川村所長の勉強会参加記録
2014.04.19
糖尿病の診断と予防:疫学研究から 伊藤千賀子先生
2014年4月6日 グランドプリンスホテル新高輪
演題「糖尿病の診断と予防 ~疫学研究から~」
演者:グランドタワーメディカルコート理事長 伊藤千賀子先生
内容及び補足「世界の2013年の糖尿病患者数は以下の図のように日本を含む西太平洋地域が1億3800万人と最大である。
国別では中国が9840万人に上る最大の糖尿国となっている。
講演では2013年と2035年の比較図が出されたが入手できなかったため2011年と2030年の比較を次に示す。国際糖尿病連合の予測では世界の糖尿病患者数は2011年の3億6620万人から2030年には5億5180万人に急増するという。増加率だけでみるとアフリカが100%以上の増加で最も伸び率が多いが患者数では西太平洋地域の1億8790万人が最多である。この地域の2011年の全死因の15%が糖尿病によるもので、60歳以下の生産年齢人口の脂肪の半分近くが糖尿病と関連があるとみられており、もっと問題なのは、自分が糖尿病であることを知らない人の数が7350万人に上ると推計されていることである。
日本における糖尿病が強く疑われる人、可能性を否定できない人の推移を下図に示す。糖尿病が強く疑われる人が年々増加していることは非常に問題であるが、2007年に比較して2012年に糖尿病の可能性を否定できない予備軍が減ったことは、メタボ健診などの取り組みの効果が出てきている可能性があり少し明るい見通しでもある。
2012年のデータを性別年齢別に見てみると、60歳代から急激に増加してきている。
空腹時血糖値(FPG)が80~125㎎/dlであった健診受診者34439例の糖負荷検査(OGTT)実施者のうちFPG別に糖尿病発症率を見たのが下の図である。
FPGが100-109mg/dlの糖尿病発症率は41.1/100人年で、90㎎/dl未満の約2倍高くなっている。
OGTT境界型をIFG(FPGが110~125で2時間値が140mg/dl未満)、IGTをOGTT2時間値<170(IGT-1)と≧170mg/dl(IGT-2)に分けて、初診時から1年ごとに3年までの糖尿病発症率を比較したものが下の図である。
全体の糖尿病発症率は22/1000人年、IGFからは52、IGT-1からは56、IGT-2からは112であり、IGT-2で2倍に増加していることがわかる。1年ごとの発症率も高く、IGT-2は短期間に糖尿病を発症する症例が多く含まれていると考えらえ、積極的な生活指導を行う必要がある集団といえる。
空腹時血糖値別とOGTT2時間値別での網膜症の発症頻度を見てみると、OGTT2時間値が200未満では、空腹時血糖値の上昇での網膜症発症頻度はそれほど増加しないが、OGTT2時間値が200以上になると空腹時血糖値が上昇するにつれ、網膜症の発生率が上昇していた。
動脈硬化との関連を負荷後2時間値と大動脈脈波速度(PWV)を用いて比較したのが図3である。健常者のPWVとの差をΔPWVとして比較した。OGTT2時間値が<140mg/dlでは、ほとんど差がみられないが、≧140mg/dlから上昇がみられる。
非糖尿病群での虚血性心疾患死亡率をFPGで80-89、90-99、100-109、110-125mg/dlの4群間に区分し、OGTT2時間値が140未満の群と140以上の群で分けて検討してみると、OGTT2時間値が140mg/dl以上の群で優位に虚血性心疾患死亡率が上昇している。
初診時のOGTT2時間値ベルに見た虚血性心疾患死亡率を下に図示する。
男女ともに2時間値の上昇に伴って増加するが、なかでも男性でOGTT2時間値が170~199mg/dlで急激に増加している。
OGTT経過観察中に糖尿病を発症した2277例と対照群として糖尿病を発症しなかった3223例の経過を比較したものが下図である。
糖尿病発症群でみると、FPG(空腹時血糖値)は発症1年前まで110mg/dl未満であったが、OGTT2時間値は約10年前から140mg/dl以上に上昇し、その後緩やかに上昇が持続したのちに糖尿病になっている。この間に介入すれば、糖尿病発症を予防できる可能性がある。
OGTT経年観察を行った8735例の糖尿病発症の寄与リスク比較を下表に示す。
初診時正常型でOGTT1時間値が180mg/dl未満であった群の10年後の糖尿病累積発症率は10.9%であるのに対し、OGTT1時間値が180mg/dl以上であった群は31.7%、IGTであった群は50.1%であった。
この成績からOGTT1時間値が180mg/dl以上かまたはOGTT2時間値が140mg/dl以上であったものを高血糖とした。Model1は血糖値を加味し、Model 2はこれを除いて検討した。
糖尿病発症の寄与リスクは高血糖が66.3%と極めて高く、次いで肥満、年齢、高血圧、高TG血症の順であり、Model2でも同様であった。
運動に50kcal/dayの追加でOGTT2時間値が30mg/dlほど低下し糖尿病発症率が60%低下することが示されており、生活指導をより積極的に行うことが重要である。