その他
2017.06.19
ドライマウスの原因と対処法 斎藤 一郎 先生
2017年6月8日
演題「ドライマウスの原因と対処法」
演者:鶴見大学歯学部教授 斎藤 一郎 先生
場所: ホテル横浜キャメロットジャパン
内容及び補足「
シェーグレン症候群は1933年にスウェーデンの眼科医ヘンリック、シェーグレンの発表した論文にちなんで名づけられた疾患である。
2003年の厚生労働省の調査によると、1年間で日本においてシェーグレン症候群で医療機関を受診した人は7800人と報告され、近年では15000~20000人とされている。潜在的な患者数を含めると、アメリカのデータを当てはめて計算すると10~30万人いると推計されている。
1994年の疫学調査での年齢分布は50歳前後の女性が多く、男女比は1:14と女性に合った圧倒的に多い疾患である。
http://www.ss-info.net/kisotishiki/kisotishiki04.html
鶴見歯科大学にドライマウス外来を開設して15年たち、その間初診患者さんとして7200名の患者さんを診察しました。ドライマウス症状を訴える患者さんの92%は薬剤ン副作用やストレス、更年期障害による症状で、シェーグレン症候群によるものは8%程度でした。
本疾患は主として中年女性に後発する涙腺と唾液腺が主にやられる自己免疫性疾患で、膠原病に合併する二次性シェーグレン症候群と、これらの合併のない、原発性シェーグレン症候群に分類される。
臨床的には、
ドライアイ、口腔乾燥症状の診の患者(約45%)
全身性の自己免疫性疾患に合併するグループ(約50%)
悪性リンパ腫や原発性マクログロブリン血症を合併しているグループ(約5%)
シェーグレン症候群患者調査:斎藤先生は2008年度の報告で講演されましたが、株式会社Q Lifeから2017年4月26日に最新版の報告がありましたのでこちらも合わせて記載します。
自覚症状:
眼の乾燥症状:ドライアイ( 涙が出ない、目がころころする、目がかゆい、目が痛い、目が疲れる、物がよくみえない、まぶしい、目やにがたまる、悲しい時でも涙が出ないなど)
口の乾燥症状:ドライマウス(口が渇く、唾液が出ない、摂食時によく水を飲む、口が渇いて日常会話が続けられない、味がよくわからない、口内が痛む、外出時水筒を持ち歩く・夜間に飲水のために起きる、虫歯が多くなったなど)
鼻腔の乾燥症状:(鼻が渇く、鼻の中にかさぶたが出来る、 鼻出血があるなど。)
その他症状:(唾液腺の腫れと痛み、息切れ、熱が出る、関節痛、毛が抜ける、 肌荒れ、 夜間の頻尿、紫斑、皮疹、レイノー現象、アレルギー、日光過敏、膣乾燥(性交不快感)など、全身症状として:疲労感、記憶力低下、頭痛は特に多い症状、めまい、集中力の低下、気分が移りやすい、うつ傾向などもよくある。)
(おそらく2008年のもの)
http://www.ss-info.net/kisotishiki/kisotishiki05.html
シェーグレン症候群が原因と思われる症状で、初めて医療機関を受診した科はどこですか?
一般内科が26%で最も多く、次いでリウマチ科18%、膠原病内科は16%であった。
2008年では、内科が67%、次いで歯科17.3%、耳鼻科13.6%と異なり、シェーグレン症候群を専門で診る科を受診した患者が増加していることがわかる。
シェーグレン症候群と最終診断されたかについては、膠原病内科が約半数を占めていた。
現在の症状での生活への影響度は、ドライアイ、ドライマウスといった感想症状が9割を超えていた。
「初めて医療機関を受診した時の年齢」-「症状が初めて出た時の年齢」は、平均1.83年で受診までの期間はそれほど長いものではなかった。
「診断された時の年齢」-「初めて医療機関を受診した時の年齢」は平均1.24年で以前よりは短縮されている。
「診断された時の年齢」-「初めて症状が出た時の年齢」は平均3.07年であった。
現在診断されている疾患についての回答は、関節リウマチが23%と最も多く、次いで、高血圧12%、全身性エリテマトーデス(SLE)が9%、脂質異常症7%、糖尿病が2%であった。関節リウマチ患者の約20%にシェーグレン症候群が発症するといわれている。
診断:1999年厚生省班のシェーグレン症状の診断基準
1. 生検病理組織検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)口唇腺組織で4mm²あたり1focus(導管周囲に50個以上のリンパ球浸潤)以上
B)涙腺組織で4mm²あたり1focus(導管周囲に50個以上のリンパ球浸潤)以上
2. 口腔検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)唾液腺造影でStage I(直径1mm未満の小点状陰影)以上の異常所見
