その他

2017.07.29

高齢者の心と睡眠 山口隆之先生

2017年7月14日 
演題「高齢者の心と睡眠」
演者:あしがらクリニック 院長 山口隆之 先生
場所: ホテルモントレ横浜
内容及び補足「
睡眠障害の現状:日本人の1/5が睡眠障害を経験し、1/20が睡眠薬を服用しているといわれている。
生理的(正常)な睡眠
朝起きて夜寝るサーカディアンリズムがあり、このリズムを作っているものの一つにメラトニンというホルモンがある。
メラトニン:光刺激により分泌が抑制され、暗くなると分泌が促進される。
 
メラトニンの分泌は、日中、光を浴びている時間帯は抑制され、起床後約14~16時間後にあたる睡眠時間帯に上昇を開始し、深夜にピークを迎えるので下図のような血中濃度の変化となる。

メラトニンは脈拍、体温、血圧などを低下させることで睡眠に導く作用があり、抗酸化作用もあり、生殖細胞の保護・活性化作用、ホルモンバランス改善作用もあるといわれており、不妊治療にも有効であるとの報告があるが、性腺刺激ホルモン抑制作用もあり、メラトニン過剰摂取により月経が止まったり、メラトニンの減少により思春期早発をきたす可能性も指摘されている。また、免疫系に対する効果から発癌を抑制する効果も確認されている。
メラトニンは、トリプトファン→セロトニンを経由して合成されるので、トリプトファンを多く含む肉、魚、マネ、種子、ナッツ、豆乳などの摂取を心がけるとよい。
メラトニンの分泌を減らすもの、強い光、ブルーライト(スマホ、パソコン、テレビなどから出る)、一部のLED、交感神経系の興奮、ストレス、自律神経系の乱れ、などがある。
メラトニンの副作用:悪夢、血圧低下、吐き気、腹痛、睡眠障害

体温と睡眠の関係:
深部体温が下がるときに、非とは眠くなり、上昇するときには眠れません。一般的には体温が正午過ぎと、起床してから15~16時間後に低下してくるので眠くなる時間となる。昼食後に眠くなる理由の一つが正午過ぎの体温低下なのである。
逆にいつも寝る時間の3~4時間前は体温が高く眠ることが困難な時間帯なので、この時間帯に寝ようとする努力を続けると、無駄な努力をすることになるし、布団の中が眠れない場所だという習慣をつけることにもなりかねない。

睡眠時間と睡眠の深さの関係:
通常の睡眠のパターンでは、睡眠について最初の3時間ほどの間にステージ3~4の深いノンレム睡眠に移行する。

この睡眠の深さは年齢とともに変わってくる。

高齢になると睡眠の浅いところがより浅くなってくるので、ちょっとした物音などで目覚めやすくなってくる。これは加齢に伴う変化であり、『中途覚醒による不眠』とは異なるものである。したがってこの時点での目覚めに対して、持続時間の長い眠剤に変更してしまうと、起床時の目覚めが悪くなり、朝のフラツキの原因になる。目覚めた後すぐに寝つければ問題なく、もし寝つきが少し悪いのであれば、超短時間作用型の睡眠導入剤をこの目覚めた時に飲むという方法もある。
睡眠の質は睡眠時間と睡眠の深さの積:「睡眠の質」=「睡眠時間」×「睡眠の深さ」であり、加齢に伴ってこの両者は短く、浅くなる。つまり睡眠の質は加齢とともに悪化してくる。
ここまでのまとめ:
生理的な睡眠の特徴
睡眠のほとんどは最初の3時間で十分
眠りの質が最も良いのは20歳。後は下降線。
高齢者の中途覚醒は当たり前、再入眠できるか否かがポイント

良質な眠りを得る方法:太陽光によってメラトニンの分泌リズムを規則正しくし、適度な運動で深部体温を上げること
朝決まった時間に布団から出る
午前中の早い時間帯に日光浴をする
午後から夕方にかけて適度な運動をする
夜は明るいところで過ごさない

手術室の明るい光の下よりも、曇りがちの外の方が、光の量は多い。
 

睡眠障害
入眠困難:寝つきが悪い
中途覚醒:途中で何度も目が覚めてしまう
早朝覚醒:通常の起床時間よりも早く目覚める
熟眠障害:寝た感じがしない
⇒いずれの症状も「眠れない」と訴えることが少なくない。

睡眠障害の原因
【身体的要因】
 ・痛み   → 疼痛コントロール
 ・夜間頻尿 → 糖尿病、前立腺肥大症
 ・かゆみ  → 掻痒症状への治療
 ・ムズムズ → レストレスレッグ症候群
【精神的要因】
 ・不安   → 不安障害など
 ・抑うつ  → うつ病など
 ・神経過敏 → 統合失調症など

不眠症:俗に言う「不眠症」とは、身体的要因、一部の精神的要因が除外されてもなお、何らかの睡眠障害が持続することで、さらに日中の集中力低下や強い眠気などが問題となって日常生活や社会生活に著しい支障をきたしてしまう病気。

問診のポイント
睡眠障害の診療を行う上では、ただ単に夜間の睡眠障害だけに注目してはいけない。
人間の生理的な睡眠、良質な睡眠は一日の生活を通して得られるものであり、「眠れない」という患者の訴えに対して、身体的要因、精神的要因を除外した上で、一日の生活について問診する必要がある。

問診の手順
・なぜ眠れないんですか?
 痛みや頻尿、痒みやムズムズなどの身体的 要因の有無を確認する。
 また不安や抑うつ、神経過敏などの精神的 要因の有無を確認する。
身体的要因や精神的要因が除外されれば、次は一日の生活について確認する。
・朝は何時に起きていますか? ⇒起床時間が一定か確認する。
・午前中はどのようにして過ごしていますか? ⇒日光浴の習慣や機会があるか確認する。
・昼間の眠気はないですか? ⇒昼間に耐えがたい眠気がなければ睡眠時間は足りている可能性が高い。
・昼寝をしますか? ⇒長時間の昼寝や夕方の睡眠は不眠の元。
・運動する習慣はありますか? ⇒午後の適度な運動は睡眠の質を高める。
・お酒は飲みますか? たばこは吸いますか? ⇒飲酒と喫煙は睡眠の質を落とす。また緑茶や紅茶、コーヒーなどのカフェイン類も睡眠の質を落とす。
・寝る前はどのようにして過ごしていますか? ⇒寝る直前までテレビを見ていたり、寝る前に熱いお風呂に入ると寝つきが悪くなる。
・床に就いてから寝つくまでどれくらい時間がかかりますか? ⇒床に就いてから1時間以上寝つけないような人は入眠困難が疑われるが、眠くないのに布団に入っても眠れない。就床時間や睡眠時間にこだわる必要はなく、眠くなったら布団に入れば良く、朝決まった時間に起きるようにしよう。
・寝た後に途中で目が覚めますか? 
・目が覚めた後にまた眠ることはできますか? ⇒中途覚醒の中には生理的なものがある。途中で目が覚めることが問題なのではなく、その後に全く眠れなくなることが問題なのであり、特に高齢者は中途覚醒するのが当たり前という部分もある。
・朝早く目が覚めますか?
・その時の目覚めはどうですか? ⇒朝早く目が覚めても、すっきりとしたお目覚めであれば特に問題ない。睡眠相が前倒しになっているだけの可能性もあるので、それを修正したければ定時までは布団で過ごし、そこから規則正しい生活を送るようにする。

治療
「眠れない」という言葉に対して安易に睡眠薬を処方していると、依存や耐性、認知機能障害など様々な有害事象を生み出すことになる。精神科医のみならず、一般診療科の医師も安易に睡眠薬を処方しすぎない啓蒙が必要である。
①  非薬物療法
 生理的な睡眠についてきちんと説明する。
 生活指導を行うだけでも睡眠障害が改善したり、薬物療法の効果を高める効果がある。
②  薬物療法
 生活指導だけでは睡眠障害が改善しない場合、薬物療法を検討する。

