川村所長の勉強会参加記録
2014.03.06
アルツハイマー病:日常診療のヒント 繁田雅弘教授
2014年3月3日 横浜ロイヤルパークホテル
演題「アルツハイマー病:日常診療のヒント」
演者:首都大学東京 人間健康科学研究科教授 繁田雅弘先生
内容と補足「面白い論文があったので紹介したい。Heightened emotional contagion in mild cognitive impairment and Alzheimer’s disease is associated with temporal lobe degeneration. 『emotional contagion』とは感情の感染ということになる。111人の健常人と、62人の軽度認知障害(MIC)患者、64人のアルツハイマー病患者に対して、対人的反応性指標(Interpersonal Reactivity Index; IRI)、個人的苦痛(Personal Distress:PD)のサブスケールを測定した結果が下記の図になる。
emotional contagionおよびdepressive symptomsは病気の進行とともに大きくなり、その状況が脳の萎縮と関連しているという論文である。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23716653
認知症の治療効果を上げるために以下の対応策がある。
① 薬物の選択(専門医の出番がほとんどない)
② 非薬物療法、リハビリテーションの選択(それほどバリエーションがない)
③ 介護・ケア(個人的な対応に差があるが、医師の出番は少ない)
④ 説明、助言、励まし(家族などの当事者との関係で影響力が左右される)
医師としての腕の見せ所はこの④の対応がうまく運ぶように当事者との良い関係を作ることが重要と考える。
患者本人は、ほとんどの場合不本意な受診であり、このことに共感することが一つのきっかけになる。「今日は嫌な気持ちの中でよく来てくださいました。」といったような会話をしている。
患者さんよりに立ちすぎると、無理やり連れてきた家族に対して批判的な態度、と家族の人に受け止められかねないので、「よく嫌がる本人を、受診させる気にされましたね。大変だったでしょう。」といったねぎらいの言葉をかけるようにしている。
スタンスとしては、どちらか一方に近づきすぎないよう心がけている。
外来受診時に行っている診療行為としては以下のものがあげられる。
① 現病歴の聴取
② スクリーニングテスト
③ 検査の説明
④ 診断の根拠とその説明
⑤ これからの治療とその副作用などの説明
⑥ 生活歴の聴取(本人から)
⑦ 受診の経緯の聴取(家族から)
となるが、この⑥⑦をぜひ皆さんもやってみてください。
患者さんの気持ちとしては以下のような状況が考えられる。
「認知症かもしれないが、考えたくない」
「認知症かもしれないが、人から言われたくない」
「認知症かもしれないが、そう思われたくない」
「一人の人間として接してくれなくなる・・・」
病名を患者さんに伝える方法としては、
① 疑い病名の一つとして認知症を伝える→絶望せずに病気と向かい合えるが、病状を老化の一症状として受け止めてしまう危険がある
② 最終的な診断名として認知症を伝える→覚悟を決めて病気に向かい合えるが、俳人になってしまう危険もある
③ あえて後日に見送る場合
以前行ったアンケート調査で、認知症になった時に知りたいと思ったことを調査した際に上位を占めたのは、①これからの病気の見通し、②認知症の治療法、③介護の知識や介護の方法であった。上の二つは、医者が通常行っていることだが、③に関しては、看護師や介護士、患者家族会からの情報のほうがより実践的である。
家族会の人からもらった情報で、もっと早くから知っていれば、こんなに苦しまなくて済んだのに、と責められたこともあり、より早期に知りたかった知識についてもアンケートを取った。
先ほどの表とは異なるのは、二番目に『起こる可能性のある精神症状など』がある。体験された症状からそうだったということは簡単だが、経験してない状況下で、人それぞれに異なる形で出てくる症状を短い外来の時間で毎回講義をすることは現実には困難である。
自分の外来診療のスタイルをいかにします。
① 服薬の確認方法、合併症の治療も
② 進行・悪化の評価(原因疾患の再確認)
