV-%E5%AE%9A%E7%BE%A9-%E6%A7%8B%E9%80%A0-%E3%82%B2%E3%83%8E%E3%83%A0%E8%A4%87%E8%A3%BD-%E7%97%85%E5%9B%A0/

 

参:RSウイルスの画像

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC210JG0R21C23A0000000/

 

RSウイルスのアメリカにおける感染者数の推移は下図のようになっており、2020年までは同様の傾向であったが、コロナ感染以降、変化がある。

日本におけるRSウイルス感染の動向も2019年までは似通った動向であったが、コロナ感染がはやった2020年はほとんど症例が観察されず、2021年の夏以降に増加し、感染の流行の時期は一定していない。

https://www.niid.go.jp/niid/images/idwr/pdf/latest.pdf

詳しくは下記のサイト参照を

https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/rapid/topics/rsv/150918/rsv1_230726.gif

 

RSウイルスの感染経路は、飛沫感染と手指を介した接触感染で最初に鼻粘膜に感染することが多い。

感染してから発症するまでの潜伏期間は2~8日で、典型的には4~5日である。

症状としては発熱、微絨、咳嗽などの上気道炎の症状で発症する。約70%の症例は上気道炎のみで数日で軽快するが、残りの30%では、2~3日後、感染が下気道に及び、咳嗽の増強、喘鳴、さらには呼吸困難などの下気道炎(気管支炎、細気管支炎、肺炎)の症状を呈してくる。それらは更に数日~1週間の経過で快方に向かう。

http://jsv.umin.jp/journal/v55-1pdf/virus55-1_77-84.pdf

米国、カナダ、ヨーロッパ諸国、日本、韓国の60歳以上の成人におけるRSウイルス感染及び入院率、及び入院死亡に関するデータを、メタアナリシスした結果を見てみると、全体での発症率は1.62%、日本では2.4%、入院率は全体で0.15%、日本では0.10%、院内死亡は7.13%であり、以前言われていた数字よりは高かった。

日本とアメリカを比較してみると、日本の人口はアメリカに比較して38%になるので、感染や入院率、院内死亡の数字を比較すると56%に当たるので、アメリカよりもRSウイルス感染などの比率は高い。

この理由としては、アメリカに比べ、日本人は高齢者が多いのめではないかと推論されている。

Influenza Other Respir Viruses. 2023 Jan;17(1):e13031.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/irv.13031

 

16088人から17694例の成人において4つシーズンにおいて164例のRSV感染者が見られた。

50~59歳、60~69歳、70歳以上において1万例当たり124、147、199例の感染者が見られたことになる。抗原定性検査は高齢者で陽性率が下がるといわれており、このことを含めて考えても高齢になるほどRSV感染者は増加するといえる。

PLoS One. 2014 Jul 15;9(7):e102586.

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0102586

 

2011年1月1日から2015年6月30日までの60歳以上のインフルエンザとRSVの入院成人を比較してみると、RSVは645例、インフルエンザは1878例あり、平均年齢は、78.5歳に対して77.4歳、心不全合併例は35.3%に対して24.5%、COPD合併例は29.8%に対して24.3%であった。RSV患者の7日間以上の入院のORは1.5、肺炎のORは2.7、ICU入院率のORは1.3、COPDの増悪のORは1.7、1年以内の死亡率のORは1.3であり、RSV感染は、インフルエンザよりも高齢者の入院や死亡率が高くなる可能性が示された。

Clin Infect Dis. 2019 Jul 2;69(2):197-203.

https://academic.oup.com/cid/article/69/2/197/5193205?login=false

 

2012年8月31日から2013年8月1日の間にアメリカのHealthcare resourceを用いてRSVに起因する医療資源の使用と経済的負担をレセプトデータベースで分析した結果によると、すべての年齢層、特に高齢者において、入院期間が1.9日:3.0日、ER/UCの使用0.4:0.5、緊急受診0.7;2.7、外来受診回数12.1:18.6、処方数9.5:14.6(非RSV:RSV)と多かった。

BMC Health Services Research 2018 18 294

https://bmchealthservres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12913-018-3066-1

 

2011年1月1日から2015年6月30日までに入院した60歳以上でRSV陽性者664例(女性61%、75歳以上64%)で、肺炎になった症例は66%いた。入院死亡は5.6%で、入院後の1、3、6、12か月の累積死亡率はそれぞれ8.6%、12.3%、17.2%、25.8%であった。

J Infect Dis. 2020 Sep 14;222(8):1298-1310.

https://academic.oup.com/jid/article/222/8/1298/5863549?login=false

 

COPD患者241例から喀痰サンプルを四半期ごとに収集し、2年間にわたって安定した状態でRSVのPCRでRNA量を測定したところ32.8%で検出された。高頻度に検出された18例の一秒量の低下速度は101.4ml/yearであり、低頻度で検出された56例の一秒量の低下速度51.2ml/yearに比べ2倍の低下速度であった。

Am J Respir Crit Care Med. 2006 Apr 15;173(8):871-6

https://www.atsjournals.org/doi/10.1164/rccm.200509-1489OC

 

RSV感染の中心的病像は細気管支炎である。

病理学的には、細気管支上皮の壊死、時には増殖反応、線毛上皮の脱落、細気管支周囲へのリンパ球、好中球、形質細胞、マクロファージの浸潤がある。粘膜上皮細胞間には、リンパ球が習俗氏、粘膜下組織は浮腫状となり、粘液分泌が亢進する。これらの変化により、細気管支は閉塞し、それにより末端の気道の無気肺、あるいは気腫性変化を引き起こす。こういった変化はRSVに特異的なものではないが、RSVは気道上皮に親和性が高く、当初から気道上皮に感染して増殖し、細胞を破壊して発病に至る。

感染早期に細胞の遺伝子、タンパクの変化をきたす。まず、主要な二つの核内転写因子、NF-κBとIRF-1の活性を亢進し、RSVのFタンパクがTLR4(Toll-like receptor4)と結合し、NF-κBを活性化する。これらの転写因子はIL-1β、IL-6、TNFなどの炎症サイトカイン、IL-8、RANTES、MIP-1αなどのケモカイン、アポトーシス関連タンパクやiNOSをコードしている遺伝子を活性化する。感染細胞から放出されたいくつかのケモカインにより、集簇・活性化された炎症細胞が種々のケミカルメディエーターを介して細胞障害を起こすと考えられている。

ウイルス 第 55 巻 第1号,pp.77 - 84,2005

http://jsv.umin.jp/journal/v55-1pdf/virus55-1_77-84.pdf

 

急性心筋梗塞は急性呼吸器感染症によって引き起こされる場合がある。

急性心筋梗塞入院を行政データから特定し、呼吸器検体採取後の7日間を「リスク期間」、「リスク期間」の前後それぞれ1年間を「対象期間」と定義してインフルエンザ感染とRSV感染の影響を検討した研究がある。

インフルエンザ陽性判定の前後それぞれ一年以内に発生した急性心筋梗塞による入院は364件あった。このうち20件は「リスク期間」に発生し、344件は「対象期間」に発生していた。「リスク期間」における急性心筋梗塞による入院の「対照期間」との比較した発生率比は6.05であった。7日目以降には発生率の上昇は認められなかった。B型インフルエンザ、A型インフルエンザ、RSウイルス、その他のウイルスの検出後7日以内の急性心筋梗塞の発生率比はそれぞれ10.11、5.17、3.51、2.77であった。

N Engl J Med. 2018 Jan 25;378(4):345-353.

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1702090

 

2015年10月1日から2017年4月30日までの間でRSV-NETのサーベイライスラインで行われた調査で、心不全状態で入院された症例とそうでない症例でのRSVの感染を確認した。心不全状態の症例において、2042例のRSV感染が特定され、65歳以上が60.2%を占めていた。

心不全がない症例に比べ心不全状態にある症例の比率は、18歳以上で8.1倍、65歳未満では14.3倍、65歳以上では3.5倍の比率であった。

心不全状態においては、18歳以上でRSV関連の入院率が8倍と高知であり、RSV感染リスクが高い集団である可能性がある。

PLoS One. 2022 Mar 9;17(3):e0264890

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0264890

 

参:RSウイルス感染後に細菌性肺炎が生じるメカニズム

RSウイルスに感染8日後、肺炎球菌を感染させると野生型のマウスでは一定の割合で生存率が低下するのに対し、Gas6 KOマウスではそのような低下はみられなかった(A)。

野生型マウスがRSウイルスに感染すると、その後の肺炎球菌感染に伴るINF-ɤなどの炎症性サイトカインの産生(B)、免疫細胞の浸潤(C)などの免疫応答が抑制される(D)ことが判明した。そして、RSウイルスに感染した野生型マウスでは肺炎球菌のクリアランスが遅れる。一方、Gas6KOマウスでは二次感染グループであっても、これら免疫応答の抑制は解除された。すなわち、RSウイルス感染によって誘導されるGas6/Axlが二次性肺炎の原因であることが示唆された。

肺炎球菌のクリアランスには抗菌脳の高いM1マクロファージの発現が不可欠であるが、RSウイルス感染後のマクロファージは抗菌脳の低いM2様マクロファージに分極していることが分かった。さらに、RSウイルス感染に伴い気道上皮細胞や肺胞マクロファージから産生されるGas6と肺胞マクロファージに発現するAxlが結合すると、M2様マクロファージを誘導することが見いだされた。このM2様マクロファージは、IL-8やCXCL2野さん性能が低いため、ナチュラルキラー(NK)細胞からのINF-ɤ産生や好中球浸潤をほとんど誘導できず、結果的に肺炎球菌がバク的に増え、重症化することが分かった。一方、RAウイルス感染後でも、Axlに対する阻害抗体や阻害剤によりGas6からのシグナルを阻害すれば、M2様マクロファージへの群局が抑制され、適切な炎症応答を誘導でき肺炎球菌のクリアランスが正常化し、重症化しないことが判明した。

Gas6とAxl

Gas6は1988年にSchneiderらにより増殖休止期に発現が上昇する遺伝子として報告され、1993年にManfiolettiらによってcDNA構造が報告された。Gas6のレセプターとしてTyro3、Axl、Mer(TAMレセプター)の三種類があり、それぞれ類似した構造を有するが、親和性や発現組織、細胞が多岐にわたるために異なる生理作用を示す。

AxlはGas6に対して最も高い親和性を有するために、TAMレセプターの中でも最も多くの役割を担っている。

当初Axlに結合するGas6は線維芽細胞の増殖因子として同定され、細胞増殖因子としての役割はそれほど注目されていなかったが、最近ではがん細胞の増殖因子として注目を集めている。Gas6がアポトーシス細胞に露出したフォスファチジルセリンとマクロファージなどの貪食細胞にAxlに結合すると、貪食関連シグナルが活性化し、アポトーシス細胞が貪食除去さる。

In vitroの実験で、Gas6/Axlシグナルはsuppressor of cytokine signaling (SOCS)1やTwist1を誘導し、Toll-like receptor(TLR)シグナルを抑制する機構が報告され、アレルギーや感染症などの様々な疾患における免疫応答の制御因子として働くことが判明した。

東医大誌79(1)21-25 2021

file:///C:/Users/jeffbeck/Downloads/toidaishi079010021.pdf

 

RSVワクチン開発の道のり

1960年代にアメリカで乳幼児を対象とした不活化RSVワクチンの試験が行われたが、このつかつかワクチンは、感染を防御するどころか重篤な下気道炎や喘息を増加させ、2名が死亡する結果となって、開発は停滞した。この不活化ワクチンが過剰な炎症反応を引き起こし田ばかりでなく、感染を防ぐ中和抗体が誘導されなかった。

2000年にCalderらが、RSVのFたんぱく質の構造が宿主細胞に結合・融合する前と後で大きく変化することを発見した。

2013年にMcLellan らは宿主細胞に融合する前のFタンパク質(pre-F)に結合する抗体にRSV感染を防ぐ能力があること、逆に融合した後のFタンパク質(post-F)に結合する抗体にはその能力がないことを明らかにした。1960年代の実験に使われた不活化ワクチンはpost-Fの構造をとっていたことも分かった。

https://www.cider.osaka-u.ac.jp/plus-cider/2022-11-15-ise-wataru/

RSV感染により中和抗体の結合部位が隠れてしまう。

RSウイルス感染に対する免疫応答は、液性免疫と細胞性免疫が必要である。

液性免疫:中和抗体はすくしゅ細胞へのウイルスの侵入を阻害する。

細胞性免疫:RSウイルス特異的なT細胞応答は、ウイルス除去を促進し、疾患の重症度を軽減する。

GSKが開発したアレックスビーは不活化ワクチンの一種で、RSVのFタンパク質の抗原RSVPreF3と細胞性免疫応答を高めるアジュバンドであるAS01Eを組み合わせたもので、液性免疫応答及び細胞性免疫応答を持続的に誘導する構造になっている。

https://gsk.m3.com/contents/arexvy/2023/202310O09O/index.html?cid=202310O09O&from=pc

アジュバントAS01の量は、シングリックスの半分の量となっている。

アレックスビーの投与によりCD4+T細胞の出現頻度は191から、31日後には1339に増加し、6か月後でも666認めた。

 

RSV OA=ADJ-006試験は、RSVワクチンの接種歴及び免疫抑制状態などのない60歳以上の成人24966例(日本人1038例)を対照に行った、無作為化、観察者盲検、プラセボ対照の鉱区再共同第3相試験である。

3シーズンを追跡、シーズン2開始前にアレックスビーを年一回追加接種群と痰回接種群、およびプラセボ群で免疫学的検査をDay1、Day31に行い、抗体価/抗体濃度を測定した。

主要評価項目はRSV感染による下気道疾患の初回発現に対する有効性を検討し、副次評価項目としては、RSV感染による下気道疾患の初回発現に対するベースライン時の併存疾患別有効性などを検討した。

本試験におけるアレックスビーの有効性は82.58%で予防効果が検証された。

また、一つ以上の注目すべき併存疾患(慢性閉塞性肺疾患、喘息、慢性呼吸器/肺疾患、1型または2型糖尿病、慢性心不全、進行した肝疾患または腎疾患)を有する集団におけるRSV感染による下気道疾患の初回発現に対する有効性は94.61%であった。

安全性については下表のように、特定有害事象/重篤な有害事象が認められた。

摂取後4日間の特定有害事象はアレックスビー群で多く認められたが、接種後6か月間に報告された重篤な有害事象においては、両群間で有意な差は認めなかった。

死亡に至った有害事象は、アレックスビー群で49例(0.4%)プラセボ群で58例(0.5%)にみられ、アレックス例で死亡に至った主な有害事象は心筋梗塞7例、COVID-19 肺炎5例であった。

https://gsk.m3.com/contents/arexvy/2023/202310O09O/index.html?cid=202310O09O&from=pc

まとめ

RSV感染症は、日本国内においては疫学調査がないが海外と同様と考えられる。

基礎疾患があると入院や重症化のリスクが高い。

有効性、安全性が確認されたワクチンがあり、RSV感染に対して入院/重症化要望の効果が期待される。

]]>
https://kawamuranaika.jp/blog/kokyuki/7390/feed/ 0
2023-24年末年始の休診日 https://kawamuranaika.jp/blog/7380 https://kawamuranaika.jp/blog/7380#respond Mon, 13 Nov 2023 09:59:46 +0000 https://kawamuranaika.jp/?p=7380 2023年12月26日午後診療(火曜日)から2024年1月3日(水曜日)までをお休みさせていただきます。

