その他

2024.02.21

高齢者RSウイルス感染の実際と予防戦略 松瀬厚人教授

2024年2月13日 

演題「高齢者RSウイルス感染の実際と予防戦略 ~アレックスビーへの期待~」

演者: 東邦大学医療センター大橋病院 呼吸器内科教授 松瀬厚人先生

場所: 横浜ベイシェラトンホテル

内容及び補足「

RSウイルス(respiratory syncytial virus)は、ニューモウイルス科オルソニューモウイルス属に属するマイナス鎖のRNAウイルスの一種。学名はヒトオルソニューモウイルス(Human orthopneumovirus)直訳:呼吸器合胞体ウイルス。

環境中では比較的弱いウイルスで、凍結から融解、55℃以上の加熱、界面活性剤、エーテル、次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系消毒薬などで速やかに不活化される。呼吸器感染に際して、隣接する細胞の細胞膜を融合させ多角形の巨細胞様の構造物を形成する。これを合胞体またはシンシチウム(syncytium)という。

インフルエンザなどの強いウイルス感染した細胞は死滅脱落することが多い。

https://ja.wikipedia.org/wiki/RS%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9

RSウイルスの表面にはFタンパク質とGタンパク質が存在している。

Fタンパク質はウイルス膜とヒト細胞の膜融合を媒介する。サブタイプ間で高度に構造が保存されている。

Gタンパク質はヒト細胞に吸着に関与しており、AとBのサブタイプが存在する。

https://microbiologynote.com/ja/%E5%91%BC%E5%90%B8%E5%99%A8%E5%90%88%E8%83%9E%E4%BD%93%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9-RSV-%E5%AE%9A%E7%BE%A9-%E6%A7%8B%E9%80%A0-%E3%82%B2%E3%83%8E%E3%83%A0%E8%A4%87%E8%A3%BD-%E7%97%85%E5%9B%A0/

RSウイルスの感染様式は、ウイルスの飛沫感染、直接的・間接的接触感染である。通常感染者は3~8日間感染力を持続するが(Centers for Disease Control and Prevention, 2018. RSV transmission.

https://www.cdc.gov/rsv/about/transmission.html)、高齢者はより長期間にわたりウイルスを輩出する可能性がある(National Foundation for Infectious Disease (NFID). Respiratory syncytial virus in older adults: a hidden annual epidemic. September 2016.

https://www.nfid.org/wp-content/uploads/2019/08/rsv-report.pdf)。

RSウイルスの基本再生産数は3以内と報告されている。

Infect Dis Model 2018;3,23-34

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2468042718300071?via%3Dihub

https://gskpro.com/ja-jp/disease-info/rsv/definition/

 

基本再生産数は新型コロナウイルスよりは低いが、インフルエンザとほぼ同程度であるといえる。

 

RSウイルスは2歳までにほぼ100%感染するが、自然感染後の免疫応答は不完全で長く続かないため、生涯にわたって繰り返し感染する。感染の症状は幼少期にはひどく、その後軽度になり、免疫力が低下する高齢者においては重症化する頻度が増加してくる。

https://gskpro.com/ja-jp/disease-info/rsv/about/

 

RSウイルスの季節性は、地理的な場所と気候に大きく依存していると考えられており、温帯地域での毎年の季節パターンは秋から冬の3~5か月に限定されていたが、これらの関連性は証明されていない。熱帯地域では湿度が高く気温が安定しているため、大きなエアロゾルの飛沫が一年中RSウイルスの感染を維持していると考えられている。

Hum Vaccin Immunother. 2018 Jan 2;14(1):234-244.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/21645515.2017.1403707

PLOS ONE 2013;8:e54445

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0054445

 

日本においては2018年、2019年のRSウイルス感染の定点当たりの報告数は、いずれも第37週にピークが見られたが、Covid-19のパンデミック下の2020年および2021年は傾向が異なり、例年より早いピークが見られ、第8週以降減少を続け、第21週はゼロ近くまで低下し、その後第52週までわずかに増加したが低いレベルを保ち、明らかなピークの形成は見られなかった。2021年第一週も0.08と低いレベルであったが徐々に増加し、第10週には過去の数値を上回り、第16~18週にいったん減少に転じたものの、第19週より断続的に増加し、第28週には5.99とピークを迎えた。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/rs-virus-m/rs-virus-idwrs/11487-rsv-20220916.html

 

2019年4月~2020年7月にかけて国内10拠点において1000人の65歳以上の高齢参加者の急性呼吸器疾患の頻度を検討したところ、RSウイルス感染症は7月~10月にかけて多かった。

BordeP = 百日咳、CoronaV = Coronavirus、hMPV = Human Metapneumovirus、MycopP = Mycoplasma Pneumoniae、Para = Parainfluenza、Rhino/Entero = Human Rhinovirus/Enterovirus、RSV = Respiratory Syncytial Virus

Influenza Other Respir Viruses. 2022 Mar;16(2):298-307.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/irv.12928

 

