その他

2016.06.13

アルコール・薬物依存症と家族の対応 水澤都加佐先生

2016年6月11日 
演題「アルコール・薬物依存症と家族の対応」
演者: アスク・ヒューマン・ケア取締役研修相談センター所長 水澤 都加佐 先生
場所:横浜市西区役所
内容及び補足「
ICD-10アルコール依存症の診断基準〉
過去1年間に以下の6項目のうち3項目以上を同時に1か月以上経験するか、くりかえした場合、アルコール依存症と診断される。
1. 激しい飲酒渇望
例:常にお酒を飲みたいという願望が強く、家にお酒を常備しておかないと落ちつかない。
2. 飲酒コントロールの喪失
例:飲酒する前には「今日はお酒を控えよう」や「1坏だけにしておこう」と決めていても、飲み始めると抑制できなくなり大量に飲んでしまう。医師から止められていても禁酒を守ることができない。
3. 離脱症状
例:禁酒した時やお酒を控えた時に、手の震えやイライラ感、動悸や不眠などが現れる。
4. 耐性の証拠
例:これまでのお酒の量では酔っぱらわなくなり、飲酒のたびにどんどん量が増えてしまう。
5. 飲酒中心の生活
例:日常生活の中でお酒を飲んでいる時間が長くなり、仕事や家庭が疎かになってしまう。
6. 問題があるにもかかわらず飲酒
例:持病を抱えていたり、飲酒での暴力やうつ症状などのトラブルを抱えていたりするにも関わらず、お酒を飲んでしまう。

日本人の中でアルコールが飲める人は60%、量は飲めないがお付き合い程度には飲める人が30%、少しでも飲むと気持ちが悪くなる全く飲めない人が10%という割合であり、その中でアルコール依存症という病態になった人の割合は、飲める人が95%、少し飲める人が5%といった割合である。

アルコール依存症だけでなく薬物依存症、ギャンブル依存症などの依存症には三つの原因と三つの関連性のある問題があるといわれている。
原因:
1. 一定以上の飲酒・薬物使用(数回にわたる行動)
純アルコール量として500L飲むと成人男性の場合アルコール依存症になる危険性が高くなるといわれている。この量は日本酒を毎日1合60年のみ続ける量であり、2合だと30年という計算となる。女性の場合には、半分の量と考えられており、若年者においては、もっと少ない量で依存症となる。
2. 遺伝的な要因
家族に1人アルコール依存症患者がいると、いない人に比べて、4倍、両親ともに依存症患者だと9倍といわれている。しかし、必ず依存症になるわけではないので、いろいろな対応方法を知っておくことは重要である。後で話すが、共依存症ということを理解しておき、その対応の仕方を知っておくことが重要である。
3. 脳の学習機能(病)
人格の問題ではなく、脳の病気であるという理解が必要である。
関連性のある問題として考えられていること
1. 原家族での体験
2. トラウマ
3. 癒されていない喪失感(未完の仕事)

一般的な文化として、辛いことがあった時の対応として以下のことが言われている。
1. 良い子は泣かない
2. 強くいきなさい
3. 誰でも経験することだよ
4. 時間がたてば忘れられるよ
5. もっと大変な人がいるんだよ

このような対応をしていると、悲しい出来事が起こるたびに、自分の気持ちを抑えること(抑圧)になり、心の痛みとしてため込んでしまうことになる。
こうして抑圧をし続けていくと、心の痛みが溜め込まれ、①うつ状態になり、その対応策として、②痛み止が必要な状況となり、最後には、③自殺へと進展してしまうことになる。
②の痛み止として、人々が行う行動が3つあり、その状況において依存症が形成されていくのである。
1. アルコール、薬物の使用
2. ギャンブル、買い物、仕事など何かを『やる』ことにのめり込む
3. 人間関係にのめり込む⇒共依存症

アルコール依存症患者の平成25年厚生労働省の推計では109万人おり、そのうちアルコール依存症の診断で治療を受けているものは、平成23年の患者調査で4.3万にという数字である。

