循環器系

2015.03.30

我が国における感染性心内膜炎の現状  中谷 敏 教授

2015年2月27日 ハイアット・リージェンシー
演題「我が国における感染性心内膜炎の現状」
演者:大阪大学大学院医学系研究科 機能診断科学教授 中谷敏 先生
内容及び補足「
心臓の三尖弁、肺動脈弁、僧房弁、大動脈弁の心内膜に傷がつき、そこに菌が付着して、弁が破壊されて急性の弁膜症が生じて、聴診上新たな心雑音が生じたり、心電図上不整脈が出現したりする。

また、菌塊の一部が剥がれ飛び、各臓器の血管に起こす塞栓症、各臓器の膿瘍、血管壁への付着から生じる動脈瘤も生じる。爪の下の線状出血(A)、唇内側の出血(B)、親指の付け根や手掌(C)や足底(D)にできる痛みを伴った出血斑(Osler結節)、手足に現れる無痛性紅斑(E:Janeway斑)、眼底の出血性梗塞(F:Roth斑)などの血栓症状が認められる。

http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMra010082

http://www.nurs.or.jp/~academy/igaku/s1/s1414.htm


http://ishikokkashiken.com/roth/

診断基準としてはDuke臨床診断基準が用いられることが多い。
血液培養で近が陽性となり、心内膜が侵されている所見があった場合に感染性心内膜炎という診断となる。

診断基準には、具体的な個々の症状は記載されていない。
小児感染性心内膜炎で認められる主要症状と頻度は以下のように記載されている。
発熱が高頻度であり、各種臓器における症状はまちまちで、内科の教科書で有名なOsler結節やJaneway発心は数%程度の頻度である。

感染性心内膜炎の診断の流れとしては、基礎疾患の状態と発熱などの臨床症状の発現・推移、診察所見からは心雑音の聴取により、この疾患を疑い、心エコー検査と血液培養検査を行っていくことになる。

日本の114の施設から集められた513例(男性320例、女性193例)の感染性心内膜炎の解析結果をCirculation Journalに報告した。
対象は男性320例、女性193例で平均59.5±17.5(1~97:中央値61)歳であり、60~80歳に多かった。

基礎疾患としては、弁膜症が圧倒的に多く、次いで先天性心疾患や冠動脈疾患に多かった。

罹患弁は、約半数が僧房弁で、次いで大動脈弁が多く、弁膜疾患としては、MRが48.3%、次いでAR 25.3%、AS 13.3%、それ以外の頻度は少なく、TR 4.7%、MS 4.3%でPRは0.3%であった。

感染の契機となった処置では抜歯が最も多いが、特に誘因がない症例が85例20.9%も存在することを、念頭に置いておく必要がある。

抗生剤を使用しないと100%の死亡率であり、6ヶ月の治療後の死亡率は11~26%と考えられている。
病原体別死亡率は真菌によるものの死亡率が高く、ブドウ球菌によるものが連鎖球菌や腸球菌によるものよりも予後不良である。

原因菌としては、連鎖球菌や黄色ブドウ球菌が最も多く、腸球菌やグラム陰性桿菌、真菌も原因菌となりうる。

心エコー所見はVegetationが9割弱に認められているが、逆に言うと一割の症例においてはVegetationがみられないので、『Vegetationを認めないこと=除外診断』とはなりえない。
僧房弁が59%、大動脈弁が33.3%と左心系が優位であり、三尖弁3.5%、肺動脈弁が0.8%であった。

感染性心内膜炎加療目的の入院中に手術を行った早期手術例の検討がなされた。
自己弁感染性心内膜炎348例(早期手術例237例、薬物治療のみ111例)、人工弁感染性心内膜炎81例(早期手術例35例、薬物治療のみ46例)が対象で、手術理由は自己弁症例では、塞栓症高リスク48%、難治性心不全45%、人工弁症例では、難治異性感染症66%とであった。
自己弁症例では、薬物治療群に比べて、早期手術群では、弁周囲膿瘍や弁周囲の合併症、心不全などが多く見られたが、院内死亡率は、薬物治療群26%に対し、早期手術群では4%と有意に低かった。
人工弁症例でも、早期手術群では合併症が多く見られたが、院内死亡率は、薬物療法群で26%に対し、早期手術群では17%と、有意差は出なかった(P=0.42)が、手術群で低い傾向にあった。
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtnews/2014/M47460172/

