その他
2018.07.17
自己炎症性症候群 伊藤 宏 先生
2018年7月11日
演題「紹介いただいた症例の経過報告」
演者:聖隷横浜病院リウマチ・膠原病センター 伊藤 宏 先生
場所:
内容及び補足「
紹介患者さんの経過報告の中で自己炎症性疾患という概念の提示があり、そのことについて調べたことを以下に記載する。
自己炎症性疾患(自己炎症性症候群)は原発性免疫不全症の中の一つに分類され、発熱と眼、関節、皮膚、漿膜などに及ぶ全身の炎症のエピソードが特徴の疾患で、原因として感染症や自己免疫疾患が無いもの。
自己炎症:1999年McDermottらによりTRAPS(TNF receptor-associated periodic syndrome)という遺伝性疾患がきっかけで提唱された。
自己炎症性疾患の病態は主に自立的な自然免疫系の活性化によるもので、好中球や単球/マクロファージからのIL-1βやTNF-αなどの炎症性サイトカインの過剰分泌やシグナルを介して引き起こされる全身性の慢性炎症とされている。一部の疾患は遺伝素因が原因として明らかとなっている。
原発性免疫不全症の国際分類
細胞性および液性免疫に影響する免疫不全症
関連もしくは症候を有する特徴を伴う複合免疫不全
抗体産生不全症
免疫調節不全症
食細胞の数・機能の先天的欠損症
内因性および自然免疫の不全症
自己炎症性疾患
補体欠損症
原発性免疫不全症の表現型模写
自己炎症性疾患の病態分類
インフラマソームに影響を与える異常
家族性地中海熱
高IgD症候群
Muckle-Wells症候群
家族性寒冷自己炎症症候群
慢性乳児神経皮膚関節炎症候群(Chronic infantile neurological cutaneous and articular syndrome: CINCA症候群) / 新生児発症多臓器炎症性疾患(Neonatal onset multisystem inflammatory disease: NOMID)
NLRC4-MAS
PLAID (PLCγ2 associated antibody deficiency and immune dysregulation)
APLAID (autoinflammation and PLCγ2 associated antibody deficiency and immune dysregulation)
インフラマソームに関連しない病態
TRAPS (TNF Receptor-Associated Periodic Syndrome)
Pyogenic sterile arthritis, pyoderma gangrenosum, acne (PAPA症候群)
Blau症候群
ADAM17 欠失
Chronic recurrent multifocal osteomyelitis and congenital dyserythropoietic anemia (Majeed症候群)
DIRA (Deficiency of the Interleukin 1 Receptor Antagonist)
DITRA (Deficiency of IL-36 receptor antagonist)
SLC29A3変異
CAMPS (CARD14 mediated psoriasis)
ケルビム症
CANDLE (chronic atypical neutrophilic dermatitis with lipodystrophy)
COPA(Coatamer protein complex, subunit alpha)欠損
Journal of Clinical Immunology.35(8):696-726,2015
TRAPS(TNF receptor-associated periodic syndrome:トラップス)
TNF-α受容体をコードするTNFR1遺伝子の異常によって引き起こされる症候群。発熱発作を繰り返す周期性発熱症候群。1982年にアイルランド/スコットランド系の家系で最初に報告され、Familial Hibernian Fever(FHF)とも呼ばれたが、1999年にTNFR1の遺伝子TNFRSF1Aの異常であることが判明し、TRAPSと呼ばれるようになった。常染色体優性遺伝で、これまでに200例の報告があり、ヨーロッパ人種で多く、日本では約30例の報告がある。生後2週から53歳と幅があるが多くは幼児期に発症し、中央値は3歳である。
