川村所長の勉強会参加記録

2016.11.07

食事療法から始まる脂質異常症治療 横手幸太郎先生

2016年10月22日 
演題「食事療法から始まる患者さんのための脂質異常症治療」
演者: 千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学講座教授 横手幸太郎先生
場所:
内容及び補足「
2013年米国心臓病学会/協会(ACC/AHA)は『心血管疾患リスク低減のための生活習慣マネジメント』というガイドラインで「コレステロール摂取量を減らして血中コレステロールが低下するとの根拠となるデータがないことから、コレステロール摂取制限を設けない」とし、2015年には米国農務省がエビデンス不足を根拠に、それまで推奨していたコレステロール摂取制限を撤回した。
日本においても、厚生労働省が2015年に『日本人の食事摂取基準』において「摂取量は低めに抑えることが好ましいものと考えられるものの、目標量を算定するのに十分な科学的根拠が得られなかったため、目標量の算定は控えた」と記載されている。
疫学データからは、血清総コレステロール値の上昇、HDLコレステロール値の低下、中性脂肪の上昇に伴い、冠動脈疾患の相対危険度は上昇することが多数示されている。

コレステロールは体内で合成され、50㎏の体重の人で一日600~650㎎が主に肝臓で合成されており(日本人の食事摂取基準2015年版:厚生労働省)、食事からは30~49歳の日本人男性で平均297㎎、女性で平均263㎎摂取され、その40~60%が吸収されています(平成22年、23年国民健康・栄養調査:厚生労働省)。これを計算してみると食事から摂取されるコレステロールは20~30%、体内で号背されるコレステロールは70~80%ということになる。
食事由来のコレステロールのかなりの部分が卵としてとられていると考えられているが、実際、鶏卵の摂取量により冠動脈疾患の頻度はどうなっているのだろうか?
9つのreportと6つの論文をまとめた報告によると卵の摂取量と冠動脈疾患の間に相関関係はないといえる。

しかし、糖尿病患者に限って相対危険度を見てみると1.54倍と有意な差を認めることになる。

http://www.bmj.com/content/346/bmj.e8539
日本人のデータでも同じ傾向のものがあるが、そもそも心血管疾患になる数が少ないので、評価困難である。
21327名の男性医師を対象に20年間卵の摂取量と心筋梗塞1550名、脳卒中1342名、総死亡5169名の前向き研究の結果がAm J Clin Nutr. 2008 Apr;87(4):964-9.に発表された。
心筋梗塞と卵の摂取量との関連は下表のようになり、相関関係は見られなかった。

脳卒中と卵の摂取量との関連は下表のようになり、相関関係は見られなかった。

しかし、総死亡との間においては、卵の摂取量の増加に伴い死亡率は上昇した。

糖尿病があるか無いかで検討しなおしてみると、週に2~4個以上の卵の摂取で死亡リスクの上昇が、非糖尿病患者は週7個以上(1日1個)以上で死亡リスクが上昇するといえる結果となった。

Model 1 Adjusted for age, BMI (continuous), smoking (never, past, or current smoker), and history of hypertension.
Model 2 Adjusted as in model 1 plus vitamin intake, alcohol consumption (<1, 1-4, 5-6, or ≥7 drinks/wk), vegetable consumption (<3, 3-4, 5-6, 7-13, or ≥14 servings/wk), breakfast cereal (0, 1, 2-6, or ≥7 servings/wk), physical activity (<1, 1, 2-4, or ≥5 times/wk), treatment arm (4 groups), atrial fibrillation (yes or no), diabetes mellitus (yes or no), hypercholesterolemia (yes or no), and parental history of premature myocardial infarction (yes or no).
http://ajcn.nutrition.org/content/87/4/964.full
糖尿病のある群ではコレステロール摂取量の増加、卵の摂取量の増加に伴い、心血管疾患の発症数の増加を認めた。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2911502/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12361489

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3524188

確かにコレステロールの過剰摂取は動脈硬化の進展に寄与するが、卵にはそれ以外の多くの栄養素が含まれている。
蛋白質の栄養価は、一般的には必須アミノ酸がどれだけバランスよく含まれているかの指標となるアミノ酸スコアで評価されるが、卵は100であり、理想的なアミノ酸構成である。そのほかに、微量ミネラルや、ビタミンA、D、Eといった脂溶性ビタミン類、ビタミンB2、B12といった水溶性ビタミンも豊富味含まれており、抗酸化能を有するセレンや、日本人で不足しがちな亜鉛も含まれている。

卵50gを食べた際に50~69歳で身体活動レベル2の日本人の栄養成分充足率を計算してみると下記の図のようになるので食が細くなった高齢者においては、必要な栄養食品と言えるかもしれない。

卵とコレステロール

横断調査による多数でみると卵摂取量と血清コレステロール値には相関がないとのデータも多いが、経時変化を見た調査においては、食事中のコレステロール量が100~300㎎/日においては、血中のコレステロール濃度は上昇する傾向にある。


