川村所長の勉強会参加記録
2015.04.13
降圧療法の質に注目したCKDのトータルケア 田村功一先生
2015年3月31日 崎陽軒本店
演題「降圧療法の質に注目したCKDのトータルケア」
演者:横浜市立大学附属病院腎臓・高血圧内科 准教授 田村功一 先生
内容及び補足「
高血圧の際のナトリウム貯留による体液調節障害や炎症、脂質異常症、糖代謝異常から生じてくる血管内皮障害によってもたらされる動脈硬化によりCKDが進行したり、脳血管疾患(CVD)が発症してくるし、CKDやCVDの進展や発症により、体液調節障害が悪化したり、血管内皮障害が進展してくる。
またCKDにより生じる貧血により血管内皮障害が進行したり、CVDの発症が起きやすくなってくる。
https://www.fabp.jp/assets/files/monograph/b_CKD%20guide2009.pdf
2013年にCKDガイドラインが作成された。
CKDの定義は、
① 尿異常,画像診断,血液,病理で腎障害の存在が明らか.特に 0.15 g/gCr 以上の蛋白尿(30 mg/gCr 以上のアルブミン尿)の存在が重要
② GFR<60 mL/分/1.73 m2
のいずれか、または両方が三か月以上持続するものとなっている。
CKDの重症度分類は、少し複雑になっており、eGFRによる分類に蛋白尿区分が組み込まれたものとなった。
CKDの進展抑制、CVDの発症抑制において、GFRの悪化を防ぐことと、蛋白尿を改善することが重要であるためである。
血圧の管理目標と推奨薬剤は、糖尿病と蛋白尿の有無で大きく分けられる。
http://www.jpnsh.jp/data/jsh2014/jsh2014v1_1.pdf
海外の血圧管理目標と異なるのは、心筋梗塞と脳卒中の死因に占める割合が異なることによる。
2型糖尿病化空腹時高血糖を有する高血圧患者の37736名のメタアナらイシス結果から、140/90未満を治療目標とする群と130/80未満を目標とする治療群で比較してみると、Dの脳卒中が積極的な降圧による効果がみられ、次いで腎症で効果がみられた。
Relationship between odds of (A) all-cause mortality, (B) cardiovascular mortality, (C) myocardial infarction, (D) stroke, (E) serious adverse events, and (F) nephropathy and final achieved systolic pressure (SBP) in the intensive group. The size of the data marker represents the weight of each trial.
http://circ.ahajournals.org/content/123/24/2799.full
日本人の2型糖尿病性早期腎症216例について6年間経過観察を行ったところ28%派遣性腎症へ進行したが、51%は正常アルブミン尿へ寛解した。
寛解への有意な寄与因子は、①微量アルブミン尿出現から治療開始までの期間が短いこと、②RA系抑制薬の使用、③良好な血糖コントロール、④収縮期血圧低値であった。
この観察期間を二年間延長した観察結果では、肝海軍ではGFR低下速度の抑制のみならず、心血管イベントの抑制も認められた。顕性蛋白尿への進行群に比較し50%以上のrisk reductionが見られた。
http://www.carenet.com/seminar/atd01/cg001266_index.html
421例のARBを使って治療がなされた、2型糖尿病においては、血圧の低下のみならず、アルブミン量の減少により心血管イベントを減らすことが可能であるといえる。
http://eurheartj.oxfordjournals.org/content/32/12/1493
降圧薬の種類によって、腎機能低下予防効果に差がある可能性がある。
1094名のAfrican Americanに対してRamiprilとAmlodipineで治療をされた群において、蛋白尿が少ない群では、Amlodipine治療群の方が、GFR低下率が低かったが、蛋白尿が多い群では逆にRamipril治療群の方においてGFR低下率が低かった。
http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=193889
昼間覚醒時血圧の平均の10%以上夜間血圧の平均が下降するものをdipper、20%以上下降するものをextreme-dipper、10%未満の下行を認めるものとnon-dipper、昼間血圧の平均よりも夜間血圧の平均が上昇しているものをriserと呼ぶ。
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010_shimada_d.pdf
実際の血圧変動としては、下図のようになる。
http://www.hanall.co.kr/product/ProductInfoViewPop.asp?TextCode=2010032513323300000E
夜間高血圧のメカニズムには交感神経活動の異常が関与している。
下図は、未治療高血圧患者の交感神経活動を見たもので、riser型は他の3タイプの高血圧に比べ筋交感神経活動が亢進していることがわかる。
Individual and mean (±SEM) resting MSNA values, expressed as bursts incidence over time (bs/min) and as bursts incidence corrected for heart rate (bs/100 heartbeats), in dipper normotensives (DNT) and in dipper (DHT), non-dipper (NDT), extreme dipper (EDT), and reverse dipper (RDHT) hypertensives. *P0.05; **P0.01 vs DNT; †P0.05 vs dipper : hypertensives (DHT), non-dipper hypertensives (NDHT), and extreme dipper hypertensives (EDHT).