左心系感染性心内膜炎で重度の弁疾患、大きな疣贅を有する症例を、早期手術群37例と従来治療群39例に、無作為に割り付けた検討では、6ヶ月時点での全死因死亡率には有意な差は認めなかったが、3か月時点での、全死因死亡、塞栓イベント、感染性心内膜炎再発の複合エンドポイントの発生率は、早期手術群3%に対して従来治療群28%であり有意に減少していた(P=0.02)。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1112843#t=article

早期外科手術群と従来治療群での予後の差の原因の一つとして、海外では2000年頃までは連鎖球菌が多かったが、ここ近年黄色ブドウ球菌感染が増加しているが、日本においては、依然連鎖球菌が多く、海外と日本における感染性心内膜炎予後の差となっている可能性がある。

感染性心内膜炎の発症予防を考えておく必要がある。

感染性心内膜炎が発症しやすい手技として以下のものがあり、その起こりやすい頻度により抗菌薬の予防投与が推奨されている。
特に抜歯などの歯科においての観血的治療手技においては抗菌薬の予防投与が薦められる。

同じ治療手技を行っても、受ける側の状態や病態により、感染性心内膜炎発症の危険度が異なる。特に歯科手技においての抗菌薬投与が重要であり、歯科医師との間において共通認識を持つ必要もある。

予防的な抗菌薬の投与は、以下のものが推奨されている。

循環器の医師からは、ハイリスク患者のために以下のようなカードを作成し、患者さんや家族の人への啓蒙活動を行っている。

海外においては抗菌薬投与において予防できる症例は非常に少ないこと、薬剤投与による副作用の頻度が少なくないことから抗菌薬の予防的投与の推奨は限定的である。

海外においては、以前感染性心内膜炎のリスクが中等度でもアモキシリン2gの予防的投与を推奨していたが、2007年の米国心臓病協会(AHA)が、高リスク群のみに投与するという推奨に変わった。英国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインは、この流れに沿い、歯科だけでなく、呼吸器、消化器、産婦人科などの観血的処置においても予防的抗菌薬投与を推奨しないという記載に変わった。

この決定を受け、2008年以降、英国歯科医は感染性心内膜炎リスク患者の抜歯においても、約7割の患者に対して予防的抗菌薬投与を行わなくなった。

感染性心内膜炎発生頻度は、下図のように直線的な変化であり、予防的抗菌薬投与の中止によって、大きな変化はない。

起因筋別に見ても連鎖球菌起因性のものも、ブドウ球菌起因性のものも大きな変化はなかったとしている。

http://www.bmj.com/content/342/bmj.d2392

CTAにPDG/PET画像を合わせて行うことにより、Vegetationの描出がより簡単に行えるようになった。

A patient with a biological PHV in the aortic position for 10 months presented with fever and 4 consecutive blood cultures positive for S. aureus. (A) the short-axis TEE view shows a large vegetation (1.7 cm in length, arrow). No periannular extensions were observed. The modified Duke criteria were fulfilled. (B) 2 days later, CTA (rotated in the same view as the short-axis TEE view) detected, not only the vegetation (arrowhead), but also a thickened aortic wall in the former right to left coronary cusp (arrow), indicating a periannular extension of PHV endocarditis, which is an indication for urgent reoperation. Retrospectively, imaging of this area by TEE (A) was hampered by acoustic shadowing by the PHV. (C) FDG-PET/CT (low dose) alone missed the large vegetation (the arrowhead points to absent FDG uptake in the large vegetation), but detected high uptake around the PHV, with a SUV ratio of 3.5 (7.43:2.11). At urgent reoperation, a large vegetation and periannular extension around the former left coronary cusp was observed and confirmed by pathological examination. This case shows that periannular extensions can be missed by echocardiography, but correctly diagnosed by FDG-PET/low-dose CT and CTA independently and after fusion. However, vegetations can be missed by FDG-PET/low-dose CT alone. CT = computed tomography; other abbreviations as in Figure 1.
http://imaging.onlinejacc.org/article.aspx?articleid=1735751

72例の患者に対して、Dukeの診断基準のみでの診断に比べ、Positro Emission Tomography/Computed Tomographyを併用することにより人工弁の感染性心内膜症の診断率を上げることができることが示された。

file:///C:/Users/PCUser/Downloads/01092.pdf

参考サイト
感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン
Guidelines for the Prevention and Treatment of Infective Endocarditis (JCS 2003)


感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)


Recent Picture of Infective Endocarditis in Japan - Lessons From Cardiac Disease Registration (CADRE-IE) –

慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイトKOMPAS

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