その他
2019.09.26
臨床医のための腎臓病栄養理論と指導 岩崎 滋樹 先生
2019年8月29日
演題「臨床医のための腎臓病栄養理論と指導 part2 -目から鱗の実用栄養学-」
演者:横浜市立市民病院 腎臓内科 岩崎 滋樹 先生
場所:ホテルプラム
内容及び補足「
腎生検にてIgA腎症と診断された症例の腎機能の変化を症例ごとに経過を見たもので、経過を見てみると予後不良群、予後比較的不良群、予後比較的良好群の三群に分けられる。
いずれの群でも、最初は腎機能が全く悪くならず、結果的に透析になってしまった約5年前から急に腎機能が悪くなり、最後の変化はほぼ同様の経過をたどり急速に悪化する。
違いは腎機能が悪化し始めるまでの経過が長いことである。
この変化の理由を考えてみよう。蛋白質が代謝されたものを腎臓から排泄している。通常の糸球体数があれば、1日4時間ほど働けば、代謝産物を排泄できる。腎疾患の進行により糸球体数が減少しても、働く時間を延長すれば、身体に代謝産物は蓄積されてこない。働く時間が延長しても代謝産物を排泄できなくなって初めてクレアチニン値が上昇してくるのである。
機能している糸球体の数を人に当てはめてみると、10個の老廃物を10人で処理しているときには1人当たり1個で済むが、Crが2に該当する5人で処理する場合には、1人当たり2個になり4時間の残業ですむ。Crが3に該当する3人で処理する場合には1人当たり3個になり8時間の残業となるが何とか対応できるが、Crが5に該当する2人になると一人当たり5個になり16時間の残業となり、生活が破綻する為、急激に悪化することになる。
腎臓の仕事である蛋白質の処理の仕事が低蛋白食で半分になると、
Cr2の5人で5個になるので、1人当たり1個になり、Cr3の3人でも2個弱となり、Cr5の2人になると1人当たりの仕事量は2.5になり、6時間残業で対応できる状況を作り出すことが可能である。
三大栄養素のなかの炭水化物と脂質は、代謝されると水と二酸化炭素となり、二酸化炭素は肺から排泄されるので、呼吸器疾患がない場合には問題となることは少ない。
蛋白質からは窒素化合物が合成され、これは腎臓から排泄するしかない。従って腎機能が悪化してきた場合には、窒素化合物の合成量を減らすためにタンパク制限が必要となるのである。
腎臓の悪化の要因を考えると以下のようになる。
原疾患の進展悪化・加齢により悪化していくが、そこに感染や下痢などの脱水による偶然的悪化因子により経過が修飾される。この経過をさらに修飾する因子として、食べ過ぎやエネルギー不足などの患者要因である食事と、合併している疾患の治療・コントロールといった医師が関与できる要因がある。
治療としては7つの分野に分けて考えられるが、上の四つは透析で対応可能であるが、舌の血圧、カルシウム、貧血の対応に関しては薬物治療を行う必要がある。
患者説明用に治療内容の重要度と患者側と医師側に分けて整理してみると以下の表のようになる。
腎不全時にはAMP/ATP比が上昇し、エネルギー状態が通常の腎臓に比べ悪化している。嫌悪受持にはAMP/ATP比が上昇していれば、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)は活性化し、ATP産生を促し、エネルギー状態を改善するが、CKDの腎臓ではAMP/ATP比が上昇し、エネルギー状態が悪化しているにもかかわらず、CKDによる尿毒素の蓄積や体内環境の産生かなどによってAMPKが活性化されない「エネルギー不全感知障害」をきたしている。
AMP/ATP比の感知機構を介さずにAMPKを直接活性化させる薬剤であるA-769662をCKDモデルマウスに投与すると、腎臓のAMPKを活性化させ、腎機能障害進行を食い止めることが示された。
Kindey International 95;123-137, 2019
