川村所長の勉強会参加記録

2014.10.20

食事と食後高血糖 太田明雄先生

2014年10月14日 横浜ベイシェラトン
演題「食事と食後高血糖 -DPP-4阻害薬・SGLT2阻害薬のポジショニング-」
演者:聖マリアンナ医科大学 代謝・内分泌内科 太田明雄先生
内容及び補足「
食事から摂取された糖質のうち肝臓で50%ほど取り込まれグリコーゲンとして100g ほど蓄積される。残りの多くは筋肉で取り込まれ、グリコーゲンとして400gが貯蔵される。
過剰に摂取された糖質は、中性脂肪に変換されて脂肪組織に蓄積される。
しかし、2型糖尿病患者においては、肝臓を通り過ぎた糖の筋肉への取り込み量が減少してしまうため、食後高血糖が生じる。

38人のインスリン非依存型糖尿病患者(標準体重)と年齢を合わせた33人の健常者にグルコースクランプ試験を実施した結果から解析。(DeFronzo RA:Diabetes 37(6):667-687, 1988)
この原因として、筋肉におけるインスリン抵抗性と、インスリン初期追加分泌の影響がある。

参:糖代謝に異常がないとされるボランティア健常成人26例の75gOGTT検査で5時間血糖値とインスリン値を追いかけた研究がある。平均値をプロットすると特に問題はない。

初期インスリン分泌能が低下していると、食後に高血糖となり、1時間値は、200mg/dl超えている。遅れて分泌されたインスリンにより180分後には血糖値は44mg/dlにまで低下していて血糖発作を起こしている。

インスリンの初期分泌能の低下がないが、長時間インスリンがたくさんでないと食後の血糖値を安定させることができない方もいて、この場合にはインスリン抵抗性が内在している可能性があります。240分立った後に55mg/dl血糖値は低下し、この時に低血糖症状を認めています。

通常は、食事負荷に際し初期インスリンの追加分泌がしっかりあれば、食後血糖値の上昇を抑えることができるため、インスリンの後記追加分泌は少なくて済む。

http://www5f.biglobe.ne.jp/~osame/shiminn-igaku-kouza/tounyobyo/3-tonyoubyo/3-tonyobyo-final.html
インスリンの分泌パターンも、インスリン抵抗性のみの耐糖能異常者では、初期の追加分泌能は低下しておらず、立ち上がりは健常人とはあまり変わらないが、血糖を下げることができないため、長時間にわたりインスリンが多く分泌されることになる。
血糖値のピークは正常耐糖能→耐糖能異常→糖尿病となるに従い食後の血糖値は上昇し、そのピーク時間が後方にずれていく。

日本人と西洋人を比較してみると、正常耐糖能症例でもインスリンの分泌量が少なく、耐糖能異常の症例では既に初期の追加分泌能が低下していることがわかる。

糖尿病発症時においては、膵臓のβ細胞の機能は半分程度に低下していると考えられている。

過食や運動不足、生活習慣の乱れ→高インスリン血症→
① 内臓脂肪の蓄積、脂肪肝、脂肪筋
② 膵臓の疲弊:‐%/年→インスリ初期追加分泌能の低下(食事由来の血糖上昇↑)、グルカゴン分泌抑制能の低下(肝臓における糖新生抑制↓)
→インスリン抵抗性:肝臓・筋・脂肪組織での糖の取り込みの低下、肝糖新生・糖放出の抑制低下、アディポサイトカインの分泌亢進が起こる。

血糖のコントロール状態の把握としてHBA1cが良く用いられているが、HBA1cが7.4%の上段の女性の血糖値はおおむね100~150㎎/dlの間で推移し、1~2日に一回200mg/dlを超えるスパイク上昇を認めているのに対し、HBA1cが7.3%の下段の男性は、50~250mg/dlの範囲で変動している。

