川村所長の勉強会参加記録

2017.08.28

侵襲性髄膜炎菌感染症

2017年8月24日 
演題「侵襲性髄膜炎菌感染症」
演者:ANOFI MRさん
場所:川村内科診療所
内容及び補足「
神奈川県横須賀市にある防衛大学校の学生寮に住んでいた10代の男子学生が2017年7月19日の夕方発熱の症状を訴え病院に入院しましたが、症状が悪化し、7月25日に死亡した。この男子学生は侵襲性髄膜炎菌感染症を起こしており、この学生と接触した76人を調べたところ10人から髄膜炎菌が検出されましたが、8月1日時点では新たに発症した人はいませんでした。
2012年ロンドンオリンピック・パラリンピック大会の公衆衛生リスク計算をするために包括的専門家チームが評点化した公衆衛生リスクを示す。ワクチン予防可能疾患の中では、侵襲性インフルエンザ菌感染やポリオよりも侵襲性髄膜炎菌性疾患(invasive meningococcal disease:IMD)でリスクが高いと評価されている。

また、欧州疾病予防管理センターによる2012年ロンドンオリンピック・パラリンピック大会のための感染症情報における優先疾患としては大腸菌感染症よりも上で、最も大会への輸入の危険性が高い疾患として評価されている。

NA1:病原体、ベクターまたは伝播条件の欠如により該当せず;NA2:病原体に感染した人の2012年ロンドン大会への訪問または参加の可能性が低いため該当せず;NA3:ヒトからヒトへの感染があり得ないか、あるいは非常に限られているため該当せず;NA4:潜伏期間が長いため該当せず;ND:決定されず。

国立感染症研究所において、代表的な感染症においての基本再生産数(一人の感染者が周囲の免疫を持たない人に感染させる二次感染者の数)と集団免疫率(ある集団においてどれくらいの割合の人がその感染症に対する免疫を持っていれば、集団の中で感染が阻止されるか)を示す。

この表には髄膜炎菌は記載されていないが毎年流行で問題となっているインフルエンザよりも、麻疹や百日咳の方が感染力が強いことがわかる。

髄膜炎菌(Neisseria meningitides)は1887年にWeichselbaumlによって、急性髄膜炎を発症した患者の髄液から初めて分離された0.6~0.8μmのグラム陰性双球菌で、非運動性である。患者のみならず、健常者の鼻咽頭からも分離されるが人以外からは分離されず、自然界の条件では生存不可能な菌である。

http://www.imd-vaccine.jp/what/
髄膜炎は脳や脊髄を覆う髄膜に炎症が生じる疾患で、エンテロウイルス属、ムンプス、単純性ヘルペスなどのウイルス感染、マイコプラズマなどに起因する無菌性髄膜炎と肺炎球菌、インフルエンザ菌、B群連鎖球菌、大腸菌などの細菌性髄膜炎に分類され、後者の方が重篤で死亡例や後遺症を残す頻度が高い。

クシャミなどによる飛沫感染により伝播し、起動を介して血中に入り、さらには髄液にまで侵入することにより、敗血症や髄膜炎を起こす。
莢膜多糖体の種類によって少なくとも13種類(A、B、C、D、X、Y、Z、E、W-135、H、I、K、L)の血清型に分類される。起因菌として分離されるものでは、A、B、C、Y、W-135が多く、日本で2013年4月~2015年8月までに届け出があったIMD80例ではY群が一番多く次がC群だった。

臨床症状:気道を介して血中に入り、菌血症・敗血症を起こして、高熱や皮膚、粘膜における出血斑、関節炎などの症状が現れる。

NEJM. 2001;334(18):1372

引き続いて、髄膜炎に発展し、頭痛、吐き気、精神症状、発疹、項部硬直などの症状を呈する。

劇症型は突然発症し、頭痛、高熱、痙攣、意識障害を呈し、DIC(汎発性血管内凝固症候群)を伴い、ショックに陥って死に至り、Waterhouse-Fridenrichsen症候群と呼ばれている。

他の菌と比べて100~1000倍の毒素を出すために症状の進行が速く、風邪かなと思ってから1~2日以内に意識が亡くなったり、ショック状態となり死亡することもあります。日本の最近のデータでは、発症後の死亡率は19%と報告されている。国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR Vol. 36 p. 179-181: 2015年9月号)
菌血症で症状が回復し、髄膜炎を起こさない場合もあるが、髄膜炎を合併した場合、治療を行わないと致死率はほぼ100%である。早期に診断され適切な治療を受けた場合でも、発症者の5~10%は発症後24~48時間以内に死亡し、治療により回復した場合でも、11~19%に聴覚障害、神経障害、四肢切断といった後遺症が残る。
Lancetに15~16歳の患者の場合のIMDの臨床経過が載っている。

IMDの発症頻度を見てみると、日本では0~4歳および15~19歳にピークが見られる。

日本人における髄膜炎菌保菌率は0.8%とされており、B型肝炎ウイルスのキャリア率が0.025%であり、感染が接触感染であることを考えると、飛沫感染で、保菌率が.8%の髄膜炎菌の予防接種は、B型肝炎以上に必要であるといえる。
2013年4月1日より、5類感染症の「髄膜炎菌性髄膜炎」は「侵襲性髄膜炎菌感染症」に変更され、この診断をした際には、7日間以内に届け出ることが義務付けられ、この届出の基準は2015年に改正され、現在は診断後ただちに患者さんの名前や住所を届け出ることが必要になった。

治療:第一選択薬はペニシリンGである。
予防:A、C単独、もしくはその2群、およびA、C、Y、W-135の4種混合の精製莢膜多糖体ワクチン(メナクトラ:筋注)が使用されている。2歳以下の幼児には最初から効果は期待できず、さらに成人に対しての効果は数年程度しか持続しないとされている。

感染リスクは、宿主要因として、1)5歳未満の幼児、2)11~19歳の思春期、3)補体欠損症や無脾症などがあり、環境因子として、入寮生活や軍隊入隊者などの高密度集団生活が知られている。行動要因としては、ペットボトルの回し飲みが挙げられる。
ワクチンはこれらのリスク要因を持っているヒトと、海外旅行に行く人に勧められている。

乾季である12月~6月に上記地域で流行が見られている。
尚感染者との接触がある人への緊急対策としてはリファンピシンやニュウーキノロン薬を二週間予防投与が行われる。

参考サイト:
サノフィ よくわかる髄膜炎菌

厚生労働省検疫所 FORTH
NIID国立感染症研究所

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