脳神経系

2016.11.28

多発性硬化症 山口 滋紀先生

2016年11月03ALS日 
演題「多発性硬化症」
演者: 横浜市立市民病院神経内科部長 山口 滋紀先生
場所:神奈川県総合医療会館
内容及び補足「
中枢神経の髄鞘が炎症機転により一次性に障害され、軸索が比較的保たれている病態である脱髄性疾患で、限局した非化膿性非炎症性脱髄巣が中枢神経系に次々と反復して生じる自己免疫性疾患。

20~30歳代で好発し、女性に多く、緯度の高い北ヨーロッパ、カナダ、アメリカ北部などで有病率が高い。

世界には250万人の患者がいると推計されており、有病率は北欧では10万人当たり50~100人、日本では数人前後(旭川10.2、弘前5.7、米子5.5、熊本1.3)
日本での患者数は現在約2万人といわれており、昨今増加の一途にあり、2040年代には患者数が5万人を突破すると推計されている。

多発性硬化症は、脱髄の特徴として「空間的多発性」と「時間的多発性」を認めるもので、空間的多発性:中枢神経系の複数の箇所に脱髄が生じること
時間的多発性:再発性に脱髄が生じること
平均的な多発性硬化症は、20歳代で発症し、その後不定期に再発を繰り返す。発症後5~10年程度は再発しても数か月以内に症状がほとんど消失(寛解)しますが、再発と寛解を繰り返すうちに次第に後遺症が蓄積するようになり、40歳代以降になると歩行が困難となってくる(二次性進行型)。
二次性進行型に移行すると、再発の有無によらず症状が持続的に悪化するようになり、50歳代で杖歩行、60歳代で車いす生活となり、最終的には寝たきりとなる。
全体の少なくとも20%程度は二次性進行型には移行せず(良性型)、独立歩行が可能な状態で過ごせることが判明している。適切な病態就職薬を早期から使用することで二次性進行型への移行を遅らせ、また良性型の患者を増やすことが可能であると期待されている。

多発性硬化症(MS)の病型
潜伏期:病状が内部で進行しているが症状が出ない時期
再発:1ヶ月以上症状が消失していた後に新たな症状が発生して24時間以上持続
再発寛解型(Relapsing Remitting MS:RR-MS型):再発と寛解が繰り返す型
(二次進行型;Secondary Progressive MS:SP-MS型):再発と寛解を繰り返しながら徐々に病状が進行し、寛解期が短くなり寛解期でも種々の神経疾患が混在する病状
一次性進行型(Primary Progressive MS:PP-MS型):初期から長期にわたり病状が持続進行する病状
治療に訪れる患者の過半数(55%)がRR-MSの患者で、ついでSP-MSの病状を示す患者(35%)、PP-MS病状の患者(10%)となっています。

http://www.yakuji.co.jp/entry9607.html

病態:

https://nurse-like.com/多発性硬化症/
遺伝的な要因にウイルス感染などにより活性化されたT細胞が神経細胞の髄鞘を傷害するために起こる自己免疫説が有力である。
多発性硬化症における神経病理は脱髄が特徴的で、神経の軸索は保存されるとされてきたが、近年軸索も早期より障害されることが明らかになった。 軸索障害の原因は明らかではない。
これまで主流である説は、障害の対象はミエリン:myelin (myelinopathy)か、あるいはミエリン形成細胞である乏突起膠細胞:オリゴデンドロサイト oligodendrocytes (oligodendrogliopathy)であり、ミエリンに包まれている軸索は、ミエリンの障害によって二次的に変性するというもの。
この仮説では、神経線維を覆っているミエリンを障害し脱髄病変が生じ、むき出しになった軸索には、炎症の継続で障害されるとい説である(”Outside-In” model)。 ところが、病理学的検索や放射線学的検索(MRIやMRSなどの画像診断)によると、多発性硬化症の病変によっては、軸索変性が脱髄病変のないところに生じているものもあり、この説に疑義が呈されている。
ウイルスモデルのタイラーウイルス感染症や犬ジステンパーウイルスモデルでは軸索障害が脱髄に先行しておこる。また、自己免疫モデルのEAEでも 動物を軸索に対する抗原:neurofilament light protein、contactin-2/transiently expressed axonal glycoprotein 1 (TAG-1)などで免疫すると軸索障害が先行する多発性硬化症類似の病変が生ずる(”Inside-Out” model)。この病態の仮説は、まず軸索が傷害され、これがオリゴデンドロサイトのアポトーシスを誘導し、二次的に脱髄にいたるという機序である。

http://www.med.kindai.ac.jp/microbio/img/Insideout.jpg

症状
視神経:視力低下、失明、目を動かす際の目の奥の痛み(球後視神経炎)
脳幹部:会話の障害、嚥下障害、複視、眼振、めまい
大脳半球:集中力低下、物忘れ、片側の手足の麻痺
小脳:会話の障害、歩行不安定、手足の震え
脊髄:異常感覚、筋肉のこわばり、痛みを伴うシビレ、有痛性強直性けいれん歩行障害、便秘、排尿困難
ウートフ徴候:入浴などで体温が上昇すると一過性にMS症状が悪くなること