依存症のシステム
日々の生活の中で蓄積していくさまざまなストレスや悲しみにから逃れるためにアルコールを飲み、回数が増え、少しの量では酔えなくなって量が増加してきて、身体に悪いから減らそうとかやめようと思ってもつい飲んでしまったり、酔いがさめかけたときの強い不安感に耐え切れず酔いがさめないうちにアルコールを飲んでしまうようになると既にアルコール依存の状態になっています。
アルコールだけでなく、依存症の状態は、目に見える部分、診断できる部分、実際に観察できる部分はごくわずかであり、その表面下にある不安や、おそれ、拒否されるのではという怖さ、孤独感、空虚感、無力感などの根っこがあり、こういったところへの対応を行うことが大事なのですが、専門病院や専門医でも、ここのところまでケアできていないのが現状です。

依存症者の変化としては、
初期:耐性の上昇
アルコール・薬物・ギャンブル等依存対象を中心に生活を組み立てるようになる。 依存対象にとらわれた考え方をするようになる
トラブルにもかかわらず止めない・止められない
中期:人生の様々な面が手に負えなくなる
明らかな否認、矮小化、非難
言葉の暴力、身体的暴力、価値観の変化
筋の通らない恨み、混乱した思考のパターン
生活のあらゆる面での重大な局面を迎える
後期:慢性期・生活全般が退廃的
依存対象のことを常に考えている
生活のあらゆる面が破滅的な事態となる
生きる力をなくす、自殺
といった状態を下図のように変動をくりかえしながら悪化していくことになる。

アルコール依存症者の考え方、感情、行動、つながり、習慣が変化していくとともに、家族にも同様の変化がしょうじていくことが問題である。これを共依存症者Co-dependenceという。

参:
Co-dependence:コディペンデンス=共依存『相手の問題に病的にのめり込んで、自分を見失ってしまう人たち』
Enabling:イネイブリング『依存症者のとるべき責任を周囲の人が肩代わりしてしまい、依存症者が引き起こしてしまった問題に自ら直面しなくて済むようにしてしまう周囲の行動』そうした行動をする人をEnabler:イネイブラート呼ぶ。

Adult Children:アダルトチルドレン『酒害家庭で育って大人になった人をも伴とは言っていたが、今では酒害家庭や嗜癖家庭などの機能不全家庭の中でゆがんだ感情、対人関係の癖、問題解決の仕方を身につけ、思春期から成人期にかけて様々な感情・行動障害・精神障害を発症する人のことを言うようになった』

Addiction:嗜癖(しへき)『習慣や嗜好よりつよい、ある習慣への耽溺で、アルコール、薬物などの化学物質や、食物などの物質に依存する物質嗜癖と、ギャンブルや買い物・仕事・宗教・窃盗・エクササイズなどの行為過程に依存するプロセス嗜癖と、性行為や恋愛や人間関係そのものに依存する人間関係嗜癖=共依存がある』

家族(共依存)の変化としては
初期:耐性の上昇
虐待、依存症による病的ふるまいに自分を合わせる
受け入れがたい行動にも耐えられるようになる
自分のことより依存症者のことばかり考える
依存症者のことが頭から離れない
全てがうわべだけを取り繕う
このままでは悲惨なことになることを理解しながら依存症者のことしか考えられない
中期:人生の様々な面が手に負えなくなる
生活のあらゆる面でさらに事態が悪化する
ストレスが身体症状となって現れる
依存症者の母親のようになり尻拭いをしたり、操ろうとする
感情を押し殺し、引きこもり、依存症者への非難を自分が被る
依存症者が引き起こした不祥事を矮小化する
後期:慢性期・生活全般が退廃的
自分自身を見失う
依存症者のことしか考えられない
生活のあらゆる面が破滅的局面を迎える
逃避する、薬物に走る、自殺す
こういった変化の根底にあるのは、依存症者の行動をコントロールしようとすること、その行動の理由をコントロールしようとすること、その結果をコントロールしようとすることによる。
こういった行動をとることにより、家族内のルールが変わり、役割が変わり、儀式が変わり、コミュニケーションが変わる。