SGLT2阻害薬が糖尿行政腎症の進展を抑制する機構として、糖尿病患者では尿細管において糖の再吸収のために大量のエネルギーが消費されているが、SGLT2阻害薬により糖の再吸収が抑制され、糖の再吸収のために消費されていたエネルギーが消費されなくなり、腎臓内の酸素の低下が減少し、糸球体への過剰な負担が減り、尿細管細胞の酸化ストレスが減し、腎臓の悪化が抑制される。
http://dm-rg.net/news/2018/03/018502.html?pr=dmrg001
Iprapliflozinの糖尿病性腎症への作用をまとめて図示すると以下の図となる。赤の矢印は高用量のIprapliflozinの効果で、青の*は低用量でも認められる効果である。
Scientific Report 8, Article number:4029(2018)
栄養、食事に関すもので口コミ、思い込み、そして誤解させるCMが多い。ましてやサプリだけで痩せるはずがない。
今までの栄養学にも問題がある。
摂取した食物がすべて吸収されることにする、もしくはある程度の吸収係数で補正後すべて吸収されたことにして計算されている。
食事の摂取時間、感覚、食事の順番、食べるスピード、年齢、各種ホルモン、腸管運動速度などは一切考慮されていない。
アトウォーターは、蛋白質、脂肪および炭水化物の燃焼熱の値を燃焼熱の値を文献から収集し、自らも測定し、食物を摂取した際の消化吸収率を(intake-faecal excretion)/intakeで計算し、尿中損失は尿中エネルギー対窒素の比から計算し、炭水化物、蛋白質は4 kcal/g、脂質は9 kcal/g、アルコール7kcal/gとした。
その後、アメリカ合衆国農務省のアナベル・メリルとバーニス・ワットによって異なる食物源からの蛋白質、脂肪および炭水化物の総エネルギー値が異なること、異なる食品の成分の見かけの消化率が異なる事実を補正した修正アトウォーター係数が提唱されたが、腸内の混合物中の食品間の相互作用などは考慮に入れられていない。
蛋白質:コングルチン(青花ルピナス由来)5.48 kcal/g、ホルデイン(大麦由来)5.92、kcal/g、牛乳5.5kcal/g
脂肪:母乳脂肪9.37kcal/g、牛乳脂肪は9.19kcal/g
炭水化物:単糖約3.75kcal/g、二糖類3.95kcal/g、多糖類4.15〜4.20kcal/g
食事誘導体熱産生(diet-induced thermogenesis:DIT)は食事摂取に伴い、 ” 食品自体の温度“に由来する熱量以上に体温が上昇する現象。二つの構成要素からなる。一つは、味覚、嗅覚などの口腔内感覚神経系を介するエネルギー代謝による上昇。もう一つは食品の消化吸収と同化の過程による上昇である。
前者の一つの機序として、匂いや味などの”非エネルギー性食品成分”が”感覚神経刺激”を介して、褐色脂肪組織(BAT)での脂肪燃焼を刺激しDITの発現亢進に深く関与していることがPETやMRIなどのエネルギー代謝像の解析から明らかになってきた。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jln/23/1/23_7/_pdf/-char/ja
蛋白質(分解)
↓ 余剰物
アミノ酸 → 老廃物
↓
蛋白質(合成)
蛋白質はエネルギー効率があまり良くなく、エネルギー源としてはあまり適していない。
飢餓状態では吸収率は向上するので、力士は太るために伝統的に1日2食にしている。
16時間に及ぶ空腹飢餓に運動を行うと、その後の大量の食事と睡眠は吸収率をより国情させると言える。
時間栄養学
細胞分裂は夜間に起こるので、抗がん剤投与は夜に投与するほうがより効果的である。
骨は夜に合成されるので、カルシウムの摂取は夜が良いといったように、一日の時間変化を考えて、食事や薬物投与の効果を高める取り組みである。
体内時計を形作っている数多くの時計遺伝子が発見された。
哺乳類の概日リズムは4つの時計遺伝子およびその転写翻訳産物である時計蛋白質により制御されている。
Clock:Circadian locomotor output cycles kaput
Bmal 1:Brain and muscle arnt-like protein 1
