川村所長の勉強会参加記録

2015.03.23

歯周病菌感染症は脳梗塞に影響する? 細見直永先生

2015年2月27日 ハイアット・リージェンシー
演題「歯周病菌感染症は脳梗塞に影響する?」
演者:広島大学病院 脳神経内科 診療准教授 細見直永 先生
内容及び補足「

歯周病は歯を支える歯肉や歯槽骨が破壊される疾患である。
歯の根の表面にあるセメント質と歯槽骨との間に歯根膜という線維組織があり、葉が抜け落ちないように支えている。

日本人の40歳以上の約8割がこの疾患にかかっており、生活習慣によりこの疾患が起こりやすくなるため生活習慣病の一つとして考えられている。

歯周病の原因は細菌性プラーク(バイオフィルム菌と歯周病原細菌)の形成から始まる。
プラークは細菌塊で0.1㎎の中に1億を超える細菌が棲みついていて、便の中の菌と同等か10倍の数に達するといわれている。

唾液成分中の糖蛋白質が歯の表面にペリクルという薄い皮膜を作る。
その皮膜状に付着したミュータンス菌がショ糖を利用してグリコカリックスを作り、菌数が増殖してくる。この状態を細菌性プラークまたはバイオフィルムと呼んでいる。
バイオフィルムの中に菌種は500種類を超えてコミュニティーを作っている。

バイオフィルムの中は、水分、栄養分も十分であり、37度の温度であり、細菌の培養に好的であり、悪玉菌が産生する毒素で歯肉が腫脹し、出血や、膿が産生されたり、歯の周りの骨を溶かす原因となる。
このプラークが唾液や血液の無機質成分を吸って固まったものが歯石である。

http://www.jda.or.jp/park/trouble/

口腔内の菌数は、起床時が一番多く、食事の摂取で減少し、口腔清掃後はより減少するはずであるが、きちんと磨けなくて、歯磨きをすることによってかえって、歯を浮かせるだけになっている人も少なくない。

http://panasonic.biz/healthcare/saikin_c/nikkei/

口腔内菌の増殖カーブを総合して一本に表示すると下図の黒い線となり、2→4→8→16→32→64→128と2錠で増加する。

デンタルフロス&歯ブラシのジャストケア(ブルーカーブ)
良く噛んで食べることにより、歯のプラークに対して「噛むクリーニング」を行うことができ、それに毎食後にデンタルフロスを行って、歯の隣接面ポケットからコンタクトエリアまでこすると、プラーク除去率は90%を越えることができる。

歯間ブラシ&歯ブラシ(イエローカーブ)
歯ブラシと歯間ブラシでの毎日のケアによる除去率は70%ぐらい。毎食後のケアでなければ菌の層は分厚くなり除去が困難となる。
食後の菌の増殖力はすごく、1時間で1万倍になる。
食後の手入れは3分以内のケアが大切。就前まで放置すると歯の表面はカルシウムの溶けだしで弱くなっていて(特に歯根面はエナメル質よりも脱灰が進んでいる)、歯ブラシでごしごし磨くことによりどんどん削れ、知覚過敏となる。

歯ブラシのみ(レッドカーブ)
効果的な軽い毛先磨きで10分以上磨いても、プラークの除去率は70%位までにとどまる。
多くの人が行っているごしごし磨く場合には、それ以下の効果しかない。歯周ポケットの長さが、毛先が届かない場合には50%も磨けてないことになる。

http://www.white-family.or.jp/htm/youtube.htm

歯周病の発生原因としては、
① 微生物因子(歯周病菌)
② 環境因子
  (ア) 喫煙
  (イ) 口腔内清掃状況
  (ウ) 初診時のポケットの深さ
  (エ) プラークの付着量
  (オ) ストレス
  (カ) 口腔清掃教育の達成率
  (キ) 食生活・専門医への受診回数
  (ク) 入れ歯や差し歯などの状況
  (ケ) 口呼吸
③ 宿主因子
  (ア) 年齢
  (イ) 人種
  (ウ) 歯数
  (エ) 糖尿病
  (オ) 歯肉浸出液中の物質
  (カ) 白血球機能
  (キ) 遺伝
④ 咬合因子(分類によっては環境因子に入れられる)

