その他
2021.05.03
新規尿酸降下薬SURIへの期待と展望 内田俊也先生
2021年4月20日
演題「エビデンスとリアルワールドから考える高尿酸血症の最前線 ~新規尿酸降下薬SURIへの期待と展望~」
演者: 帝京平成大学 教授・国際交流センター長 内田 俊也 先生
場所: ローズホテル横浜
内容及び補足「
明治初期にはほとんど見られなかった高尿酸血症患者は、食生活の欧米化に伴って年々増加し、2010年頃には成人男性の20~25%、成人女性の5%に見られるようになってきた。
また高尿酸血症により引き起こされる痛風の有病率は、30歳以上の男性で1%を超えていると推定され、年々増加している。
高尿酸血症患者のおよそ80%には、高血圧、肥満、耐糖能異常や脂質異常症といった生活習慣病が合併し、その背景には内臓脂肪の蓄積やインスリン抵抗性が関与することが示唆されている。このため、高尿酸血症は、動脈硬化性疾患である、脳卒中、虚血性心臓病、心不全などの臓器障害とも密接な関係を持つ。
高尿酸血症の治療指針は、高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版において以下の図のように提唱されている。
高尿酸血症は、尿酸の溶解度を超えて析出した尿酸塩血症が臓器障害をもたらす痛風関節炎や腎障害などの尿酸塩沈着症を念頭に定義されており、この際の基準値は血清尿酸の飽和濃度である7.0mg/dLを超えるものと定義され、性・年齢を問わない。一方、血清尿酸値の飽和濃度である7.0mg/dL以下であっても、生活習慣病のリスクが増加することが示されているが、血清尿酸値との直接的な関連は証明されていないが、尿酸値と疾患死亡リスクの相関関係はいくつか示されており、女性においてより強い関連がみられている。
したがって、生活習慣病マーカーとしては下図の様な考えとなる。
新型コロナウイルス感染症の重症化因子として男性、高齢者、喫煙者、併存疾患(心血管系、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患)が挙げられているが、慶應義塾大学呼吸器内科学教授の福永氏らはCOVID-19患者345例を対象に検討した結果死亡に至る危険因子に効能さん血症も加わることをJ. Infect 2020nenn 9月10日オンライン版に報告した。
2020年6月中旬までに慶應義塾大学とその関連病院14施設に入院したCOVID-19患者345例で年齢の中央値は54歳で男性が198例(57.4%)であった。併存疾患は高血圧が90例(26.1%)、糖尿病48例(13.9%)、高尿酸血症28例(8.1%)で、症状としては発熱252例(73.0%)、咳嗽166例(48.3%)、全身倦怠感133例(39.5%)であった。
酸素吸入を要する重症化の危険因子は、COPDの併存、入院時の症状としての意識障害、息切れ、全身倦怠感などが関与していた。
死亡に至る危険因子としては、併存疾患としての慢性腎臓病、年齢群(高齢であるほどリスクが高い)、その次に高尿酸血症が多重ロジスティック回帰分析の結果上位に挙げられた。
「高尿酸血症により、サイトカンストームを通じて過剰に炎症が増幅され、COVID-19の重症化やそれに伴う死亡リスクを高めた可能性が考えられる」と指摘している。
https://www.journalofinfection.com/action/showPdf?pii=S0163-4453%2820%2930590-9
哺乳類の多くは、尿酸酸化酵素(Urate oxidase)により尿酸はアラントインへ分解され、硬骨魚類ではアラントイナーゼによりアラントイン酸に、両棲類、軟骨魚類ではアラントイカーゼによって尿素へと分解される。
このUrate oxidaseは、ヒト、チンパンジー、ゴリラなどの類人猿と一部の旧世界サル、鳥類、一部の爬虫類でその活性が失われている。尾田らはこの酵素の遺伝子を調べ、ヒト、ゴリラ、チンパンジー、オランウータンでは第2エキソンにCGAからTGAへのナンセンス変異を見出し、1500万年前に起こったと推定している。テナガザル、フクロテナガザルでは第2エキソンの異なる部位のナンセンス変異またはエキソン3の一塩基欠損、エキソン5ノ一塩基挿入を見出し、900万年前に起こったとしている。このように霊長類で異なる突然変異によって尿酸酸化酵素が失われたことは、進化学的に見て有利な突然変異であったと考えられる。
それでは尿酸はどのような生理作用を持っているのであろうか?