Period:Per
Cryptochrome:Cry
はじめに時計蛋白質Clock、Bmal 1の二量体がCry上流のE-box配列に結合し転車が促進される。この時点(日中)では糖新生は抑制される。
転写の促進及び翻訳により生じた時計蛋白質PerとCryは二量体を形成し、自らの転写を促進していたClock-Bmal 1二量体に結合し、転写促進の抑制を行う。この時点(夜間)で糖新生は促進される。
BMAL1は脂肪合成を促進するが、日内変動があり、BMAL1が少ない時に食事をすることが食べ痩せの秘訣となる。
喫煙習慣がなく、夜間勤務をしていない健康な女子大学生33名(20.5±1.2歳)に対して、同じカロリーの食事を、時間をずらして、朝型(7:00、13:00、19:00)と夜型(13:00、19:00、1:00)の食事摂取にして食事誘発性熱産生DIT(Diet Induced Thermogenesis)を測定した。
1回目の食事と3回目の食事で、朝型の方が明らかにDITは高値を示した。
3食合計のDITを比較すると朝型は0.878Kcal/Kg/9hであるのに対して、夜型は0.654 Kcal/Kg/9hと発熱量は3/4に低下している結果となった。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs/63/3/63_3_101/_pdf/-char/ja
つまり同じ食品(量)を食べても、夜型になるだけで太りやすくなってしまう。
健康な女子大生で、毎食同じ量の塩分を接種してもらっても、ナトリウムと塩素の尿排泄には時間差があり、朝や昼に比べて夕食後に多くなる。
これは、朝に高く夜に低い血中アルドステロンの日周リズムと逆相関している。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/137/3/137_3_120/_pdf/-char/ja
アルドステロンは、腎臓でのナトリウム再吸収を促進し、間接的に昇圧作用を示す。グルココルチコイドはアルドステロンの感受性を高め、両ホルモンの血中レベルが高くなる朝は、仕事や活動をするために血圧が高くなりやすい。アルドステロンのリズムが正常であれば、高い朝と昼に食塩を制限し、有が旗比較的制限を緩やかにすることが可能である。
Diabetologia. 2015 Jul;58(7):1394-408
2型糖尿病患者19人と耐糖能正常者21名で野菜から摂取した日と炭水化物から摂取した日のそれぞれの5分ごとの平均血糖値の推移を見てみると、MAGE(Mean amplitude of glycemic excursion)は30%以上減少した。
15人の糖尿病患者に野菜を食べた後にご飯を食べた場合と、逆の順番で血糖値とインスリンの分泌の違いを検討してみると、野菜を先に食べたほうが明らかに血糖値の上昇が少なく、インスリンの分泌量が約30%少なくて済んだ。
米飯を先に食べるか、魚を先にするか肉を先にするかでも血糖値の上昇は異なる。
Diabetologia 2016, 59, 453-461
以上の経過をまとめると食物繊維→蛋白質→炭水化物の順で食べる方が、より効果的に食事による血糖値の急上昇が抑えられることが推察される。
年齢による吸収力の低下は不明であり、エネルギー確保が必要な高齢者においては、蛋白質は代謝経路が多く多量の摂取は勧められない。高齢者は、新陳代謝が低下しており、成長ホルモンの分泌も低下し、運動量も低下している高齢者においては、蛋白質の同化は困難である。
蛋白質は分解して吸収するためにエネルギーを使うので、分解されたアミノ酸を理想的な割合で取る方が効率的と考えることができる。
食品中の必須アミノ酸の含有比率を評価するためにアミノ酸スコアが利用されている。特定の食品に対し窒素1gあたりに占める必須アミノ酸が基準と比較してどれだけ含有されているかを評価するものである。
