クリニックからのお知らせ
2025.01.05
炎症性腸疾患の腸管外合併症 松浦稔 教授
2024年12月16日
演題「炎症性腸疾患の腸管外合併症」
演者:杏林大学医学部消化器内科学臨床教授 松浦 稔 先生
場所: TKPガーデンシティ横浜
内容及び補足「
IBDでは、消化管以外の臓器にも様々な病変を生じ、腸管外合併症(extraintestinal complications)あるいは腸管外徴候(extraintestinal manifestations:EIM)と呼ばれている。
明確な定義は定められていないが、「腸管外合併症」は腸管炎症の直接的あるいは間接的な影響により消化管以外の臓器に生じる障害とされ、「腸管外徴候」はIBD患者のQOLや長期予後に影響するが患者に見られる腸管外に生じる炎症性病理に基づく病変であり、その病因が腸管炎症に関連する。
EIMは大きく分けて3つに分類される
- その病因が腸炎と関連する、あるいはIBDとは独立した慢性炎症によって腸管外に発症する
- 他の併存諸疾患と関連して腸管外に発症する
- IBD治療に伴う合併症として腸管外に発症する
炎症性腸疾患(IBD)の腸管外合併症は、IBD患者のQOLや長期予後にも影響するが、その症状は多彩であり、IBD患者のQOLや長期予後にも影響するが専門家においても診断や治療に悩む場合も少なくない。炎症清涼疾患の腸管外合併症治療指針の改定が提示された。
炎症性腸疾患の腸管外合併症治療指針の改訂
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202111044A-buntan20_0.pdf
IBD患者に生じる腸管が徴候は多彩であり、罹患頻度の高い臓器としては、骨格謹啓(関節痛、脊椎関節炎など)、皮膚(結節性紅斑、壊疽性膿皮症など)、肝胆道系(原発性硬化性胆管炎など)、目(虹彩炎、葡萄膜炎など)の他に新血管系(大動脈炎症候群、血栓塞栓症など)、腎・泌尿器系(尿管結石症、人えんんあど)、の他に発生頻度は低くてもIBD患者のQOL野生名誉後に大きく影響し得る疾患があり、IBD診療に当たっては腸管外徴候の存在にも充分留意する必要がある。
UCやCD患者にも約40%の患者で複数の腸管が徴候を有するし、それぞれの腸管外徴候についてはIBD患者の疾患別における合併率、精査、IBDの疾患活動性との相関の有無など異なった特徴が認められる。
- 関節痛・脊椎関節炎
関節障害は最も高頻度に認められる。IBD患者の腸管外合併症であり、(炎症を伴わない)関節痛は約40~50%、関節炎は約10~20%に発生する。
IBDに伴う関節障害は、脊椎関節炎(spondylo-arthritis:SpA)があり、IBD-related SpAと称させる。脊椎や仙腸関節などの体軸関節を主とする体軸有意型脊椎関節炎(axial dominant SpA)と、手・肘・膝・足関節などの末梢関節を主とする末梢優位型脊椎関節炎(peripheral dominant SpA)がある。
IBD領域ではIBD-related SpAを、主な罹患部位からaxial SpAとperipheral SpAという用語で分類することが多いが、脊椎関節炎専門領域の疾患概念から作例された本邦の分類基準では、IBDに伴う関節炎は末梢性脊椎関節炎(peripheral SpA:pSpA)に分類されるので、混同しないように注意する必要がある。
診断フローチャートのように、まずは機械性の関節痛と関節炎の鑑別が重要で、診察時に関節の腫脹や圧痛の有無を確認した後、画像検査を行う。
関節障害の合併を疑う所見として、3ヶ月以上持続する用・背部痛(臀部痛を含む)があり、脊椎の炎症や仙腸関節炎などSpAを疑うきっかけとなる。
腰背部痛で以下の特徴があるとより炎症性腰背部痛を疑う。
腰背部痛が3ヶ月以上持続し、単純X洊・MRI検査などの画像上「ASAS分類におけるaxSpAの仙腸関節炎画像所見を満たしてSpA徴候のうち1つ以上を認める、もしくはHLA-B27陽性でSpA徴候のうちHLA-B27以外の2つを認めるものを、体軸性と定義しているため、IBDの診断されている患者でこの基準を満たすものを体軸優位型脊椎関節炎としている。