③ 急変のサインの有無(BPSD、合併症)
④ サービス利用への助言
⑤ 療養介護へのねぎらい
⑥ 時間のある時に終末期についての説明
この中の③の急変のサインの有無をぜひ心がけてほしい。患者さん家族に「表情の変化はありませんか、食欲や睡眠状態、便の性状の変化を見ていただけるのは、あなただけなので、この確認だけは、是非やってください。」とお願いしている。
スイスでのデータであるが、2016年における認知症患者さんにかかる費用の内訳である。日本ではあまり耳慣れないがinformal careに40%以上もかかっているが、薬剤費用はたった0.5%にしか過ぎない。
認知症の予後を見てみるといろいろな薬剤を使っても延長されたという報告はほとんどない。これはがっかりするとともに安心する情報でもある。同じ論文でコリンエスレラーゼ阻害剤単独とメマンチンの併用の比較がある。Survivalは両方とも3.33年で違いがない。しかし、在宅の年数や入所の期間には違いがある。よく言われている『ピンピン、コロリ』が理想的終末期の過ごし方であると考えるなら、自分が認知症になった時には、使える薬すべてをフルドーズで投与してほしいと妻に話している。
日経メディカルに100疾患の診療頻度と治療満足度を図式化したものがある。
図示すると大体下の図のようになる。認知症の治療満足度はかなり低い。しかし、薬が劇的に効果を表す症例もあり、患者さんや家族から丁寧なお礼状が届くことがあるし、場合によっては製薬会社あてに手紙を書かれる人もいる。ほかの疾患には見られないことである。
追加情報:高知県の菜の花診療所では、症状が進行すると多剤併用を積極的に行っており、予後が良いというデータも発表されている。認知症が少しでも改善したり、進行が遅くなることにより、転倒・骨折、嚥下障害、誤嚥性肺炎が減少・予防できることがその差に効果を出している可能性がある。
川村昌嗣から薮田先生へ『思い出アルバム作成認知症療法』を広め、その効果を確認していってほしい、という提案をさせていただきました。
目的:子供や孫に二人(家族)の歴史を写真とメッセージで綴るアルバムをこれから二人で作っていく。
方法:出会った日、婚約した日、結婚した日、第一子が生まれた日などの記念日からスタート。今まで撮った写真や、夫婦間でやり取りした手紙やメールの内容をもとに、一つのエピソードに対して一ページ単位で作っていきます。ページの上の部分に一つ写真を貼り、その時のエピソードを3~5回にかけて記入していきます。
昔の記憶なのでお互いはっきりしません。いくつかの写真の中から、その時の記憶を掘り起こしながらどの写真を選ぶかを認知症の人に決めてもらいます。可能であればその時のエピソードを、患者さんに記載してもらいます。数日して再度、その時の記憶をお互いに話し合います。できるだけ患者さんが思い出しているように話を誘導してください。この操作を、一週間後、数週間後と繰り返してください。繰り返すことにより、忘れ去った記憶が呼び起されたり、繰り返しその状況を想定したりすることにより、自分の記憶として話しているように思うように持って行けると思います。
実際卒業アルバムを見て思い出せないことでも、友人とその写真にまつわる話をして思い出されることは少なくないと思います。
そうすることによって、『忘れ去っていた記憶を取り戻せた』という実体験ができる可能性があります。
記載する内容は、子供や孫に、自分たちの歴史を語りかける口調が良いと思います。
薮田先生発信でいろいろな講演会や勉強会でこの方法を広めていってください。とお願いし、快いお返事をいただきました。
写真などの記録物がない場合には、旅行で行った場所の写真や記念物などを、インターネットなどで検索し、コンピュータ上で表示されている特徴的な建物や彫刻などを印刷し、それを写真代わりにしてください。
懐かしさが募ってくれば、その場所へ旅行されることもよいと思います。今度は、カメラを持参され、思い出アルバムを作るつもりで、いろいろな場所を撮影されることもよいと思います。
そういった出来事がなくても、結婚した年、子供が生まれた年などに起こった重大事件や、オリンピックやスポーツの祭典などを、図書館に保存されている新聞の年末の10代記事の所をコピーしたり、インターネットで画像を引出したりし、その時に自分たちがどういった状況にあったかを記載していくのもよいと思います。
ぜひ皆さんも試してみてください。