この数値は窒素1gあたりの数値であり、実際の含有量は考慮されていないし、アミノ酸スコアは高いが蛋白質そのものが少ない食品もあるので、その情報を加味して考える必要がある。しかも9種類の必須アミノ酸を基準にしているので、全ての必須アミノ酸を評価しているものではないし、他のアミノ酸も無視されている。
1973年のアミノ酸基準値と1985年のアミノ酸基準値が異なっていることも留意する必要があるし、現在の食品のアミノ酸組成が昔と異なってきている点も気をつける必要がある。
尚、FAO/WHOは1993年に蛋白質の消化されやすさも加味した、蛋白質消化吸収率補正アミノ酸スコア(PDCAAS)を提示している。
蛋白質・アミノ酸の代謝を考えてみる
体蛋白、アミノ酸プールとして230gあり、尿から45g、皮膚や毛髪、爪として4.5g、糞便中に10g程度排出される。その多くが腎臓から尿として排出されている。
身体の蛋白質を維持するために必要最小限の量は23g程度であり、それ以上は余剰分であると言える。
http://www.nibiohn.go.jp/eiken/programs/ekigaku_block2010_3.pdf
太古の昔から人間の食事内容を見てみると、1万年ほど前には食糧事情は厳しく、生き残るために食事をし、食事を得ることも不安定であり、木の実や何でも食べる雑食の状況であったと考えられる、1000年程前になるとしきるための食事であるが、身分の高いものにおいて食糧事情は安定化し、糖質や炭水化物が主体となってきた。ここ数十年で食事の目的は楽しむためのものになり、肉などの蛋白質や脂質が多くなり過食の時代となってきている。
蛋白質摂取量が同じでも、三食均等に摂取する場合と夕食に偏って摂取する場合では、筋肉合成量に違いが出てくる。ある一定以上の筋肉の合成ができないために、三食均等に蛋白質を取った方が効果的である。
https://academic.oup.com/jn/article/144/6/876/4589937
無駄にとった蛋白質を代謝排泄する分だけ腎臓の負担となると言える。
必要量の蛋白を取る際に注意しておきたい点は、良質なたんぱく質を摂るということある。
動物性たんぱく質に多く含まれているリジンは、小麦やトウモロコシと植物には少なく、リジン欠乏症になると心配されているが、上記みたように体には日々必要とされる蛋白質23gの約10倍の230gのアミノ酸プールがあるため、30g以下の厳しい低蛋白食にしない限り、数日のうちにアミノ酸の過不足は標準化される。
リン
腎機能低下時にはビタミンDの機能が障害され、カルシウムの吸収が低下し、血中のカルシウム濃度も低下する。また、リンの尿中への排泄が低下するため、血中のリン濃度が上昇し、二次性副甲状腺機能亢進症の状態になってくる。
PTHの上昇が持続すると骨のカルシウムが減少し骨折しやすくなり、血管壁への石灰化も進行してくることになる。CKDにおいてみられるカルシウム・リン・PTHの異常により引き起こされる病態をCKD-MBD:CKD-Mineral and bone disorderという。
http://www.myclinic.ne.jp/imobile/contents/medicalinfo/top_naika/suzuken_naika_54/mdcl_info.html
高リン血症により、副甲状腺機能亢進症、人生骨傷となるだけでなく、血管平滑筋細胞や血管内皮細胞への障害をきたし、血管石灰化の進行や心血管系イベントの増加を招き、死亡率の上昇を招く。
Clinical calcium. 2012;22:1515
平成22年23年国民健康・栄養調査によると、日本人のリンの摂取量の中央値は944㎎/日であるが、加工食品に添加されているリンの量は加算されておらず、より高値であると言える。平均年齢68±6歳の高齢女性の食事調査をした結果では1019±267mg/日と報告されておりやや高値である。
https://www.jinzou.net/01/pro/sentan/vol_31/ch01.html
慢性維持透析患者約3万例を対象に実施された3年間の疫学調査では、透析前の血清リン濃度が高いほど死亡リスクが上昇した。また逆に極端に血清リン濃度が低い場合にも死亡率は上昇するJ字カーブを描いている。