これについてのもっとも一般的な考え方は、尿酸の持つ抗酸化作用による説明である。
かつて夜行性の哺乳類から進化した霊長類は、昼間樹上生活をすることにより強い紫外線に曝されることになった。
アスコルビン酸の整合性の経路の最後の段階にかかわる酵素L-グロノラクトンオキシダーゼが霊長類と一部の哺乳類で突然変異により3500~5500万年前に失われている。
アスコルビン酸合成酵素を失ったことは、進化学的に見て有利であったとするいくつかの説が提唱されているが、確定された説はない。しかし、人類の遠い先祖は、さまざまな観光ストレスにさらされながら生き延びてきており、血清尿酸の増加、アスコルビン酸の減少はそうした状況下で適応に有利であったものと考えることができる。
尿酸の持つ抗酸化作用は有用なものであったと考えられる(Johnson, R. J. et al.:Med. Hypotheses, 71:22-31, 2008)。
霊長類における最大寿命と血漿尿酸値/SMR [特異代謝率(cal/g/day)] の関係を数に示す。尿酸とと寿命の間に一定の関係がみられる。しかし、尿酸の意義に関しては、摂食行動の促進、カフェイン用の神経刺激作用、血圧調節作用、免疫調節作用などの可能性も指摘されているので、高尿酸血症の進化医学的意義については、なお検討が必要である。
https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/evolutionary_medicine/vol2n1.html
プリン体は、肝臓での生合成と食事からの摂取によって産生された尿酸は一旦体内の尿酸プールとして体内に蓄えられ、過剰分700㎎が、腎臓から尿中(500㎎)へ、腸管から糞中(200㎎)に排泄される。尿酸プール量は成人男性で約1200㎎、女性で約600mgと一定に保たれている。
高尿酸血症は、尿酸の産生過剰、排泄低下、およびその混合に分けられる。
日本における高尿酸血症の頻度は排泄低下型が約6割を占め、残りで、産生過剰と排泄低下型が約3割と考えられている
プリン体の代謝経路を示す。
アデノシン→イノシン→ヒポキサンチン→キサンチン→尿酸となる。
高尿酸血症・痛風の治療薬は、1956年プロベネシド、1969年アロプリノール、1979年尿酸排泄薬ベンズブロマロン、2011年非プリン型選択的キサンチンオキシダーゼ阻害剤:フェブキソスタット、トピロキリスタット、そして2020年選択的尿酸再吸収阻害薬ドチヌラドが発売された。
近位尿細管における尿酸トランスポーターを以下の図に示す。URAT1は、近位尿細管細胞の管腔側膜に発現し、尿酸を尿から細胞内に取り込む代表的なトランスポーターである。運ばれた尿酸を血管へ輸送する血管側膜に発現しているのがGLUT9である。これらの尿酸トランスポーターを介した尿酸の輸送が亢進すると、尿酸の再吸収が亢進し、血清尿酸値が上昇することになる。
一方、URAT1とは逆に、管腔側膜で尿酸を細胞内から尿中へと排泄しているのがABCG2である。
ABCG2は腸管の管腔側膜にも発現しており、尿酸を細胞内から便中へと排泄している。
URAT1は有機アニオントランスポーターOATファミリーに属する尿酸トランスポーターで、SLC22A12遺伝子にコードされており、遺伝子変異によりその機能を喪失すると特発性腎性低尿酸血症をきたす。
正常な尿酸排泄においては、尿酸は糸球体で100%濾過された後、近位尿細管に運ばれ、尿酸トランスポーターを介して「再吸収」と「分泌」の両方が行われる。そして最終的に尿中に排泄される尿酸は糸球体でろ過された尿酸の10%程度である。
何らかの原因により近位尿細管に運ばれた尿酸のURAT1を介した再吸収が亢進すると、尿酸の排泄が低下し、血中の尿酸量が増加し、高尿酸血症となる。
高尿酸血症の原因の一つとして高インスリン血症が挙げられている。