また、現時点で腰背部痛がなく、主観説・肘関節・膝関節や足関節など末梢関節に関節炎が生じるものを末梢優位型脊椎関節炎(peripheral dominant SpA:pSpA)と呼び、関節炎数が5関節未満で膝や足関節など下肢に多いものがType 1でIBDの活動性に関連して、急性、非対称性、移動性に発症し、関節破壊なく自然に軽快する。関節炎数が5関節異常の多関節に渡り、手指関節を含めた上肢の関節に左右対称に生じるものがType 2と分類され、IBD患者の活動性と関連せず、腸炎症状と同時発現あるいは先行することもある。
我が国で2013年に桜井らの九州地区アンケート調査では、UC3499例の5.5%、CD2227例の6.3%に関節炎の合併を認めた。
2018年の全国主要IBD診療施設49施設の専門医に対するアンケート調査では、UC 23503reino 6.8%、CD14474例の5.8%に関節炎を認めている。またIBD総数37977例の55例0.14%に仙腸関節炎を認めた。
現在、IBDに合併する関節炎に関してエビデンスに基づいた治療法は存在しない。
2016年発表のECCOの腸管外合併症に関するコンセンサスステートメントでは、axSpAに対しては、①リウマチ専門医と共同で管理する必要がある、②集中的な理学路用法が効果的である、③短期のNSAIDsは効果的だが長期治療は推奨されない、④スルファサラジンおよびメトトレキサートは効果が限定的である、⑤抗TNF-α抗体製剤はNSAIDsに不耐性または難治性の症例に有効である、と記載されている。pSpA(特にType1)に対しては、①根本である腸炎の治療が末梢性関節炎治療にも有用である、②症状を緩和するために短期的NSAIDsまたは局所ステロイド注射が使用可能である、③短期経口ステロイドは効果的ではあるが可能な限り速やかに中止する、一方、pSpA(特にType2)に対しては腸炎の治療でも関節炎が残存することが多く、④持続性関節炎ではスルファサラジンとメトトレキサートは有効性があるかもしれない、⑤抗TNF-α抗体製剤は治療抵抗性の症例には適切かつ有効であるなど関節炎に対する治療も並行して必要となることが多い。
皮膚病変
IBD患者の約15%に皮膚病変が合併する。結節性紅斑:EN(1.2~6.2%)や壊疽性膿皮症:PG(0.3~2.2%)、Sweet病、アフタ性口内炎などがある。
ENは予後良好で、多くは原病の改善とともに自然消退する。
PGはしばしば急性増悪や治療に難渋する場合があり、早期から皮膚科専門医との連携が必要である。
抗TNF-α抗体製剤投与中の乾癬様皮疹やJAK阻害薬における帯状疱疹(CD症例6.67/1000人年、UC症例7.22/1000人年)などIBD患者治療に関連する皮膚病変の出現に注意する。
眼病変
上強膜炎(Episcleritis)、強膜炎(Scleritis)、ぶどう膜炎(Uveitis)があげられる。
目は関節、皮膚に次いで3番目に多いIBDの腸管合併病変であり、全IBD患者の0.3~13.0%、UCの1.6~5.4%、CDの3.5~6.8%と報告されていて、UCよりCDに多く、女性に多い。
また、眼症状は、IBD発症と同時あるいはIBD発症後の早い時期に生じやすいとされているが、時に眼症状が先行して生じる場合もあり、注意を要する。
上強膜炎
強膜は角膜とともに眼球外膜を構成し、眼球外膜全体の後方、約5/6を占める白色非透明の被膜である。強膜は眼球全面で透明な角膜とつながっており、強膜の全部は眼球の付属器である眼球結膜で覆われる。眼球結膜と強膜との間には血管に富む疎な結合組織が存在し、上強膜と呼ばれる。
上強膜炎は強膜の表層である上強膜に生じる炎暑王であり、IBDノガン合併症の中では最も頻度が高く2~5%で女性に多い。上強膜炎の主な症状は、強い充血、異物感、流涙、眼痛などであるが、充血以外の症状は軽度であることが多い。上強膜炎はたの眼合併症と比べ、IBDの疾患活動性と相関しやすく、その多くは腸炎の改善とともに、あるいは無治療で自然消退する場合もある。一般的に視力予後は良好であり、視機能への影響はほとんど認めない。
