消化器系

2018.07.02

炎症性腸疾患に対する外科治療 辰巳健志 先生

2018年6月28日 
演題「炎症性腸疾患に対する外科治療」
演者:横浜市民病院炎症性腸疾患化診療担当部長 辰巳健志先生
場所:ホテル横浜キャメロットジャパン
内容及び補足「
潰瘍性大腸炎:患者数は平成25年後末の医療受給者症及び登録者証交付件数の合計で166060人、人口10万人当たり100人程度で、米国の半分以下の数ですが、世界第二位である。

発症年齢のピークは男性で20~24歳、女性で25~29さいであるが、若年から高齢者まで発症し、男女比は1:1で性差なく、喫煙者は発病しにくいといわれている。

症状:
下痢、血便、発熱、腹痛、体重減少がみられる。

http://www.mochida.co.jp/believeucan/learn/index.html

腸管合併症:腸管の大量出血、腸管狭窄、穿孔、中毒性巨大結腸症
腸管外合併症:

http://www.mochida.co.jp/believeucan/learn/03.html

https://pfizerpro.jp/cs/sv/ibd/about/uc-symptom.html

大腸癌:10年で2%、20年で8%、30年で18%大腸癌がみられるため、長期的な経過観察が必要出である。

Gut.48(4),526-535(2001)
大腸がんの危険因子としては以下のものが挙げられている。

日比 紀文監修:”第2章 IBDとは”チーム医療につなげる!IBD診療ビジュアルテキスト(第1版)羊土社:34, 2016

2003年日本大腸肛門病学会誌に報告された潰瘍性大腸炎の癌化とサーベイランスの検討を見てみるとがん発見時の年齢は、40歳代が最も多いが、20歳代でもかなりの症例において認められている。

がん発見時の罹病期間では10年以上において増加している。

292例中84例29%は多発癌であり、発生部位は直腸163例54%、S状結腸71例24%、下行結腸38例13%、横行結腸44例15%、上行結腸19例6%、盲腸17例6%であり、直腸、S状結腸のいずれかの部位に癌を合併した症例は219例73%であった。
UCに合併する癌は、通常の大腸癌と異なり、周囲との境界が不明瞭で平坦型が多く、その組織型は低分化の傾向が強く、また粘液癌の頻度も高いと報告されており、この見当でも44%が平坦型・浸潤型、45%が低分化癌・粘液癌であった。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcoloproctology1967/56/2/56_2_62/_article/-char/ja/

我々の検討でも、内視鏡検査時に深達度を過小評価した症例が38/125例30.4%、存在診断ができていなかった症例も38/125例30.4%認めており、より注意深い観察と年一回の定期的な大腸鏡検査が必要と考えられる。
手術で残した肛門管における癌は高度異形成の発生率は14/65例21.5%であり、肛門管を残さない手術を行う方が良いと考える。

「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(日比班 平成15年度研究報告書 別冊:75, 2004)のサーベイランス法としては、潰瘍性大腸炎が発症してから7年以上経過した患者さんに年一回大腸鏡を行うこととしている。

大腸癌の発見患者の深達度に関してみてみると、前癌状態や粘膜内癌の状態での発見患者の割合が増加しているが、以前進行癌で見つかる症例が少なくない。
下図は慶応大学病院でのデータである(市民病院のデータを控えられなかった為)。

診断:
診断の手順フローチャート:

診断基準:

病型分類:
  全大腸炎:total colitis 37.9%
  左側大腸炎:left-sided colitis 37.4%
  直腸炎:proctitis 21.7%
  右側あるいは区域性大腸炎:right-sided or segmental colitis

http://www.mochida.co.jp/believeucan/learn/index.html

病型分類:
  活動期:active stage 血便を訴え、内視鏡的に血管の透見像の消失、易出血性、びらん、又は潰瘍などを認める状態。
  寛解期:remission stage 血便が消失し、内視鏡的には活動期の所見が消失し、血管の透見像が出現した状態。
臨床的重症度による分類:

活動期内視鏡所見による分類:内視鏡的観察耳最も所見の強いところで診断

内科的治療:
・5-アミノサリチル酸薬(5-ASA)製薬:サラゾスルファピリジン(サラゾピリン)、メサラジン(ペンタサやアサコール)
・副腎皮質ステロイド薬:プレドニゾロン(プレドニン)を経口、経腸、経静脈的に投与
・血球成分除去療法: LCAP(白血球除去療法:セルソーバ)、GCAP(顆粒球除去療法:アダカラム)
・免疫調節薬または抑制薬:アザチオプリン(イムラン、アザニン)、6-メルカプトプリン(ロイケリン)(未承認)、シクロスポリン(サンディミュン)(未承認)、タクロリムス(プログラフ)
・抗TNFα受容体拮抗薬:インフリキシマブ(レミケード)8週ごとの点滴投与、アダリムマブ(ヒュミラ)2週ごとの皮下投与。自己注射も可能


  
外科的治療:


術式:
1. 大腸全摘、回腸嚢肛門吻合術(IAA:Ileoanal anastomosis)
直腸粘膜抜去を行い、病変をすべて切除し、回腸で貯留嚢を作成して肛門(歯状線)と縫合する術式で根治性が高い。通常は一時的回腸人工肛門を増設する。
2. 大腸全摘、回腸嚢肛門間吻合術(IACA:Ileoanal canal anastomosis)
回腸嚢を肛門間と吻合して肛門間粘膜を温存する術式。回腸嚢肛門吻合術と比べ漏便が少ないが、肛門間粘膜の炎症再燃、癌化の可能性が問題点である。