非薬物療法:
<生活指導のポイント>
・朝は決まった時間に布団から出ましょう。
・午前に30分日光浴をしましょう。
・午後に30分早歩きをしましょう。
・昼寝は午後3時まで30分以内にしましょう。
・規則正しい食生活を心掛けましょう。
・お風呂はぬるま湯にゆっくりつかりましょう。
・寝酒、寝る前の一服は避けましょう。
・夜はリラックスできる方法を見つけましょう。
・眠くなったら布団に入りましょう。
・枕の高さは自分に合ったものにしましょう。

適切な枕の高さ
仰向けでも横向きでも自然な姿勢になるものが最適な枕の高さと言われている。
まず仰向けに寝てみて、次に寝がえりを打ってみて首が上下しない高さに調節する。
ちなみに枕の幅は、寝返りをうつので、頭3個分は必要である。
  
枕が低いときは、の下にタオルを敷き、枕が高いときは、肩の下にタオルを敷く。

  

薬物療法:
・バルビツール酸系: 基本的には使用禁止!
・ベンゾジアゼピン系: 依存、耐性、せん妄(特に高齢者)に注意
・非ベンゾジアゼピン系: 筋弛緩作用が少なく、高齢者に使いやすい
・メラトニン受容体作動薬: メラトニンに作用して自然な睡眠
・オレキシン受容体拮抗薬: 覚醒に関与する神経系を遮断する

ベンゾジアゼピン系睡眠薬
ほとんどの睡眠薬がベンゾジアゼピン系である。
依存する薬だとか耐性ができて効かなくなるとか、認知機能が低下するなどと心配しているが、ベンゾジアゼピン系薬剤はとても安全性に優れた薬である(バルビツール酸系に比べれば)。
【身体依存】薬剤への耐性から服用量の増量、乱用などの問題を生じ、離脱症状が出現する。
【精神依存(常用量依存)】常用量の服用であっても、薬剤中止や不眠の再燃に対する不安などから睡眠薬の減量や中止ができなくなる。
【認知機能障害】(≠認知症)長期の服用で認知機能は低下する。
これらの副作用は、処方の仕方、薬の説明の仕方が悪い医原性であることが少なくない。
薬剤の効果を実感しやすい薬の場合、効果が切れた感じを実感しやすく、依存性が高くなりやすい。
処方に注意する薬剤:ハルシオン、ナックス、デパス、セルシン
処方の際の注意点:
・高齢者ではFirst choiceにしない
・長時間作用型は基本的に使わない
・特に一般診療科の医師には超短時間作用型、短時間作用型だけを使ってほしい
・依存性、耐性、認知機能障害に注意する
・睡眠時無呼吸症候群を見逃さない!!

睡眠時無呼吸症候群を見抜くポイント
・いびき、朝の口の渇き、昼間の眠気
・寝つきは良いが中途覚醒、熟眠障害がある、中途覚醒に対してベンゾジアゼピン系睡眠薬を投与すると悪化する。
・上気道が狭い

服薬指導:就前というあいまいな時間帯で処方するのではなく、普段寝る時間の30分前に服用を指導するようにする。
私の薦める睡眠薬(非精神科医向け):
非ベンゾジアゼピン系(超短時間型):マイスリー、アモバン、ルネスタ
ベンゾジアゼピン系 (短時間型):レンドルミン、エバミール、リスミー
メラトニン受容体作動薬: ロゼレム(早い時間の服用で睡眠相の前方移動、遅い時間の服用で睡眠相の後方移動)
オレキシン受容体拮抗薬:ベルソムラ

睡眠障害に呕下使い分けの私見

まとめ
・睡眠薬は睡眠補助薬と心得ましょう!
・医原性の依存症を作ってはいけません!
・とりあえず薬で解決しようとせずに、生活指導なども行いましょう!

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