川村所長の勉強会参加記録

2013.12.19

糖尿病薬物治療の現状と将来展望 川崎医科大学加来浩平教授

2013年12月12日 横浜グランドインターコンチネンタルホテル
演題「糖尿病薬物治療の現状と将来展望」
演者:川崎医科大学特任教授 加来浩平先生
内容及び補足(含質疑応答)「2013年に世界の糖尿病患者は3億8200万人と推定されており、そのうちの6-7割の人がアジアに集中している。しかも糖尿病患者の37%の人が無治療で放置されている現状があり、しかも若い人に多いことが問題である。1955年時点に比較して35倍という上昇率である。その原因は、高脂肪食、運動不足、肥満、内臓脂肪の上昇が挙げられている。肥満→メタボ→糖尿病と移行するに従い、大血管障害や細小血管障害が発生・進展するだけでなく、癌の発症や認知症の合併の頻度も増加してくる。
糖尿病と診断される10年以上前から耐糖能障害が存在し、糖尿病と診断された時には膵臓のβ細胞機能は半分程度に低下している。

39%にまで減少しているとしているも報告もある。
糖尿病治療において、早ければ早いほど、血糖値が低ければ低いほどよいと考えられていたが、厳格な血糖管理を行う臨床研究において、死亡例が多く認められることが判明した。Accord Studyでは標準療法の死亡率が4%に対し強化療法では5%であり、重度の低血糖発作は、標準療法では5.1%なのに対し、強化療法では16.2%にも達している。

コントロール不良で、罹病医期間が長い人ほど重症低血糖を起こすリスクが高く、死亡の危険度が上昇する。
2009年には、下記の人々の血糖コントロール目標を厳格にしないことが勧告された。
・重度の低血糖発作の既往のある患者
・余命の短い患者
・重度の細小血管障害や大血管合併症を合併した患者
・併存する疾患が重度である患者
・糖尿病の教育をし、インスリンを含む多剤併用療法でも一般的な管理目標値に達成しない罹病期間の長い患者

2012年10月に米国老年学会から高齢者の血糖コントロールの目標の声明が出された。

健康な患者はHBA1c<7.5を目標にし、中等度の健康状態の患者はHBA1c<8.0を目標とし、健康状態が悪い患者はHBA1c<8.5を目標とする提言である。
日本でも荒木先生が通常の糖尿病患者においてはHBA1cを6.5~7.5、認知症がある患者においては7.5~8.5を目標としようと提唱している。
糖尿病があることにより認知症が増加することが示されてきており、ロッテルダムにおいては2型糖尿病患者において認知症は2倍になると言われており、久山町の研究においても認知症が増加するが、食後に時間値との相関が最も強かったことが示されている。

慢性の高インスリン血症は脳細胞内へのインスリンのシグナル伝導の進行を抑制し、脳細胞のインスリン作用を傷害し、脳細胞の糖の利用を傷害するばかりでなくアミロイドβやタウ蛋白の代謝異常が進行し、蓄積する。アミロイドβは脳で産生され、体循環に流れインスリン分解酵素によって消去されるが、高インスリン血症があると、この酵素がインスリン代謝に使用されるため、アミロイドβの代謝が低下する。また、高インスリン血症が脳内でもストレスとして働き、炎症性サイトカインの増加を誘導し神経障害を来すばかりでなく、高血糖による代謝異常から糖化終末産物(AGE)を貯蓄させ、この変化からも神経障害進行する。などの機序から、認知症の発症頻度が増加する。

アクトスの投与により糖尿病患者の認知症が改善したとの報告がある。
GLP-1のアミロイドβの合成低下や神経突起の成長促進、神経細胞のアポトーシスの抑制などの効果があり、治療効果も期待できる。

糖尿病の新薬としていくつかの薬が現在開発、臨床試験が行われている。
腎臓の糸球体で排泄された糖を尿細管で再吸収する際に働いているSGLT2(sodium-dependent glucose transporter2)の働きを阻害して、腎臓から体外に糖を排泄することにより、血糖値を低下させる薬が来年使用できるようになる。作用機序から考えて、低血糖の危険は低く、体重減少も期待でき、トホグリフロジンの効果としては、HBA1c値1.0%の低下(20mg投与群)、体重3㎏の減少(40mg投与群)が認められた。副作用とした心配されるのは、尿路感染症、脱水や筋肉量が少ない人においてはサルコぺニアなどがある。
その他に、膵島細胞に発現するGタンパク共役受容体の一つであるGPR40を作動させて、グルコース濃度依存的にインスリン分泌を促進させる薬剤がある。現在第3層まで進んでいて25mg投与群でHBA1cが0.75%、50mg投与群で1.01%の低下がみられている。

アディポネクチンと同様の働きをする物質アディポロンも、期待される新薬候補の一つである

今までの糖尿病治療はanti-hyperglycemiaであったが、今後はanti-obese related dieseaseやanti-diabetesが目標となってきた。

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