蛋白摂取量が減少しているにもかかわらず血清リン濃度が上昇している患者群では生存率が低く、逆に蛋白質摂取量が増加している患者群で血清リン濃度が低下している場合には生存率が高いとこがわかる。
以上の成績から言えることは蛋白質摂取量を制限することなく、リンの量を制限することがCKD患者の管理にとってより効果的であるかもしれないという可能性を示唆している。
Am J Clin Nutr 88: 1511-1518, 2008
蛋白質摂取量とリンの摂取量は正の相関がみられる。
慢性透析患者の食事療法基準で挙げられている、食品群別のリン/蛋白質比率の表を提示する。
これを見てもあまりピンとこないので、文部科学省学術・学術審議会資源調査分科会編
日本食品標準成分表2015年版(七訂)を提示する。
蛋白質含有量とリン含有量は比例するが、リンの含有量が多いものは動物性タンパク質であると言える。したがって、血清リン濃度を気にするのであるならば、植物性たんぱく質を主に摂る方が良いと言える。
植物性の食品の中でリンの含有量が多いものは特に注意をする必要がある。
https://www.jinzou.net/01/pro/sentan/vol_31/ch01.html
https://pharma-navi.bayer.jp/omr/online/bhv_list/140512_FOS_hozon_2_201309_20140512111401.pdf
動物性蛋白質以外でリン含有量(食品100gあたり)が高いものとして注意してほしい食品として、アーモンド(460)、ピーナッツ(380)、ヨーグルト、牛乳、アイスクリーム、プロセスチーズが挙げられる。
昔の日本人の食事の内容を検討してみる。
ドイツミュンヘン大学の栄養学者カール・フォン・フォイト教授がドイツ人の食生活調査から得たデータを基づいて作った理論から明治政府が当時の小柄な日本人に応用し栄養所要量を「蛋白質96g、脂肪45g、糖質415g、2450kcal」と定めたが、この時点での日本人の食生活は「蛋白質56g、脂肪6g、糖質394g、1850kcal」であった。
http://sukoyaka-labo.com/health/4207/
明治末期には、米を主食として、野菜、イモ類、穀物を取り、他の品目はごく限られた量しか消費されていなかった。魚介類も漁村以外では、近年の1/10しか消費されておらず、蛋白源は大豆・味噌が重要な食品であった。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/0280.html
食事摂取面の比較をしてみると、大正時代に比べると、昭和初年は穀物類、イモ類の消費量の減少と、果実、牛乳、乳製品、肉類、魚介類、油・油脂、砂糖の増加があった。1960年代には各種食品が増加し、1970年代に入り、動物性食品が全体的に急増、果物も野菜も増加し、基準的な栄養素摂取レベルに達した。
http://www.hosp.mie-u.ac.jp/epidemiology/_src/1434/AokiVol3_pc.pdf
こういった栄養学的な変遷とはかかわらず、日本人の栄養失調は戦中・戦後の食事事情の悪化あるものの、江戸時代や明治期の人が体格的には低身長ではあったものの、非健康であったとか、低栄養であった、体力・持久力不足であったかというとそういったことはなく、身体を動かしていない現代の方が、逆に悪化していると考えられる。
最低限の蛋白摂取量が維持され、摂取総カロリーが維持されていれば、筋肉量や筋力の低下は来ないといえる。
平成29年の国民健康・栄養調査結果を年齢別に蛋白質摂取源を見てみると、若年者では肉類が多いが、高齢者では魚介類が多い。蛋白摂取量も80歳未満では70gを超えているし、80歳以上でも65gとそれなりに取っている。
栄養素等摂取量の状況 エネルギー、たんぱく質、脂質及び炭水化物摂取量の平均値 (20歳以上、性・年齢階級別) 第1部