ご迷惑をおかけします。

12月26日火曜日は12時30分までの午前中の診療で終わりとなりますので、お間違えないようにお願いいたします。

川村内科診療所 所長 川村昌嗣

]]>
https://kawamuranaika.jp/blog/7380/feed/ 0
インフルエンザとCOVIDの流行は続く 菅谷憲夫先生 https://kawamuranaika.jp/blog/etc/7325 https://kawamuranaika.jp/blog/etc/7325#respond Sun, 29 Oct 2023 04:49:25 +0000 https://kawamuranaika.jp/?p=7325 2023年9月25日 

演題「インフルエンザとCOVIDの流行は続く」

演者:慶應義塾大学医学部客員教授 元けいゆう病院感染制御センター長 菅谷憲夫先生

場所: 横浜市医師会 会議場からWeb配信

内容及び補足「

現在流行しているインフルエンザの種類は以下のようにA型には2つのsubtype(交差無し:違うsubtypeのA型に感染の可能性あり)、B型には2つのlineage(交差あり)がある。

A(H3N2) :A型香港型 1968年に出現した香港インフルエンザ

A(H1N1)pdm09:2009年に出現した豚インフルエンザ

B型:ビクトリア系統(オーストラリアのビクトリアで最初に発現)、山形系統(日本の山形で最初に発現)

日本におけるインフルエンザは新型コロナが発症した後2021年2022年と流行はなかった。

米国においてのインフルエンザの流行は下の図のようになっている。

世界各国の流行図は上・下図のようになり、世界的にみてみるとインフルエンザの流行がなかったのは2021年の1年だけである。

2022年にはA(H3N2)の小規模な流行が2022年の7月まであり、2023年は2022年の10月からA(H3N2)がはやり始め12月初めにはピークになっており、例年よりも2か月早い流行で、最近10年間で最大のインフルエンザの流行となっている。

https://app.powerbi.com/view?r=eyJrIjoiZTkyODcyOTEtZjA5YS00ZmI0LWFkZGUtODIxNGI5OTE3YjM0IiwidCI6ImY2MTBjMGI3LWJkMjQtNGIzOS04MTBiLTNkYzI4MGFmYjU5MCIsImMiOjh9

 

スコットランドもちょうど同じパターンでA香港型の小流行の能登大流行となっている。

ドイツも同じである。

今季の日本のインフルエンザは欧米に遅れて大規模流行か?

細かく見てみると日本では、A(H3N2)は2020年から3年流行なく2023年小流行している。

A(H1N1)pdm09は2021年から3年間流行なし

B型は2021年~3年間流行なし

そのため低年齢小児にはインフルエンザの免疫がないし、成人も免疫が低下していると考えられる。

参:全世界の流行

https://www.yobousesshu.jp/topics/06/

 

米国においては2022年の9月末から流行が始まり、10000万人のあたりが、10月24日で20000人のあたりが11月6日で、12月4日がピークになる。

そのままであれば大騒ぎになるところが、その後スート減少し、2023年1月には流行が終息した。日本もこの経過をたどりそうで心配である。

2022年の3月に出されたWHOの最新のガイドラインは重症インフルエンザ治療のガイドラインで、健康で軽症インフルエンザは高インフルエンザ薬知慮の対象とはせず、アセトアミノフェンの投与のみという考え方である。つまり、入院・重症化防止、死亡防止を治療目的としている。

治療の対象

  • インフルエンザと診断された重症患者
  • (重症化はしていなくても)基礎疾患を有する患者
  • (重症化はしていなくても)65歳以上の高齢者、6歳未満の低年齢の小児、妊婦と分娩に周囲内の褥婦、高度肥満者
  • 医療関係者

であり、ハイリスク患者は重症化していなくても早期に治療する。

 

治療薬

勧奨されている治療薬はオセルタミビルのみであり、早期投与が推奨されている。

オセルタミビル治療では、8編の観察研究(n=4725)でオセルタミビル治療患者では、インフルエンザ患者の死亡を62%減少させており、2編の観察研究(n=14445)で入院を35%減少されており、12編のRCT(n=7765)で入院防止効果がRR 1.07であった(ICU入院や腎交換機治療の防止効果はほとんどなかった)などのエビデンスがある。

吸入ザナミビル、吸入ラニナミビル、静注ペラミビルは「使用しない」ことが勧奨されている。これらはエビデンスがないためである。

Guidelines for the clinical management of severe illness from influenza virus infections

https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/352453/9789240040816-eng.pdf?sequence=1

 

日本では「抗インフルエンザ薬を使用しても、発熱などの症状が短縮するだけで重症化や死亡を防止しない」という情報が時にマスコミに流れるが、それは誤りである。

現在日本では、症状の軽減を目的に、迅速診断陽性患者全員を治療し、WHOは、重症化と死亡防止を目的として治療している。

 

インフルエンザA外来患者の入院防止に使用されるオセルタミビルの評価としてRCT論文を集めたメタ解析がJAMAに掲載された。

6295例のうち3443例(54.7%)にオセルタミビルが投与された。

平均年齢45.3歳、入院率は0.6%の集団であったためか、オセルタミビルはプラセボと比較して入院のリスク低下とは関係しなかった。

この論文の考察において、入院率2%ほどの高い集団においてRCTで結果を出すためには15000人以上の参加者が必要であると推計されるため、問題があるとしている。

JAMA Intern Med. 2023 Jun 12:e230699

https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2805976

 

インフルエンザ治療の日本の基本的な考え方は、「健康成人・小児を中心にすべてのインフルエンザ患者を抗インフルエンザ薬で早期に軽症の段階で治療し、それが結果として、ハイリスク患者も含めた重症化と死亡の防止につながる」としている。

実際、2009年のA(H1N1)pdm09のパンデミックにおいて、世界で最も少ない死亡者数と妊婦の死亡ゼロを実現している。世界でも驚嘆され、WHOも認めている。

 

オーストラリアとニュージーランドでは、2009年6月から3か月間で64例の妊婦がICUに入院し44例(69%)が人工呼吸器で治療となり7例(11%)が死亡した。発症からオセルタミビル治療までの中央期間は6日だった。

日本は一年間で呼吸器を使ったのは一例のみで、死亡例はなく、ほとんどの症例は48時間以内にオセルタミビルが使われている。

BMJ 2010;340:c1235

https://www.bmj.com/content/340/bmj.c1279

 

オセルタミビル1日2回5日間投与(154例)とプラセボを対象(162例)とした第3相二重盲検並行軍艦比較試験の結果、平熱までの回復時間(36.9℃以下になるまでの期間)はそれぞれ33.1時間、60.5時間であり、45%短縮した。

感染症学会誌 2000 74 1044-1061

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kansenshogakuzasshi1970/74/12/74_12_1044/_pdf/-char/ja

 

米国CDC2022年末のリリースで外来患者の治療として以下のように発表された。

インフルエンザ合併症のない外来患者には3種類のノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビル)あるいはバロキサビルによる治療を勧奨

外来患者であっても、肺炎・気管支炎など、インフルエンザ合併症がある場合及びハイリスク患者の基礎疾患悪化が認められる場合は、オセルタミビルによる治療を勧奨

となっている。

尚、アメリカでは治験でうまくいかなかったのでイナビルは使用許可されていない。

 

日本が世界のタミフルの75%使っている手使い過ぎだと批判されているが、世界でのタミフルの売り上げを見てみると2012年時点でもアメリカでは日本の2倍以上、2013年には4倍以上使用されている。

小児科外来においてオセルタミビル投与群(平均8.9歳)とザナミビル投与群(平均10.0歳)に対して投与した。インフルエンザA(H3N2)の発熱期間がそれぞれ2.40日 2.39日、治療からの解熱期間がそれぞれ1.35日 1.40日、インフルエンザA(H1N1)の発熱期間がそれぞれ、2.60日、2.46日、治療からの解熱期間がそれぞれ1.79日1.54日であり、インフルエンザの発熱期間がそれぞれB2.95日2.84日、治療からの解熱期間がそれぞれ1.86日1.67日であった。オセルタミビルがザナミビルにくらべ、インフルエンザA(H3N2)やBよりもA(H1N1)にたいして有効であったという結果が、インフルエンザBに対して効果が低いと思われるようになったと思われる。

Clinical Infectious Diseases, Volume 47, Issue 3, 1 August 2008, Pages 339–345

https://academic.oup.com/cid/article/47/3/339/314617

 

バロキサビルがインフルエンザBに対して効きが悪いと言われているが、以下の研究は異なる結果である。

12歳以上の健常者のインフルエンザ外来患者においてバロキサビル(730例)とオセルタミビル(725例)、プラセボ(729例)の対象試験を実施した。

インフルA(H3N2) 557例(48%)、インフルエンザB 484例(42%)、インフルエンザA(H1N1)80例(7%)であった。

インフルエンザB治療群において、臨床症状の改善時間は、オセルタミビル群よりもバロキサビル群で27.1時間有意に短縮した。

Lancet Infect Dis 20 1204-1214 2020

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1473309920300049

しかし、1個の論文の結果ではCDCはインフルエンザBの治療においてバロキサビルによる治療は推奨されていない。

 

米国CDCによる抗インフルエンザ薬の選択

  • 外来患者の治療は、ノイラミニダーゼ阻害薬とバロキサビル
  • 入院患者の治療は、オセルタミビル
  • 免疫不全患者の治療は、オセルタミビル

免疫抑制状態では、インフルエンザウイルスの複製が長期化し、治療中に耐性出現のリスクが懸念されるため、バロキサビルは使用しない。

  • 妊婦の治療は、オセルタミビル
  • ノイラミニダーゼ阻害薬とバロキサビルの併用の有用性はない

作用機序の異なるノイラミニダーゼ阻害薬とバロキサビルの併用は相乗効果が期待されたが、RCTでノイラミニダーゼ阻害薬単独治療と臨床改善時間に有意差はなかった。

Lancet Infect Dis. 2022 May;22(5):718-730. 

https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(21)00469-2/fulltext

また、抗がん剤の治療を受けていた2名の患者でバロキサビルとオセルタミビルに対する二重耐性:PA/138XとH275Yが出現した。

 

日本感染症学会のバロキサビル使用の提言

  • 外来患者 耐性変異(PA/138X)が高率(成人で約10%)に発生するが、外来治療に居ついては、成人ではバロキサビルをオセルタミビルと同等の推奨度に位置付けた
  • 入院患者と免疫不全患者 エビデンスはないが、入院患者、免疫不全患者にバロキサビルの治療を可能とした
  • 重症患者及び免疫不全患者におけるバロキサビルの投与 現時点で推奨/非推奨を論じることができるエビデンスがないので、バロキサビルのを選択することは可能であるが、重度の免疫抑制状態ではウイルス排出器官の1,000円に留意することが必要

12歳未満の小児は、耐性変異が高率(25~60%)に発生し、周囲に感染し、症状が延長するので、従来通り、慎重な投与適応判断が必要とした。

日本感染症学会 キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬 バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザⓇ)の使用についての新たな提言

https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=52

 

インフルエンザワクチン

  • 感染予防効果がある
  • 発病予防効果がある
  • 重症化(入院)防止効果もある
  • 集団免疫効果もある

 

1992年のインフルエンザ感染が起こる前に日本鋼管病院の喘息外来の患者で85例の患者にインフルエンザワクチンを打ち、52例のインフルエンザワクチンを打たなかった患者とで、1993年のインフルエンザ感染シーズンが終わった際にhemagglutination inhibition test and virus isolationを行ってインフルエンザ感染歴を比較した。

インフルエンザAは、ワクチンを打った症例では、17例20.0%、打たなかった症例では32例61.5%、インフルエンザBは打った症例では23例27.1%、打たなかった症例では25例48.1%の感染であり、ワクチンの有効率はAで67.5%、Bで43.7%認められた。

JAMA. 1994 Oct 12;272(14):1122-6.

https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/380464

 

ワクチン効果を検証する計算:Test-negative Case-control design(TND)

発熱で患者が200例来た際に、インフル陽性者が100例、インフル陰性者が100例いて、その際陽性者のうち40例がワクチン接種者で陰性例の100例がワクチン接種者だったとするとインフル陽性者の中の20%がワクチン接種しており、インフル陰性者の50%がワクチン接種していることになる。

計算すると25%に減少していることになり、75%ワクチン効果ということになる。

 

慶応義塾大学の関連病院の小児科インフルエンザ研究グループの研究データで2015・2016シーズンN=4409で全年齢でみるとインフルエンザAでは57%、インフルエンザBでは34% の効果がある。

6-11か月では有効性はみられなかったが、1~2歳ではA型で73%、B型でも42%の有効性が見られた。3~5歳でもA型で70%が見られ、小学校で有効性が下がり、中学生では有効性はみられなかった。

1歳から5歳という年齢は、インフルエンザ脳症や脳炎が見られる年齢であり、入院症例も多い年齢であるが、ワクチンが最も聞く年齢であるといわれる。

中学生でワクチン効果が出ていないが、これは、毎年インフルエンザの流行に接しているので自然抗体ができているので、ワクチン効果が一回の接種では有効性が出ていないと考える。コロナ対策でインフルの流行がないので、今年はワクチン接種が必要であると考える。

Vaccine 2018 36(8)1063-71

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0264410X18300586?via%3Dihub

 

インフルエンザワクチンの効果

インフルエンザワクチンの発病防止効果は50%

A香港型、A(H3N2)の発病防止効果は低く30%

高齢者には、A香港型の発病防止効果はほとんどない

A(H1N1)pdm09の効果は高い >60%

日本では、B型の効果が少し低め 50%

小児、成人、高齢者ともに30~50%の入院防止効果がある。

Eurosurveillance  Volume 21, Issue 42, 20/Oct/2016

https://www.eurosurveillance.org/content/10.2807/1560-7917.ES.2016.21.42.30377

 

A(H3N2)に対してワクチン効果が低下している理由として、以下のことが考えられている。

A香港型ウイルスは、鶏卵では増殖がとても悪い

流行ウイルスと抗原性の一致したワクチン株ウイルスも孵化鶏卵で培養すると、鶏卵内で増殖性の高いウイルスが選択されて、結果的に抗原性に変化をきたす

ワクチン製造時に鶏卵内で抗原変異が起きる

 

ワクチンの発病防止効果が50%の有効性は臨床的にはわかりにくい。

ワクチンなしで1000人のうち100人がインフルエンザにかかっている場合、ワクチン接種したことにより50人の人がインフルエンザにかかることになる。

感染していない人は、900人感染していない場合950人になる計算となるが、実際にはこの差は実感しづらい。

 

もし80%の効果があるワクチンであればワクチンなしで100人の感染が20人に減少するのでワクチンを打っている人は1000人のうち20人の発症となり50人に1人の感染となる(50%のときには、ワクチンを打っている人の20人に1人の発症)。

 

集団免疫効果

1950年~1999年の日本でのインフルエンザワクチンは学童接種で、このころは高齢者の接種は禁忌であり、学童の集団接種を行っている際に超過死亡が減少してきた。この超過死亡の80~90%は高齢者であるので、1988年からワクチンの供給量が減ってきて超過死亡が増加し、学童接種が無くなって超過死亡の増加が大きくなっている。米国では1960年代半ばから高齢者にインフルエンザを接種していたが超過死亡の減少はない。

