川村所長の勉強会参加記録
2013.06.15
糖尿病と歯周病 横浜市立みなと赤十字病院 渡辺孝之副院長
2013年6月11日 横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ
演題「糖尿病と歯周病―負のスパイラルを阻止せよ―」
演者:横浜市立みなと赤十字病院 副院長 渡辺孝之先生
内容及び補足「歯周病は歯肉の境目のポケットである、歯周ポケットに細菌(特に嫌気性菌)が入り込んで起こす慢性の炎症性疾患で、糖尿病との相互に悪化させている関係がある。歯垢(プラーク)や歯石が歯と歯茎の境目にできる。プラーク1mgあたり一億個の細菌が何時といわれている。
平成17年の歯科疾患実態調査によると、そもそも日本人30~70歳では80%以上の人に何らかの歯周病の所見を認めており、45~80歳では、4mm以上の歯周ポケットを有する人の割合は40~50%に達すると報告されている。現在の日本人で80歳以上の人の現在歯数は平均9.8本であり、20本以上歯が存在している人の割合は24.1%であるという。
歯周病が全身に対して及ぼす影響として①糖尿病、②虚血性心疾患、③誤嚥性肺炎、④早期低体重児出産、⑤感染性心内膜炎が挙げられる。
健康人と歯周病の人の歯根骨のレントゲンを示す。
糖尿病が歯周病に及ぼす影響としては①唾液中の糖濃度の上昇、②口腔内乾燥、③白血球機能低下などの易感染性、④創傷治癒遅延、⑤歯周組織への血行障害、⑥歯周組織破壊物質産生の高血糖による助長が挙げられる。歯周病関連細菌としては、P.g.菌:Prophyromonas Gingivalis、A.a.菌:Actinobacicclus action-mycetemcomitans、P.i.菌:Prevotella intermedia、B.f.菌:Bacteroides forsythus、T.d.菌:Treponema denticolaが挙げられる。
糖尿病と歯周病の関係(以下の報告がある。)
① 糖尿病でない人に比べ糖尿病の人は約二倍歯周病にかかっている。
② 糖尿病に人では、歯周ポケットの深さなど歯周病の重症度を示す指標が悪い。
③ 血糖コントロールが悪いほど、歯周病の重症化がみられる。
④ 糖尿病の罹病期間が長いほど歯周病に多くかかっている。
⑤ 重度の歯周病があると、糖尿病の合併症の発症率が高い。しかし、進行しすぎても変化はあまり見られない(食事がとれなくなるため?)
⑥ 歯周病治療により、炎症が改善されると血糖コントロールが改善する。3-9カ月の期間のメタ解析ではヘモグロビンA1cが0.4%改善した。
これらの研究は横断調査が多く、歯周病と糖尿病の一側面しかとらえていない可能性があるが、血糖コントロールが悪化すれば、歯周病の発症頻度が上昇しより重篤化する傾向があり、この負のスパイラルを改善する必要がある。逆に考えると、歯周病の予防と治療が血糖コントロールを良くする可能性があり、血糖値のコントロールが歯周病の予防の一役を買っている。当然、喫煙や、歯の磨き方や食べ物の食べ方などほかの要因も重要であるので、総合的に、対応していく必要がある。
糖尿病の治療として、低炭水化物食ダイエットが巷で人気を博している。確かに、短期間においては、他の健康食よりも、体重の減少は有意に優れているが、長期的にみてみると、リバウンドする傾向がみられ、地中海食(日本食に近く、油としてはオリーブオイルを使用している食事)や脂肪制限食と変わらない結果となっている。また、下の図にあるように腎機能が悪いステージⅢの慢性腎疾患患者においては、糖質制限食は、他の建国食事に比べ、腎機能の悪化を招くことが示されている。