その他
2014.06.17
未病・エニグマ症例検討会
第22回未病・エニグマ症例検討会
平成26年6月13日 サンケイプラザ
症例1「筋力トレーニング中に筋肉の付きづらさを自覚した39歳男」
横浜市立大学附属病院 研修医 新井正法先生
症例は39歳男性。既往歴として不安神経症以外に特記事項はなかった。
自覚症状として、プロテインを飲みながら精力的に筋力トレーニングを行っているが、同じ程度の負荷をかけているほかの人と比べて、ここ1年ほど腓腹筋の成長が遅いと感じていた。また、立位を取っているときの疲れやすさを自覚していた。
毎年受けている健診で初めて経度肝機能障害を指摘されたため、近位を受診。
腹部エコーで脂肪肝を認めたため、翌月腹部造影CTを施行したところ臓器以上を認めたため、精査加療目的に当科紹介受診し、入院となった。
入院時身体所見は身長161.4cm、体重58.8㎏、BMI 22.5、買たるサイン、身体所見に異常所見はなかった。
決算、生化学に異常を認めなかった。
Subclincal Cushing Syndrome (SCS)は副腎腫瘍からのコルチゾールの自立性分泌を認めるが、満月様顔貌、中心性肥満などの典型的なCushing徴候を欠く疾患で、我が国の全国調査では副腎偶発腫瘍の10.5%にコルチゾール産生を認めている。SCSからCushing 症候群への移行はまれであり、表現型はメタボリック症候群であり、2型糖尿病や高血圧、骨粗鬆症として治療されている可能性もある。診断に関しては以下のようになされている。
http://www.ishiyaku.co.jp/magazines/ayumi/AyumiArticleDetail.aspx?BC=923209&AC=9010
http://square.umin.ac.jp/kasuitai/doctor/guidance/sub-clinical-cushing.pdf
SCSとMild Cuchigを比較したものがある。
多くは副腎の腺腫であり、本症例も腹部CT検査で両側に多発結節を認めていた。
治療においてのストラテジーを示す。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2265.2011.04253.x/full
症例2「約40年にわたる多発関節痛と腹痛を繰り返す69歳女性」
JCHO埼玉メディカルセンター 内科 西村幸治先生
症例は69歳女性。20歳代から多発関節痛の増悪寛解を繰り返していました。抗核抗体80倍、CRP1-2㎎/dlで推移しており、30歳代に大学病院で精査したが原因不明だったようです。以降、疼痛時にはNSAID屯用で生活していました。
2009年、健康診断で便潜血陽性を指摘され、4月26日当院で下部消化管内視鏡検を実施されました。その結果、盲腸から盲結腸の粘膜にびらんが散在しており、生検では血管周囲に無構造物が沈着している所見が得られました。ところが内視鏡検査後に腹痛が出現。徐々に増悪し、6月4日に入院となりました。絶食安静に手腹痛は改善しました。腹部レントゲンおよびCT検査を撮影したところ、ある特徴的な所見が得られました。そこでよくよく問診したところ、あるものを長年にわたって摂取していたことがわかりました。
特発性腸間膜静脈硬化症は比較的まれな疾患であるが、平均年齢60歳代でやや女性に多く、日本を中心としたアジア人のみが罹患している。病変は回盲部から横行結腸までが最も多い。腹部単純X線写真で右側腹部に線状石灰化像、CT検査にて長官へ来および腸間膜に一致して石灰化像を認めるのが典型的である。
最近では吉永らが多くの症例をまとめているが、これまでの報告を合わせると139例になる。
平均年齢は61.8歳、2:3でやや女性に多く、回盲部から横行結腸までの症例が多いが、S状結腸や直腸まで病変が広がっている症例もある。
症状は腹痛が多く、下痢、嘔吐、イレウス、下血、血便などがある。
病態としては、静脈の硬化に伴う血管拡張が出現し、うっ血が進み青銅色調を呈し、その後にびらんや潰瘍が出現すると考察されている。
鑑別をすべき疾患としてはMyoinitimal Hyperplasia of Mesenteric Veins(MIHMV)、Enterocolic Lymphocytic Phlebitis(ELP)、アミロイドーシスの三疾患があげられる。