このグラフの解釈は難しいが、高齢者にインフルエンザワクチン接種をするよりも学童接種を行っていたほうが高齢者の超過死亡を抑えられる可能性を示している。

N Engl J Med 2001; 344:889-896

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM200103223441204

 

1989年に学童集団接種が減少したことにより超過死亡が増え、1990年代に800名の乳幼児インフルエンザ超過死亡を認め、集団学童接種の再開に伴い超過死亡が減少した。

Clin Infect Dis. 2005 Oct 1;41(7):939-47.

https://academic.oup.com/cid/article/41/7/939/309053?login=false

 

1987年3月1日の朝日新聞に掲載されているように日本では、ワクチン専門家もインフルエンザ集団接種は効果がないと思っていた。

しかしこれは間違った考えであった。そのことを示すデータをこれから説明する。

1987年から2012年の日本の1~4歳児10万人当たりの毎月の総死亡数の推移を下図に示す。

この図を見てみると1990年以降は1月にピークがありインフルエンザによる死亡と考えられる。2000年以降には1月のピークが無くなっている。

この学童集団接種を中止したことにより、1990年代に800名の乳幼児のインフルエンザ超過死亡を認めており、そのほとんどがインフルエンザ脳炎・脳症によると考えられる。

Clin Infect Dis. 2005 Oct 1;41(7):939-47.

https://academic.oup.com/cid/article/41/7/939/309053?login=false

 

日本におけるインフルエンザ死亡数を下図に示す。

1999年は37500例インフルエンザ流行で死亡している。

未熟児医療は1990年代と今ではかなり差があるが、それ以外の医療ではそれほど大きな差はないと考えられ、このインフルエンザ死亡ん増加は、学童集団接種の中止によるものと考えられる。

 

経鼻噴霧インフルエンザワクチンであるFluMistが来年秋から日本で使用できるようになる。

米国では2年連続で有効性を示されなかったので、現在米国ではあまり使われていないが、日本でどのくらい有効性が示されるかが興味がある。

 

診断について、WHOは最新のガイドラインではRT-PCR検査のみを有効としており、迅速診断キットの有用性を認めていない。

迅速診断キットの有用性

けいゆう病院でインフルエンザが疑われた成人患者の鼻咽頭ぬぐい液、410検体を用い、迅速診断キット(ImunoAce Flu)の感度、特異度をRT-PCRを基準として算出したところ、全症例で感度97.1%、特異度89.2%であり、65歳以上の173例においても、それぞれ96.6%、93.0%と非常に良い結果が出た。

PLoS ONE 15(5): e0231217.

https://doi.org/10.1371/journal.pone.0231217

 

米国やカナダでは、迅速診断キットの感度は、A型42.6%、B型33.2%と報告され、この数値が世界のスタンダードとなっている。

Ann Intern Med. 2017 Sep 19;167(6):394-409

https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M17-0848

 

日本と欧米で使用していたキットはほとんど同じものであり、その差が出たのは、発症から検体採取までの時間の差だと考えられる。欧米では、およそ発症後4日以降であり、日本では発症後48時間以内であると考えられる。

 

COVID-19の免疫逃避機構(Immune Escape)はインフルエンザの膠原変異と同じ機序である。

インフルエンザは、毎年、連続して変異(抗原連続変異)を起こし数年で抗体が無効となる(HAスパイクのアミノ酸のpoint mutation)。

SARS-CoV-2は、インフルエンザの2倍の速度で抗原性が変異、1年から2年で変異を起こし、抗体が無異なる。

 

2021年11月29日から2022年1月9日の間にイングランド在住で検査でCOVID-19症例と確認された症例でオミクロン株とデルタ株の違いを解析をした。

下図のように感染の主流派デルタ株からオミクロン株へと推移していった。

デルタ株と比較したオミクロン株の通院のHRは0.56であり、入院と死亡のHRはそれぞれ0.41、0.31であった。

年齢ごとにみてみると、10歳未満では1.10とオミクロン株のほうが重かったが、その後低下し、60-69歳で0.25、80歳以上で0.47と増加した。

過去の感染は、どちらの変異株においても、ワクチン接種HR 0.47、ワクチン未接種HR 0.18 とある程度保護効果が認められた。ワクチン接種者においてはかの子感染は入院予防効果はなかった(HR 0.96)が、ワクチン未接種症例においては過去の感染は中等度の予防効果(HR 0.55)があった。

 

デルタ感染と比較して、オミクロン感染では、死亡リスクが80%減少するので、社会的、経済的に破滅的な、公衆衛生上の介入がなくても、新型コロナウイルス感染症とともに生きる(with Corona)という目標の達成が容易になった。

将来の変異ウイルスの重症度が、オミクロンと同様に低下するという保証はない。

両方の変異型について、ワクチン接種例とワクチン接種を受けていない症例の両方で、過去の感染により死亡に対する防御効果がある(ワクチン接種HR 0.47、ワクチン未接種HR 0.18)

Lancet. 2022 Apr 2;399(10332):1303-1312.

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(22)00462-7/fulltext

 

一方、日本においては2023年2月の抗体検査で以下のことが判明した。

抗S抗体(ワクチン+感染)は97%と高い。

自然感染による交代保有率 抗ヌクレオカプシド(N)抗体を測定すると42%

高齢者のN抗体保有率は30%以下と低い

https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/12061-covid19-84.html

 

参:

中和抗体は、新型コロナウイルスの感染から身を守る力があるかどうかがわかる抗体で、新型コロナウイルスの感染やワクチン接種で上昇する。

抗S抗体とは、ウイルスの外側にある突起に対する抗体で、新型コロナウイルスの感染やワクチン接種により上昇する。抗S抗体は中和抗体としての活性を有すると考えられる。

抗N抗体とは、新型コロナウイルスに感染すると上昇する抗体で、ワクチン接種では上昇しない。新型コロナウイルスに感染した可能性を示すものである。

https://www.mkb-clinic.jp/free-practice/coronavirus-spike-antibody-test.html

 

2023年4月~5月の時点での英国における抗N抗体陽性率は86.2%もあり、日本に比べて圧倒的に高い(2023年2月で42%)。抗S抗体(ワクチン+感染)は99.9%であった。

60~69歳の高齢者において英国では82.6%も感染による交代を保持しており(同年代の日本では29%)、日本の若い人よりも効率である。

COVID-19vaccine surveillance report Week 23  8 June 2023

https://assets.publishing.service.gov.uk/media/649473a19e7a8b0013932a44/vaccine-surveillance-report-2023-week-23.pdf

 

コロナ、インフルエンザ同時感染

2020年2月6日から2021年12月8日mでの間に英国の病院に入院したSARS-CoV-2感染者212466例を対象に、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルスの同時感染の臨床転帰を検討した。

合計で583例同時感染例があり、インフルエンザウイルス227例、RSウイルス220例、アデノウイルス136例であった。

インフルエンザウイルスとの同時感染では、COVID-19単独よりも呼吸器装着を受ける率が4.14倍と上昇し、死亡率はCOVID-19単独よりも2.35倍上昇した。

Lancet. 2022 Apr 16;399(10334):1463-1464

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(22)00383-X/fulltext

この時の株は武漢株やデルタ株のものであるのでこれほどの死亡率の上昇はないと考える。

 

米国の在郷軍人病院に、2020年2月1日~2020年6月17日までのCOVID-19(武漢株)で入院となった3641例(平均年齢69歳)と2017年から2019年の間に季節性インフルエンザで入院となった12676例(平均年齢70歳)の比較を見てみると、30日以内の死亡率はインフルエンザで5.3%、COVID-19 で18.6%と4.97倍になっている。呼吸器装着も4倍ある。

BMJ. 2020 Dec 15:371:m4677.

https://www.bmj.com/content/bmj/371/bmj.m4677.full.pdf

 

2022年10月1日から2023年1月31日までの間に米国退役軍人省の電子健康データ―ベースを使用して、SARS-CoV-2またはインフルエンザの検査が陽性で、診断を受ける2日前から10日後までに、少なくとも一回の入院記録を持つすべての症例を対象とした。

オミクロン感染は8996例で538例死亡(5.97%)、インフルエンザ感染は2403例入院で76例死亡(3.75%)と死亡リスクは1.6倍高い。

JAMA 2023 329(19)1697-1699

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2803749

 

日本における新型コロナウイルス感染症の治療目標

日本では高齢者の抗N抗体の保有率は低く、入院例、死亡例の増加に直面することなく、多くの日本国民は感染から回復して、集団免疫を獲得することが目標であり、そのためには経口抗ウイルス薬の普及が必要である。

 

現在ニルマトレルビル(パキロビッド)、モルブピラビル(ラゲブリオ)、エンシトレルビル(ゾコーバ)がり、なぜ、広く使われていないのかが疑問である。

現在、死亡者の多くは医療機関や介護施設で院内感染した高齢者であり、重症化予防効果のある薬剤の普及が医療と介護の場でも重要である。患者が発生したら迅速に予防薬が供給される体制が必要。

 

]]>
https://kawamuranaika.jp/blog/etc/7325/feed/ 0
新型コロナウイルス感染症対応のこれまでと今後の展望 松本哲哉教授 https://kawamuranaika.jp/blog/etc/7268 https://kawamuranaika.jp/blog/etc/7268#respond Thu, 26 Oct 2023 23:09:35 +0000 https://kawamuranaika.jp/?p=7268 2023年10月22日 

演題「新型コロナウイルス感染症対応のこれまでと今後の展望」

演者:国際医療福祉大学医学部 感染症学講座 主任教授 松本哲哉

場所: The Okura Tokyo

内容及び補足「

世界の新型コロナウイルス感染症の動向

今まで世界で約7億人が感染し、700万人近くの人間が死亡した。

https://coronavirus.jhu.edu/map.html

 

世界各地の新型コロナウイルスの累計感染者数の割合

アフリカなどではもはやほとんどの人が感染している状況になっている。

Lancet 2022 399 2351-2380

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(22)00484-6/fulltext

 

WHOテドロス事務局長は、2022年12月2日に「現在、世界人口の少なくとも90%が過去の感染やワクチン接種により、新型コロナウイルスに対する免疫をある程度は獲得していると推定している。パンデミックの緊急段階が終わったといえるまでにだいぶ近づいたが、まだそこまでは至っていない」とのべ、

WHOは、2023年5月5日には「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を解除し、世界的なコロナ危機は緊急事態宣言から約3年3か月で「平時」にもどったとし、5月5日の会見でテドロス氏は「大きな希望をもって、新型コロナが世界的な健康上の緊急事態で亡くなったことを宣言する」と述べたが、一方で足元でも新型コロナによる死者が出てつけていると強調し、「コロナの脅威が終わったわけではない」と警戒を続けるよう訴えた。日本でも令和5年5月8日から感染症法上の取り扱いが2類相当から5類に変わった。

新型コロナウイルス感染者による死亡者数の比較

その中で、コロナによる死亡者数はどうなったかというと、アメリカ(300.9)やイギリス(262.9)に比べ、日本は24.2と頑張って少ない数でかなり低く抑えられている。

講演でのスライドは横に掲載されていましたが、同じようなデータを「内閣官房 新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議 2019年12月末から2022年5月まで」で見つけましたので添付します。 

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/coronavirus_yushiki/pdf/attachment.pdf

 

中国のデータはなかなか出てこないが、2020年終わり頃にゼロコロナ政策止めたことにより、死亡者数は増加した

中国各地の超過死亡数の変化は、2022年12月-23年1月に死亡した30歳以上の中国国民の数は、2か月間で超過死亡が187万人に達したが、その時の中国政府が発表した22年12月~23年1月中旬のコロナ関連死は薬6万人であった。

JAMA Network Open 2023 6(8)e2330877

https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2808734

日本においても第8波までは、下図のほうに変化しており、この時点で3330万人の感染者が出ており、そのあと第9波が起こり、最近収束のほうに向かっている。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-all/

2023年2月5日のデータを基に推計すると、日本人の累計感染者数は3250満人で、単純計算による感染者の割合は4人に1人(26%)になる。

これは検査による割合で、感染によってできる新型コロナウイルスの抗N抗体の保有率を見てみると、令和5年2月時点では全体で42.3%であり、現時点では50%は感染していると推測される。

厚労省 第2回献血時の検査用検体の残余血液を用いた新型コロナウイルスの交代保有率実態調査

https://www.mhiw.go.jp/content/10906000/001070846.dpfをもとに作成

今まで様々な変異株が流行してきた。

致死率の変化を見てみるとα株のときには1.9%あったものが第7波のオミクロン株では0.1%にまで低下している。

国内の各流行における感染者数のピークの比較

ただし、感染者数でみてみると1日当たりの感染者数のピークは第1波では640人だったのが、第7波においては261004人と、400倍を超える数になっている。

2023年4月15日現在の国内の新型コロナウイルスの重症患者数は累計で50万7千人であるが、第5波で増加していたが、その後減少してきている。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-all/

 

しかし、死亡者数は増加している

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-all/

オミクロンの流行によりいろいろと状況は変わってきたが、全体見ていると、最初のころは重症者数が多かったが、その後重症者数は減ったが感染者数は増加し、死亡者数も増加した。

死者数だけを見てみると、第一波のときには、ピークで25人だったのが、第8波のときには503人と20倍以上になっている。

疫学的データから示されるオミクロン株の特徴

日本の医療機関におけるクラスター発生状況(週)は2023年4月時点で7763件あった。

日本の介護施設におけるクラスター発生状況(週)は2023年4月時点で2,9233件あった。

コロナに対抗する手段として、検査、ワクチン、治療薬、感染対策を講じてきた。

検査に対しても抗原検査に関しては購入して自宅で行うこともできるところまで来ている。

新型コロナウイルスのPCR検査の実施件数は、最初はなかなか検査できないと問題視されていたが、累計では累計98,711,608人行っている。

(講演で使用されたグラフを作成することができないので別のグラフを提示する。)

内閣官房 新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議 2019年12月末から2022年5月まで 

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/coronavirus_yushiki/pdf/attachment.pdf

ワクチンに関しても、現在7回目のワクチン接種も始まっている。

ワクチンの接種歴のない人は各年代においても重症化しているので多くの人にワクチンを接種してほしい。

新型コロナウイルス感染症 Covid-19診療の手引き第8.1版

https://anshin.pref.tokushima.jp/med/experts/docs/2022101300122/files/3.pdf

新型コロナワクチンの2023年の秋の接種対象者は以下に示すようになっているが多くの人に接種してもらいたい。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001144459.pdf

 

治療薬

レムデシベル(ベクルリー)、デキサメタゾン(デカドロン)、バリシチニブ(オルミエント)、カシリビマブ(ロナブリーブ)、ソトロマブ(ゼビュディ)、トリシズマブ(アクテムラ)、チキサゲビマブ/シルガビマブ(エバシェルド)と様々なものが出てきているが、これからの治療薬としてカギを握るのは、モルブピラビル(ラゲブリオ)、ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)、エンシトレルビル(ゾコーバ)の3種類であると思う。これらの薬剤を外来で使用し、重症化を予防することが重要である。