MSのマクドナルド診断基準(2010)
空間的多発性:以下の4か所のうち2か所以上にT2延長病変がみられる
・脳室周囲、皮質下、テント下、脊髄
時間的多発性:以下のいずれかがみられる
・造影病変と非造影病変が同時にみられる
・新規のT2延長病変が出現する
画像所見
Ovoid lesion(Dawson’s finger):
側脳室壁と垂直の方向に長い、卵円型の深部白質病変。髄質静脈周囲の炎症を反映している、よく見られるが特異性はそれほど高くない(虚血性病変などでも見られ得る)

http://www.radiologyassistant.nl/en/p4556dea65db62/multiple-sclerosis.html

http://www.jikeirad.jp/syourei/kensyui/201112up/Re201112_1.pdf

T1 black hole:
軸索消失や脱髄の程度が強い病変はT1強調像にて低信号を呈する。臨床症状とよく相関する。acute lesionは浮腫のため一時的に低信号を呈することがある。真のT1 black hokeは6ヶ月以上低信号が続く病変をいう。
T2WIで高信号を示すプラークの約20%に見られる。T1WI低信号は細胞浸潤を伴う急性期病変と慢性期病変があり、このうち慢性期病変T1-block holeをいう。

http://www.jikeirad.jp/syourei/kensyui/201112up/Re201112_1.pdf


https://radiopaedia.org/articles/t1-black-holes-1

Enhancing lesion:
新しい病変や増大しつつある病変(active lesion)は血液脳関門の破綻を反映して、Gdにて高率に造影される。均一な結節性、またはリング状に造営される。灰白質に接した部分が途切れることがある(open-ring sign)。脱髄疾患に割と特徴的。

http://www.jikeirad.jp/syourei/kensyui/201112up/Re201112_1.pdf

Callosal-septal interface lesion:MSに特徴的。
脳室壁と垂直方向に広がる脳梁内病変。
血管走行に沿い、炎症を反映すると考えられる。
感度、特異度ともに高い。
薄いスライスの矢状断FLAIR像がMSの早期診断に役立つ。

http://www.jikeirad.jp/syourei/kensyui/201112up/Re201112_1.pdf

Juxtacortical lesion:
皮質~皮質下のUfiber領域沿って広がる病変。約半数のMS患者で少なくとも1個見られる。Subcortical dementiaの一因と考えられている。
MSに比較的特異的な病変であることが認められ、新診断基準のMRI criteriaに採用された。

http://www.jikeirad.jp/syourei/kensyui/201112up/Re201112_1.pdf

Tumefactive MS lesion:
一見したところ脳腫瘍(glioblastoma)の様に見えるMS病変。Glioblastomaよりはmass effectに乏しい。リング状造影効果を呈しうるが、リングが途切れていることがある(open ring sign)のが特徴的。

http://www.radiologyassistant.nl/en/p4556dea65db62/multiple-sclerosis.html

視神経炎
STIR、FST2WIで高信号。活動期には造影効果がみられる。

NMO視神経脊髄炎の画像所見
視神経炎、3椎体以上にわたる脊髄病変、急性期には著明な腫脹、脳室、中脳水道、視床下部、視索、延髄背側、延髄中心部などにAQ4(アクアポリン4分子:星状グリアの細胞突起が血管内皮細胞や脳軟膜へ接する部分に多く存在し、免疫的攻撃の対象となっている)抗体が分布
男女比1:9と女性に多く、発症年齢が平均40歳とやや高い。
アクアポリン-4分子の発現が多い脊髄の中心部(灰白質)に病巣が出やすい。
脊髄、視神経の症状で初発が多く、再発回数が多い
頑固なしゃっくり、嘔吐、呼吸障害が多く、失明、両下肢に強い麻痺が出ることも多い

http://www.jikeirad.jp/syourei/kensyui/201112up/Re201112_1.pdf

Spinal cord lesion:
脊髄の炎症・脱髄疾患の中で最多。
2/3で頭蓋内病変を伴い1/3で脊髄のみに病変を認める。頸髄に多い(脊髄病変の2/3)。
感覚障害、筋力低下、膀胱直腸障害などが主な臨床症状となる。
30-40歳代の女性に多い。