インスリンは、近位尿細管にあるSMCT1というトランスポーターを介してNaの細胞内の吸収を亢進する。SMCT1は乳酸やニコチン酸などのモノカルボン酸を細胞内に取り込む。URTA1はモノカルボン酸の交換輸送物質として尿酸の再吸収が亢進する。従って、インスリン抵抗性がある状態では、高インスリン血症によりURTA1を介した尿酸の再吸収が亢進する結果高尿酸血症となると考えられる。
選択的尿酸再吸収阻害薬(Selective Urate Reabsorption Inhibitor:SURI)であるドチヌラドは腎臓の近位尿細管においてURAT1に結像し阻害作用を示す。
ドチヌラドは、URAT1選択性が高く、ABCG2、OAT1、OAT3などの尿酸トランスポーターへの阻害作用が弱いことが示されている。
ドチヌラドは、ABCG2、OAT1、OAT3を介した尿酸の分泌には影響を及ぼさず、URAT1を介した尿酸の再吸収を選択的に抑制し、効率的に血清尿酸値を低下させることが期待される。
また、腸管においてもABCG2を介した尿酸の分泌に影響を及ぼさず、腸管排泄への影響が少ないと考えられる。
ドチヌラドの投与量依存性に血清尿酸値は低下することが示されており、血清尿酸値6.0mg/dL以下達成を念頭に置いた治療の際には、有効な薬剤といえる。
ABCG2(ATP-binding caseette transporter G2)は非依存的に抗癌剤体制を示した人乳癌細胞から発見されたトランスポーターであり、肝臓や腸管、腎尿細管、脳などに発現しており、基質化合物の胆汁中・尿中への排泄促進、消化管吸収の抑制、血液脳関門・胎盤・精巣におけるバリア機能などを担っていることが示されている。
ABCG2遺伝子多型の日本人におけるアレル頻度は高く、発現量および機能変化を伴わない34G>A(V12M)は19.2%、たんぱく発現量が半分に低下する421C>A(Q141K)は31.9%、終止コドンが生じ機能欠損となる376C>T(Q126X)は2.8%であると報告されている。Drug Metab. Pharmacokinet.,(2006)21、109-121.
日本人の健康診断受診者のサンプルを用いて、血清尿酸値とABCG2遺伝子多型の関連性について量的形質座位(Quantitative trait locus:QTL)解析を行った結果、Q141K変異の保持数が多いほど、血清尿酸値が上昇していた。Q126XとQ141Kの組み合わせから推定される尿酸輸送活性の低下に伴い、オッズ比で示される痛風発症リスクは最大25.8倍も高まることが明らかになった。
また、ABCG2の機能低下が高尿酸血症発症に及ぼす影響を、人口寄与危険度割合という指標を用いて評価した結果、ABCG2の機能が3/4に低下した場合は29.2%であった。一方、BMI≧25.0の肥満や大量飲酒(男性>196g/週、女性>98g/週)、60歳以上の加齢で同様に検討した場合、それぞれ18.7%、15.4%、5.74%であり、ABCG2の機能低下による高尿酸血症の影響の強さがうかがえるデータである。
ABCG2機能低下による高尿酸血症発症の推定機序
- ABCG2機能低下により、腸管や腎臓におけるABCG2を介した尿酸排泄が低下する。
- 腸管では、そのため尿酸排泄が低下する。
- 腎臓においては、他の尿酸トランスポーターが存在することから、それを介して尿酸が排泄され、腸管での減少分も含め、尿中尿酸排泄量が増加する。
- 全体として、尿酸排泄が低下することから、高尿酸血症を呈する。
参考サイト
高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版
持田製薬株式会社 医療関係者向けサイト ユリス錠
https://www.mochida.co.jp/dis/medicaldomain/circulatory/urece/index.html