内服薬の選択において、コロナ感染症患者の重症度がその指標となる。

内服薬は軽症と中等症の1が対象となる。

内服薬の選択について下図のように示されている。

以前のものに比べ若干分かりづらくなっている気がしている。

アメリカのCDCの重症化リスク因子を参考にしている。

新型コロナウイルス感染症診療の手引き8 . 1版

https://anshin.pref.tokushima.jp/med/experts/docs/2022101300122/files/3.pdf

第9版の記載ではスパッとリスク因子を分けることができた。

新型コロナウイルス感染症診療の手引き9.0版

https://anshin.pref.tokushima.jp/med/experts/docs/2023021600064/files/2.pdf

第10版においては、基礎疾患のところにおいては若干分かりづらくなっているかもしれない。

高齢は最も重要な重症化のリスク因子であるし、特に高齢かつ基礎疾患のある患者ではリスクが大きい。

新型コロナウイルス感染症 Covid-19診療の手引き第10.0版

https://www.mhlw.go.jp/content/001136687.pdf

 

男性、女性とも死者数は高齢者ほど多く、20代を1として比較すると80歳代は、男性で270倍、女性では400倍以上になる。年齢による影響が強いが、高齢になるほど基礎疾患が複数存在している可能性が大きく、年齢のみの要素とは言えないが、高齢者を診療する場合には、十分注意する必要がある。

新型コロナウイルス感染症 Covid-19診療の手引き第9.0版

https://anshin.pref.tokushima.jp/med/experts/docs/2023021600064/files/2.pdf

従って、ワクチン未接種の症例やコロナの症状が重篤である症例においては、基礎疾患を積極的に治療しコンロトール状況をよくしておくことは重要である。

新型コロナウイルス感染症 Covid-19診療の手引き第10.0版

https://www.mhlw.go.jp/content/001136687.pdf

 

外来診療

・重症化リスク温低い軽症の患者では、特別な医療によらなくても。経過観察のみで自然に軽快することが多い。

・重症度評価のため、パルスオキシメーターによりSpO2を測定することが望ましい。

・重症化リスクの高い患者では、診断時は軽症と判断されても、発症後数日から2週目までに病状が進行することがある。

外来受診時の状態が良好でも悪化しないとは限らない

・重症化リスクの高い患者に対して、早期に抗ウイルス薬を投与することは、入院や死亡を減らすことが期待される。

抗ウイルス薬の投与が重症化予防には有用である

 

パキロビッドパックの作用機序は下図のようにウイルスの酵素阻害である。

2022年1月9日~2022年3月31日まで行われたオミクロン株流行かでのパキロビッドパックを投与された群では65歳以上の症例においては、有意に入院患者を減らしているが、40~64歳の群においては有意な差は認めなかった。おそらく、若い人の入院リスクはもともと少ないために有意さが出なかったと考えられる。

NEJM 2022.387 790-8

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2204919

 

パキロビッド投与とCOVID-19 の重症化または死亡リスクの低下は下表の一番下に書かれている免疫抑制状態においてはオッズ比が7.81と非常によく効いている。

高齢者で重症化リスクがあり、かつ免疫抑制状態にある症例においては、是非パキロビッドなどの内服薬を投与してほしい。

Clin Infect Dis. 2023 Feb 8;76(3):e342-e349

https://academic.oup.com/cid/article/76/3/e342/6599020?login=false

 

パキロビッドを5日以内に投与すると有意にウイルスの陰転化が早まるが、5日を超えて投与した場合には無治療群との有意な差を認めなかった。つまりはやめに投与するのが重要である。

Clin Infect Dis. 2023 Feb 8;76(3):e148-e154.

https://academic.oup.com/cid/article/76/3/e148/6649232?login=false

 

パキロビッドの臨床での報告をまとめると

・死亡率や入院リスクを下げる効果が認められる

・特に高齢者において重症化予防の効果は有意である

・癌患者や免疫不全患者において重症化予防の効果が認められる

・抗ウイルス薬としてウイルス量の減少が臨床効果に反映されていると考えられる

新型コロナウイルス感染症の経口3薬剤の選択基準として大雑把に考えると以下のようになる。

当然、「妊娠、腎機能、効果、発症からの時間、本人の希望、在庫の状況なども含めて判断」することになる。

短期間中止することが可能であれば、やめてもらってパキロビット投与もあり得る。

経口抗ウイルス薬をどれだけ活用できるかが医療逼迫を抑え被害を少なくする鍵となる。

Long COVID(後遺症)、罹患後症状について

https://www.mhlw.go.jp/content/001136687.pdf

 

などがあり、一度発症してしまうと有効な薬はない。

1年たってもいろいろな症状がある。

新型コロナウイルス感染症COVID-19 診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001159305.pdf

 

Medscope Infect Disease

「One in Five Doctors With Long COVID Can No Longer Work:Survey」August.31 2023

英国医師で罹患後症状を有する症例を対象とした調査で、罹患後症状を有する医師の60%は日常業務に支障が出ているし、31%はフルタイムの仕事が可能なレベルであるが、18%は仕事ができなくなっている。

ある医師は「私はもう少しで、自分の人生、家、パートナー、キャリアを失うところでした」と述べている。

罹患後症状のリスクに対して、ワクチンの有効性は証明されている。

重症化リスクを少なくとも一つ以上有するコロナ患者は、パキロビッドの投与によって、ワクチン接種や過去の感染歴にかかわらず、罹患後症状のリスクが軽減できることが示唆された。

症状に関しては、易疲労感・倦怠感、筋肉痛、認知機能障害に対しては有効性が示されている。

これは、ワクチンの接種歴や一回目や2回目の感染とは関係なくリスクを下げられている。

入院率も下げられているし、罹患後症状の発生率も下げられている。

JAMA Intern Med. 2023 Jun 1;183(6):554-564.

https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2802878

file:///C:/Users/jeffbeck/Downloads/jamainternal_xie_2023_oi_230016_1685974552.9495.pdf

 

感染対策

感染経路としては、当初、接触感染と飛沫感染が問題視されていたが、その後エアロゾル感染対策が重要であることがわかってきた。

飛沫   マイクロ飛沫(エアロゾル)  飛沫核

届く距離  2m以内 約10m以内                                     空間全体

感染経路としては以下のように考えられる。

接触感染:感染者との直接接触または汚染環境 中リスク

飛沫感染:感染者の咳やくしゃみ 高リスク

エアロゾル感染:咳、くしゃみ、会話、歌 高リスク

空気感染:飛沫核 まれ

 

コロナの対応が2類から5類に変わることに付随して、政府の方からも『医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド(第5版)』の公開を早くするように言われ、日本環境感染学会から2023年1月17日に出版した。

http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/COVID-19_taioguide5.pdf

 

COVID-19各定例へのPPE対応に関しても、検体採取においてある程度の条件を満たしていれば、N95 マスクやガウンが必ずしも必要でないとした。

入院患者においても、コロナ病床を必ずしも必要とせず、病室単位でのゾーニングで対応可能とした。

これは必ずしも感染対策を緩めてよいという考えではなく、いろいろと問題が起こっていることに対しては積極的に対応していく必要があり、環境感染学会のHPに医療機関や介護施設における対応について掲載していく。

http://www.kankyokansen.org/modules/news/index.php?content_id=518

病院や介護施設訪問時にマスクを着用していない人も増えてきており、マスク着用の啓発ポスターを作製した。

http://www.kankyokansen.org/modules/news/index.php?content_id=524

 

医療従事者が感染した場合の隔離の期間は、以下のように推奨している。

https://www.mhlw.go.jp/stf/corona5rui.html

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001093929.pdf

 

令和5年4月5日第120階アドバイザリーリポート資料3-8

を見てみると、発症後のウイルス排出量の推移を見てみると発症日を0日として5日間経過した後の6日目には、前後の平均的なウイルス排出量は発症日の1/20~1/50となり検出限界に近づく。

しかし、個別データを見てみると、かなりの症例において10日後でもそこそこウイルス力価を持っている。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001084525.pdf

 

感染性のある期間は5から10日間は感染の可能性がある期間は変わっていない。

https://www.mhlw.go.jp/content/001136687.pdf

医療機関ごとに対応をする形になっているが、診療の手引き第10.0版においては、下記のように隔離期間の例を示している。

https://www.mhlw.go.jp/content/001136687.pdf

 

5類への移行による診療面の変化に際し、国は以下の目標を上げているが、実現はしていない。

外来 約4.2万の医療機関⇒最大6.4万の医療機関での対応を目指す

入院 約3000の医療機関⇒約8200の全病院での対応を目指す

 

診療報酬の面では、病床確保料は半額に減額、診療報酬は大半を減額しており、検査費用の公費支援は終了した。

その結果

発熱外来の縮小 対応病床の縮小⇒対応医療機関の減少

医療費負担の発生 受診控え、治療拒否

入院調整の中止 入院できない患者の増加

といった変化が懸念される。

 

5類移行後の新型コロナの自己負担額を3割として計算してみると

5月8日以前 初診料など 2500円程度

現在 初診料 検査費 薬剤費(解熱薬など) 特例加算 4000円程度

10月以降 初診料 検査料 薬剤費(抗ウイルス薬を含む) 特例加算 2万~3万5千円程度

となるが、患者はどう思うのか?

 

感染症学会と化学療法学会で5月10日に新型コロナのこの冬に想定される流行を乗り越えるまでは、新型コロナ治療薬への公費支援の要望書を提出したが、その返答は、『9月末までは公費負担』で、それ以降は有償化になるとのことであった。

新時代戦略研究所のオンライン調査で以下の結果になった(1万人を対象:プレスリリース 2023年8月4日)。

薬剤費の患者窓口負担がなければ90%以上の回答者が服薬意向

1万円の患者負担になるとその割合は薬10%に低下し、3万円では薬5%以下にまで低下

重症者数・死亡者数への影響を分析したところ、最大で約11倍に増加することが判明

 

落としどころとしては、9000円の自己負担となった。

今後の感染状況として楽観できないリスクとして以下のものがある。

・新たな変異株の出現

・ワクチン接種率の低下 会場は多くなく、希望する人でも打てない

・感染対策の緩和

・医療体制の整備不足

 

現在はEG5が43%ある。今後心配なのがBA2.86ピロラの動向が気になるところである。

ここ最近では、明らかに東京都の新規感染者数は減少している。

60歳以上の高齢者の感染は9波のほうが多くなっている。

年代別に見てみると、若い人たちの感染者数が多く、この人たちは症状も軽く検査を受けず、家で広めている可能性もある。

幸い第9波の入院患者数は減っているが、検査数が減っている影響もあるので、油断できない。

東京都モニタリング分析公開データ 令和5年9月28日

https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kansen/corona_portal/info/past_monitoring.files/0928.pdf

 

社会の新型コロナウイルス感染症との向き合い方は5類の移行により大きく変わった。ただし、今後も流行のリスクを抱えている状況で、医療現場は逆に難しい立場に置かれる可能性があり、その対応策を検討しておく必要がある。

]]>
https://kawamuranaika.jp/blog/etc/7268/feed/ 0
急性期から維持期まで続く脳卒中治療の現状 竹川英宏教授 https://kawamuranaika.jp/blog/nousinkei/7262 https://kawamuranaika.jp/blog/nousinkei/7262#respond Thu, 19 Oct 2023 02:12:24 +0000 https://kawamuranaika.jp/?p=7262 2023年8月31日 

演題「急性期から維持期まで続く脳卒中治療の現状 ~神経障害性疼痛を中心に~」

演者:独協医科大学病院脳卒中センター センター長・教授 竹川英宏 先生

場所: ウエスティンホテル横浜

内容及び補足「

日本の脳卒中データバンクを使用し2000年1月~2019年12月までの旧清掃しょっちゅう患者を対象に調査した。182080例のうち、虚血性脳卒中は135266例(女性53800例39.8%、年齢中央値74歳)、出血性脳卒中は36014例(女性15365例42.7%、年齢中央値70歳)、くも膜下出血は11800例(女性7924例67.2%、年齢中央値64歳)、

 

急性再灌流療法の開発により虚血性脳卒中患者の機能的転帰が男女ともに改善したが、出血性脳卒中患者の天気は改善しなかった。

JAMA Neurol. 2022;79(1):61-69

https://jamanetwork.com/joy/fullarticle/2786581

file:///C:/Users/jeffbeck/Downloads/jamaneurology_toyoda_2021_oi_210075_1641404422.22576%20(2).pdf

虚血性脳卒中の治療

急性期:急性期の脳卒中の治療を行うとともに再発予防も行う必要がある

九世紀以降の治療:治療の継続に加えリハビリテーションも重要である。

 

急性期の治療として血栓溶解療法がある。

従来は脳梗塞発症から4.5時間以内に静注血栓溶解療法を始めることが治療の有効性と安全性から鉄則とされていた。

睡眠中の発症や発症時同伴者不在のため発症時刻が明らかでない場合、「無症状であることが最後に確認された時刻(睡眠中発症例では就床した時刻)」から4.5時間以内の治療開始が求められていたため、こういった症例への静注血栓溶解療法は実施不可能であった。

欧州で行われたWake-Up試験結果に基づいて、MRIを用いて発症から4.5時間以内と推定できる所見(いわゆるDWI/FLAIRミスマッチ)を得た場合、静注血栓溶解療法を行ってもよいとなった。

Int J Stroke. 2014 Dec;9(8):1117-24

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4660886/

https://www.ncvc.go.jp/pr/release/190329_press/

38のアメリカの施設で行った、血栓溶解療法92例と内科的治療90例を比較した試験では、Score on Modified Rankin Scaleは血管内療法群で有意に良かった。両群間で症候性頭蓋内出血の頻度には差を認めなかった。

NEJM 2018 378 708-718

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1713973

 

急性期脳梗塞症例の内科的治療の効果判定をRAPIDとBayesian Vitrea CT Perfusionと比較したところ、有意さを認めなかった。

Am J Neuro Rad 2020, 41 (2) 206-212

https://www.ajnr.org/content/41/2/206

2021年の脳卒中治療ガイドラインにおいて、

 

2006年1月1日より2016年12月31日までの、4.5時間以内にt-PAで治療された急性虚血性脳卒中61426例のDoor to Needle timeで治療予後を見てみると、65歳以上の高齢者では、治療開始までの時間が短いほど、1年での全死亡率が低く、再入院が少なかった。

JAMA 2020 323 2170-2184

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2766633

 

米国の急性虚血性脳卒中患者6756例を対象にした症例で退院時の機能的独立性と血管内細開通療法までの時間の関係を検討した後ろ向きコホート研究では、血管内再灌流療法までの時間が短いほどより良い転帰と関連していた。

JAMA. 2019;322(3):252-263

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2738288

 

SKIP研究:内頸動脈や中大脳動脈などの脳主幹動脈閉塞に対して、カテーテルにより血栓を回収して血管を再開通させる決戦回収療法が普及しいてきた。血栓回収療法を行う場合も発症から4.5時間以内といった条件を満たす場合は、あらかじめtPAの投与が推奨されているが、出血リスクが上昇するため、血栓回収療法単独治療の可能性が探られていた。SKIP研究では、18~86歳の発症から4.5時間以内、CTまたはMRIによる血管撮影で内頚動脈もしくは中大脳動脈水平部の閉塞所見、NIHSS6点以上の条件を満たした204例(血栓回収療法単独群101例とtPAを投与する併用群103例)で検討された。

結果は、血栓回収療法単独群の非劣勢が示され、安全性の主要評価項目である36時間以内の頭蓋内出血の発生は併用群50.5%に対して血栓回収療法単独群では33.7%で有意に低率だった。

JAMA 2021 325 244-253

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2775278

 

頸動脈のドップラーエコーを使用して、急性完全片側心塞栓症(CE群)とアテローム血栓性内頚動脈閉塞(AT群)、血管造影所見正常患者(対照群)を比較すると、AT群では、近位内頚動脈が、一部石灰化し不均一な大きなプラークでいっぱいであり、EDVが10.8cm/s(対照群20.3cm/s)と有意に低値であり、ED比はほとんどの症例で1.4以上であり、有用な検査であるといえる。

