川村所長の勉強会参加記録
2017.02.20
Leaky Gut症候群に対する新たなアプローチ 加藤 孝征 先生
2017年2月18日
演題「Leaky Gut症候群に対する新たなアプローチ」
演者: 横浜市立大学医学研究科肝胆膵消化器病学 加藤 孝征 先生
場所: 横浜ベイホテル東急
内容及び補足「
小腸は胃で胃酸などによる分解を受けた食物の栄養素が吸収される部位である。500ダルトンの大きさの分子までは通過することができるが、それ以上の大きな分子は通さないような構造になっている。このバリア機構が障害を受けると、細菌やウイルス、それ以外の物質などが体内に侵入してくる。
小腸の表面は何百もの絨毛があり、その絨毛は数百万の微小絨毛からできている。この微小絨毛は、細胞を守るための粘膜と最近が周りを覆っており、消化酵素を作る役割の他、正常の大きさの栄養素を吸収し未消化で大きな分子の食物を通さないブロック機能がある。
http://scdlifestyle.com/2010/03/the-scd-diet-and-leaky-gut-syndrome/
tight junction:
そのブロック機構を担っているのが細胞同士をくっつけているtight junctionである。
1963年にFarquharとPaladeがラットとモルモットの腺及び管腔組織上皮に形態の異なる三種類の細胞間接着分子を報告したのがこのtight junctionである。
A:TJの超薄切片電子顕微鏡像。 隣り合う2枚の細胞膜がところどころで密着して見える。
B:TJの凍結割断レプリカ像。 TJストランド(矢頭)のネットワークが観察される。これがベルト状に細胞周囲を取り巻いている。
C:TJストランドの構造モデル。 接着分子が細胞膜内でひも状に重合することによって細胞膜密着部位およびTJストランドが形成されると考えられてきた。
スケールバー:50 nm
http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fvets.2015.00057/full
Claudin:四つの膜貫通ドメインと二つの細胞外ループを持つ分子量23kDの小さな蛋白質である。
隣り合う細胞の両側から細胞接着部位に集積し、tight junctionの細胞膜密着構造と膜内のストランド構造を形成する。
様々な組織で細胞あたり複数のサブタイプが上皮細胞に共発現していることが多く、上皮のタイプによって発現するサブタイプの組み合わせが異なる。
複数のClaudinが共発現している場合、一般にtight junctionはこれらのClaudinがモザイク状に集まって形成される。
tight junctionを形成するClaudinがのサブタイプには機能的な差があり、細胞間隙の透過バリア形成に徹するバリア型Claudinとナトリウムイオンなど無機イオンや水などのような小分子を通すHoleを形成するチャンネル型Claudinが存在する。
A: クローディンの構造
B: クローディン3を導入したマウス線維芽細胞に形成されたTJストランド(凍結割断レプリカ像)
スケールバー:100 nm
比較的大きな分子量を持つ水溶性分子が極めてわずかずつtight junctionを通って漏れている経路があり、リーク経路といわれている。tight junctionのストランド構造が膜内の蛋白質ポリマーとしての切断と再結合を繰り返す動的な反応がそのメカニズムの一つと考えられている。
http://www.nips.ac.jp/dcs/kenkyu_files/seikagaku0.htm
tight junctionの機能
フェンス機能:細胞膜を区画化し維持する機能。これにより、細胞膜は、細胞頂部(apical)細胞膜と側壁基底(baso-lateral)細胞膜が分けられており、それぞれの細胞膜に固有の蛋白や脂質の成分が交わらないようになっている。つまり、細胞の極性を維持する機能である。癌細胞が細胞極性を失い脱分化するのはtight junctionの形成が低下するためと考えられている。
上の写真のApical側の細胞膜に偏在していた色素がtight junctionの破綻によってbaso-lateral側の細胞膜にも色素がみられるようになる。
https://web.sapmed.ac.jp/patho2/res.html
バリア機能:細胞と細胞の間を物質が自由に通過できないように細胞間をシールする機能。消化管腔の内外を隔絶する、循環系から胆汁排泄路を隔絶するといった、区域を隔絶しているのが、上皮細胞や内皮細胞間に存在するtight junctionである。
門脈より注入した色素が赤い矢印の部分(tight junction)で途絶している。
その他に、選択的に物質を糖化させるチャンネルとしての役割、細胞内への様々なシグナル伝達機能もある。
Tight junction機能が低下する状態・病態
一般的な原因として、虚血などによる細胞内ATPの低下、細菌毒素などによるマイクロフィラメントの変化、ギャップ結合の機能低下がある。
感染症との関係では、レオウイルスがJAM-A、コクサッキ―ウイルスとアデノウイスルがCARを受容体としている。
コレラ菌はOcculudin、ウエルシュ菌はClaudion-3、Claudin-4、ヘリコバクターピロリのCagAはPar-1に結合して、腸管病原性大腸菌、クロストリジウムディフィシル、ジフテリア菌などはアクチン重合を変化させ、tight junction機能を低下させる。
また、VEGFを筆頭に多くのサイトカインがtight junction機能を低下させるので、炎症や腫瘍組織では、血管内皮細胞のtight junction機能が低下(血管透過性が亢進)しているいる。
Tight junctionが関与する疾患
血管系:浮腫、サイトカン血症、糖尿病性網膜症、多発性硬化症、血行性転移
消化器系:細菌性胃炎、偽膜性腸炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、カルシウム吸収障害
肝:黄疸、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎
呼吸器系:喘息、アレルギー性鼻炎、呼吸促迫症候群
ウイルス感染:レオウイルス、アデノウイルス、コクサッキ―ウイルス、ロタウイルス、HIVウイルス
皮膚:アトピー性皮膚炎
遺伝性疾患:家族性低マグネシウム血症、難聴、嚢胞性線維症
その他:卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
http://www.jspid.jp/journal/full/02603/026030395.pdf
1 遺伝性低マグネシウム血症:腎臓の尿細管の細胞間透過性は近位尿細管で高く、遠位尿細管、集合管に向かうにつれて低下していく。尿細管の部位によりClaudinのあぶたいぶの発現パターンが異なっている。Claudin-16はヘンレループの太い上行脚に限局して発現しており、この異常によりCa2+とMg2+の再吸収が阻害された疾患である。
2 先天性難聴:コルチ器のRericular laminaのtight junctionは、K+が豊富な内リンパとNa+が豊富な外リンパを分離し、外有毛細胞に必要なイオン組成を形成・維持している。Claudin-14のノックアウトマウスの解析から、Claudin-14が有毛細胞と支持細胞のtight junctionの成分であり、この欠損が難聴林檎を引き起こすことが確認された。
3 皮膚:体内の水分蒸発や細菌などの異物が体内に侵入するのを防ぐバリア機能がある。Claudin-1欠損マウスが、皮膚からの過剰な水分消失により生後1日で死亡することから重層扁平上皮である皮膚のtight junctionが皮膚のバリア機能に重要な役割を担っていることが判明した。
4 C型肝炎:HCVが肝細胞に侵入するのに、HCVエンベロープ糖蛋白質であるE2が肝細胞表面抗原受容体であるCD81と結合し、さらにClaudin-1がCo-receptorとして必要であることが分かった。
http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/handle/2324/10212/fam99-2_p25.pdf
Leaky Gut Syndrome (LGS):腸管壁浸漏症候群:腸管壁における過度の浸透状態が生じ、バクテリア、毒素及び食物が漏れ入ってくる状態:腸粘膜から高分子化合物質、食物アレルゲン、また、萎縮性粘膜に関連する毒素の物質透過性が増加する状態である。
LGSを引き起こすと考えられる原因
抗生物質による消化管系の細菌、寄生虫、心筋類の異常繁殖
アルコール、カフェイン
食物・飲料:細菌が混入した水分、着色剤、防腐剤、酸化防止剤などの食品添加物含有食物・飲料
酸素欠乏
牛乳・乳製品の摂取
非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)
コルチコステロイド
精製炭水化物食品
避妊用ホルモン(ピル)
食品に付着したカビ、菌
水銀、鉛などの重金属の蓄積
LGSの判定検査
マンニトール・ラクツロース吸収試験
この二つの糖質は人間の身体には必要ない物質であり、正常の腸管では代謝されることはない。
水に薄めたマンにトールとラクツロースを飲み、六時間蓄尿し、その尿中に排泄された二つの糖質の量を測定し、比を見る検査である。
正常の消化吸収状態であれば、マンニトールは多く吸収され尿中に排泄され、ラクルロースは吸収されないので尿中の量は少ない。
LGSの場合には尿中のマンニトール及びラクツロースの量は多い。
慢性的な栄養吸収障害の場合には、両者とも少ない。
潰瘍性大腸炎、クローン病の場合には尿中マンニトールンの量は少なく、ラクツロースの量は多い。
LGS改善のための栄養素及び機能性成分としてグルタミン、フルクトオリゴ、グルコサミン、αリポ酸、ケルセチン、γオリザノール、ビタミンE、亜鉛、乳酸菌(Lactpbacillus Acidophilu、Lactobacillus Bifidus)、パイナップル酵素、パパイヤ酵素、アカニレ(ハーブ)、キャッツクロウ、ギンコビロバ、リコリス(漢方に使われている甘草)が下記のサイトに表示されている。
http://www.nutweb.sakura.ne.jp/webdemo/Jlgs.htm
LGS治療薬としてのアミティーザの効果を検討するために、健常成人30名に投与して、NSAID投与後のLGS状態の改善効果をマンニトール・ラクツロース吸収試験を行い検討した。
コントロール群 アミティーザ群 p値
前値 0.019 0.021 0.69
14日後 0.035 0.024 0.403
28日後 0.028 0.017 0.0497
であり、それぞれの尿中排泄量には様認められんかったが、比でみると28日後には、アミティーザ投与群で有意な改善が認められた結果となった。