1876~1905(明治9~38)年にかけて日本に滞在していたドイツの内科医であるエルウィン・フォン・ベルツは、菜食者と肉食者のどちらが持久運動に優れているかを調べるために、22歳と25歳の俥夫を選び人力車を引かせる「人力車の俥夫の走力実験」を行った。
最初は、白米、イモ、大麦、粟などといった日本古来からの食べ物で、脂肪と蛋白質は少ないが、デンプンの量はかなり多いものであった。この条件下で80㎏のベルツが乗った人力車を毎日40km三週間にわたって引かせ、3週間後に2人の体重を測った。1人は体重の増減が無く、もう1人は半ポンド増えていた。そして次に、2人に牛肉を与え、デンプンの量を減らして引かせてみたところ、3日後には、非常に疲れが出て肉食では走れないから肉の量を減らしてくれるように頼まれ、穀類食の量が増えたところ再び元気になり実験後の体重は、1人は不変であり、1人は半ポンド減少していた。
また、ベルツは著書の中でアメリカの大学で行われた『肉食と耐久力』に関する実験結果を紹介している。
「腕を支える力」について、肉常食者は15人のうち2人しか15分以上腕をのばしたままの姿勢に耐えられなかったが、肉を食べない人の場合は32人中23人がこれに耐えられた。さらに時間を30分に延長すると、肉小食者は1人も耐えられず、肉を食べない人は15人も成功し、その内9人は1時間以上継続可能であり、1人は3時間を突破していた。
スクワットに関しても、肉常食者は300回以上できたものは非常に少なく、実験終了後録に歩くことが出来なかったが、肉を食べないものは、1800回もやることができ、実験終了後も疲れを見せないどころか、2400回を超えるものが数人おり、1人は5000回まで達していた。肉食をしない人たちは特別な運動の訓練もスポーツも何一つ体験したことのない一般人であったという。
https://www.daitouryu.com/syokuyou/contents/hajime/hajime10.html
カーボ・ローディング(Carbohydrate Loading):スポーツなどの場面で、運動エネルギーとなるグリコーゲンを通常より多く体に貯蔵するための運動量の調節および栄養摂取法
死亡は重さあたりにすると約2倍のエネルギー量を貯蔵できるが、即効的な利用に乏しく、多くのスポーツではエネルギー源として望ましくない。グリコーゲンはエネルギーとしての分解が容易で即効性があり、スポーツにおいては大変有効なエネルギー源であるが、貯蔵できるのは主に肝臓と骨格筋で、一般人ではわずかな量である。通常よりグリコーゲンを多く保持すると運動に必要なエネルギーの枯渇を起こしにくく、運動できる回数や運動時間を増大させることができる。マラソンや自転車ロードレース、スキーのクロスカントリーなどの高い持久運動を継続するスポーツでは、エネルギーを大量に消費する、ためグリコーゲンの貯蔵量は成績に大きな影響を及ぼす。
マラソンなどで、大会の数日前からトレーニングの強度を落とし、休日日も設けるなどして、十分に体力を回復させると大会で疲れが出にくくなり、練習を続けた場合に比べると驚くほど効成績になる場合がある。これは、休息によって、日ごろのトレーニングで傷んだ筋繊維が修復されるとともに、体内で枯渇気味になっていたグリコーゲンが十分に蓄積されるため、身体が本来の能力を発揮できるようになるからである。
体内に蓄積したグリコーゲンをほとんど消費し枯渇した場合、通常1日程度では十分に回復できず、3日程度は必要になるので、この間は著しいパワー・持久力不足となる。
低蛋白食事療法の原則
1. 体重をあまり考えない
2. 体重を変えずに蛋白質摂取量を減らす(肥満の人でない場合)
蛋白摂取制限量の基本的な位置づけ
70g:人並み
50g:明治以前の日本人の常食
40g:努力が必要、一定の効果がみられる
30g:強い決心が必要、しかし透析に至るまでの期間をかなり稼げる
Vit Kなどビタミンの補充を忘れずに行うことが必要。
よりタンパク制限を効果的にするために:リン含有量の少ない植物性蛋白を主体とした食事にする
参考文献: