クリニックからのお知らせ

2013.10.07

Anti-DiabetesからAnti-Atherosclerosisへ 河盛隆造先生

2013年9月26日 ホテルプラム
演題「Anti-DiabetesからAnti-Atherosclerosisへ」
演者:順天堂大学大学院スポートロジーセンター センター長 河盛隆造先生
内容及び補足「糖尿病の状態は筋肉や脳で糖を使用できなくなっている状態であり、糖質を取ることが悪いのではない。まず体における糖の流れを見てみよう。夜中で動いていないときでも、通常はブドウ糖として一分間体重一キログラム当たり2-3mgの糖が使われており、その分を肝臓がブドウ糖として作って血液中に放出している。インスリンの作用不足や、インスリンの量の不足、拮抗物質の増加などにより細胞が糖を利用できなくなった場合、細胞は糖不足となり、肝臓からより多くのブドウ糖が放出されるような状況になり、より高血糖状態を来してくることになる。

食後高血糖においても、食事により糖質の吸収が増加した際には、グルカゴンの分泌低下が起こり、肝臓からの糖の放出に抑制がかかり、肝臓と筋肉において糖の取り込み率が上昇し、食後の血糖上昇を抑えられている。

一方耐糖能障害がある患者さんや糖尿病患者さんでは、インスリン分泌能の低下に加え、各臓器でのインスリンの働きの低下も加わっていることが多く、食後高血糖が起こる。

表にしてみると以下のようになる。

2型糖尿病の膵β細胞では経年的に自然に、あるいはSU薬刺激によりインスリン分泌が徐々に低下するのでは決してない。高血糖が膵β細胞を障害する。膵β細胞内にブドウ糖が取り込まれると膵臓の分化、機能維持にとって大切な転写因子であるPDX-1が活性化され、インスリンをはじめとする種々の遺伝子発現がみられ、インスリン分泌などが促される。しかし、高血糖状況では、細胞内で酸化ストレスが惹起され、JNKが活性化され、PDX-1活性の低下、PDX-1の核外移行信号部位の活性化が起こっている(図7)。2型糖尿病では、高血糖を放置しないで、膵β細胞容積や機能維持を目指す必要がある。

The Stop-NDDM TriIalで4424名に糖負荷検査が施行され3919例で経過を見た。120030.6%例で耐糖能障害(impaired glucose tolerance:IGT)と診断された。521例13.3%では以前に糖尿病と診断されており、679例17.3%でIGTであり、IGTのうち412例10.5%で空腹時高血糖であった。acarboseとプラセボの投与で3.9年の経過を見た。DM発症のリスクを25%、全身血管イベント発症リスクを49%、心筋梗塞の発症リスクを91%抑制した。
この当時には、どのような機序が作用して、改善したが不明であったが、近年GLP-1の働きが詳細に検討されるようになってきて、acarbose投与により、単糖類への分解が阻害されることにより、糖の吸収遅延が生じ、回腸の末端まで小腸全域で糖質の吸収がされるようになり、GLP-1の分泌が亢進して、肝血流の増加、膵臓でのインスリン分泌増加作用、グルカゴン分泌の抑制、糖新生の抑制などの機序が働いたと考えられるようになってきている。
DM患者においては10年後には15%、20年後には45%の患者さんが下肢病変を発症するとの報告もあり、定期的な検査が必要である。
その上HBA1c値が1%上昇するごとにPADの発症率が28%ずつ上昇するとの報告もあり厳格なコントロールが必要である。Adler AI et al ., Diabetes Care. 2002; 25 : 894-9.
年齢とともに頸動脈の壁肥厚が見られるが、IGTの存在やDMの合併により肥厚の度合いが進行する。

IGTの集団を血糖応答曲線とインスリン分泌動態から4群に分け頸動脈IMT値を比較した検討結果によると(図3)、1、2時間の血中インスリン値が高い例でIMT値が大であった。このような群では、”拡張期血圧が高い”、”BMI 25以上”、”中性脂肪がやや高い”という特徴を併せ持っていることが示され、” bad companions ” と提唱した。一方、インスリン感受性が良いと、少量のインスリン分泌で対応できる例では、前述の危険因子もなく、IMT値も正常域であった。

ABI値によるEvent free期間を見てみると0.9未満ではeventが増加し、0.5以下では5年で半数の症例にeventが発症している。

参:糖尿病治療ガイド2012-2013抜粋

末梢で産生されたインスリンは血液脳関門を介して脳内に輸送されるが、末梢で高インスリン血症の状態が続くと脳へのインスリンの移行が低下する。脳内において、インスリンはエネルギー代謝や伝達物質の調整に関与するほか、βアミロイドの遊離を亢進する。末梢における高インスリン血症により脳内のインスリンが減少するとこれらの作用が低下し、βアミロイドの蓄積やシナプス機能の低下が生じて、認知症が発症しやすくなると考えられている。また、インスリン分解酵素はβアミロイドを分解するが、高インスリン血症の場合には、アミロイドの分解が競合的に阻害されるため、βアミロイド分解の遅延が生じ、認知機能障害につながっている可能性も示唆されている。

糖尿病は、他の生活習慣病の合併や遺伝的素因と合わさって①動脈硬化病変を基盤とする脳血管病変の進展、②糖毒性による細小血管病変、③インスリン抵抗性によるアミロイド代謝の障害、などをもたらす。そして、これらが相互に作用して脳の加齢変化、脳血管病変、アルツハイマー病を進展させ、認知症発症に影響すると考えられる。

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