川村所長の勉強会参加記録

2014.02.24

急性心筋梗塞における心筋保護 小山卓史先生

2014年2月21日 ハイアット リージェンシー
演題「急性心筋梗塞における心筋保護」
演者:国家公務員共済組合連合会立川病院 循環器センター部長 小山卓史先生
内容と補足「心筋梗塞により心筋は70%壊死に陥り、カテーテルにより、血液を再灌流すると30%の壊死にまで改善し、その際心筋細胞の保護療法を併用すると5%程度に改善できるとNEJMのMyocardial Reperfusion InjuryでDerek M. Yellonは述べている。

Patrick StaatはPostconditioning the Human Heartで急性心筋梗塞患者に対してPCIを行う際に、1分の再灌流と、1分の虚血を繰り返すことにより、心筋逸脱酵素であるCKの放出が36%減少し、心筋のダメージを減らすことができると報告したが、その後の追試では良い結果が得られなかった。

追試がうまくいかなかった原因はいろいろと考えられる。
再灌流障害の原因としては、①Ca2+過負荷、②活性酸素、③急性炎症、④心筋硬縮、⑤アポトーシス、⑥mPTP(mitochondrial permeability transition pore)があげられている。

病理標本上
で心筋梗塞の確証である『凝固壊死』は、心筋梗塞発症数時間を経て初めて出現するが、突然死が本題となる法医学実務上では認めることはまれである。一方過収縮による心筋収縮帯(contraction band necrosis)は多くの突然死事例に認め、蘇生処置によっても生じうる。
contraction band necrosisとは下図の心筋の中に濃く赤色に染まっているバンド状のものである。この変化は心筋梗塞の中心部には見られず、壊死の周囲に求められ、虚血時間が長い場合にはほとんど認められない。

疑似虚血及び再灌流下の[Ca2+] iと[Lactate]の関係を見ていくと、低酸素下でLactateとCa2+の上昇が同時に起こっている環境下において心筋収縮は起こらず、疑似再灌流下のLactateの減少下においては心筋収縮が起こることを報告した。
この追試が失敗した原因を、虚血後の再灌流時間が長すぎるのが問題だと考えた。心筋虚血下のCa2+増加による強い心筋収縮作用を、上昇しているLactateが抑えていて、Lactateの早すぎる洗い出しが、再灌流障害を起こしていると考え、このLactateの洗い出しをゆっくり行うという方法として、上図での1分間隔であった再灌流時間を、10秒、20秒、30秒、40秒、50秒、60秒、60秒と段階的に伸ばしていく方法を考えた。
通常のPCI(control)と上記治療方法で行ったPCI(postcond)を比較してみた。

Peak CK値を合わせたため、Postcond群では近位部閉塞患者数が多い状況になった。ここで明らかに異なるのは、peak CKまでの時間と炎症マーカーであるCRP値である。
CKの上昇時間が長いのが、再灌流によりCKが洗い流されているのか、再灌流により更なる心筋障害が出現したためにCKがより出てきたのかを考えてみた。
入院からpeak CKまでの時間と、発症後から再灌流するまでの冠動脈が詰まっていた時間をプロットしてみた。下図のように二相性の変化をしていた。
この縦軸を、発症からpeak CKまでの時間に変更してみると、発症7時間までは急峻はCKの上昇があり、7時間以降はほぼ一定のCK値で変化していると解釈できる図になる。
つまり発症7時間までの早い時間の心筋が完全に壊死していない時間での再灌流は、心筋に障害を与え、CKの上昇が生じ、7時間以降の心筋返しに陥ってしまった後は、再灌流による更なる心筋への障害が生じなかったと考えることができる。

早い再灌流症例においては、急峻なCPKの上昇がある。遅い再灌流症例においてはなだらかな形がみられる。CK逸脱上昇の原因を、虚血によるCKの上昇と、再灌流障害によるCKの上昇の総和としてとらえてみると、この機序がわかりやすくなる。

実際この方法で、PCI療法を行うと、心筋梗塞後のスタンニングなどの心収縮力の低下がほとんど見られず、通常のPCI療法成功後によくみられる冠血流のno reflowやslow flowといった現象も見られず、心筋梗塞長期経過後におこなった冠動脈造影の所見よりも冠動脈の血流が良く、静脈相もしっかり写っており、長期経過後には見られない心筋への造影剤の移行も認められる。おそらく、心筋虚血時の放出された血管拡張因子の作用が、心筋や血管内皮に再灌流時の障害が生じないため、有効に作用しているためと考えられる。

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