3. 結腸全摘、回腸直腸吻合術
直腸の炎症が軽度の症例、高齢者に行うことがある。排便機能が良好であるが、残存直腸の再燃、癌化の問題があるので術後管理に留意。
4. 大腸全摘、回腸人工肛門造設術
肛門温存が不可能な進行下部直腸癌例だけでなく、肛門機能不良例、高齢者などに行うことがある。
5. 結腸亜全摘、回腸人工肛門造設術、S状結腸粘液瘻またはHartmann手術
侵襲の少ないのが利点。全身状態不良例に対して肛門温存術を行う前の分割手術の一期目として行う。

「難治性炎症性腸肝障害に関する調査研究」平成27年度総括・分担研究報告書p442~443

クローン病:
特定疾患医療受給者証交付件数でみると1976年には128人であったが、平成25年度には39799人と急増している。10万人当たり27人で米国の200人の約1/10程度。

10歳代~20歳代の若年者に好発、男性で20~24歳、女性で15~19歳で最も多く、男女比は2:1で男性に多い。世界的にみると先進国に多く、北米やヨーロッパで高い発症率。動物性脂肪、タンパク質を多く接種する人、喫煙者に発病しやすいと考えられている。

臨床症状:
消化管病変:
腸病変:縦走潰瘍、敷石像、非連続性または区域性病変、不整形~類円形潰瘍、多発アフタ
肛門病変:裂肛、Cavitating ulcer(肛門管から下部直腸に生じる深く幅の広い有痛性潰瘍)、難治性痔瘻、肛門周囲膿瘍、浮腫状皮垂(edematous skin tag)、肛門狭窄など
胃・十二指腸病変:多発アフタ、不整型潰瘍、竹の節状外観、ノッチ様陥凹、敷石状など
合併症:腸管狭窄、腸閉塞、内瘻(腸-腸瘻、腸-膀胱瘻、腸-膣瘻)、外瘻(腸-皮膚瘻)、悪性腫瘍(腸癌、痔瘻癌)
消化管外病変(二次的な合併症を含む)
血液:貧血、凝固能亢進など
関節:腸性関節炎、強直性脊椎炎など
皮膚:口腔内アフタ、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、多形性滲出性紅斑など
眼:虹彩炎、ブドウ膜炎など
栄養・代謝:成長障害、低蛋白血症、微量元素欠乏、ビタミン欠乏、骨障害など
その他:原発性硬化性胆管炎、血管炎、膵炎、胆石症、尿路結石症、肝障害、アミロイドーシスなど
診断の手順フローチャート:

診断基準:

病型分類:
縦走潰瘍、敷石像または狭窄の存在部位により、小腸型、小腸大腸型、大腸型に分類する。これらの所見を書く場合やこれらの所見がまれな部位にのみ存在する場合は特殊型とする。特殊型には、多発アフタ型、盲腸虫垂限局型、直腸型、胃・十二指腸型などがある。
疾患パターンとして、合併症のない炎症型、瘻孔形成を有する瘻孔形成型と狭窄性病変を有する狭窄型に分類する。
重症度分類:

治療:初診・診断時や活動期には寛解導入を目的とした治療を行い、その後維持療法を行う。治療法には、薬物療法、栄養療法などの内科的治療法と外科的治療法がある。小児では原則として、最初に栄養療法を中心に治療を選択する。重症於あるいは頻回に再燃し、外来治療で症状の改善が得られない場合には入院や外科的治療を考慮する。
栄養療法:経腸栄養療法を行う場合は、成分栄養剤(エレンタール)あるいは消化態栄養剤(ツインラインなど)を第一選択とする。受容性が低い場合には半消化態栄養剤(ラコールなど)を用いる。

肛門部病変に対する治療:
腸管病変の活動性を鎮め寛解導入すべく、内科的治療に努め、痔瘻・肛門周囲膿瘍に対しては、必要に応じドレナージなどを行い、メトロニダゾールや抗菌剤・抗生物質などで治療する。肛門狭窄については、軽肛門的拡張術を考慮する。
狭窄の治療:
内視鏡が到達可能な個所の通過障害症状の原因となる狭窄を認める場合には、内科的治療で炎症を鎮静化し、潰瘍が消失・縮小した時点で、内視鏡的バルーン拡張術をこことみてもよい。改善が認められたら定期的に狭窄度をチェックし、本法を繰り返す。無効な場合には外科手術を考慮する。

手術適応:

術式:
小腸病変:腸管温存を原則とし、合併症の原因となっている主病変部のみを対象とした小範囲切除術や限局性の線維性狭窄では狭窄形成術を行う。
大腸病変:病変部の小範囲切除術を原則とする。病変が広範囲、または多発し、直腸に病変が比較的軽度で肛門機能が保たれている場合には、大腸亜全摘、自然肛門温存術を行う。直腸の著しい狭窄・瘻孔には人工肛門造設術を考慮する。
胃十二指腸病変:内視鏡的拡張術が無効な十二指腸第1~2部にかけての線維性狭窄例には胃空腸吻合、または狭窄形成術を行う。
肛門部病変:直腸肛門病変には「クローン病特有原発巣(クローン病自体による深い潰瘍性病変)」、「続発性難治性病変(原発巣から感染などによって生じた痔瘻などの二次的病変)」、「通常型病変(クローン病と関連のない病変)」があり、病態に応じて治療法を選択する。

難病センター 潰瘍性大腸炎
難病センター クローン病
潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療方針

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