呼吸器系
2015.02.23
これからのCOPD治療戦略 松永和人教授
2015年2月7日 崎陽軒本店
演題「これからのCOPD治療戦略」
演者:和歌山県立医科大学内科学第三教室准教授 松永 和人 先生
内容及び補足「
COPDは有毒粒子の吸入により肺胞構造の破壊、末梢気道の障害、中枢気道の粘液の下分泌、粘液腺の肥厚がみられる疾患である。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のための ガイドライン」第 2版
これらの変化の結果、末梢気道の気流閉塞が生じエアー・トラッピングが生じる。この呼吸困難を避けるため、日常生活で動かなくなるため、身体活動性が低下し負のスパイラルが進行することになる。
QOLが低下すると生命予後も悪化することになる。
COPD患者の死亡危険度の予測因子としては、いろいろなものが挙げられているが、よく行われている6分間歩行や肺機能検査、呼吸困難度の質問票よりも、日常活動レベルがより強い因子として導き出される。
COPD患者の日常生活活動度の評価としては以下のものがある。
日常での身体活動:歩行時間、サイクリング時間、立位時間、座位時間、臥位時間、歩行時の運動強度
肺機能:一秒量、努力肺活量、機能的残気量、全肺気量、一酸化炭素、拡散能の予測率
筋力:大腿四頭筋、握力、最大吸気圧、最大呼気圧の予測率
運動能力:6分間歩行、最大仕事量、最高酸素摂取量の予測率
などが挙げられている。
実際にCOPD患者における日常生活の制限は以下のような頻度で見られる。
運動強度としての指標の一つとしてMETsがある。
2METs:着替え、2.5METs:料理、3METs:散歩、3.5METs:掃除が目安となる。
COPD患者は喫煙やその喫煙の結果いろいろな動脈硬化性疾患を発症させたと考えられていたが、近年では喫煙などの肺の障害が、全身性疾患が共存・併存する病態と考えられるようになってきた。
実際、COPDが存在することにより生活習慣病を含めた各疾患の優病衣率が高くなっている。
近年、喘息患者の死亡数は、治療薬の進歩及び疾患啓蒙の効果もあり、年々減少しているが、逆にCOPDは増加の傾向が持続し、2006年には喘息患者の約6倍にもなっている。
COPD患者さんの死亡原因も呼吸器疾患ばかりではなく、肺以外の癌、心疾患などでもなくなっている。下図の京都大学のデータでは、呼吸器疾患が40名(51%)、肺癌13名(16%)、心疾患5名(6%)、それ以外の癌3名(4%:下図は20%と誤表記)、その他18名(23%)であった。海外のデータでも癌死が少なくない。
http://journal.publications.chestnet.org/article.aspx?articleID=1044943
そこで癌の早期発見が必要となる。
その新しい検査としてCirculating Tumor Cell(CTC:血中循環腫瘍細胞)解析という手法がある。
1869年オーストリア人Tomas Ashworthにより初めて記載され、1989年イギリス人Dr. Stepahn Pagetが癌細胞の転移メカニズムとして、原発巣組織内にある癌細胞が適合する他の組織に転移して増殖するという「Seed and Soil Theory」を唱え、その説が立証される中、血液中を循環する細胞CTCsの解析が研究されてきた。
http://www.gene-lab.com/knowledge/ctc_1/ctc_1.html
168名のCOPD患者と77名のコントロール患者で検討され、COPD患者のうち5名(3%)でCTCsが検出され、4年以内に1例に早期肺がんが見つかり、陰性例ではいなかった。この研究からCOPD患者の肺癌早期発見の検査として期待されることになった。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4216113/
呼吸困難に日常活動の障害レベルを評価する問診票としてmMRCスコアがある。
COPD患者の気流閉塞の程度(%FEV1)はmMRCスコアで評価した呼吸困難症状レベルが悪化するに伴い進行している。
治療中のCOPD患者において、mMRCスコアと%EFV1との関係には有意な負の相関が認められた。COPD病気分類との関連を見てみると、mMRCスコアが0~1の症例において、高度の気流閉塞を有している症例は180例中14例7.8%とごく少数であり、mMRCスコアで気流閉塞の推定を行う際に高度な機中障害症例を見落とす危険性は低いといえる。
一方、marchスコアによる症状レベルが0~1の場合でも、58%の症例で中等度の気流閉塞が認められ、気管支拡張薬による治療が十分とは言えない。
15施設で2013年4月から2014年5月にかけて行ったCOPD Assessment in Practice (CAP) Studyにおいて安定期のCOPD患者1168例の処方内容を見てみると、
LAMA 74.3%、ICS/LABA 36.9%、LABA 34.1%、 ICS 5.8%、テオフィリン製剤 18%で、marchスコア1以上が81.3%、2以上が50%、気流閉塞COPDⅡ期以上が81.9%、Ⅲ期以上が1/3ほどいて、決して、コントロール良好の状態ではなかった。
BLAZE試験でスピリーバ(チオトロピウム)よりオンブレス(インダカテロールマレイン酸塩)は中等症から重症のCOPD患者さんの息切れの自覚症状を有意に改善した。
Airway inflammationの原因の一つであるNO由来のパーオキシナイトライトなどの活性酸化窒素種は生体内のチロシン残基をニトロ化して3-ニトロチロシン(3-NT)を生成する。比較的生体内で安定なこの3-NTを測定することによりこの系の活性を推定することができる。
COPDと喘息のクロスオーバー症例に対して喀痰中の好中球数と3-NTの発現を比較してみるとステロイド投与症例では、3-NTは抑制されていないが、テオフィリン投与症例では抑制されており、3-NT発現と好中球数は正の相関があった。
3-NT測定が、COPD患者のコントロールのパラメーターの一つとして利用できるだろう。
核内ホルモン受容体(nuclear hormone receptors;NRs)は、細胞内シグナル分子(intracellular signaling molecules)として作用する転写因子(transcription factors)のスーパーファミリー(superfamily)の一つであり、それらのリガンド結合パートナー(ligand binding partners)と反応して、遺伝子発現(gene expression)がおこなわれる。NRスーパーファミリーを配列ホモロジーで分類されておりNR4A1 (GFRP1, HMR, MGC9485, N10, NAK-1, NGFIB, NP10, NUR77, TR3)、NR4A2 (HZF-3, NOT, NURR1, RNR1, TINUR)およびNR4A3 (CHN, CSMF, MINOR, NOR1, TEC)がある。
NR4Aサブファミリーは、炎症発生下において、リポ多糖(LPS)やサイトカイン(INFγ、TNF)刺激によって生じるマクロファージ中に急速に誘導される。
NR4Aアゴニストである6-メルカプトプリン投与により瘢痕の予防、軽減、抑制が報告されている。
Bleomysine刺激で気道のリモデリング線維化は進行するが、NR4A1をノックアウトするとより線維化が進行する。TGFβ1投与でも線維化は進行するが、NR4A1を過剰発現させると軽減する。
将来的に気道のリモデリング・線維化を抑制する薬剤が期待できる。
COPD 診療のエッセンス 2014 年版「補足解説」