呼吸器系
2014.07.14
慢性呼吸器疾患の漢方治療 加藤士郎 先生
2014年7月12日 崎陽軒本店
演題「慢性呼吸器疾患の漢方治療 -気管支喘息・COPDを中心に-」
演者:筑波大学附属病院臨床教授 加藤士郎 先生
内容及び補足「
慢性呼吸器疾患患者で漢方が有効であると考えられる病態として以下の5病態ある。
まず、気管支喘息における漢方薬の使い方を見てみよう。
増悪期と慢性期とを分けて考え、咳が激しいものと、鼻水を伴っているもの、咽頭や皮膚の乾燥感があるものに分けて考えるとよい。
咳が激しい時には、麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)がよい。
http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se52/se5200134.html
石膏が10g入っていて、これに清涼解熱効果がある。口渇、のどの痛み、炎症性のむくみ・痒み、歯痛などの消炎効果もある。
http://www.hal.msn.to/kankaisetu/chuyaku071.html
また、痲黄が4g入っていて、エフェドリンを含んでいるので気管支拡張効果をもたらす。
http://www.hal.msn.to/kankaisetu/chuyaku113.html
くしゃみや鼻水を伴う場合には小青龍湯がよい。
http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se52/se5200075.html
咽頭や皮膚の乾燥感がある場合には、麦門冬湯がよい。
http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se52/se5200119.html
喉を潤して咳を鎮める働きがあるので、痰の少ない空咳、痰が切れにくい咳、喉や口が乾燥してイガイガ感があるときの咳や、咳き込んで顔が赤くなる場合などによく効く。
この中にバクモンドウが10g入っているが、この成分が、肺を潤して熱を取り、咳を止め、胃陰を補って口渇を止め、心熱を除いて、不安、不眠を解消し、腸を潤して便通を良くするといわれている。
http://www.hal.msn.to/kankaisetu/chuyaku100.html
咳が遷延する症例にも麦門冬湯は有効であり、サブスタンスPなどの神経ペプチドを分解するニュートラルエンドペプチダーゼ(NEP)の働きを高めるオフィオポゴニンを麦門冬湯が含んでいることがその機序として想定されている。
http://homepage2.nifty.com/smark/all%20kagaku.htm
渡辺先生が実験したカプサイシン感受性試験において、麦門冬湯がNEPの作用を増強することによりカプサイシン咳閾値を上昇させることが確認されている。
喘息発作の増悪は、時として呼吸器系以外の体の状態の変化で悪化してくるので、それらの病態を漢方薬でコントロールすることにより、呼吸器系の機能が改善する。
特にダイエットをして体重が減少した際に、筋肉量の低下からくる体の冷えがもとで喘息発作が悪化する症例が最近多くみられている。
例えば4㎏ぐらいの減量を行った43歳161㎝59㎏の女性が、喘息発作を悪化させ、依頼があった。桂枝茯苓丸と芍薬甘草湯との併用で徐々に改善し、ステロイドの減量も可能となった。
http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se52/se5200038.html
http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se52/se5200067.html
体重減少=筋肉の減少が熱産生量減少をきたし、冷えをもたらしてそのため発作が悪化したため、桂皮で体を温めることにより改善したと考えられる。
http://www.hal.msn.to/kankaisetu/chuyaku025.html
28歳女性も52㎏から4kgのダイエットをしたことにより生理不順とぜんそく発作が悪化した。この症例においては八味地黄丸が著効した。
http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se52/se5200121.html
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の漢方治療の役割は大きく分けて以下の5つになる。
具体的な漢方薬としては、巽先生は以下のように推奨されている。
見方を変えると
1) 初期から用いる方剤
清肺湯(90)、麦門冬湯(29)、滋陰降火湯(93)など
2)中期から進行期に用いる方剤
補脾剤:四君子湯(75)、六君子湯(43)
補腎剤:六味丸(87)、八味丸(7)
参耆剤:補中益気湯(41)、十全大補湯(48)、人参養栄湯(108)
COPDに対する漢方薬の効果としては
1) 気道に対する抗炎症効果
咳、痰、喘鳴、夜間睡眠に対する清肺湯の改善効果(漢方医学1986.10.p21)
喀痰の産生する活性酸素と清肺湯の影響について(漢方と免疫・アレルギー1997.11.p6)
2) 気道に対する易感染の抑制効果
が挙げられる。
抗炎症効果が期待されている清肺湯の証は以下のようなものであり、
COPD患者においては、初期から中期にかけて適応となる人が多い。
COPDの易感染性の予防効果については以下のような知見が論文となっている。
1) のスタディーを見てみると
NK細胞の活性は補中益気湯も小柴胡湯投与群も上昇し、補中益気湯により体重が4㎏以上の増加が認められた。
COPD30例における二次感染の頻度は両者群とも有意な抑制効果を認めた。
補材として使われるものとしては、補中益気湯のほかに十全大補湯、人参養栄湯がある。
それぞれの成分は以下のように少しずつ異なっている。
この三剤を使ってCOPDの人たちの症状の変化を観察した。症例の内訳は以下のものであった。
経過中に漢方を併用したものがあり、以下の通りであった。
VASスコアは一番ひどいものが10で一番良い状態が0で表現されている。
食欲不振、息切れともに、三剤投与で著明に改善した。
咳と痰、不眠は、人参養栄湯がより改善した。
皮膚の乾燥感は、補中益気湯では改善効果がみられなかった。
抗腫瘍効果をしめすNK細胞の変化は、三剤ともに増加した・
慢性閉塞性肺疾患の漢方療法を一覧表にすると以下のようになる。
次いで副鼻腔気管支症候群の漢方治療について少し述べる。
び漫性汎細気管支炎1987年に工藤らにより少量長期マクロライド投与の治療法が確立されてから予後が劇的に改善した。
日本胸疾会誌25:632,1987
しかし、マクロライドで改善しない症例が少なからず存在しており、そういった症例に対して葛根湯加川芎辛夷の併用が有効なことがある。
http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se52/se5200015.html
症例数は少ないが、葛根湯加川芎辛夷の併用で、呼吸困難の症状の改善や喀痰量の減少がみられた。
慢性気管支炎、気管支拡張症の漢方治療をまとめると以下の表のようになる。