 

AJNR Am J Neuroradiol. 1997 Sep; 18(8): 1447-52.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8338137/

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8338137/pdf/9296185.pdf

 

脳神経超音波マニュアル 2020 65-68

 

頸部血管超音波ガイドライン

計測法と表示

  • 超音波診断器はDuplex法とカラードプラ法が可能なものを用い、プロ―ベは中心周波数7㎒以上のリニアプロ―ベを用いる。
  • 内中膜厚の計測時には表示深度を3cm以下西、十分画像を拡大する。
  • 短軸像は画面の左側に頸動脈の右、長軸像では画面の左側に心臓側を表示する。
  • カラードプラの色の設定は、プローベに近づく血流を赤、遠ざかる血流を青にする。
  • 頸動脈の描出は、長軸・短軸ともに斜め前方・横・斜め後方と多方面から行う。
  • IMT計測時には血管をなるべくプローベと平行になるよう描出し、血流速度計測時には斜めに傾ける。
  • 血流速度計測時の角度補正は60度以内にする。

椎骨動脈の描出は総頚動脈を描出し、プローベを頸部の外側に移動すると椎骨の横突起がアコースティックシャドーとして描出されるので、横突起間にある血管を探す。本血管が見える場合には、浅いほうが椎骨静脈、深いほうが椎骨動脈である。両者の鑑別は血流波形で確認しておく必要がある。椎骨動脈を心臓側に追ってゆくと鎖骨下動脈の起始部まで観察することも可能である。

 

狭窄率

  • 狭窄率の測定法は、NASCET法、ECST法、area stenosisの3通りがある。
  • 狭窄率はarea stenosis≧ECST法≧NASCET法の順に大きい値となる。
  • 狭窄率は最低限ECST法、できればNASCET法で表記し、狭窄面が不整でECST法で困難な場合はarea stenosisで表記する。
  • 行為狭窄はED ratioで推測する。
  • 内中膜剥離術後は内科的治療に比べ、NASCET法・ECST法いずれの方法でも50%以上の狭窄でやや有効、70%以上の狭窄で有効
  • 狭窄部位の血流速度は、150cm/sec以上でNASCET法で50%狭窄、200cm/sec以上で70%狭窄と診断する。Near occlusionでは血流速度は低下する。

 

血流速度

  • 初めに可視範囲内の形態学的な血管の状態を評価する。
  • 対象血管の径が一定で直線的に走行する部位でパルス度プラ法を用いて測定する。
  • 血管の屈曲・蛇行や高度狭窄・閉塞がある場合には測定部位に注意する。
  • サンプルボリュームは血管径の2/3程度に設定する。
  • 入射角度(パルス信号と血管走行のなす角度)は60°以下に設定する。
  • 収縮期最高血流速度(PSV)、拡張末期血流速度(EDV)、平均血流速度(TAMV)、pulsatility index(PI)を測定する。
  • 内頚動脈起始部狭窄ではPSV≧200cm/secがNASCET狭窄≧70%を示唆する。
  • 外頸動脈の血流速度測定は内頚動脈閉塞病変が疑われる場合に追加する。
  • 総頚動脈の拡張末期血流速度の左右比(ED ratio)は内頚動脈系主幹動脈の閉塞病変診断に有用である。

  

 

臨床的意義

健常者における総頚動脈、内頚動脈、外頸動脈の血流速度を下の表に示す。20歳以上の健常者では血流速度は年齢とともに徐々に減少する。これらの値は異常を検出するための指標となる。しかし、年齢や動脈硬化の危険因子も血流速度波形へ影響するため、一側の血流速度波形のみを解析しても狭窄や閉塞病変の推定はしばしば困難である。もし、左右の血流速度波形に明確な差異があれば、一側の狭窄や閉塞病変を疑う。

内頚動脈起始部狭窄の診断にはPSV上昇が有用である。特にNASCET基準における内頚動脈70%以上狭窄診断には収縮期最高血流速度200cm/sec以上を用いる。

外頸動脈波形は、PSVとEDVの差が大きいことより、内頚動脈波形と容易に鑑別できる(図2BとC参照)。外頸動脈に関する血流速度の正常値はあまり論議されることがない。内頚動脈の閉塞性病変では必ず外頸動脈血流速度を測定する。内頚動脈閉塞の場合には同側の外頸動脈血流速度波形が内頚動脈化する(図3E)ことがあり、側副血行路として機能している所見である。

内頚動脈系の主幹動脈閉そく性病変では、総頚動脈での血流速度が対側に比べて低下する。血流非低値側(健側)のEDVを血流低値側(患側)のEDVで除した値は拡張末期血流速度比(ED ratio)といわれ、主幹動脈閉塞病変の検出に有用である。塞栓性もしくは血栓性の内頚動脈閉塞ではED ratio≧1.4となる(図3AとB)。心原性塞栓症のみの検討では、内頚動脈閉塞でED ratio≧4.0、中大脳動脈水平部閉塞では1.3≦ED ratio<4.0、中大脳動脈分岐閉塞ではED ratio<1.3と報告されている(Stroke 1992 23 420-422)。ED ratioを参考に閉塞血管の推定が可能となる。側副血行路の左右差や、血管径の左右差の影響もあるため、実際のスクリーニングではED ratio≧1.4をもって内頚動脈遠位部の閉塞性病変を疑う。

椎骨動脈

  • 椎骨動脈血流評価の際には左右両側の結果やより遠位部の血流情報を考慮し、総合的に判断する必要がある。
  • 遠位部病変ではPICA-endを含めて後下小脳動脈(PICA)分岐前後での閉塞を診断基準に基づき診断することが可能である。
  • 起始部病変では、高度の狭窄病変では血流パターンが変化しpost-stenotic patternを呈する。
  • 鎖骨下動脈盗血現象では、鎖骨下動脈の狭窄の程度により、椎骨動脈の逆流の程度は様々であり注意を要し、鎖骨下動脈の評価も併せて行う必要がある。

   

臨床的意義

椎骨動脈は内頚動脈と異なり、椎体内を上行するため、頸部の屈曲、伸展や回旋などの運動による影響を受ける。このため、外相などを受けやすく、椎骨動脈乖離による狭窄や閉塞が見られることがあり、Bモード法でFlapが確認されたり、ドプラ法で狭窄による流速上昇が示されることがある。また、頸部回旋により、めまいや脳幹部虚血症状が出現する症候をBow hunter症候群と呼ぶが、回線による椎骨動脈血流変化を確かめることが診断に有用である。また、頭蓋外椎骨動脈の血流速度を測定することでPICA前閉塞やPICA後閉塞など頭蓋内椎骨動脈の閉塞を診断できることは。脳梗塞急性期の閉塞血管を診断するうえで非常に重要である。さらに、椎骨動脈は左右が合流し一本の脳底動脈になり上行するため互いの血流が影響したり、椎骨動脈の血流がより遠位の脳底動脈や後大脳動脈の血流に影響を受けたりする可能性がありえるという特徴があり、脳底動脈閉塞の際にも、椎骨動脈血流が影響を受け、診断できる可能性もある。

一側の鎖骨下動脈が狭窄または閉塞した場合、上肢への血流を供給するために患側の椎骨動脈が逆流する現象が鎖骨下動脈盗血現象であるが、患側上司の運動によりしびれなどとともに、めまい、複視といった椎骨動脈系の神経症候(鎖骨下盗血症候群)も呈する場合がある。

Neurosonology 19 49-67 2006

https://www.jstage.jst.go.jp/article/neurosonology/19/2/19_2_49/_pdf

 

虚血性脳卒中の内科的治療

アテローム血栓性脳梗塞:プラークラプチャーに伴う決戦形成が発症機序として重要。

血小板凝集が活性化し、血小板血栓の形成が促進され、活性化した血小板から凝集惹起物質が放出され、トロンビンの活性を介してフィブリン血栓の形成が促進される。また、形成された血栓が不安定な場合、その血栓が剥離し、狭窄部位円の血管に飛来し、動脈原生脳塞栓をきたす。急性期にはDAPT(dual antiplatelet therapy)を含めた強力な抗血栓療法が必要である。また、主幹動脈のアテローム硬化により、穿通枝起始部が閉塞する病態であるBAD(branch atheromatous disease)もアテローム血栓性脳梗塞の一型と捉えられており、治療もアテローム血栓性脳梗塞に準ずる。

急性期 抗凝固療法 アルガトロバン48時間以内 7日間投与

       未分化ヘパリン10000~20000単位/日

       抗血小板薬 アスピリン160~300㎎、クロピドグレル初回300㎎その後75㎎ シロスタゾール

二次予防アスピリン75~150㎎/日、クロピドグレル75㎎/日、シロスタゾール200㎎/日

 

ラクナ梗塞

穿通枝動脈領域に生じる15㎜以下の梗塞であり、穿通枝動脈の細動脈硬化(脂肪硝子変性)が発生基盤である。一番のリスクファクターは高血圧であり、持続的な高血圧により、細動脈の血管内皮が飛行、血管壁の膠原線維が増加し、さらに、病態が進行すると、血管壁が降硝子変性し、細動脈閉塞や循環不全をきたす。また、編成に陥った細動脈壁は脆弱化し、微小動脈瘤を形成し、この微小動脈瘤の破綻が脳出血の原因となる。ラクナ梗塞と脳出血は病態的に類似しているとも、いえ抗血栓薬を選択する場合には出血性合併症の少ない薬剤を検討する。7

急性期 抗血小板薬 オザグレルナトリウム80㎎×2回/日 14日間、 アスピリン160~300㎎/日、クロピドグレル75㎎/日、シロスタゾール200㎎/日

二次予防 血圧のコントロールを行ったうえ、アスピリン75~150㎎/日、クロピドグレル75㎎/日、シロスタゾール200㎎/日のいずれかを選択する。

 

心原生脳塞栓症

塞栓源となる心疾患の大半は、非弁膜症性心房細動(non-valvular atrial fibrillation:NVAF)である。発症様式としては突発完成型であり、急性期に医療機関に搬送されやすく、他の病型よりも血栓溶解療法や血栓回収療法の適応となることが多い。

急性期 ヘパリン 明確なエビデンスはない 中大脳動脈領域の1/3以下の場合10000~15000単位/日で投与を開始し、APTTを投与前値の2~2.5倍となるように調整する。

二次予防 NVAFのある脳梗塞患者の再発予防には、DOAC(direct-oral anticoagulant)ないし、ワルファリンによる抗凝固療法がすすめられる。

 

血栓溶解療法

Rt-PA静注は発症から4.5時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害で、慎重に適応判断された患者に対し、少しでも早く投与することがすすめられている。

禁忌・慎重投与のチェックリストにより判断される。

禁忌事項にあるCT/MRI初見での「広範囲な早期虚血性変化」じゃASPECTS(Alberta Stroke Program Early CT Score)で評価し、CTは10、MRIでは11店から早期虚血性変化を認める部位を減点法でスコア化する。6点が中大脳動脈領域の約1/3程度の虚血と相関しており、rt-PAの適応をASPECTS6以上としている施設が多い。投与量は0.6mg/kgで10%を急速投与し、残りを1時間で投与する。

脳卒中の再発率について検討したThe Shiga Stroke and Heart Attack Registry Studyにおいて、2011年~2013年に脳卒中発症28日後に生存していた1883例の2.1年(中央値)の経過観察のうち120例再発した。集結性脳卒中は3.8%であるのに対して虚血性脳卒中は6.8%と高率に認めた。

Circ J 2020 84 943-948

https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/84/6/84_CJ-20-0024/_pdf/-char/en

 

2013年12月13日から2017年3月31日の期間、日本の292の病院で、非心原生の虚血性脳卒中の患者に、バイアスピリン81または100㎎/日またはクロピドグレル50または75㎎/日単独かシロスタゾール100㎎×2/日とアスピリンかクロピドグレルの併用投与の半年から3.5年の経過で比較試験が行われた。併用群では932例中29例3%に、単独療法群では947例中64例7%に虚血性脳卒中の再発を認めた。重篤または生命を脅かすような出血は、併用療法群では6例、単独療法群では9例認め、統計上有意差はなかった。

Lancet Neural 2019 18 539-548

https://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422(19)30148-6/fulltext

 

 

 

57のRCT、165533例のメタアナライシスでは、抗血小板薬の二次予防効果は、アスピリンで0.79、クロピドグレルで0.63、シロスタゾールでは0.51のORであった。

BMC Neurol. 2021 Aug 16;21(1):319

 

再発性脳卒中または一過性脳虚血性発作の二次予防に対するDAPTの有効性のメタアナリシスを27358例対象に行った。DAPTは再発性脳卒中のリスクRR 0.71 、複合アウトカムRR 0.76と低下させたが、大出血のリスクはRR 2.17 と増加させた。

二次解析でアスピリンとクロピドグレルの併用による大出血のリスクは、30日以下の使用の場合は、単独療法と同等であった(RR 1.52 p=0.32)、治療期間を長期間延長した場合には有意に上昇した(RR 2.57 p=0.005)。

Circulation 2021 143 2441-2453

https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.121.053782

 

PRASTRO-1試験

224の病院、非心原性の虚血性脳梗塞で発症1~24週以内、CTまたはMRIで診断された3753例で、プラスグレル3.75㎎/日(1885例)とクロピドグレル75㎎/日(1862例)の比較試験が行われた。イベントはプラスグレル群で73例3.9%(死亡1)、クロピドグレル群69例3.7%(死亡0)非劣勢は認めなかった。この研究のサブグループ解析でCYP2C19遺伝子多型による地下街や脳梗塞の病型による違いも分析されたが、有意さは認めなかった。

Lancet Neural 2019 18 238-247

https://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422(18)30449-6/fulltext

 

参:Cytochrome P 450 2 C 9(CYP2C9)はワルファリンやフェニトインなどの治療息の狭い医薬品を含め、現在処方されている医薬品の約15~20%の代謝に関与する。活性低下を伴う多型として、*2(430 C>T、Arg 144 Cys)と*3(1075 A>C、Ile 359 Leu)が知られ、*2は東アジア人にはほとんど見いだされず、*3の頻度も白人と比較して低い。尚良武井による活性低下の程度は、基質役により異なる。

Cytochrome P 450 2 C 19(CYP2C19)は、ヒト肝臓P450 量に占める割合は1%に過ぎないが、プロトンポンプ阻害剤など、多くの医薬品の代謝に関与する。活性欠損型の十y東名多型に、*2(681 G>A、スプライス異常)と*3(636 G>A、Trp 212 X)があり、これらの頻度に大きな人種差が認められる。日本人では*2および*3のホモ接合(*2/2または*3/3)および複合ヘテロ接合(*2/*3)の割合は約16%に達し、約6人に1人がCYP2C19活性をほとんど有しない低代謝型(poor metabolizer:PM)であるのに対し、白人では大多数が通常の活性を有する高代謝型(extensive metabolizer:EM)であり、PMはわずか2%である。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/50/7/50_669/_pdf

 

脳出血発症後の長期的抗血栓薬投与による血栓塞栓症予防の研究としてRESTAR試験が行われた。脳出血発症後24時間以上生存した脳出血症例に対して発症後76日後に介入開始し、2年間経過を見た。抗血栓薬投与群(Start群:268例)、抗血栓薬回避群(Avoid群:269例)で検討された。