つまりHBA1cのみで血糖値のコントロール状態、とりわけ食後高血糖の状態を把握することは困難である。
DEODE研究で示されたように、空腹時高血糖よりも食後2時間血糖の高値のほうが死亡リスクが上昇することがわかっている。

HBA1c以外にグリコアルブミン(GA)、1,5-anhydroglucitol(1,5-AG)がある。

GAはアルブミンに糖が結合した割合を見たもので、アルブミンの代謝の時間から2~3週間の血糖値の変動見ていることになる。
HBA1cとの相関関係は、GA/3=HBA1cと考えられているが、血糖変動が反映される時間差やHBA1cとアルブミンの代謝の違いから、この関係式からずれがある場合、以下のような状況が推察される。
GA/3>HBA1c:食後高血糖や最近の血糖コントロールの悪化、甲状腺機能低下症、肝硬変、低栄養
GA/3<HBA1c:アルブミンの半減期が短くなっている状況、甲状腺機能亢進症、ネフローゼ症候群、高インスリン血症を伴う肥満

1,5-AGは食品に含まれている物質で栄養素ではないので、そのままの状態で尿から排泄される。その際に腎尿細管で再吸収されるが、この再吸収の機構で糖と競合する。
したがって、血糖値が高いと尿から排泄される糖が多くなり、1,5-AGの再吸収量が減少し、血中の1,5-AG値は低下することになる。
血糖値と1,5-AGの相関関係を見てみると下図のようになる。

1,5-AG値を評価する際には、1,5-AG値が低下する腎性糖尿、妊娠後期、腎不全、胃切除患者(食後に高血糖となる)、SGLT2投与例では、測定値を評価する際に、注意が必要である。
http://www.dm-net.co.jp/ga-file/kensa/ga01.php

こういった特殊な状況を排除すると、HBA1cと1,5-AGの測定結果から、血糖コントロールの状況をより細かく判定することができうる。

この結果を加味すると、1,5-AG値とHBA1c値の組み合わせで判定することにより、治療のターゲットが決まり、より効果的な薬剤の選定がやりやすくなる。

いろいろな栄養素を食べた際の血糖値の食事開始からの時間変化を見てみると、
単糖類の血糖上昇のピークが30分後ぐらいで、一番急峻で血糖値の上昇も高値となる。
炭水化物接種の場合には、30分~2時間までに上昇し摂取カロリーの90~100%が糖質として摂取される。
蛋白質の場合には、摂取カロリーの約半分程度が糖質となり、食後3~5時間後がピークとなる。
脂質の場合には、10%程度が糖質となり、5~8時間後にピークとなる。

こういった変化を理解していないと、食事をして低血糖を起こすことにもなりかねない。『焼き肉低血糖』といわれる病態がその一つである。特にインスリン依存性糖尿病患者においては、食事のカロリー配分からインスリンの投与量が決まっていることが多く、蛋白質や野菜ばかりを最初に食べることになる焼肉の場合、食事開始3~5時間たってから血糖値の上昇が起こるため、食前に打ったインスリンが効き過ぎて低血糖になる危険がある。
こういった人には、カーボカウントの食事指導が有効である。
http://www.med.osaka-cu.ac.jp/pediat/pdf/reserch13.pdf

食後高血糖を改善するためには、以下のことを患者さんに確認することが有用と考えられる。
① 一週間の献立の確認
② 食事内容:特にラーメン・ライスといった炭水化物同士の食事を避ける
③ 食事時間:朝抜きや、遅い夕食、追加の夜食が悪化要因
④ 間食:単純糖質の過剰摂取を避ける
⑤ 野菜摂取の有無
これらの確認により、自分自身の食事内容の認識ができ、過食の抑制ができ、体重減少につながる。
特に夜遅い食事は、インスリン分泌能が低下していることに加え、カテコラミンやコルチゾールというインスリン抵抗性を惹起するホルモンの分泌が増加しているので、避けることが望ましい。
実際にある糖尿病患者で実際に測定してみたが、21時の夕食で、ご飯150g、野菜スープ、ゴボウ、水餃子で合計560kcalの食事をした翌朝の血糖値が119mg/dlであったのに、別の日の21時に寿司12貫600kcalを接種した際の翌朝の血糖値は190mg/dlと大きく異なる。

朝食後に比べ昼食後は血糖値が上昇しにくく、Second meal effectと呼ばれている。
肥満のある糖尿病患者の食事負荷の検討で、1)朝食ありと2)朝食なし、で昼食後の血糖値の変化を比較すると朝食なしの群で血糖値の上昇が著明であることが示されており、遊離脂肪酸(FFA)が高値であるとインスリンの感受性が低下することもわかっている。
朝食を摂ると、FFAは低下するので、インスリンの感受性が良く、食後の血糖値が上がりにくい。
朝食なしの群でも、アルギニンを静注してFFAを抑えておくと、昼食後の血糖値の上昇が抑えられることが示された。

http://care.diabetesjournals.org/content/32/7/1199.full.pdf+html

食後高血糖を是正するための食品の指標としてGlycemic Index:GI値というものがある。
食品の炭水化物50gの摂取の際にブドウ糖50g摂取に対する血糖変化の比を見るものである。
GI値=食品摂取時の血糖値上昇曲線の面積/ブドウ糖摂取時の血糖値上昇曲線面積×100
一般的には60以下の食品が薦められる。
低GI値食品:大豆16、インゲン24、牛乳39、チョコ40、スパゲッティ49、オレンジ飲料50、バナナ51、アイスクリーム51、トウモロコシ52、うどん55、ポテトチップ56
高GI値食品:せんべい87、コーンフレーク81、粥78、スイカ76、パン75、米飯73、ゆでじゃが73
しかし、ここで注意しておかなければいけないことは、GI値は一つの目安でしかなく、インスリンの分泌能やインスリンの抵抗性の状態により、血糖値の変化が異なってくることである。

食事の順番も大事で、野菜を先に食べることにより血糖値の上昇を抑えることもできる。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000015823.pdf

米国で実施された長期にわたる女性85168名、男性44548名で、食事の内容と死亡率の関係を検討したものが発表された。Ann Intern Med 2010;153:289-298。
この結果を見ると、高炭水化物食のほうが低炭水化物食よりも死亡率が低いことが示されている。
低炭水化物食を動物性の脂肪や蛋白質が多い群と、植物性脂肪や蛋白質が多い群に分けて評価してみると、大きな違いが出た。低炭水化物食を実践する際には、動物性脂肪や蛋白質が多いとよくなく、一緒に摂る食事の種類により、寿命への効果が異なる可能性が示唆される結果となっている。

71346人の糖尿病女性患者に対してフルーツジュースの摂取による影響を見たものがある。
摂取する量が多くなるに従い死亡リスクが増加していることがわかる。

http://care.diabetesjournals.org/content/31/7/1311.full.pdf+html

食後高血糖の状態に対しては、αGI薬やグリニド薬が、推奨される。
DPP-Ⅳ阻害薬ではインスリンの分泌量の変化なく食後血糖値の上昇を抑えることが確認されており、グルカゴン分泌抑制の効果と考えられている。
実際自分たちのデータでは、DPP-Ⅳ阻害薬投与で、空腹時血糖値の変化なく、GAが19.1%から17.0%に1,5-AGが9.8μg/mlから12.9μg/mlに変化しており、この状態を裏付けている。
SGLT2阻害薬単回投与で血糖値の低下は尿糖排泄に依存していると考えられている。しかし、食後血糖値の変化に対して尿糖排泄量には限界がある。
SGLT2阻害薬を単回投与したものと慢性期の血糖値やインスリン値、インスリンとグルカゴンの比を見てみるとInsulin/Glucagon ratioの増加がみらており、慢性的な尿糖排泄により、肝臓においての糖新生が増加している可能性が示唆されている。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3904627/pdf/JCI72227.pdf

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