その他
2017.11.27
症例から学ぶ 輸入感染症ABC 忽那賢志先生
2017年11月26日
演題「症例から学ぶ 輸入感染症ABC ~東京オリンピックに備えよう~」
演者:東国立国際医療研究センター 国際感染症センター 忽那 賢志 くつなさとし先生
場所:横浜国際ホテル
内容及び補足「
現在世界旅行者の数は増え続けており、年間10億人を超えている。
日本人の海外旅行者数は年間1700万人前後で、2016年も1711.6万人であるが、日本を訪れる海外旅行者数は徐々に増加し2012年835.8万人、2013年1036.3万人、2014年1341.3万人、2015年1973.7万人となり、2016年には2403.9万人と2000万を軽く突破し、阿部首相も2020年の訪日外国人誘致目標数を4000万人に変更することになった。
https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/marketingdata_outbound.pdf
マスギャザリング(Mass gathering:一定期間、限定された地域において、同一目的で集合した多人数の集団)においては、感染症のアウトブレイクが起こる危険度が増加する。
特に、蚊を媒介とする感染症、髄膜炎菌、麻疹、風疹、おたふく、水痘、インフルエンザ、ノロウイルスやサルモネラ、O157といった感染性腸炎、結核といった感染症が問題となる。
髄膜炎菌は、保菌率が低く、風習、習慣的に集団生活する機会が少なく、蔓延している遺伝子系がそれほど侵襲性ではない所に、保菌率が高い環境から参加者が来て、侵襲性の高い遺伝子型が存在しているとアウトブレイクすることになる。
メッカ巡礼Hajjに関連した流行が2001年に起こり、イギリスで41例のW群による流行で27名の死亡者が出た(8例が巡礼者、19例が濃厚接触者:致命率27%)。
第23回世界スカウトジャンボリーが2015年7月28日~8月8日の12日間山口市阿知須きらら浜他で行われ、世界162か国から約3万人が集まり大会2週間ほど前から、日本各地でホームステイをしながら滞在した。会場では平地に20m×25mごとに杭打ちをしたテントを張り、炊事、トイレ、シャワーを共用していた。
帰国後にスコットランド隊、スウェーデン隊6名が侵襲性髄膜炎菌感染症を発症した。
症例を提示して、これらの問題を考えていこう。
Case 1:27歳日本人男性
2日前から39度の発熱を認め、頭痛、下痢、関節痛を認め来院。血圧102/64、脈拍115/分、39.2°で当直医は、細菌性の腸炎と考え、クラビット投与で返した。
数日後に背中に真っ赤な皮疹が出現し、再受診となった。
海外渡航歴を聞いてみるとフィリピンとマニラに8月12日~15日まで旅行し、現地で蚊に刺され、8月17日朝より熱が出たという経過であった。
確定診断はデング熱であった。
発熱に下痢を合併している場合海外旅行後ではないかと疑おう。
渡航後のDisease Control and Prevention Center(DCC)受診者の主訴を見てみると、
発熱、下痢が圧倒的に多い。
Geo Sentinelサーベイランスでの熱帯、亜熱帯から帰国後に病院を受診する患者の主訴でも、発熱、下痢が多い。
輸入感染症の各疾患において下痢を認める頻度は以下のような報告がある。
熱帯熱マラリア:5-38%
デング熱:37%
レプトスピラ:58%
リケッチア:19-45%
SARS(Severe acute respiratory syndrome):38-74%
エボラ出血熱:86-96%
Case 2:33歳日本人男性
2日前から発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛があり来院。インド、ジャイプールに1か月前から1週間前までいた。咳や、下痢や尿路症状はないがグッタリしている。血圧102/76、脈拍113/分、体温39.2℃、感染フォーカスを探すために全身の診察を行うも、明らかなフォーカスは認めなかった。
フォーカスのない全身発熱症候群としては以下の疾患が挙げられる。
血流感染症:感染性心内膜炎、カテーテル関連疾患
胆管炎、肝膿瘍
腎盂腎炎、前立腺炎
キャンピロバクター腸炎
マラリア・デング熱・チクングニア熱などの蚊媒介疾患
腸チフス
などである。本例においては血液培養で腸チフスと診断され阿知須炉邁進1g/24hr5日間の投与で解熱し退院となった。
Case 3:31歳日本人男性