コレステロールの食事摂取量よりも飽和脂肪酸を取る方が血清コレステロール濃度の上昇の割合が激しい。

1960年代のKeysやHegstedらの研究により、飽和脂肪酸摂取量と総コレステロール濃度は正の相関を示すことが判明し、「Keysの式」、「Hegsted の式」として知られている。
Keys の式:⊿血清総コレステロール(mg/dL)=2.7×⊿S-1.35×⊿P+1.5×⊿ (C)
Hegsted の式:⊿血清総コレステロール(mg/dL)=2.16×⊿S-1.65×⊿P+0.068×⊿C
⊿S:飽和脂肪酸摂取量の変化量(% エネルギー)
    ⊿P:多価不飽和脂肪酸摂取量の変化量(% エネルギー)
    ⊿(C):コレステロール摂取量(mg/1,000 kcal)の変化量
    ⊿C:コレステロール摂取量(mg/1,000 kcal)の変化量
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000114402.pdf

この式からわかるように、飽和脂肪酸の変化量の2倍以上でコレステロールは上昇し、他か不飽和脂肪酸摂取量に応じてコレステロールは低下する。その変化量はコレステロールの摂取による上昇よりも強いといえる。
Keysの式は日本成人においても成り立つことが、Sasakiらにより示されている(J Carciol 1999;33:327-38)。日本成人において、飽和脂肪酸とコレステロールの摂取量を変えた場合に期待される、血清総コレステロールの濃度変化を図示すると下図のようになる。

27の介入試験:682人、介入期間は14~91日間をまとめたメタアナリシスによれば、総エネルギー摂取量の5%を炭水化物から飽和脂肪酸に変えると、平均して6.4(下図では6.2)mg/dLの血清LDLコレステロールの濃度上昇が、多価不飽和脂肪酸に変えると2.8(下図では1.7)mg/dLの減少が観察される。(Arterioscler Thromb 1992;12:911-9)

(Am J Clin Nutr 2003;77:1146-55)
多価不飽和脂肪酸は構造や代謝経路の違いによって、n-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸に分けられる。循環器疾患へ好ましい影響が多数報告されているn-3系脂肪酸は、α-リノレン酸と魚油由来長鎖n-3系脂肪酸(eicosapentaenoic acid:EPAとdococahezaenoic acid:DHAなど)が通常の食品から摂取されるおもなものである。
脂質異常症患者で糖尿病、心筋梗塞の既往がある心血管疾患汁スクを有する成人男女を対象とした47の介入試験をまとめたメタアナリシス(TCは16511人、LDL-Cは140099人、HDL-Cは15106人、TGが15492人で、平均年齢は49歳、介入期間は平均24週:4~260週)では、摂取量の平均値は3.25g/日と、摂取量はかなり多かったが、LDLコレステロール濃度の上昇は、平均2.3mg/dLと小さく、TGの低下が30.1mg/dLとみられた。

(Int J Cardiol 2009;92:166-9)
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000114402.pdf

飽和脂肪酸をn-3系不飽和脂肪酸に変更することにより、心血管疾患のリスクが減少することは、多くの介入試験が示している。

http://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.1000252

炭水化物25gを脂肪酸11gに変更することにより血清総コレステロールやLDLコレステロール、HDLコレステロールが少し上昇し、中性脂肪がある程度低下することが知られている。
逆に考えると、TGが高い人は、果物や糖質、アルコール摂取によりTG値は上昇する。
血糖の上昇や、インスリンの分泌抑制効果があるGuar Gum(グアーガム)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%A0
でコレステロールが下がる可能性が示唆されている。

http://ajcn.nutrition.org/content/69/1/30.full
超高齢社会に直面している現在の栄養の問題として、健康寿命の延長や介護状態予防の視点から、過栄養だけでなく、75歳以上の後期高齢者が陥りやすい「低栄養」、「栄養欠乏」の問題も重要である。後期高齢者が要介護状態にある原因として、「認知症」や「転倒」の他に無視できない状態として「高齢による衰弱」がある。
「高齢による衰弱」は、老年医学でいう「虚弱:Frailtyフレイルティ」を含んでおり、低栄養との関連が強く、筋力の低下や筋肉量の減少(サルコペニア)も最近注目されている。


フレイルティの原因の一つにサルコペニアが存在するが、サルコペニアの要因はまだ十分に解明はされていない。
Friedらの論文には、低栄養が存在すると、サルコぺニアにつながり、活力低下、筋力低下・身体機能低下を誘導し、活動度、消費エネルギーの減少、食欲低下をもたらし、さらに低栄養状態を促進させるというフレイルティ・サイクルが構築される。

高齢者が低栄養となる要因としては以下のものがある。

筋肉量の低下、筋力の低下、身体能力の低下を予防する必要があり、食事制限を行うよりも質の良い食事を摂るように心がける必要がある。
サルコぺニア予防の観点からも、70歳以上の食事として、蛋白質は男性で60g、女性では50g以上、必須アミノ酸、特にロイシンなどの分岐鎖アミノ酸を積極的にとり、レジスタンス運動を併用して行うことが推奨される。
参:高齢者:厚生労働省

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