http://hyper.ahajournals.org/content/52/5/925.full.pdf
Dipper型以外高血圧のパターンでは臓器障害が多いことが知られている。
575例の日本人高齢者の高血圧を4型に分類し、平均41か月の経過観察中に出現した脳卒中の頻度を見たものである。
最も脳卒中の発症頻度が高いのはriser(Reverse dippers)型であり、次いでExtreme dipper型であった。夜間の過度な血圧の上昇や低下が脳卒中の要因であり、過度の血圧変動を是正する治療が必要である。
http://hyper.ahajournals.org/content/38/4/852.full
CKD患者の夜間血圧のパターンをCKDステージごとにその頻度を見てみると、腎機能障害が進行するに従い、dipper型が減少し、non-dipper型が増える。特にriserがstageⅤにおいて著増してくる。CKD患者では臓器保護の観点からも夜間血圧変動を考慮した治療が必要となってくる。
http://www.nature.com/nrneph/journal/v9/n6/full/nrneph.2013.79.html
http://www.nature.com/nrneph/journal/v9/n6/fig_tab/nrneph.2013.79_F2.html
透析をしていないCKD患者において、夜間の高血圧の方が診察室の高血圧よりも予後を規定するという報告が出てきた。
MedlineとCochrane databseより選択された降圧薬の無作為化比較試験の文献試験1372件のうち389件を対象に、試験開始時から追跡調査時までの収縮期血圧の平均(SD)のデータを抽出し、個人間の血圧変動に与える降圧薬の影響をクラス別にメタ解析して完投した結果はACE阻害薬を1とした際に血圧の個人変動を改善できたのはカルシウム拮抗薬のみだった。長時間作動性のカルシウム拮抗薬は血圧変動を改善させる効果がある薬剤といえる。
Lancet 2013; 375:906-915
診察室血圧だけでなく診察室外血圧の変動を少なくする、降圧の質の改善が必要となっている。
十分な降圧を測るためには食塩制限が推奨され、その結果として腎機能障害の進行抑制も期待される。
9.8gのhigh salt群10名と4.4gのlow salt群12名で血圧の日内変動を比較したところ、平均の血圧(収縮期/拡張期)は9.7/3.9mmHg低下し、日中のみならず、夜間血圧も低下した。
http://jasn.asnjournals.org/content/24/12/2096.full.pdf+html
どのタイミングで降圧薬を飲むかで心血管イベントに差が出ることが示された。
すべての薬を起床後に飲む(実線)場合と、一種類だけ就前に飲む(点線)場合で心血管イベントの頻度に有意な差が見られた。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3279936/
CKD患者に対するスタチン投与のメタ解析が3つ報告されているが、いずれもCKDの蛋白尿減少効果が認められるとしている。
J Am Soc Nephrol 2006;17:2006‒16、Cochrane Database Syst Rev 2009; 15:CD007784.、BMJ 2008;336:645‒51.
難治性ネフローゼに対してLDLアフェレーシスが、蛋白尿減少効果を示すことが報告(Lancet 2011;377:2181‒92.、J Atheroscler Thromb 2010;17:601‒9.)されているが、ASO患者に対してLDLアフェレーシスと行ったところ、酸化ストレス抑制作用、血液凝固因子や炎症因子の除去により血管内皮細胞のNO合成酵素の活性化をもたらし、血管内皮機能の回復が見られ、ASOの症状改善が認められた。
http://www.yokohama-cu.ac.jp/sensin/topics/tamura_1005.html
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23551675