4年前からウガンダに滞在し、10日前に帰国。6日前から発熱、全身倦怠感、筋肉痛出現。近位受信し、肝障害、腎機能障害、血小板減少を認め照会入院。義務坐染色ではマラリア陰性であった。ウガンダにいた時には、ネズミはいたるところにいる環境で、受診時には眼球結膜の充血も認めていた。
以上の経過からワイル病を疑いセフトリアキソンの投与が開始されたが、念のために当院で行ったギムザ染色で、赤血球中にリング状の虫体を認め、熱帯熱マラリアと確定診断となった。
マラリアの可能性を考えたら、3回検査を行って陰性でない限り否定すべきではない。
参
レプトスピラ症:スピロヘータ目レプトスピラ科に属するグラム陰性細菌で、病レプトスピラは通常6~20μm、直径0.1μmのらせん状の最近で、両端あるいはその一端がフック状にまがっている。微好気若しくは好気的な環境で生育し、中性あるいは弱アルカリ性の淡水中、湿った土壌中で数か月生存するとされている。
病原性レプトスピラは保菌動物の腎臓に保菌され、尿中に排菌される。保菌動物としては、齧歯類をはじめ多くの野生動物や家畜(牛、馬、豚など)、ペット(猫、犬など)が挙げられる。この保菌動物の尿で汚染されえた水や土壌、あるいは尿との直接的な接触によって経皮的に、また、汚染された水や食物の飲食による経口的に感染する。
臨床症状:感冒様症状のみで警戒する軽症型から、黄疸、出血、腎障害を伴う重症型(ワイル病)まで多彩な症状を示す。5~14日間の潜伏期間を経て、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、腹痛、結膜充血などが生じ、第4~6病日に黄疸が出現したり、出血傾向を認める。
治療・予防:軽~中等度のレプトスピラ症の場合には、土岐氏鎖育林の服用がすすめられ、重症の場合にはペニシリンによる治療が行われる。
流行地域を以下に示す。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/531-leptospirosis.html
Case 4:28歳日本人男性
3か月前まで半年間スーダンに滞在していた。5日前より発熱、下痢を認め、3日前に救急外来受診。マラリアを疑いギムザ染色するも陰性で、いったん帰宅し経過観察となった。2日前から解熱しがら、再び発熱を認めたたら、本日受診となった。
2回目のギムザ染色でバナナコーンのような虫体を認め4日熱マラリアと診断された。
Case 5:40歳日本人男性
3日前に呕吐・下痢を認め腸炎と診断された。その後具合が悪いため、他の病院を受診し、肺炎と診断され、紹介入院となった。問診情報から、ドバイ旅行のオプショナルツアーでラクダに乗り、ラクダミルクを飲み、ラクダバーガーを食べていたため、MRASが疑われたが、A群溶連菌性肺炎だった。
Case 6:40歳代ソロモン諸島出身の男性
1か月前から3週間ソロモン諸島にいて、3日前に日本に来日。眼球結膜充血し、口腔内に白いザラザラした白斑があり、紅斑を全身に認めた。
(下の写真は小児のものであるが、このような写真で皮膚の基調はもう少し黒かった)
Case 7:70歳日本人男性
世界一周のクルーズ旅行中に細菌性肺炎を発症し、インドのムンバイに入院。挿管され、人工呼吸管理まで行った4か月の入院後に帰国した。NDM-1産生のスーパー耐性菌であった。
Case 8:27歳日本人女性
14日~7日前までインドンネシアに滞在。夏熱、関節痛、咽頭痛、咳嗽を主訴に来院。
咽頭所見としてインフルエンザ濾胞を認め、迅速キットにてインフルエンザAと診断した。
海外旅行後に受診した発熱患者のうち約1/3は輸入感染症とは関係ない疾患出会った。
輸入感染症を考える際のポイントを、症例を見ながら考えてみよう。
40代男性
11月17日朝から両側ふくらはぎが攣る感じがして、だるさがあった。18日には38の発熱を認め、夜になると全身に皮疹が出現し来院。11月10日~16日までベトナムホーチミンに滞在していた。
両側眼球結膜は充血しているが眼脂は認めない。
まず着目すべきことは、1.渡航地、2.潜伏期間、3.暴露歴である。
渡航地:
DDC受診症例で比較してみると、東南アジアではデング熱、南アジアでは腸チフス、アフリカにおいてはマラリアが過半数を占める。
地域の流行に関する情報源として以下のものがあるので活用してほしい。
CDC Traveler’s Health:
WHO:
Fit for travel:
FORTH厚生労働省検疫所:
国立感染症研究所 感染症情報センター:
潜伏期間:
暴露歴:
その他にも以下のような情報も参考になるので、問診で忘れないようにする必要がある。
疾患を考える際にCriticalとCommonな物から考えて除外していく。
本症例の確定診断はジカ熱であった。