川村所長の勉強会参加記録
2019.02.18
失神を繰り返す62歳の女性 けいゆう病院 菅野康夫
第30回エニグマ症例検討会
日本医科大学橘桜会館2階
2019年2月15日(金)
症例3 失神を繰り返す62歳の女性
けいゆう病院 内科 菅野康夫
症例は62歳女性。日本在住26年。日本人と結婚し、以降横浜市に居住している。41歳時に一過性の左不全片麻痺を発症し、脳梗塞の診断のもと10日間入院している。42歳頃より心房細動のため、近医循環器科で定期受診しており、ワルファリン、エナラプリル、ジゴキシン、トリクロルメチアジド、スピロノラクトンの処方を受けている。3ヶ月前より眼前暗黒感に引き続き数十秒~数分間持続する一過性の意識消失を繰り返すようになった。転倒し頭部を打撲したこともあった。症状出現に決まったタイミングはなく、立位で掃除をしている際、階段昇降時、夜間安静時などに前駆症状を伴わずに出現した。かかりつけ循環器科を受診したが心電図、胸部X線、心エコーを実施されたが原因を特定できず、脳外科受診を勧められた。3日前に近医脳神経外科を受診、頭部CTにて頭蓋内に多発性の石灰化病変を認めた。前日には一日で計4回の失神発作あり。繰り返す失神の精査目的で当院を紹介受診となった。
入院後に行った冠動脈造影検査では有意病変は認めず、検査直前夜に失神発作を認め、心電図にて完全房室ブロック、心室性補充調律が確認され、Adams-Stokes症候群と診断された。基礎疾患の確認の為Tripanosoma Cruzi抗体を検査し陽性であった。
失神:意識障害が急激に発症し、一過性で、短時間で自然回復する。
原因としては、起立性低血圧、神経調節性、心原性の三つ。
失神に至る状況聴取が鑑別に重要である。
心原性失神の特徴:
失神の10%に過ぎないが予後不良。
失神前に胸痛、動悸を認めることがある。
外傷・失禁など派手な失神が多い
不整脈(除脈性・頻脈性)、虚血性心疾患、弁膜症、肺塞栓症、大動脈解離、心タンポナーデなどの背後にある基礎疾患を想定して診察する必要がある。
不整脈による失神はAdams-Stokes症候群と呼ばれる。
シャーガス病:サシガメという昆虫に媒介されるTripanosoma Cruziという寄生原虫を病原体とし、ラテンアメリカやカリブ諸国で蔓延している疾患。
感染者は600~700万人、年間死亡者数は12000人と推定されている。
Tripanosoma Cruziに感染したサシガメは主に夜間に眠っている人の顔を吸血しながら、Tripanosoma Cruziを含む便を排泄する。この排泄物に存在しているTripanosoma Cruziが目や口の粘膜や傷口から侵入し感染が起こる。
https://atm.eisai.co.jp/ntd/chagas.html
急性期:感染直後の数週間~数か月は無症状、または熱、疲労感、かゆみ、頭痛、下痢といった症状が出現し、肝腫大、脾腫がみられる。原虫が侵入した部位は赤い腫脹、硬結などの皮膚病変がありシャゴーマと呼ばれている。細が目に噛まれたところや糞が入ることによって瞼が腫れる症状(ローマニャ徴候)は週週間程度で自然に消失する。
https://atm.eisai.co.jp/ntd/chagas.html
慢性期:急性期のあと、数十年、あるいは生涯なにも発症しない人もいますが、感染者の20~30%程度に以下の合併症が出現する。
心臓合併症(~30%):心肥大、心不全、不整脈、心尖部動脈瘤・血栓形成、突然死
腸管合併症(~10%):食道又は結腸の肥大(巨大食道、巨大結腸)、これらを原因とした食事困難や排泄困難が出現。
サシガメ
https://www.discoverychannel.jp/0000016743/
http://img-cdn.jg.jugem.jp/9da/1350982/20150705_1210536.jpg?_ga=2.224320155.1816177997.1550382788-102652423.1550382788
治療法:
駆虫薬:急性期だけでなく慢性期にも使われる。ベンズニダゾール(60日間)、ニフルチモックス(90日間)
副作用が40%と高頻度に出現 ベンズニダゾール:アレルギー性皮膚炎、末梢神経障害、食欲不振・体重低下、不眠症 ニフルチモックス:食欲不振・体重低下、多発性神経障害、呕気・呕吐、頭痛、めまい
診断法:急性期は血液中にTripanosoma Cruzi原虫を観察。慢性期は血中原虫を確認することは難しく抗体検査が行われる。PCR法で病原体に特徴的な遺伝子の検出も行われる。