症候性脳出血の再発はStart群22例(8.2%)、Avoid群25例(9.3%)と有意さを認めなかった。

 

Major vascular events(非致死的な心筋梗塞、脳卒中+血管イベントによる死亡)はStart群72例(26.8%)に対して、Avoid群87例(32.5%)でこちらも有意さを認めなかった。

JAMA Neurol. 2021 Oct 1;78(10):1179-1186.

https://jamanetwork.com/journals/jamaneurology/fullarticle/2783812

 

高齢者によくみられる不整脈である心房細動の治療目的は、予後と生活の質の改善にある。高齢者においての抗凝固剤の治療効果を検討したBAFTA研究(Mizuno et al. 2018; Patti et al. 2017; Poli et al. 2009)では、80~84歳までの386例と、85歳以上の190例で検討している。アスピリンに比べワルファリンは血栓塞栓症を、それぞれRR 0.30、RR 0.50低下させている。

Ageing Res Rev. 2019 Jan;49:115-124

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1568163718301284?via%3Dihub

我が国で行われたFushimi-AFレジストリは登録患者の約半数が75歳以上であったが、2011年において抗凝固療法士効率は53.1%であった。CHADS2スコア1点で40%台、2点で50%台、3点以上でも60%前後であった。

抗凝固療法がおこなわれている患者のうち9割以上(全体の50.6%)の患者に対してワルファリンが投与されていたが、PT-INRが治療域であった患者の割合は54.4%であった。

このような状況下で、全身性塞栓症の発生率、および大出血の発生率は抗凝固療法の有無で有意差は認めなかった。これはワルファリン投与がUnderuseであったことが一因であると考えられている。

Circ J 2014; 78: 2166-72

https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/78/9/78_CJ-14-0344/_pdf/-char/en

 

つまりAFの50%の人が抗凝固療法役を飲んでいないし、短文の人がAF事態に気付いていない。特に発作性に起こるAF:pAFが問題である。

pAFを起こしやすいと考えられている異常所見をいかに上げる。

P波の延長 ≧40㎳

PRの延長 20msごとに20%増加

PAC ≧1000/24hr

V1誘導でP wave terminal toneの増大

QTc≧438ms

BNPの上昇

左房径増大

無症候性甲状腺機能亢進

 

左房ストレイン

左房の収縮力低下は、左房の線維化など心房心筋症と関連し、心房心筋症は心房細動の発症に関与している。

J Am Soc Echocardiogr 2017 30 59-70

 

参:スペックルトラッキング法によるストレイン解析

左心室心筋は心内膜側から心外膜側にかけて、内斜走筋、輪状筋、外斜走筋の三層からなり、全体的には螺旋状に奏功している。左室の中層では心筋線維は円周方向に走行しており、心内膜側、心外膜側に向かうにつれて次第に角度は長軸に近い方向で走行する。この角度の変化は、心外膜で-60°、中層で0°、心内膜で+60°である。この走行により、左室は心尖部から見て、心尖部は反時計回り、心基部は時計回りに回転し、左室全体にねじれを生じる。

また、心筋線維は束になり、sheet状に配列されている。左室の収縮に伴い、心内膜側では、このsheetの配列の角度が大きく変化し、この変化は心基部より心尖部で大きい。このsheetのずれのおかげで心内膜側での大きな壁厚増加が得られる。これらは左室が有効に血液を駆出することに寄与している。

 

左房ストレイン解析と臨床応用

左房には3つの機能がある。①収縮期には左房の士官と進展で血液を貯留するリザーバー機能、②心室の拡張早期における導管機能、③拡張後期に左房内に貯留した血液を左室へ駆出するブースター機能である。心エコー図検査による左房機能評価は、従来、パルスドプラ法、組織ドプラ法、左房をトレースして得られる左房容積係数などが用いられてきた。しかし、各疾患の血行動態や必ずしも一定ではない左房拡大の形態、画像の描出度の観点から限界もあった。一方、2Dスペックルトラッキング法で評価した左房ストレインは、リザーバー機能を反映する収縮期ストレイン、ブースター機能を反映する拡張後期ストレインなど比較的簡便に評価可能であり、左室の挙動に左右されにくく、再現性も良好といわれている。左房ストレインに影響を与える因子としては、年齢、性別があり、特に収縮期ストレインは、加齢により低下するという報告がある。性別については女性のほうが高値であるという報告があるがまだ確定されていない。また計測値は機種による差があるので注意を要する。

左房ストレイン計測時には、心尖部四腔像にて左房がすべて表示できるように深度を調整する必要がある。このように求められた左房ストレインの正常値は、リザーバー機能を反映する収縮期ストレインは39%程度、ブースター機能を反映する拡張期ストレインは17%程度と言われており、収縮期ストレインが38%未満となるとリザーバー機能の低下を表し、拡張後期ストレインが16%未満となるとブースター機能の低下があると考えられている。左房ストレイン及びその変化率を示すストレインレートは、急性心筋梗塞や僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症、HFpEFなどの宍道湖予測に有用であることが報告されている。

藤田医科大学医学会氏2021 45 19-25

file:///D:/A%20%E5%8B%89%E5%BC%B7%E4%BC%9A/2023.08.31/bfms_45_1_19.pdf

 

参:心房細動(AF)のメカニズム

AFは心房が高頻度に興奮する病態であり、主に心房内のランダムリエントリーによる不規則な興奮が特徴で、AFは発作性として始まり、徐々に発作の持続時間が長くなって慢性化するという自然経過をたどる。

リエントリーの引き金であるトリガー興奮は、洞結節以外の部位から発生する異所性の早期興奮であり、心電図所見は心房期外収縮である。トリガー興奮の薬90%は肺静脈周囲に存在する心筋組織(肺静脈心筋スリーブ)から生じる。一部の症例は、上大静脈領域でトリガー興奮がみられることもあり、心房筋内にトリガー興奮が存在する症例もある。

心房金においてリエントリーを持続させる基質をAF基質というが、AF基質が増加すると、心房はよりAFに適した状態へと変化するリモデリングが生じる。

高血圧や心不全による圧負荷及び糖尿病やメタボリックシンドロームといった背景疾患により心房リモデリングはAF発症前から進行していると考えられるようになってきた。

つまり、AFは、ある程度の心房リモデリングが進行してAF基質が一定の閾値に達した時点でトリガー興奮が生じると発作性AFとして発症し、その後は、AFそのものによる心房リモデリングが加わり、AF基質がますます増大することで慢性化していくという経過をとる。

日内会誌108 204-211 2019

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/108/2/108_204/_pdf

https://enoki-iin.com/contents/news/20201012_01.html

 

参:心房細動

フラミンガム研究で、1958~1967年と1998~2007年の間に、年齢調節された心房細動の有病率は、男性では1000人年あたり20.4人から96.2人へ、女性でも1000人年で13.7人から49.4人へと4倍に増加した(Lancet 2015; 386: 154–162. PMID: 25960110)。

日本でも2003年の定期健診の成績から心房細動の有病率は加齢とともに増加し、70歳代では男性で3.44%、女性で1.12%、80歳以上では男性で4.43%、女性で2.19%であった(. Int J Cardiol 2009; 137: 102–107. PMID: 18691774)。

心房細動に関連する趨勢可能な臨床危険因子

心房細動症例の56.5%は一つ以上の危険因子を有しており、そのうち高血圧が最も重要な因子であったと報告されている。

高血圧: 持続的に上昇した収縮期血圧、並びにより長期の降圧治療歴などの長期経過パターンの違いが心房細動の新規発症リスクと関連している。

糖尿病:耐糖能障害を有する試験集団において空腹時血糖値が18mh/dL増加するごとに心房細動発症リスクが33%増加するという報告がある。

肥満:男女ともBMIの増加に伴い心房細動のリスクが増加し、低下するとリスクが減少する。

睡眠呼吸障害:重症度が高いほど心房細動リスクが高くなる。

尿酸:尿酸降下薬を内服していない日本人49292人を対象に行われた後ろ向き研究結果では、高尿酸血症は心房細動の独立した危険因子であった。

喫煙:心房細動の危険因子であり、心房細動を患う喫煙者の入院と死亡のリスクが高いことが報告されている。

アルコール消費量:1日のアルコール摂取量が10g増えるごとに心房細動新規発症リスクが5%上昇し、左房系が0.16mm拡大することが報告されている。

不整脈薬物治療ガイド2020年改訂版

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf

 

発作性心房細動(paroxysmal atrial fibrillation:PAF):普段はどう両立であるが突然ADが出現し、その後7日以内に洞調律に戻る不整脈。ほとんどの場合48時間以内に洞調律に戻る。

心房細動の心電図波形

  • P波がない
  • RR感覚が不規則
  • f波が出現する(2誘導、V1誘導で観察しやすい)

P波:心房の収縮を表すが、右房と左房の波形の合成がP波を形成する。右房は左房よりも洞結節からの信号が早く伝わるので前半が右房成分、後半が左房成分である。

右房負荷:高さ2.5㎜(0.25mV)以上。

2誘導、3誘導、aVf、V1、V2でP波は尖って、高さが2.5㎜以上

左房負荷:元来左房成分は小さいので大きくなっても高さに反映されることは少なく心房拡大による伝導時間の延長で幅が広くなり、2.5㎜(0.1sec)以上となることが多い。

二峰性P波

二相性P波 V1誘導 陰性部分の幅と深さのコマ数を掛け算して1以上なら左房負荷

コペンハーゲンホルター研究の15年間のフォローアップで、心血管疾患・脳梗塞・心房細動の既往がない55-75歳の患者678例を対象としており、ESVEA(Excessive supraventricular ectopic activity:1分間に30回以上のPAC、または20回以上のPACショートラン)が99例に認められた。ESVEAを認め脳梗塞を発症した症例のうち14.3%が脳梗塞発症前にAFを認めた。

J Am Coll Cardiol. 2015 Jul 21;66(3):232-41

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0735109715023748?via%3Dihub

 

2015年に更新された欧州不整脈学会ガイドラインでは、一過性脳虚血性発作(TIA)では発症後1日、軽症脳梗塞では3日、中等症脳梗塞では6日、重症脳梗塞では12日(1-3-6-12 day rule)から抗凝固療法の開始を推奨しているが、各々1日、2日、3日、4日(1-2-3-4 day rule)でも安全かつ有効にDOAcを使用することが可能であることを2022年に木村らが示した。

Stroke 2022 53 1540-1549

file:///C:/Users/jeffbeck/Downloads/kimura-et-al-2022-practical-1-2-3-4-day-rule-for-starting-direct-oral-anticoagulants-after-ischemic-stroke-with-atrial.pdf

 

参:

心房細動を伴う脳梗塞患者2032例に対して、早期DOAC投与開始群1006例、標準的開始群1007例に振り分け、試験登録30日以内の脳梗塞再発、症候性頭蓋内出血、全身塞栓症または血管死からなる複合エンドポイントを主要評価項目とした。

主要評価項目は、早期開始群で29例(2.9%)、標準的開始群41例(4.1%)に発生し、有意さを認めたが、登録30日以内の脳梗塞再発は早期開始群で14例(1.4%)、標準的開始群で25例(2.5%)、30日以内の症候性頭蓋内出血は両軍とも2例(0.2%)で有意な差にはならなかった。

早期のDOAC開始により複合エンドポイントは約1%減少する可能性が示され、非弁膜症性心房細動を伴う脳梗塞症例では発症早期からDOACによる脳梗塞再発予防を検討することが妥当と考えられる結果であった。

N Engl J Med 2023; 388:2411-2421

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2303048

 

ENGAGE AF-TIMI 48試験

非弁膜症性心房細動患者に対して、脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制を目的としワルファリンとエドキサバン60㎎/日、30㎎/日の投与で比較検証した試験である。

結果としては、ワルファリンに対する非劣勢が検証され、重篤な出血の発現については、エドキサバンのワルファリンに対する優越性が示された。

N Engl J Med 2013; 369:2093-2104

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1310907

 

ELDERCARE-AF study

80歳以上の非弁膜症性心房細動患者に対して低用量であるエドキサバン15㎎/日の投与は、Primary outcomeは、HR 0.34と有意に減少させ、大出血に関してはプラセボと有意さを認めなかった(消化管出血は多かった)。

75の研究のメタアナリシスでは、DOACで心房細動の脳卒中の予防的投与は、ガイドラインに準じて行われていたが、かなりの患者(25~50%)が適応外投与を受けていた。過剰投与は全死因死亡率の増加と出血イベントの悪化に関連していたが、過小投与は心血管入院の増加と関連しており、特にアピキサバンの過小投与では脳卒中のリスクがほぼ5倍に増加した。

Br J Clin Pharmacol 2020 86 533-547

https://bpspubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/bcp.14127

 

2013年10月から2016年12月までのNOAC関連の脳内出血に関する検討を行った。141311例の脳内出血患者

JAMA 2018 319 463-473

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2670103

 

ENTA-AF-Japan研究:2015年4月13日から2017年9月30日までに非弁膜症性心房細動(NVAF)の患者11569例の患者が登録され、11111例で安全性が解析された。年齢74.2±10.0歳、体重60.0±12.7 kg 、クレアチニンクリアランス63.9±25.8mL/min、CHADS2スコア2.2±1.3であった。Edoxabanは86.3%に投与され、治療中央機関は561.9±261.2日であった。出血イベントは5.60%/年、大出血イベントは1.02%/年、虚血性脳卒中または脳塞栓症は1.08%/年であった。60㎎/日の投与では大出血の年間発生頻度は0.75%、30㎎/日では1.21%であった。

出血イベントの発生率は、80歳以上で出血歴のある患者で特に高く、虚血性脳卒中(TIAを除く)または全身性塞栓症の発生率は、体重が40㎏未満、クレアチニンクリアランス30mL/min未満の患者で高かった。

J Arrhythm. 2021 Apr; 37(2): 370–383.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/joa3.12520

 

European Heart Rhythm Association(EHRA)は心房細動の抗凝固療法のガイドラインを2017年に以下のように発表した。

弁膜症性心房細動はワルファリンで治療されるべきで、NOACの適応ではないとした。

NOACも四種類に拡張し言及されている。

抗凝固薬の切り替えに関する推奨事項も更新された。

NOACで治療されたAF患者における結構再建術または旧青函症候群の急性管理は下図のように提示された。

 

TIA/脳卒中または脳内出血後の抗凝固療法の開始または差異化のフローちゃーをてゃ下図のように提示された。

Eur Heart J. 2017 Jul 14; 38(27): 2137–2149.

https://academic.oup.com/eurheartj/article/38/27/2137/2996308

 

心房細動患者における脳梗塞は、心原性脳血栓塞栓による梗塞が主であり、その血栓の90%以上が差神事由来とされている。その治療法として本邦のガイドラインにおいてもCHADS2スコア1点以上の症例において、抗凝固療法が推奨されているが、服薬コンプライアンスや、薬物相互作用の問題、出血のリスクの門外があり、その対応策として、左心耳閉鎖システムがある。国内治験として実施されたSALUTE試験において脳梗塞のリスクを有する日本人のNVAF患者(CHA2DS2-VAScスコア≧2点)を対象としたWRTCHMANの有効性および安全性が検証され、欧米と同等の手技成功率、安全性、術後2年までの有効性が日本人でもしめされた(Circ J 2018 82 2946-2953、Circ J 2020 84 1237-1243)。

https://www.jhf.or.jp/pro/shinzo/upload_images/ab21ed100098f044d17fe2cbaa1d072ca7a03301.pdf