強膜炎
強膜炎は強膜に生じる炎症であり、IBD患者における合併率は1%未満とされ、まれな眼合併症であるが、無治療で放置されれば失明に至る場合もあり、注意を要する。強膜炎は上強膜炎よりも症状が強く、激しい眼痛、強膜血管の充血・蛇行、顔面への放散痛、流涙、襲名などが認められる。眼痛は眼の奥深くで刺すような痛みであり、時に不眠や食欲低下などの原因となる。強膜炎は発生部位により前部および後部強膜炎に分類され、また炎症の性状により、びまん性、結節性、壊死性強膜炎に分類される。後部強膜炎では、後部強膜周囲の網膜や視神経などに炎症が波及し、視力低下を生じる場合がある。重症例や炎症が長期に及ぶ場合には強膜の菲薄化した部位が膨隆し、時に強膜かのぶどう膜が透見され青紫色調の斑点として視認される。
ぶどう膜炎
ぶどう膜は眼球中膜を構成する虹彩、毛様体、脈絡膜の3つをまとめた総称であり、血流に富んだ組織であるため眼炎症性疾患を生じやすくIBD患者における合併率は0.5~3.5%と報告され、海外からの報告では上強膜炎に次いで多い。
ぶどう膜炎は主な炎症部位により、前部ぶどう膜炎(虹彩・毛様体)、昼間部ぶどう膜炎(硝子体や毛様体扁平部)、後部ぶどう膜炎(網膜や脈絡膜)、汎ぶどう膜炎(前眼部から後眼部まで眼球全体に及ぶ)の4つに分類される。
IBDに生じるぶどう膜炎は前部ぶどう膜炎が多く、主な症状は、充血、眼痛、襲名、霧視(視界が霞む)などであり、中間部や後部に炎症が生じると飛蚊症、視力低下などを生じる。
急性の経過をたどることが多く、両眼性に発症する。急性期では前房蓄膿を認めることがあり、診断の一助になる。多くの報告ではIBDの疾患活動性との相関はないとされているが、CDでは腸炎の病勢と相関するとの報告もある。
参:ぶどう膜炎の瞳孔変化
参:眼の構造
眼球表面には強膜という比較的硬く白い組織(白眼)があり、眼の正面付近の強膜は、薄く透明な結膜に覆われている。結膜は、眼球だけでなく、まぶたの裏側の湿潤した部分も覆っている。
虹彩は、動向を取り巻く感情の色のついた領域で、ここで眼に入る光の量を調節する。虹彩のすぐ後ろには、レンズの働きをする水晶体がある。
原発性硬化性胆管炎(PSC)
PSCはIBDを高率に合併することが知られており、本邦の全国調査では、PSCにおけるIBD患者合併率は約40%、IBD患者におけるPSC合併率は2.4~7.5%である。また小児のPSCでは76%と極めて高率にIBD患者を合併するが、小児のIBD患者におけるPSC合併率は1.2~1.5%と報告されている。
UC患者で2.17%、CD患者で0.96%と報告されており、UC患者で多い。男性2.09%、女性1.47%で男性に多く、南米で3.83%、東南アジアでは0.6%と報告されており、地域差がある。
PSC合併IBD患者の特徴として、Rectal sparing、右側大腸優位な炎症、大腸癌の発生リスクが高いことがあげられる。
PSCは肝移植が唯一の根本的治療であり、肝臓専門医と連携しながら診療を進めていく必要がある。
血栓塞栓症
IBD患者の生命予後にかかわる重要な合併症の一つであり、そのリスク因子は、高齢、手術例、カテーテル留置、低アルブミン血症、CRP高値、D-ダイマー高値、下肢静脈瘤、血管炎などである。
IBD患者では健常人や非IBD患者の2~3倍の静脈血栓症の発症率であり、活動期のIBD患者の静脈血栓症合併率は高く、入院、最年少例などの疾患活動性の高い状態および静脈血栓症の既往のある場合には頻度が高い。
動脈が0.87%、静脈が1.03%と静脈がやや多い。
https://med.kissei.co.jp/region/gastroenterology/ibd/medical-tips001/index2.html
参考文献:潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和5年度改訂版
http://www.ibdjapan.org/for_medical/pdf/doc15.pdf