*MIHMV:腸間膜から腸壁を貫く静脈の内膜飛行をきたすことにより区域性の虚血性病変を引き起こすまれな疾患で、①若年男性に発症する傾向、②全例がS状結腸から直腸に病変があり、③内視鏡的にはinflammatory bowel disease(IBM)の所見を呈するが生検組織はIBMのしょけんとはことなり、腸壁の虚血性壊死、腸間膜から壁内を貫く静脈の内膜飛行による内腔閉塞をしめす。
*ELP:静脈炎に気胃炎する虚血性腸病変で、腸壁内の細・小静脈から行間膜の大静脈まですべての大きさの静脈における静脈炎を認めるが、動脈は侵されない。
*腸管アミロイドーシス:原発性アミロイドーシスや多発性骨髄腫に見られるAL型と慢性関節リウマチなどに続発するAA型アミロイドーシスが主なものである。AAがたアミロイドの小血管周囲への沈着像はIMPの血管変化に類似しているが、IMPで特徴的な間質への膠原線維の沈着はアミロイドーシスでは認めない。アミロイドーシスの確定診断には、Congo RedあるいはDylon染色および免疫染色をする必要があるが、IMPにおける血管および間質への膠原線維の沈着を確認するために、同時にマッソン・トリクローム染色なども併用することが推奨されている。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/54/3/54_3_415/_pdf
画像所見:腹部単純X線写真では腹部に点状〜線状の石灰化が多数みられる。USでは上行〜横行結腸の壁肥厚および壁内に高エコーが多数みられる。CTでは右半結腸の壁肥厚と壁内のびまん性に石灰化だけではなく、腸間膜静脈にも石灰化がみられる。注腸X線検査では上行〜横行結腸の伸展性は不良で、粘膜も粗造。拇指圧痕像もみられる。
http://www.teramoto.or.jp/teramoto_hp/kousin/sinryou/gazoushindan/case/case186/index.html
アジア人にしか見られないといわれている原因の一つとして、漢方薬の成分の山梔子(サンシシ)が腸内細菌により代謝され、ゲニポシドとなり、5年以上の長期服薬しているうちに腸管静脈壁の石灰化を引き起こし、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満感、嘔気・嘔吐などの症状が繰り返し現れるようになると考えられている。
山梔子が含まれている漢方で腸間膜静脈硬化症の報告がある主なものを以下に記載する。
No.15 黄連解毒湯
No.24 加味逍遥散
No.58 清上防風湯
No.62 防風通聖散
No.104 辛夷清肺湯
No.135 茵蔯蒿湯
http://www.hosp.yamanashi.ac.jp/yakuzaibu/di_box/files/dibox0709.pdf
症例3「長期間にわたり息苦しさが持続する文字の読み書きの不自由な77歳女性」
江東病院 内科 阿部祐美先生 小幡賢一先生
症例は77歳女性。主訴は呼吸困難で、喫煙歴なし。母親は患者が生まれる前から喘息といわれ常に咳・痰が出現していた。患者も、乳児期から頻回に咳・喘鳴を認めていたが継続的な治療はされていなかった。幼児期以降も呼吸困難のため外で遊ぶことはなく学校も欠席がちであった。二十歳過ぎたころから呼吸困難が消失しないまでも徐々に軽減し、長時間の外出が可能となった。上京して仕事を探したが、文字の読み書きができないため、鉄工所で溶接工として働きながら結婚・出産(一回)、定年まで勤め上げた。その間、じん肺が疑われ、経過観察されていた。退職後10年程経過してから、再び労作時の呼吸困難が増悪。当院初診一年前に、心臓超音波で大動脈弁狭窄症を指摘されたこともあり、近位で在宅酸素療法(酸素2L)を導入されていた。今回咳・痰が増悪し、胸部Xpで両側リン上映を認めたため精査加療目的で入院となった。
Dyslexia(ディスレクシア):知的遅れはないが、読んだり書いたりすることが苦手な人たちのことを言い、「文字とその文字が表わす音が一致・対応し難く、勝手読みや飛ばし読みが多い」、「音読作業と意味理解作業が同時にできないために読み書きに時間がかかる」、「読みができないと文字を書くことはより困難になる」などの特徴がある。英語圏では10~20%の頻度でみられるとされているが、日本の割合は4.5%程度と考えられている。
日本障碍者リハビリテーション協会ではDAISY(Digital Accessible Information SYstem)やそれを使った教材の普及に努めている。
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/glossary/Dyslexia.html
http://ondyslexia.blogspot.jp/2013/06/davis.html
Williams Campbell症候群:気管支軟骨形成不全による先天性の気管支拡張症で、気管支軟骨の欠損のため広汎な気管支拡張症を生じ、通常生後1年以内に呼吸器症状により発見される。成人に達する場合もあり、その場合は身体の発育が阻害されることが多い。家族発生例の報告もある。
気管軟骨のうち第4~11分岐までは軟骨が非全周性に存在している。
この軟骨の形成不全のため、吸気には気管支が開いているが、呼気に気管支が閉塞してしまう。
呼気に小葉気管支が閉塞してしまうために、細気管支より末梢にAir trappingが生じてしまうことになる。したがって、レントゲンやCT上で拡張している部分は細気管支レベルである。確定診断は組織像で気管軟骨の形成不全・欠損を証明する必要があるが、臨床上困難であるので、CT検査で吸気と呼気での比較で、小葉気管支の閉塞機転を証明する方法がとられている。
(下の写真は本症例のモノではありません)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3265990/#!po=27.7778
症例4「両肺浸潤影の経過観察中に目のカスミが出現した48歳女性」
神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器内科 松尾規和先生
幼少期から汗の量が少ないと感じていた。2009年頃に眼のカスミが出現し眼科受診するも、特に異常所見の指摘なく、経過観察で改善した。2012年3月、健診で両肺に浸潤影を指摘され当科受診した。
気管支鏡下の肺生検では、類上皮細胞肉芽腫と多核巨細胞が散見されたが、血管炎専門病理医に再建してもらったところ、肉芽腫性血管炎Granulomatosis with polyangitis(GPA)の所見とされた。
心電図ではV3-6にST低下、陰性T波を認め、心エコーで肥大型心筋症と診断された。
2013年右同側半盲出現したが、頭部MRI上は脳梗塞は否定的であった。
GPAは以前Wegener肉芽腫症と呼ばれていた、①鼻、耳、眼、上気道(E)および肺(L)の壊死性肉芽腫性血管炎、②腎(K)の巣状分節性壊死性糸球体腎炎、③全身の中・小動脈の壊死性血管炎の3つで特徴づけられる全身性血管炎症候群で発症機序にC-ANCA(PR3-ANCA)が効率に関与する疾患である。2010年医療受給者交付条件からみたGPA患者数は1671人でこの15年間で2..5倍に増加している。30~50歳に後発し男女比はほぼ同数である。E症状は約90%に、L症状は約80%、K症状は全経過を通じて70~80%に見られる。
主要組織所見は、①上気道、肺、腎の巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性血管炎、②免疫グロブリン沈着を伴わない壊死性半月体形成性糸球体腎炎、③小・細動脈の壊死性肉芽腫性血管炎である。
http://www.anca-aav.com/contents/hp0020/index.php?No=12&CNo=20
本症例の肺病変はこの疾患と考えられるが、眼のカスミや汗が少ないこと、肥大型心筋症の合併はこの病態のみでは説明できない。
Fabry病の臨床症状の経年変化を示す。古典型のFabry病などでは多く、亜型においても、本症例のように発汗の減少を呈する症例もいる。
Fabry病は、X連鎖性劣性遺伝するαガラクトシダーゼ活性の低下または欠損によりグロボロリアオシルセラミド(GL-3)が蓄積されることにより発症するため、以前男性のみに見られると考えられていた。特に近年女性の場合ふたつあるX遺伝子の発現の仕方が組織により異なることがわかってきた。ヘテロ接合体である女性患者も年齢が進むにつれ、組織にGL-3が蓄積して症状が出現してくると考えられる。
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000647.html
診断はGLA活性の低下であるが、女性でみられるヘテロ接合体患者半数以上はカットオフ値を超える活性があるため、カットオフ値以上の活性があっても否定できない。
培養繊維芽細胞の免疫細胞科学的解析を行う必要がある。
http://www.my-pharm.ac.jp/genetics/activities.html