 

参:cryptogenic stroke(潜在性脳卒中):原因不明の脳梗塞(Embolic stroke of undetermined source:ESUS)。脳梗塞全体の25%程度を占める。その原因として、潜在性発作性心房細動、卵円孔開存(patent foramen ovale:PFO)、大動脈プラーク、がんなどがある。その多くは、奇異性脳塞栓症は深部静脈血栓由来の塞栓子が心臓や肺の右左シャントを通じて動脈内に流入し、脳動脈を閉塞することにより生じる脳梗塞

 

12個の研究データを使いCSの中で、PFO症例は、若年者、画像上で皮質の梗塞巣の存在、糖尿病、高血圧、喫煙などの脳梗塞やTIAの危険因子の欠如が関連していた。

PFOの存在確率は、Risk of Paradoxical Embolism scoreが0~3では23%、9~10では73%になるとしている。

Neurology 2013 81 619-625

https://n.neurology.org/content/81/7/619

 

PFOの診断は生理食塩水を拡販したマイクロバブルを用いたコントラスト経食道心エコー検査を行う。

https://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/medical_info/presentation/202002.html

 

contrast transcranial color-coded sonography of vertebral artery monitoring via the foramen magnum window (cTCCS-VA)はPFOの診断でSpcifity 42%、Sensitivity 84%、右左シャントの診断にはSpcifity 40%、Sensitivity 91%だった。

J Neurological Sciences 2017 376 97-101

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0022510X17301818

49例の下肢静脈瘤血栓症症例の入院時と二週間後のエコーを検討した。

虚血性脳卒中の入院から2週間以内にPosterior Tibial Veinで7例のDVTが、Peroneal Veinで6例のDVTが発症した。入院時の静脈系にはDVTを発症した群としなかった群で有意さはなかった。

J Stroke Cerebrovasc Dis 2013 22 1002-1005

https://www.strokejournal.org/article/S1052-3057(12)00046-8/fulltext

 

4009例の抗血栓療法を行っている脳卒中及び心血管疾患を4群(単一の抗血小板剤47.2%、2剤の抗血小板剤8.7%、ワルファリン32.4%、ワルファリンに抗血小板剤を追加11.7%)に分けた。中央値19か月の経過観察で57例の生命を脅かす出血、51例の大出血(含31例の頭蓋内出血)を認めた。年間のプライマリエンドポイントの頻度は、単一の抗血小板剤で1.21%、2剤の抗血小板剤で2.00%、ワルファリンで2.06%、ワルファリンと抗血小板剤の投与では3.56%であった。

Stroke. 2008 Jun;39(6):1740-5

https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/STROKEAHA.107.504993

 

抗血栓療法がおこなわれている心血管および脳血管疾患患者4009例を中央機関19か月の経過観察において31例の頭蓋内出血(ICH)、および77例の頭蓋外出血(ECH)を認めた。エントリー時の血圧レベルでは、出血を認めなかった群、ICH群、ECH群では差を認めなかった。ICH群ではエントリー時に比べその後の期間において、収縮期及び拡張期血圧は高値であった。抗血栓薬投与中の血圧の上昇は、頭蓋内出血と正の関連があり、血圧の管理が重要である。

Stroke 2010 41 1440-1444

https://www.ahajournals.org/doi/pdf/10.1161/strokeaha.110.580506

2016年のEuropean Heart Jouranlに掲載された、ESCのガイドラインにおいて、心房細動の抗血栓療法について詳述されており、血圧のコントロールの重要性も上げている。

 

抗血栓薬投与の併用について下記のように推奨している。

ステントを使ったPCIを行った症例においては、下図のように推量している。

Eur Herat J 2016 37 2893-2962

https://academic.oup.com/eurheartj/article/37/38/2893/2334964

 

STEP研究

高血圧を有する60~80歳の中国人患者を目標血圧110~130mmHg(強化治療群:4243例)と130~150mmHg(標準治療群:4268例)に割りつけた。追跡1年時点での収縮期血圧の平均値はそれぞれ127.5mmHg、135.3mmHgであった。追跡中央値3.34年の時点では主要評価項目のイベントは、強化治療群で147例(3.5%)、標準治療群で196例(4.6%)で、強化治療群のほうが優れていた。

 

 

副作用においては、低血圧が強化治療群で146例(3.4%)、標準治療群で113例(2.6%)と強化治療群で多かったが、それ以外には有意な差は認めなかった。

NEJM 2021 385 1268-1270

https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa2111437

 

心房細動の疫学としてAmerican Herat AssociationはCirculation 2020 141号に置いて下記のように記載している。

治療は下図のように4本柱として示している。

肥満患者の対応として、体重を10%低下することを推奨している。

アプローチに関しては多職種参入がより効果的である。

Circuation 2020 141 e750772

https://www.ahajournals.org/doi/epub/10.1161/CIR.0000000000000748

 

非弁膜症性心房細動患者(NVAF)の心血管予後に対する心房細動発症前の既往高血圧とコントロール状況の影響を、2005年1月から2016年6月までに提出された384万人のJMDC医療機関・薬局の月次請求を基に解析した。

期間中に新たに発症したNVAFがあると特定された21523例の患者のうち、7885例はNVAF発症前に血圧データが利用可能であった(高血圧既往あり4001例、既往なし3884例)。一次複合エンドポイントevent発生率は、高血圧のある患者とない患者でそれぞれ10.3と4.4(1000人年)であった。さらに、NVAF発症前の収縮期血圧の低下(<120mmHg)は、NVAFの発症後の心血管event発生率の低下と関連していた。

J Clin Hypertns 2020 22 431-437

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8030061/

 

いくつかのメタアナリシスで、臨床的な明白な以前の脳卒中がなくても、心房細動が認知障害及び認知症と関連していることが示されている。

 

AFと認知機能障害との関連は多因子である可能性が高く、いくつかのメカニズムが提案されている。AFは脳梗塞、脳容積の減少、微小出血などの様々なメカニズムを通じて認知障害を引き起こす可能差異があり、脳容積の減少のメカニズムの仮説として、灰白質の低灌流、サイレンと脳梗塞、微小出血、及び炎症が考えられている。炎症は、凝固亢進と血栓形成を促進する。NOAC投与は、脳微小出血のリスクを高めるリスクがありえる。

Circulation 2022 145 392-409

https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.121.055018

 

2014年1月1日から2017年12月31日までの期間で、心房細動があり、経口抗凝固剤(Warfarin、rivaroxaban、dabigatran、apixaban、edoxaban)を内服している154407例のうち72846例のデータを検討した。内訳は下表のようになっている。

Dementia、Vascular dementia、Alzheimer’s dementiaにおいて、WarfarinとDOACの内服によるイベントの差は認めなかった。

年齢で分けてみると65歳から75歳未満の群でDOAC投与群でリスクが減少していた。

投薬薬剤毎で見てみるとDemenitagunnnioite edoxabanの投与でリスク低減が見られた。

Stroke 2021 52 3459-68

https://www.ahajournals.org/doi/epub/10.1161/STROKEAHA.120.033338

 

伏見レジストリは京都伏見区で2011年から行われている地域密着型のAF患者の前向き調査で、2016年11月末までの追跡データが入手可能な4045例の患者における心血管(CV)及び比CV死亡の死因と臨床指標の調査研究である。

平均年齢73.6歳、平均CH2DS2-VAScスコア3.38で、経口抗凝固薬は患者の55%に処方されていた。追跡期間中央値1105日の間に、705例の全死因死亡(5.5%/年)があった。CV死180例(総死亡の26%)、非CV死381例(54%)、未確定原因の死亡144例(20%)であった。CVおよび非CV死亡の死亡原因は、心不全14.5%、悪性腫瘍23.1%、感染症17.3%、脳卒中による死亡率は6.5%であった。

年齢群で見るとCV死亡は全死因死亡の約25%を占めている。

 特定の死因の死亡率は、年齢層に応じて増加した。

多変量Cox回帰分析では、全死因死亡のリスクが最も高い変数は、貧血であり、続いてPAD、脳卒中/TIA、高齢、既存の心不全、COPD、ジギタリスの処方、腎機能障害が続いた。

女性であること、OAC処方、スタチンの処方は、全死亡死因のリスクが低いここと有意に関連していた。

Eur Heart J Qual Care Clin Outcomes. 2019 Jan 1;5(1):35-42

https://academic.oup.com/ehjqcco/article/5/1/35/5055400

 

脳卒中後中枢神経痛:CPSP(central post-stroke pain)は脳血管障害後の慢性神経因性疼痛症候群で、脳卒中患者の8~55%で発生すると推定されている。

温度や圧力感覚の感覚異状を伴う一定または断続的な神経因性疼痛として説明されている。

これらの痛みと感覚障害は、脳卒中病変に対応する身体の領域内にある。痛みの発症は通常緩やかであるが、脳卒中直後または数年後に発症する可能性があり、臨床症状の多様性があり、脳卒中後のCPSPは除外の困難な診断である。治療の明確なアルゴリズムはいまだ確立されていない。

アミトリプチン、ラモトリギン、ガバペンチノイドなどを第一選択として選択し、難治例に対して、フルボキサミン、ステロイド、リドカイン、ケタミン、プロポフォールの静脈内注入などの他の薬剤治療を考える。さらに、運動皮質刺激や径頭蓋磁気刺激などの介入療法が有効な症例が示されている。

CNS drug 2021 35 151-160

https://link.springer.com/article/10.1007/s40263-021-00791-3

 

参:脳卒中後中枢神経痛:CPSP(central post-stroke pain)

DejerineとRoussyが脳卒中後に対戦感覚神経系の病変によって生じる神経障害性疼痛を初めて報告した。病変が主に視床にあると考えられており、視床痛と表現されたが、その後、視床以外の病変でも生じることが分かった。

脳卒中罹患患者の1~12%にみられ、脳卒中発症から3か月以内に発症するとされている。

『焼けるような』。『うずく』、『凍てつくような』、『しびれるような』。『刺されるような』と表現され、被殻病変では『下肢』が多く、視床病変では『上肢』が多いとされている。

脳卒中後にみられる痛みをKlitらは下図のように分類している。

Lancet Neurol. 2009 Sep;8(9):857-68.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19679277/

 

Poststorke thalamic pain(PS-TP)or broadly central poststroke pain(CPSP)はまだよく解明されていないが、現時点においては、下図のようなメカニズムが考えられている。

治療としては、薬物治療と非薬物治療がある。

薬物治療としては

Tricyclic Antidepressants(TCAs)

Selective Serotoin Reuptake Inhibitors(SSRIs)

Serotoin-Norepinephrine Reuptake Inhibitors(SNIRs)

Anticonvulsants

Other Medications(Opioid or opioid antagonist, medical cannabinoids, mexiletine, clonidine, and beta-blockers)

Diagnostics 2022, 12(6), 1439

https://www.mdpi.com/2075-4418/12/6/1439

 

ミロガバリンは末梢神経因性疼痛、特に糖尿病性末しょう神経障害性疼痛および帯状疱疹後神経痛の治療薬として承認されている。

Anesth Pain Med. 2021 Dec 22;11(6):e121402.

https://brieflands.com/articles/aapm-121402.html

 

抗痙攣薬の服薬アドヒアランスを検討した21077例の検討では、飲み忘れが60.7%、意図的中断が11.1%、薬漏れが17.4%とされている。

 

参:精神疾患治療薬における服薬状況に関するアンケート調査

犬山病院精神科で加療している全患者に2011年12月に行ったアンケート結果は以下膿瘍なっている。

日職災医誌2013 61 382-392

http://www.jsomt.jp/journal/pdf/061060382.pdf

 

アドヒアランスの橋上のためには、残薬のチェックが有効である。

医師のみでなく、薬剤師などによるチェックなど多面的な介入のほうが効果が高いことも示されている。

]]>
https://kawamuranaika.jp/blog/nousinkei/7262/feed/ 0
帯状疱疹は予防する時代へ 峰村伸嘉先生 https://kawamuranaika.jp/blog/etc/7052 https://kawamuranaika.jp/blog/etc/7052#respond Wed, 04 Oct 2023 10:16:26 +0000 https://kawamuranaika.jp/?p=7052 2023年9月26日 

演題「総合内科医から見た帯状疱疹ワクチンの必要性 ~帯状疱疹は予防する時代へ~」

演者:三井記念病院総合内科科長 峰村伸嘉先生

場所: 横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ

内容及び補足「

水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の初感染は、多くの人が小児期に罹患する水痘として発症する。感染したVZVは水痘治癒後も神経節のDNAの中に潜伏感染し、加齢やストレス、疲労などで免疫力が低下したときに、再活性化が起こり、帯状疱疹として回帰発症する。

Nature Reviews Disease Primers volume 1, Article number: 15016 (2015)

https://www.nature.com/articles/nrdp201516

水痘の合併症:

 小水疱への細菌の二次感染(典型的には連鎖球菌またはブドウ球菌)が起こることがあり、蜂窩織炎またはまれに壊死性筋膜円もしくは連鎖球菌による毒素性ショックを引き起こす。

 成人、新生児、および全年齢の移管生成患者において重度の水痘に肺炎が合併しうるが免疫脳が正常な用事では通常起こらない。

 心筋炎、肝炎、および出血性合併症

 感染後の急性小脳性運動失調 小児4000人に1人の割合で起こる。

 横断性脊髄炎

 ライ症候群(重度の小児期合併症で、発疹出現後の3~8日後、アスピリン使用例に発生することがある)

 成人発症例で脳炎が起こりうる(1000例に1~2例)

帯状疱疹の合併症:

膝神経節帯状疱疹(ラムゼイ-ハント症候群、耳帯状疱疹):膝神経節が侵される帯状疱疹 耳痛、顔面神経麻痺、時に回転性のめまいが生じる。小水疱性の発疹が外耳道に生じ、舌の前側2/3で味覚が失われることがある。

眼部帯状疱疹:三叉神経節(ガッセル神経節)が侵される。第5脳神経(三叉神経)の眼分岐のV1分布領域である眼の周囲及び額に疼痛及び小水疱を伴う。眼病変は重篤化(失明)する可能性がある。鼻の先端の小水疱(Hutchinson徴候)は鼻毛様体神経分岐への病変の波及を示唆し、重度の眼疾患をきたすリスクがより高いことを示唆する。

口腔内帯状疱疹(intraoral zoster)はまれであるが、その病変は片側性で境界明瞭な分布を示すことがある。

髄膜炎、脊髄炎、脳神経麻痺

慢性合併症:帯状疱疹後神経痛(PHN)

 

2009年6月から2015年11月までの間に43のクリニックで34877例の帯状疱疹患者を登録した。

16784例のうち1076例6.41%に帯状疱疹の再発を認めた。女性に多くみられた(女性5.27、男性4.25/1000人年)。49例で2回、3例で3回再発した。同じ皮膚の部位に認めたものは16.3%、左側で多く見られた。高齢になるに従い高頻度にみられ、80歳以上では3人に1人の割合で見られた。夏に多く見られ、再発のリスクとしては、女性、免疫不全などの罹患、帯状疱疹後神経痛の持続期間が1か月(30日)以上の症例、高齢者、移植後、抗ガン剤使用、ステロイド治療があがった。

 

Open Forum Infect Dis. 2017 Jan 28;4(1):ofx007.

https://academic.oup.com/ofid/article/4/1/ofx007/2960780?login=false

 