主な症状は、発熱で、3日~数週間持続し(通常は1週間以上)、発熱の周期を5~6週間おきにくりかえす。皮膚所見の頻度も高く、全身に、痛みや熱感を伴う皮疹が出現する。数日程度(平均13日)持続し、数分~数日で移動することもある。筋肉痛も見られ、皮膚症状が筋肉痛の部位に一致して移動することが多い。結膜炎や目の周りのむくみ、腹痛、関節痛、吐き気などの症状も見られる。
血液検査では、白血球数の増加、炎症反応高値、補体化や免疫グロブリン値の上昇がある。長期間にわたり炎症が持続すると、アミロイドーシスを合併することがあり(約10%)、腎臓、肝臓、副腎などの臓器をチェックする必要がある。
遺伝子解析により確定診断となる。
HullらのTRAPS診断基準案
1. 6ヶ月以上にわたって繰り返す炎症兆候の存在(いくつかの兆候は同時にみられることがある)
1. 発熱
2. 腹痛
3. 筋肉痛(移動性)
4. 皮疹(筋肉痛を伴う紅斑様皮疹)
5. 結膜炎 / 眼周囲の浮腫
6. 胸痛
7. 関節痛または単関節の滑膜炎
2. 平均5日以上続く症状
3. ステロイドが有効だが、コルヒチンが無効
4. 家族歴あり(いつも家族歴があるわけではない)
5. どの人種、民族でも起こるかもしれない
Medicine (Baltimore).81(5):349-68,2002
治療:確立されたものはないがNSAIDSが発熱、疼痛緩和に有効。コルヒチン、アザチオプリン(イムラン)、シクロスポリン(ネオラール)、エタネルセプト(エンブレル:TNF阻害薬)、アナキンラ(IL-1阻害薬)などの使用報告がある。
家族性地中海熱 (Familial Mediterranean Fever:FMF)
12~72時間の周期的な発熱と漿膜炎をきたす遺伝性周期性発熱症候群。
遺伝形式と疫学
比較的稀な疾患で、自己炎症性症候群の中で最も頻度が高い疾患。常染色体性劣性遺伝。1997 年にMEFVという遺伝子の異常によって起こることが明らかとなり、地中海沿岸地域に多く、全世界で 1万人を超える。日本では約500名、大部分は小児期に発症するが、20歳に近い年齢での発症報告もある。
臨床症状と検査所見
周期性発熱が高頻度にみられ、発熱の期間は1~3日と短く、自然に軽快。発熱時には炎症反応が上昇し、発熱発作の間隔は不安定で、個人差がある。ストレス、手術や月経などに誘発されてることが多いが、誘因が見られない事もある。発熱に伴い関節炎・皮疹などの症状があり、胸膜炎による背部痛や、腹膜炎による腹痛などの漿膜炎を伴うことがある。足や膝の関節などの下肢の大関節に少数関節炎として起こることが多く、急性で、関節痛、熱感、発赤を伴う。心外膜炎や無菌性髄膜炎がみられることもある。血液検査では発作時に白血球増加、CRP高値がみられる。またTRAPS同様に長期に及ぶ全身の炎症によりアミロイドーシスの合併がみられることがある。
診断
家族性地中海熱の診断基準(難病情報センター「家族性地中海熱)
必須項目
12 時間から 72 時間続く 38 度以上の発熱を 3 回以上繰り返す。発熱時には、CRP や血清アミロイド A(SAA)などの炎症検査所見の著明な上昇を認める。発作間歇期にはこれらが消失する。
補助項目
i) 発熱時の随伴症状として、以下のいずれかを認める。
a 非限局性の腹膜炎による腹痛
b 胸膜炎による胸背部痛
c 関節炎(股関節、膝関節、足関節)
d 心膜炎
e 髄膜炎による頭痛
f 髄膜炎による頭痛
ii) コルヒチンの予防内服によって発作が消失あるいは軽減する。
必須項目と、補助項目のいずれか1項目以上を認める症例を臨床的にFMF典型例と診断する。
感染症、自己免疫疾患、腫瘍などがないこと。MEFV遺伝子解析も有用。コルヒチン投与による治療反応性も参考に診断する。
治療
コルヒチン。発作予防や症状の改善を促し、アミロイドーシスの予防も可能。コルヒチン無効例にはIL-1阻害薬、TNF阻害薬、IL-6阻害薬の効果が報告されている。
参考サイト:慶應義塾大学医学部リウマチ・膠原病内科外部リンク
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000736.html