B)唾液分泌量低下(ガム試験にて10分間で10mL以下、またはサクソンテストにて2分間で2g以下)があり、かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見
3. 眼科検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)シルマー試験で5分に5mm以下で、かつローズベンガル試験(van Bijsterveldスコア)で3以上
B)シルマー試験で5分に5mm以下で、かつ蛍光色素試験で陽性
4. 血清検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)抗Ro/SS-A抗体陽性
B)抗La/SS-B抗体陽性
【診断基準】
上の4項目のうちいずれかの2項目以上が陽性であれば、シェーグレン症候群と診断する。
Apple tree appearanceを示す。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsg/25/3/25_3_307/_pdf
症状:
1. 乾燥症状(眼、口腔、気道乾燥、皮膚乾燥、腟乾燥など)
2. 唾液腺・涙腺腫脹
3. 関節症状(関節痛、関節炎)
4. 甲状腺(甲状腺腫、慢性甲状腺炎)
5. 呼吸器症状(間質性肺炎、慢性気管支炎、嗄声など)
6. 肝症状(原発性胆汁性肝硬変症、自己免疫性肝炎)
7. 消化管症状(胃炎)
8. 腎症状(遠位尿細管性アシドーシス、低カリウム血症による四肢麻痺、腎石灰化症)
9. 皮膚症状(環状紅斑、高ガンマグロブリン血症による、下肢の網状皮斑や紫斑)
10. その他(レイノー現象、筋炎、末梢神経炎、血管炎、悪性リンパ腫など)
http://www.kawamoto-dental.com/dry/index.html
ドライマウスの原因
1. ストレスによる唾液分泌量の低下:緊張で瞬間的に唾液分泌が止まる
2. 加齢による唾液分泌量の低下
3. 食生活の変化による咀嚼回数・咀嚼時間の低下(1日30分未満となった)
4. 薬剤に頼る生活(欧米の40倍の服薬量)
5. シェーグレンや自己免疫性疾患としての症状や糖尿病、腎不全などの疾患による影響
唾液の役割
唾液は唾液腺と呼ばれる分泌腺から口腔内に分泌される液体である。左右両側の耳下腺、顎下腺、舌下腺の三種類の大唾液腺から全唾液量の90%が分泌される。
唾液の分泌は自律神経によりコントロールされている。
サラサラ唾液:主に副交感神経により支配され、食事の時に多く分泌され、唾液アミラーゼなど消化を助ける酵素を多く含み、食べ物を湿らせて飲み込みやすくするなど、消化吸収を助ける役割を担っている。
ネバネバ唾液:おもに交感神経に支配されており、緊張した時などによく働き、納豆やオクラに含まれるムチンというネバネバの成分が含まれており、細菌を絡めとし身体への侵入を防ぐほか、口腔内の粘膜を保護したり保湿する体を守る役割を担っている。
https://lidea.today/articles/499
通常健康人で一日1~1.5L程度(安静時唾液で700~800ml程度)分泌され、血液をもとに作られ、99.5%が水分で、残りの半分ずつを無基質と有機質が占めている。
作用ごとに物質を上げると以下のようになる。
http://www.kawamoto-dental.com/dry/index.html
ドライマウスを悪化させる要因
1. 糖尿病
2. シェーグレン症候群
3. 腎不全・透析
4. 更年期障害:Dry Vaginaも伴う、卵巣摘出でDry Mouth出現し、女性ホルモン補充で改善する
5. ストレス
6. 筋力低下
7. 薬剤の副作用
8. 老化
9. 喫煙
10. 飲酒
口渇症状を出す薬剤
J Health Care Dent. 2005;7:46-54
ドライマウスにより派生する症状・悪化する疾患
1. 上部消化管障害
2. 感染症:誤嚥性肺炎など
3. 口臭
4. 摂食障害
5. 口腔内の不快感
6. 口内炎等の粘膜疾患
7. 齲歯・歯周病
8. 舌痛症
9. カンジダ感染
10. 異常乾燥感
治療
生活指導:ガムをかむなどして唾液分泌を促すとともに口腔ケアを行う
人工唾液(サリベート、2%メチルセルロース)
薬剤療法
粘液融解薬:ビソルボン
漢方薬:白虎加人参湯、人参湯、麦門冬湯
M3ムスカリン作動薬:塩酸セビメリン(エポザック、サリグレン)、塩酸ピロカルピン(サラジェン)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology/24/1/24_1_39/_pdf