脳卒中入院患者の30日以内の合併症の頻度が報告されているが、肺炎は、入院早期においては、痙攣に次いで多く、その中でも嚥下性肺炎が重要である。

http://stroke.ahajournals.org/content/27/3/415.full
脳卒中患者急性期においては29-67%の頻度で嚥下障害が認められており、肺炎や、敗血症、死亡につながることが数多く報告されており、急性期脳卒中患者の二番目に多い原因が肺炎である。
誤嚥性肺炎となってから一年間に脳卒中に関連する嚥下障害となった患者の20%以上が死亡しているとの報告がある。

嚥下障害のための管理戦略として、以下のものが挙げられている。
● 経口摂取の安全性を増加させるため調整された食事や液体
● 誤嚥や息詰まりのような合併症を予防するためにリスクが低い食事の実践と訓練
● 脱水を予防するため経口摂取をモニターする
● 適切な栄養分を維持するため食事の供給
● 嚥下できない患者のために経腸栄養法を実施
● 特異的な生理学的嚥下機能障害の再建のための嚥下治療の実行
http://www.kio.ac.jp/~a.matsuo/pdf/a15.pdf

誤嚥性肺炎再発予防には
① 口腔ケア
② 耳鼻咽喉科による変化機能評価
③ 嚥下補助食品の利用
④ 適切な姿勢保持
が有効である。

http://www.omichikai.or.jp/park/drstalk_50.htm

歯肉炎で1.24倍、歯周病で2.11倍、心血管疾患が上昇するリスクファクターであることが報告されるようになってきた。
http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=485468
また、口腔ケアを行うことにより血管内皮機能の改善が認められることも報告された。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa063186

歯周病の菌が腹部大動脈瘤の組織から高頻度に見つかることが報告され、
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15465379
東京医科歯科大学との共同研究で腹部大動脈に塩化カルシウムを塗布しで大動脈瘤を誘発する実験モデルにおいて、歯周病菌の一つであるP. gingivalis(Pg)を注入することにより歯周病原細菌感染を誘導し腹部大動脈系を調べた。


塩化カルシウムを塗布し、Pgを感染させたCa+Pg+群は、塩化カルシウムを塗布し、Pg を感染させないCa+Pg-群に比べ腹部大動脈径は有意に拡大した。

歯周病原因菌のうちP. gingibalis(Pg)、P. intermedia(Pi)、A. acinomycetemcomitans(Aa)に対するIgG抗体価を測定してみると、アテローム血栓性脳卒中患者は、ラクナ梗塞性脳卒中患者や心原性脳塞栓症患者に比べてPiの抗体価が有意に高く検出された。
歯周病原細菌の関与によりアテロームが形成され、血栓の影響によって生じる脳卒中の原因となっている可能性が示唆された。

https://www.m3.com/clinical/kenshuusaizensen/202137

抗菌剤投与を行わず、抜歯をした際に口腔内細菌は血液中に入り込み、5分後にピークを迎え、20分後にはほとんどの菌が殺菌されるが、Amoxicillinを事前に投与すればかなりの菌量を減らすことができる。
実は、一回歯をブラッシングするだけでも1.5分後に菌血症が起こっているが、20分後にはほとんど消失している。
通常血液が体の中を巡回するのに2~5分といわれているので、歯磨きによって体中に菌が運ばれている可能性があることになる。

Incidence and Duration of Bacteremia at Six Time Points from Infective Endocarditis-Related Bacterial Species
Numbers at the baseline represent the time points for the 6 blood draws: 1) baseline; 2) 1.5 min. and 3) 5 min. following initiation of brushing or extraction; and 4) 20 min., 5) 40 min., and 6) 60 min. following completion of the brushing or extraction.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2746717/figure/F3/

血小板が多く存在する中にPgを投与して培養すると、5分後に小さな血小板凝集塊ができ、10分後には大きな血小板凝集塊となり、その中にPg が入りこむことを岩井らのグループが示している。

血小板で守られた歯周病原細菌が血液中に存在し、血管壁に付着して、動脈硬化や動脈瘤の形成に関与していると考えられる。

https://www.m3.com/clinical/kenshuusaizensen/202137
適切なタイミングで、適切な歯磨き、デンタルフロスなどを使用した口腔ケアを実施することにより、歯周病原細菌を介した動脈硬化の発症を予防できる可能性が高い。

参:糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン
http://www.perio.jp/publication/upload_file/guideline_diabetes.pdf

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