共依存症が発症する家族の心理としては
1. アルコール依存症者の性格を見据えて子ども扱いをする
2. 過保護か逃避かの両極的行動
3. 疑り深い:疑りの対象は依存症者だけではなく周囲に及ぶ
4. 被害者意識が強く、共依存を自覚していない
5. 自分は悪くないと否認する
という問題点がある。

アルコール依存症者を抱える家族へのアプローチとして
1. 認知療法的対応
・不安、恐怖、絶望、自信喪失に陥っているため、耳を傾け、話をじっくり聞いてあげる
・これまでの行動に誤りがなかったことを伝え、支持する
・「疑り深い言動」に気付いたらそれをはっきりと指摘する
・考えがまとまらず混乱していることが多く、問題点を一つ一つ列挙して整理できるよう支援していく
・箇条書きされた個々の問題点について話し合い、優先順位あるいは問題の絞り込みを行う
2. 状況の分析
3. アルコール依存症に関する正しい知識を伝える
4. 飲酒時の対応について話し合う
5. 誤ったこれまでの対応について確認しあう
6. 家族の断酒会・家族グループへの参加を促す
が有効であると考えられており、医療従事者としては、家族へのアプローチの際に以下の点を留意する
1. 結果を焦らず、ラポールを優先する
2. 巻き込まれて混乱しないよう冷静になる
3. 批判ではなく、解決方策の検討であることを明確にする
4. 諦めかけたら心の支えを優先する
5. 依存症者が憎い・悪いのではなく、病気が憎い・悪いことを再認識させる
6. 相手が変わらなければ自分が行動すると決意させる
7. 頑張らなければならないと考える動機を認識してもらう(子供を守る、家庭崩壊を防ぐなど)
8. 家族自身の精神的、身体的健康を気遣う
http://www.hp-bando.jp/pdf/alcohol2.pdf

家族が断酒会・家族グループへの参加する意義は以下の点がある。
1. 孤独感からの解放・減少に役立つ(苦しんでいるのが自分一人ではないことに気が付く)
2. 参加者が全員自分の話をするので受け入れやすい
3. 原則的に、何を話しても批判されない
4. 問題を抱えながらも、自分の人生を生きている人たちに出会うことができる
5. 自分の中の否認に無理なく直面できる
6. みんなの力で問題に対処できる
7. 問題から少しでも解放される時間が持てる
8. 仲間に支えられ、支えることができる
9. 仲間の話によって自分の問題を見つめられる
10. 行動範囲を広げられる
11. 自尊心(自己肯定)感が高まる
12. 分かち合いができる
13. 共感ができて、共感してもらえる
14. 話すことによって心の浄化作用が起こる
15. 力をもらえる(エンパワメント)になる
16. 新しい情報や知識に接することができる

共依存からの回復・・・10の要点
1. 回復から注意をそらす問題や行動パターンを知り、それらに取り組む
2. 自分自身に焦点を当てて生きることを実践する(例:夕食に自分の食べたいものを作る)
3. 自分の感情を正直に感ずる・話す(例:自分はこう思い、貴方にはこうして欲しい)
4. 退行してしまうことがあることを知っておく
5. 自分自身の中にある深い悲しみに取り組む(グリーフワークをする)
6. 感情的な痛み、辛さに耐えなければならないことを知る
7. 健康的な境界線と限界について知る
8. 自分の中の健康なニーズに出会う
9. 真実の自己と偽り自己の違いを知る
10. 自分の問題の核、本質を知る

アルコール依存症者への接し方10ヶ条
1. 酩酊時には接しない
2. 飲酒しているときの「相手」をしないで無視する
3. 興奮しているときにはその場から去る
4. 翻弄に巻き込まれないよう注意する
5. 大切な話は飲酒していないときに行う
6. 批判や愚痴、冗談を言うのではなく、本音で話をする
7. 依存症者の言い訳もよく聞きだしてあげる
8. 必要に応じて毅然とした態度を示す
9. 憎いのは依存症者ではなくアルコールであることを銘記する
10. 苦しみながら断酒を続けているやむ人であることを忘れない
http://www.hp-bando.jp/pdf/alcohol2.pdf

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