川村所長の勉強会参加記録
2016.06.27
夏場の健康管理の注意点
今年は何時梅雨入りするかはっきりしませんが、うっとうしい梅雨の時期からうだるような夏の時期にかけて、体調を崩される方が少なくありません。
この時期によくみられる病気や状態には、以下のものが多くみられます。
① 夏バテ・冷房病
② 夏風邪
③ 熱中症・熱射病
④ 食中毒:下痢・嘔吐
上記状態や病気にならないための注意点を今回はお話ししたいと思います。
① 夏バテ・冷房病:冷房病という正式な病名はありません。
体温が低下すると交感神経刺激により、末梢血管が収縮して、身体から奪われる熱を少なくし、褐色脂肪組織の熱産生の亢進や筋肉の意識しない収縮(ふるえ)による熱の産生により体温を上昇させます。体温が上昇すると交感神経のアドレナリン性血管収縮性神経の働きが弱くなり、血管が拡張して体温を放出しようとし、さらに交感神経コリン作動性線維の刺激により汗をかき、体温を下げて、体温を調節しています。また、副交感神経が活性化されると末梢血管が拡張し皮膚温度が上昇し、熱の放散が増加して内部温度が低下してきます。
5℃以上の急激な温度変化にはすぐに対処できないため、この温度変化が繰り返されると自律神経失調症のような状態になり、頭痛や肩こり、疲労感といった症状も出てきます。
対策としては、扇風機を利用して、室内の温度を下げ過ぎないで、空気の流れを作り、自分の身体の周りの空気の温度を上げないようにすることです。
また、熱い状態が続くと、冷たい飲み物が欲しくなります。喉は一瞬しか冷えないので、ついついガブ飲みしがちになります。冷たいものを摂り過ぎた結果胃腸が冷えすぎてしまい、食欲低下、体力低下、夏バテとなってしまいがちです。
対策としては、一杯目は氷の入った冷たいものをとっても、二杯目からは、やや温度を上げ、室温に近いものを摂るようにしましょう。最近コンビニでも、冷やしすぎないお水を販売するところが増えてきました。ぜひ利用してください。
どうしても冷たいものがという人は、小さな氷を少しずつ口に入れ、氷でのどを冷やすようにしましょう。
② 夏風邪:夏風邪は治りにくいといわれています。
(ア) 熱があることが悪いと思ったり、熱くてつらいので、冷たいものを摂ったり、薄着をしたり、冷房をかけすぎて身体を冷やし過ぎてしまう。
(イ) 冷たいものを摂り過ぎて、胃腸の調子が悪くなり、栄養補給が悪化する。
(ウ) 夏バテの上に風邪をひいているので、体力が低下しているので治りにくい。
(エ) 寝苦しいために、睡眠不足になりがち。
上記の因子がお互いに影響し合って、治りにくくしています。
対応策は、夏風邪の対応策を間違えないことです。
夏風邪の原因は、いろいろな種類のウイルスです。痛んだノドや気道、消化管の粘膜から二次的に侵入してくる最近に対しては、抗生剤は効きますが、ウイルスには効果がありません。
インフルエンザやヘルペスウイルスなどの一部のウイルスには、増殖を抑える効果がある薬剤がありますが、ほとんどのウイルスには、治療薬がありません。
ウイルスや細菌に対して抗体をつくるのも、これらの病原体を退治するのも白血球の働きです。白血球の働きやすい環境を整えるのが、風邪の際の対応策ということになります。
白血球が、ウイルスや菌をやっつける際には39度の温度にしたほうが対応しやすいので、風邪をひいた際には熱が出るのです。インフルエンザのように、増殖力が強いウイルス感染の場合には、体中の筋肉を使って熱を上げて対応しているのです。この時の熱を出しなさいという指令を出すサイトカインの影響で、節々の痛みや、寒気、震えを感じるのです。熱が悪いのではなく、感染が起きてその対応のために熱が必要なので体温が上がっているのです。したがって、寒さを感じているときは、寒さを感じなくなるまで、厚着をして、場合によっては、ホッカイロや電気毛布も使って寒気を感じない状況にしたほうが良いのです。足が冷えやすい人だけでなく、風邪をひいた際には靴下をはくこともお薦めです。
当然、解熱剤や一般の風の市販薬は、戦うために作り出した熱を強引に下げてしまうので、避けるべきです。
どうしても動かなければいけない状況にある人は、短時間解熱剤で下げるのは仕方ありませんが、「熱が下がっていること=風邪が良くなっている」という状況ではないことを理解してください。必要最小限の対応をしてから、しっかり体を休めましょう。