Mayo Clin Proc. 2011 Feb;86(2):88-93.

https://www.mayoclinicproceedings.org/article/S0025-6196(11)60131-6/fulltext

 

帯状疱疹が軽視されがちな理由を考えてみた。

  • 皮膚の病気である
  • 内臓には悪さしない
  • 痛みはつらいが命にかかわる病気ではない
  • 皮疹は辛いけど数週間で治る

 

参:帯状疱疹の皮疹症状経過

ヘルペスウイルスが潜伏している神経に沿って帯状にややもりあたっが赤い斑点が現れ、その後、水疱となる。水疱の大きさは、粟粒大~小豆大で、中央にくぼみが見られる。皮膚と神経の両方でウイルスが増殖して炎症が起こっているため、皮膚症状だけでなく強い痛みが生じる。

帯状疱疹関連痛の臨床経過

神経痛は侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛に分けられる。

侵害受容性疼痛は、ウイルス感染や炎症などによって健常な組織が傷害されることに伴う痛みであり、帯状疱疹発症を知らせるサインと捉えることができる。神経障害性疼痛は、急性期の炎症に起因した末梢あるいは中枢神経系の機能異常による病的な痛みで、痛みそのものが病気であるといえる。

 

急性期(侵害受容性疼痛)の治療:

帯状疱疹発症の数日前から生じる前駆痛や帯状疱疹による痛みは、「ヒリヒリ(Tingling)」。「チクチク(Scratchy)」、「ピリピリ(Sharp pain)」といった表現が多く用いられる。

軽症の場合には、皮疹の可否化に伴い、侵害受容性疼痛は次第に軽減するが、重症例では神経障害性疼痛の様相が侵害受容性疼痛と同時期にみられる。

治療としてはNASIDsやアセットアミノふぇんが用いられるが、効果が不十分な場合には、オピオイド鎮痛薬の投与を考慮する。

 

帯状疱疹後神経痛PHN(神経障害性疼痛)の治療:

皮疹が治癒した後(3か月以上:平均3.3年終生持続する人もいる)も遷延する痛みであるPHNは、主に神経障害性疼痛であり、10~15%の頻度で合併する。

危険因子として、60歳以上、急性期の強い痛み、重篤な皮疹がある。

https://www.maruho.co.jp/medical/articles/herpeszoster/diagnosis_treatment/related_pain.html

NEJM 2014 371 1526-1533

file:///D:/A%20%E5%8B%89%E5%BC%B7%E4%BC%9A/2023.08.31/2023%20.09.26%20Zoster/solomon2014.pdf

 

痛みの性状は、「一定した(constant)」「焼けつくような(burning)」「うずく痛み(squeezing)」などといった火をイメージさせるようモノや、「速い痛み(stabbing)」「電気が走るような(shock-like electric)」「電撃痛(lancinating)」「電激痛(shooting)」「放散痛(radiating)」などといった、電気をイメージさせるようなものがある場合にはPHNに移行が疑われる。

また、罹患部に衣服が触れる程度の通常では痛みを引き起こさない刺激によって発生する痛み(アロディニア)が見られる場合は、神経障害性疼痛への移行が強く疑われる。

神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版では下図のように治療のアルゴリズム提示している。2019年に承認されたミロガバリンも使用できる。

帯状疱疹は皮疹だけの疾患ではなくい赤のような合併症がある。

眼部帯状疱疹、急性網膜壊死、膝神経節帯状疱疹(ラムゼイ-ハント症候群、耳帯状疱疹)、口腔内帯状疱疹、無菌性髄膜炎、末梢神経障害、脳神経麻痺、脊髄炎、Guillan Barre Syndrome

 

帯状疱疹後に脳卒中や心筋梗塞、一過性脳虚血性発作などの血管障害は増加することが報告されており、抗ウイルス薬の治療やワクチンによりこれらの疾患が減少する可能性がいくつかの試験で示されている。

Clin Inf Dis 2013 76 e1335-e1340

https://academic.oup.com/cid/article/76/3/e1335/6633277?login=false

J Stroke Cerebrovasc Dis. 2023 Feb;32(2):106891.

https://www.strokejournal.org/article/S1052-3057(22)00583-3/fulltext

J Clin Med. 2019 Apr 22;8(4):547.

https://www.mdpi.com/2077-0383/8/4/547

 

Covid-19感染後に帯状疱疹が増加しているとの報告がある。

Covid-19に罹患した50歳以上の394677人の群とCovid-19に感染していない50歳以上の1577346人の群で帯状疱疹の発生率を比較した。 

Covid-19に感染した人は、感染していない人よりも帯状疱疹の発症リスクは15%高かった。入院患者で検討すると21%とより感染リスクは顕著になった。

帯状疱疹発症のリスクが上昇するのは、入院(1日目から183日目まで)、50-64歳、Covid-19感染であった。

Open Forum Infectious Diseases, Volume 9, Issue 5, May 2022, ofac118

https://academic.oup.com/ofid/article/9/5/ofac118/6545460

 

1987~2016年までの30年間で帯状疱疹患者総数は69952例であった。1987年に比較し、2016年は47.2%増加している。男性では30800例、女性では39152例で女性に多い傾向がある。

前半の1987~2001年と後半の2002~2016年で比較すると、前半においては、10台と30代の女性で少なくなっておいる。後半の時期においては水痘ワクチン接種が小児に浸透し、水痘患者が減少しており、前半の時期においては、子育て世代の母親が水痘にり患した子供と接触することによるブースター効果の影響と考えられている。

IASR Vol. 39 p138-139: 2018

https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2433-iasr/related-articles/related-articles-462/8234-462r06.html

 

ワクチンの歴史:

水痘予防のための弱毒生水痘ワクチン(Oka株)は1974年に高橋らにより開発された。

ステロイド服用者が多数いる小児科病棟で緊急接種を行い、水痘の院内流行を阻止したと報告している。

Lancet 2: 1288-1290, 1974

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(74)90144-5/fulltext

 

1985年世界保険機構(WHO)から弱毒生水痘ワクチン(Oka/Merck VZV vaccine)として最も望ましい株であると認められた。1986年9月に1歳以上の小児から成人への接種が認可されたが、任意接種でったため接種率は徐々に上昇したものの50%程度にとどまり、水痘流行を抑制するには至らなかった。

米国においては1996年に定期接種化が始まりその有効性が多数報告された。

水痘ワクチン2回接種の効果を評価した研究のメタ解析では、Vaccine effectiveness(VE)は90%を超える非常に高い感染防御脳が示された。

IASR Vol. 39 p132-133: 2018

https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2433-iasr/related-articles/related-articles-462/8225-462r02.html

60歳以上の38546人を対象に行ったZOSTAVAXの帯状疱疹用効果は、接種後3.12年間のサーベイランスにおいて、帯状疱疹発症が51.3%減少、PHN発症が66.5%減少、疾病負荷が61.1%減少した。

Eng. J. Med. 2005;352:2271-2284

 

2014年10月から我が国においても水痘ワクチンの2回接種が定期接種として開始された。

水痘は、小児科定点あたり年間報告数は2000~2011年では平均81.4人/年であったが、20121~2014年で平均56.0人/年に、定期接種化直後の2015年は24.7人/年と減少し、以降も緩やかに減少している。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/varicella-m/varicella-idwrs/10892-varicella-20220113.html

 

27の研究で2044504例を解析した。

帯状疱疹に対して、弱毒生水痘ワクチンよりもアジュバントリコンビナントサブユニットワクチンのほうが優れていると思われた。有害事象において有意な差は認めなかった。

BMJ. 2018 Oct 25;363:k4029

https://www.bmj.com/content/363/bmj.k4029

 

Oka/Merck VZV vaccine (“zoster vaccine”)の接種により帯状疱疹のは症頻度は51.3%、重症後は61.1%、PHNの発症頻度は66.5%減少した(水痘発症予防効果は約90%)。

N Engl J Med 2005; 352:2271-2284

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa051016#t=article

このワクチンの問題点は、免疫不全者には打てないこと、5~8年で20~30%に低下し、80歳以上ではほぼ有効性が無くなることである。しかも70歳代以降では有効性が低下する結果も出ている。

 

そこで新しいワクチンが作成された。

 

水痘帯状疱疹ウイルス糖タンパクEとAS01Bアジュバント系を含有するサブユニットワクチン(HZ/su)である。

18カ国で行われた無作為化プラセボ対象第3相試験において50歳以上(50~59歳、60~69歳、70歳以上の3群に層別化)の15411例において、7698例がHZ/su(2回接種)群、7713例がプラセボ群に分け、平均追跡期間3.2年の間観察した。HZ/su群では6例、プラセボ群では210例帯状疱疹が確認された(発生率:0.3 vs 9.1/1000人年)。

3つの年齢群におけるワクチン有効率は96.6~97.9%であり年齢差は認めなかった。

NEJM 2015 372 2087-2096

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1501184

 

ワクチンの種類

成分からわけると全病原体ワクチン(生ワクチンと不活化ワクチン)と成分ワクチンに分けられる。

成分ワクチンには組換えタンパク質ワクチン、設計図であるDNAワクチン、RNAワクチン、設計図をウイルスに組み込んだウイルスベクターワクチンなどがある。

https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0018.html

組換えワクチンであるシングリックスは、帯状疱疹ウイルスの抗原糖タンパク質E(gE)とアジュバントシステムのASO1Bの組換えワクチンである。

Zoster-006/022試験

50歳以上の男女15411例(日本人577例)で行ったZoster 006試験と70歳以上の男女13900例(日本人511例)で行ったZoster022試験で有効性を見てみると、年齢が高くなっても有効性には大きな差は認めず約97%の有効性を認めた。

NEJM 372 2087-2096 2015

https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1501184

長期結果についてはZoster-006/022の延長試験であるZoster-049試験(50歳以上の男女7413例)で、接種後5年目以降11年目までの6年間を観察した。予防効果は81.6%であり、前景化で計算しても89.0%と高い有効率を示している。

GSK シングリックス情報サイト

https://gskpro.com/ja-jp/products-info/shingrix/clinical-studies-safety/efficacy-2/

Open Forum Infect Dis. 9(10) Oct 2022; ofac485,

https://academic.oup.com/ofid/article/9/10/ofac485/6766954?login=false

 

ワクチン接種10年後、anti-gE抗体GMCは6.0倍、平均gE特異的CD42T細胞frequencyは3.5倍であった。

The Journal of Infectious Diseases, Volume 224, Issue 12, 15 December 2021, Pages 2025–2034

https://academic.oup.com/jid/article/224/12/2025/5851921

 

70歳以上における帯状疱疹の発症頻度は下図のように有意に抑えている。

N Engl J Med. 375(11), 1019-1032, 2016

Zoster-006試験での50歳以上におけるPHNの発症は、プラセボ群で18例に対して、シングリックス群では0例であった。

Zoster-022試験での70歳以上におけるPHNの発症は、プラセボ群28例に対して、シングリックス群4例で85.5%の減少率であった。

GSK シングリックス情報サイト

https://gskpro.com/ja-jp/products-info/shingrix/clinical-studies-safety/efficacy/

 

安全性

副反応の発現例数は以下の表のように、局所の反応や、全身の筋肉痛、発熱などの反応は多く見られたが、グレード3は多くなかった。

また、副反応の持続日数はほとんどが3日以内であった。

GSK シングリックス情報サイト

https://gskpro.com/ja-jp/products-info/shingrix/clinical-studies-safety/safety/

 

Oka/Merck VZV vaccineの効果を再度述べる。

 

60歳以上で51%の予防効果で会った研究でも細かく見ると、60-69歳では64%、70-79歳では41%、80歳以上では18%と高齢になるほど予防効果が減弱する結果となっている。

 

持続性:接種後4~7年間では帯状疱疹発症とPHN発症がそれぞれ39.6%、60.1%減少し、疾病による死亡や損失した生活の質を示す疾病負荷は50.1%減少した。接種後7~11年間では、帯状疱疹発症とPHN発症がそれぞれ21.1%、35.4%減少し、疾病負荷が37.3%減少したと報告されている。

Clin Infect Dis 2015; 60: 900-9.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25416754/

Clin Infect Dis 2012; 55: 1320-8.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22828595/

 

60歳以上の176078人を対象とした研究では、ワクチン接種後1年以内の帯状疱疹発症阻止効果はワクチン非接種者と比較して68.7%減少したが、接種8年目ではその効果は4.2%に低下した。

J Infect Dis 2016; 213: 1872-5.

https://academic.oup.com/jid/article/213/12/1872/2572147?login=false

 

弱毒化生ワクチンであるため、明らかに免疫異常のある疾患を有する人(先天性および後天性免疫不全状態の人、急性および慢性白血病、リンパ腫、骨髄やリンパ系に影響を与えるその他疾患、HIV感染またはAIDSによる免疫抑制状態、細胞性免疫不全など)および薬剤などによる治療を受けており明らかに免疫抑制状態である人は接種不適当者・禁忌である。

 

シングリックスはこれらの対象者に対しては、打つことができるが、実際の効果はどうであるか? 

アジュバンドの免疫賦活作用により自己免疫性疾患の発症や増悪の懸念は?

といったところが問題視される。

 

403例のリウマチ患者に対して、2018年1月から2019年2月にかけてワクチンを接種した。疾患の再燃の発生は27例で6.7%、副作用の発生は51例で12.7%であった。

ACR open Reumatol 2020 357-361

https://acrjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/acr2.11150

 

ワクチンの接種時期であるが、米国のCDCやドイツ予防省では、急性期の皮疹が無くなったら接種可能であるとしている。

 

帯状疱疹の発症リスクを上昇させる因子

ストレス

外科手術からの回復期

強いストレス経験

帯状疱疹の家族歴

その他の感染症(Covid-19など)

免疫不全状態:抗がん剤、高容量ステロイド、免疫抑制薬

女性

高齢者

 

2015年の5月から9月の間にカナダのMcGill University Health Centerのリウマチクリニックに来院した352人(RA136例、SARD113例、SpA47例、OD56例)の各ワクチン予防接種率は、インフルエンザワクチン48.5%、肺炎球菌ワクチン42.0%、HBワクチン33.6%なのに比べ、帯状疱疹ワクチンは5.6%とかなり低率であった。

J Rheumatol. 2020 May 1;47(5):770-778.

https://www.jrheum.org/content/47/5/770

 

その原因として、かかりつけ医による推奨があるかないかが、大きく関与しているといえる。

J Epidemiol 2022;32(9):401-407

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jea/32/9/32_JE20200505/_pdf/-char/en

 

最近の世界的な帯状疱疹のワクチンは、シングリックスのみに移行しているといえる。

Expert Rev Vaccines. 2021 Sep;20(9):1065-1075.

https://www.tandfonline.com/doi/figure/10.1080/14760584.2021.1956906?scroll=top&needAccess=true

 

まとめ

決して帯状疱疹は一過性自然経過で見てよい疾患ではない

予防する時代であり、予防が最大の治療である

シングリックスの有効性は高く、効果も長い

高齢者、免疫不全患者においても十分有効である

ワクチン接種後の副反応は強いが数日以内に終息する

50歳以上の成人、帯状疱疹の罹患するリスクの高い15歳以上が対象

リスク因子(高齢者、女性、慢性疾患合併者、ストレス下、帯状疱疹の家族歴、他の感染症罹患者、免疫不全状態など)

]]>
https://kawamuranaika.jp/blog/etc/7052/feed/ 0