その他
2015.03.09
狂犬病暴露後免疫と暴露前免疫 高山直秀 先生
2015年3月4日 東京ステーションコンファレンス サピアタワー
演題「狂犬病暴露後免疫と暴露前免疫」
演者:都立駒込病院 前小児科部長 高山直秀 先生
内容及び補足「
狂犬病は毎年約5万人の死者を出している。
病原体はリッサウイルスである。下図が電子顕微鏡像である。
血清型から7型に分類されている。
Genotype 1(狂犬病ウイルス:Rabies virus)
Genotype 2(ラゴスコウモリウイルス:Lagos bat virus)
Genotype 3(モコラウイルス:Mokola virus)
Genotype 4(ドゥベンヘイジウイルス:Duvenhage virus)
Genotype 5(ヨーロッパコウモリリッサウイルス1:European bat lyssavirus type 1; EBL1)
Genotype 6(ヨーロッパコウモリリッサウイルス2:European bat lyssavirus type 2; EBL2)
Genotype 7(オーストラリアコウモリリッサウイルス:Australian bat lyssavirus; ABL)
このうちGenotype 1が狂犬病ウイルスで、3-7は人に狂犬病様の脳炎を起こすとこが知られている。
感染した動物の噛み傷などから唾液とともにウイルスが侵入して感染する場合が多く、傷口やめ、唇などの粘膜部を舐められた場合も危険性がある。
狂犬病ウイルスは人を含むすべての哺乳類に感染し、ヒトへの感染源の多くが犬(95%)であるが、サルや猫(3%)からの感染も報告がある。
人から人への感染は通常認めないが、角膜移植や臓器移植による感染例がある。
潜伏期間は咬傷の部位により大きく異なる。
狂犬病ウイルスは、神経系を介して脳組織に到達して発病するが、移動距離は日に数ミリから数十ミリといわれている。脳に近い場所であれば2週間程度、遠位部では数か月以上かかり、2年という記録もある。
症状:
前駆期には風邪に似た症状と咬傷部位の痒み(掻痒感)、熱感がある。
急性期には、不安感、恐水症状(水などの液体の嚥下によって嚥下筋が痙攣し、強い痛みを感じるため、水を極端に恐れるようになる症状)、強風症状(風の動きに敏感に反応し避けるようなしぐさを示す症状)、興奮性、麻痺、精神錯乱などの神経症状が現れる。
また、腱反射、瞳孔反射の亢進(日光に過敏に反応するため、これを避けるようになる)もみられる。
こういった症状が出現した2-7日後には脳神経や全身の筋肉が麻痺を、起こし昏睡期に至り、呼吸障害によって死亡する。
予後:
ワクチン接種を受けずに発症した場合には、ほとんど確実に死に至る。
2014年に10月以前の記録に残っている生存者はわずか5名のみで、いずれも発症前にワクチン接種を受けていた。
2004年10月アメリカのウィスコンシン州で15歳少女が狂犬病発症後に回復し、ワクチン接種なしでの回復した最初の生存者である。この時行われた治療は、ミルウォーキープロトコルとして他の症例にも利用され、数名の生存者を出したが、生存率は一割程度であり、多くの場合後遺症が残るのが現状である。
暴露後の治療:
咬傷傷口を石鹸水でよく洗い、消毒液やエタノールで消毒する(狂犬病ウイルスは弱いため、これで大半のウイルスは死滅する)。
すぐにワクチン接種を開始する。
今までワクチン接種を行っていない人:欧米製ワクチン5回(当日、3、7、14、28日後)接種、日本製ワクチン6回(当日、3、7、14、30、90日後)接種
事前にワクチン接種を行っている人:米国では暴露前ワクチン接種の時期と関係なく2回(当日、3日後)接種、日本では、暴露前ワクチン接種が一年以内であれば、2回(当日、3日後)接種、1-5年前であれば、3回8当日、3日、7日後)、5年以上であれば暴露前ワクチン接種を行わなかった時同様のやり方を行う。
WHOでは初回接種時に狂犬病免疫グロブリンの併用を推奨しているが、一部の地域を除き、多くの場合入手困難である。
参考サイト:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k03/k03_18/k03_18.html