熱い状況が苦手な人は、オデコや後頭部をアイスノンや熱さまシートで冷やすのは構いませんが、首を冷やすのは避けてください。多くの場合ノドが戦いの主戦場なので、ここを冷やすことは避けてください。逆に、首が冷えないように、首にタオルを巻くか、ネックウォーマーをすることはお薦めです。
状態がある程度落ち着いてくると、過剰な熱は必要ないと判断して汗をかくように指令が出ますが、まだ戦いが不利な場所もあり、その場所においては温度が下がることは望ましくなく、場合によっては、風邪をぶり返すことにもなります。汗をかいてきたらマメに汗を拭き、汗で体が冷え込まないようにしましょう。汗でパジャマが冷えてしまわないように、熱が出そうなときには、布団の横に新しい下着とパジャマ2セットぐらい置いておいて、ぐっしょり感が出たらすぐに着替えられるようにしておきましょう。水分補給はまめにしましょう。カフェインの入っていない暖かいものがおすすめですが、苦手な方は、せめて室温程度にして、冷たいものは避けましょう。
『風邪をひいた時には、ノドのアルコール消毒が有効だ』といわれる方もたまにいますが、逆効果です。風邪を治さない、原因の一つですし、悪化する危険もあります。完全に治りきるまでは禁酒しましょう。
コンピューターでも使い続けると不具合が出てきます。一定期間電源を落とす必要があります。人の身体も、寝ているときに、身体の状態を整えているのです。風邪をひいているときには、もっと時間が必要になるので、いつもの睡眠よりも1~2時間は多く寝るようにしましょう。睡眠できなくても、眼をつむって横になっているだけでも、回復力に差が出てきます。
③ 熱中症・熱射病
体温が上がっているときの対応が、上記の風邪の場合と真逆なのが、熱中症・熱射病の場合です。これらの場合は、身体が病原体に対抗するために熱を上げている状況ではなく、身体から熱を外に出せない環境にいることにより、体温が上昇しているので、逆に体の中心温度を下げる必要があるのです。
熱中症での死亡者数は近年急増しており、65歳以上の高齢者の占める割合は、男性で3割、女性で5割以上になっています。
(日本医師会雑誌第141巻・第2号『熱中症』の図表を転載)
暑いさなか、運動したり仕事をしたりしていて、汗をかいて場面で熱中症になるだけでなく、家の中にいて、何もしていなくても熱中症になることが少なくないのです。男性の場合には65歳以上で、住居での熱中症発症が増えておりますが、女性の場合には、ほとんどの年代において、住居において熱中症になっていることがわかります。
(日本医師会雑誌第141巻・第2号『熱中症』の図表を転載)
ここで基本的なことについてまとめておきましょう。熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病、熱中症と、いろいろな呼び方があります。2015年に日本救急医学会が新たに『熱中症診療ガイドライン2015』
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/heatstroke2015.pdf
を作成しました。
今まで、上記のようにいろいろな呼び方がなされていた諸症状や病態を『熱中症』のそれぞれの段階の状態としてとらえたもので、『暑熱暴露あるいは身体運動による体熱産生の増加を契機として、高体温を伴った全身の諸症状(Heat illnessあるいはHeat disorders)が引き起こされたもの』、としました。
この病態を3段階に分類して、症状からその際の対応の仕方をまとめたのが下の表になります。
定義にあるように、熱が過剰に作られている状況が病気の原因なので、汗をかかなくても熱中症になることがある点に注意してください。余分に作られた熱を外に放出するために汗をかいています。したがって、熱中症の予備段階において、汗を拭く行為は、汗の機能を妨げ、熱中症になりやすい環境をつくることになるのです。つまり、熱中症予防の考え方としては、汗は拭いてはいけないのです。団扇やセンスであおいで汗を蒸発させ、気化熱として過剰な体温を捨てていく必要があるのです。
汗をかきにくい人では、化粧水などを入れる携帯用のスプレー容器に水を入れて置き、熱がこもってきた感じがしてきたり、熱いところにある程度の時間いた場合には、頭や首、顔にスプレーをこまめにかけ、気化熱で表面温度を下げましょう。
蒸し暑い環境では、汗をかいても蒸発し辛いので、それほど気温が高くなくても、熱中症になる危険度が上昇します。
米国でよく利用されている、ヒートインデックスを下に挙げておきます。
表の中の数字が27~32では要注意で通常過激な運動をしないように、32~41では脱水症状の危険があり、41~54では差し迫った熱中症の危険があり、54以上は生命の危険があるとされています。環境温度(気温)が26度で湿度が50%を超えた場合には注意が必要だと考えてください。
湿度が高い時には、風通しを良くしたり、扇風機やエアコンを使って、汗が蒸発しやすいようにしたり、身体を冷やす工夫をしましょう。首にぬれたタオルを巻いて、温度を下げることも有効です。
汗をかいた分の水分補給と塩分補給も大切です。
緑茶、コーヒー、ウーロン茶、紅茶などはカフェインが入っており、場合によっては利尿作用(尿として水分を排泄する作用)が強くなることがあり、かえって脱水が悪化します。アルコールはもってのほかで、脱水時には飲まないでください。
高血圧がない人であれば、スポーツドリンクがおすすめです。激し運動や、普段あまり汗をかかない人が多量に汗をかいた場合には、塩分が多いOS-1がおすすめとなります。
高血圧の人でも、血圧が高くなければ上記もので水分補給は良いのですが、血圧が高い時には、水で半分に薄めた状態で摂取することをお勧めします。
糖尿病の人は、血糖値の上昇に注意が必要です。スポーツドリンクには、糖分がそれなりの量が含まれており、脱水で血が濃くなり、血糖値も上昇している場合が多いので、糖質を含んでいない水分を補わないと、危ないことも少なくありません。基本的にはミネラルウォーターや麦茶、そば茶などがおすすめです。カフェインレスの十六茶、爽健美茶も問題ありません。それに加えて梅干をかじってもらうのが良いでしょう。
④ 食中毒:下痢・嘔吐
嘔吐・下痢を認めて受診される患者さんは、年間を通して見られますが、季節によってその原因が異なっています。冬場は、ノロウイルスやロタウイルスというウイルス性の胃腸炎が圧倒的に多いが、5月頃から食中毒といわれる病態の細菌性胃腸炎が増加してくる。
病因物質別患者数の月別発生状況(平成25年~26年)
食中毒の原因病原体別に年次推移を見てみると下記の表のように、ノロウイルスを除く病原菌としては、カンピロバクターが圧倒的に多く、次いでサルモネラ菌、ブドウ球菌、ウエルシュ菌、大腸菌などとなる。
資料2平成26年食中毒発生状況
細菌性食中毒は、感染型、毒素型に分けられる。
細菌感染型食中毒:細菌に感染した食品を摂取し、体内で増殖した細菌が病原性を持つことで起こる食中毒でサルモネラ、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌などがある。
最近を摂取することにより発生するので、加熱、環境消毒、手洗いが重要。
細菌性毒素型食中毒:食品内で細菌が産生した毒素を摂取することで起こる食中毒で、黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌などがある。毒素を摂取することにより起こるので、早期の加熱殺菌、低保存などにより食物上で細菌の増殖・毒素の産生を防ぐことが重要。
(横浜市衛生研究所のデータを基に作成)
http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/eiken/idsc/disease/
食品以外にも、飲み物からも食中毒になる危険性があるので注意してください。
というのも、ペットボトルを飲む際に口をつけて飲むと、口の中の菌が少なからず、ペットボトルの中に移動してしまいます。菌が育つための栄養素である糖質が含まれている、ジュースやスポーツドリンクなどの飲み物の場合には、時間とともに菌が増殖してしまいます。特に暖かい環境では、ものすごいスピードで増え数百万個にもなることもあります。時間がたった菌の増殖した飲み物を飲んで、下痢をしてしまう場合も少なくありません。甘みのある飲み物は一時間以内に飲み干すようにしましょう。