MSによる脊髄症の画像所見
剖検では99%に脊髄病変を認める。頚髄側索が最好発部位。側索、後索に多い。2椎体以下。横断像の半分以下。急性期では軽度腫大、造影効果があることがある。
画像所見はT2WI高信号、T1WIで等〜低信号を呈する。
造影で活動性病変は造影効果を伴う。
長さは2椎体以下、断面積は脊髄の半分以下とされる。やや背側優位(後索44%、側索25%)に分布する。
脱髄性病変であるため、髄鞘が存在する白質優位(=辺縁優位)に存在するが、限局するものは少なく中心部の灰白質も含むことが多い。
半数以上で多発性の病変。
脊髄および視神経に病変の主座をおくタイプのMSが近年注目され、NMOとして区別される。
臨床経過と画像所見の関係:30%は症状の改善もしくは不変があるのに、画像所見は進行。症状が進行した患者の多くは、画像は不変。60%で画像の進行と症状の進行が一致。治療後1ヶ月以上経過しても腫大のある脊髄病変は他の疾患を考慮して検索。

治療
急性期にはステロイド以外に、血漿交換療法、大量免疫グロブリン療法などが行われる場合がある。
再発予防のためにインターフェロンβの自己注射、免疫抑制剤が使用されている。
生命予後は、呼吸器や尿路などの感染症に影響されることが多い。
急性期の治療
メチルプレドニンパルス療法:
ソルメドロール500~1000㎎点滴し、これを3~5日間、1~3クール行う。
短期ステロイド内服療法
1日30~60㎎から服用開始し、症状に合わせて漸減していく。
血漿交換療法:関与している抗体を取り除く治療

再発予防・進行抑制の治療
インターフェロン・β1b(ベタフェロン)
再発回数を減らす効果と、再発した際に症状を軽くする効果がある。
隔日または週一回皮下注射。発熱、抑うつ、注射部位の壊死などの副作用に注意。人により効果に差がある。
免疫抑制剤
エンドキサン(シクロフォスファミド)、イムラン(アザチオプリン)

フィンゴモリド塩酸塩(イムセラ・ジレニア):再発予防薬
2次リンパ組織からのリンパ球の移出を抑制し、末梢血中のリンパ球を減少させる。
神経細胞を攻撃する自己反応性リンパ球の中枢神経系への浸潤を阻止することで、神経の炎症を抑える作用により、多発性硬化症の再発が減り身体的障害の進行が抑えられる。
服用中は、感染症、黄斑浮腫、肝機能異常などへの注意が必要。
http://www.mscabin.org/fingolimod

http://medical.radionikkei.jp/suzuken/final/120301html/

ナタリズマブ(タイサブリ)
ヒトインテグリンα4サブユニットに特異的に結合しα4β1インテグリンとVCAM-1との相互作用を阻害することにより炎症組織への免疫細胞の動員を阻害して、多発性硬化症の病巣形成を阻止し、病巣で進行している炎症反応を抑制する。

http://www.ms-supportnavi.com/med/tys/products/09.html

グラチラマー酢酸塩(コパキソン注)
抗原提示細胞であるT細胞活性化に影響を与える。制御性T細胞やTh2細胞の分化を促進し、Th1、Th17細胞の分化を抑制する。
Th1細胞はマクロファージやミクログリアなどの抗原提示細胞上のMHCクラス2抗原に結合したペプチド抗原を認識し、活性化する。また抗原提示細胞が産生するIL-12はTh1細胞の分化誘導に必須なサイトカインである。IFNβはMHCクラス2抗原の発現およびIL-12の産生を抑制することによりTh1細胞の活性化及び増殖を抑制する。
Th1細胞が中枢神経系に侵入するためにはTh1細胞上の接着分子very late antigen-4(VLA-4)と血管内皮細胞上のリガンドvascular cell adhesion molecule-1(VCAM-1)との結合が重要であると考えられている。IFNβはVLA-4の発現レベルを低下させ、VCAM-1を分離遊出させてTh1細胞の血管内皮への接着を抑制する。また、Th1細胞によるBBB基底膜細胞外貴室分解酵素matrix metalloproteinase-9(MMP-9)の産生を抑制し、Th1細胞がBBBを通過するのを阻止する。
活性化Th1細胞はIFNγ、TNFなどのTh1サイトカインを産生する。IFNγはMHCくらす2抗原提示の増強やB細胞の分化・増殖などにかかわる因子であり、TNFは炎症増強因子である。IFNβはTh1サイトカイン産生を抑制し、その結果、細胞障害性マクロファージの活性化を抑制する。また、IFNβは炎症性サイトカインであるIL-10の産生を誘導する。
多発性硬化症の臨床経過に大きな影響を及ぼす可能性があるウイルス感染をINFβに対して抗ウイルス作用を発現する。

http://www.ms-supportnavi.com/med/avx/products/09.html

慶應義塾大学医学部神経内科 神経免疫グループ 多発性硬化症/視神経脊髄炎について

難病情報センター
日本多発性硬化症協会
日本神経学会 多発性硬化症治療ガイドライン2010
多発性硬化症サポートナビ

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