高齢者の呼吸器系ウイルス感染による臨床症状の頻度を見てみると、下図のように報告されているが、症状だけでRSウイルスの感染を診断することは困難である。

Infect Dis Clin North Am 31 2017 767-790

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0891552017300600

 

患者を診てきた印象としては、インフルエンザ感染症よりは華々しくはないが長く続くといった感じである。

 

診断方法

培養:このウイルスは熱、凍結融解、㏗、塩濃度、タンパク濃度に不安定なため、適切な保存液を用いて氷冷(4℃)し迅速に搬送しなければならず、感受性のあるHep-2細胞やHeLa細胞に接種して、3~4日の培養で合胞体の毛生成を示す特徴的な細胞変化を見届けるか免疫染色をする必要があり、一般開業医では困難。

抗原同定:小児では、ウイルスの排出量が多いので簡易キットで検出可能であるが、ウイルスの排出量が少ない成人や高齢者では困難。

血清診断:ペア結成で測定する必要があり、非現実的。

RT-PCR:コストが高いため、一般開業医では困難。

 

ブラジルの3次救急病院で2005~2013年の間に急性呼吸器感染症で受診した1380例(0~91歳:平均28.1歳)のうち239例17.3%(小児23.9%、成人12.9%)がRSウイルス感染症と診断された。

RSウイルス量は成人よりも小児が圧倒的に多く、外来症例よりも入院症例で多かった。

Braz J Infect Dis. 2023 Nov-Dec;27(6):103702.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1413867023009625?via%3Dihub

 

Film Array 呼吸器パネル2.1はCovid-19を含む気道感染症が疑われる患者から採取した鼻咽頭ぬぐい液(NPS)に含まれる複数の呼吸器ウイルス・細菌の核酸を同時に勝つ定性的に検出し同定するために、Film ArrayシステムまたはFilm Array Torchシステムと共に使用することを意図した、PCRに基づくマルチプレックス核酸検査法である。

呼吸器パネル2.1を使用して以下の微生物の種類及び亜型を同定する。

https://www.biofiredx.qarad.eifu.online/ITI/JP/all?keycode=ITI0105

 

治療

基本的には酸素投与、輸液、呼吸管理などの支持療法が中心。気管支拡張剤およびステロイドの効果については多数の臨床研究がなされているが、気管支拡張剤については、限られた効果にとどまるか効果がなかったとする報告が多いが、効果があったとする報告もあり、一定の見解は得られていない。ステロイドについては、症例対照研究で効果がなかったと報告されている。

米国で唯一治療薬と認可されているのはリバビリンであり、微小粒子のエアロゾルとしての吸入にて用いられている。

現在RS治療薬としてALS-008176(N Engl J Med 2015; 373:2048-2058)の治験が行われている。

 

予防

ワクチンが開発された。

ヒト血清由来の抗RSV免疫グロブリンと遺伝子組み換え技術を用いて作成された、RSVのFタンパクに対するモノクローナル抗体製剤パリビスマブが先天性心疾患を有する生後24ヵ月以下の乳幼児においてRSV流行開始時に心疾患の治療を受けている者、重度の免疫不全状態の小児、RSV院内感染事例で、適切な対策を実施しても制御できない場合、使用を考慮してよいとなっている。

 

50例の急性気道感染の成人外来患者でFilm Array呼吸器パネルを用いて検査を行った。28例の患者で病原体を検出した。インフルエンザウイルス14例、RSウイルス6例、ヒトライノウイルス6例であった。

A上気道感染症例20例、B急性気管支炎8例、C肺炎22例では下図のような頻度であった。

J Infect Chemother. 2018 Sep;24(9):734-738.

https://www.jiac-j.com/article/S1341-321X(18)30151-X/fulltext

 

RSウイルス感染症の症状は、4~5日の潜伏期間の後、発熱、鼻汁、咳嗽などの上気道症状で発症。

70%は上気道炎のみで数日で軽快。

30%では咳嗽の増強、喘鳴、呼吸困難などの下気道炎(気管支炎、細気管支炎、肺炎)の症状が出現する。

発熱は病初期に多い。

ウイルス 2005 55(1)77-84

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsv/55/1/55_1_77/_pdf/-char/ja

 

RSウイルス感染症の重症化リスク要因として以下のものがあげられる。

年齢:特に60歳以上

https://www.cdc.gov/rsv/high-risk/older-adults.html

基礎疾患:喘息、COPD、うっ血性心不全、冠動脈疾患、糖尿病、CKDなど

https://www.cdc.gov/rsv/high-risk/older-adults.html

https://academic.oup.com/cid/article/74/6/1004/6318216?login=false

https://link.springer.com/article/10.1007/s12325-020-01230-3

免疫機能の低下:

https://www.cdc.gov/rsv/high-risk/older-adults.html

加齢に伴う肺組織の変化、上皮バリアの変化、粘膜繊毛クリアランス、組織の弾力性などが関与している。

 

Kaiser Permanente Southern California electronic medical recordsがら 2011年1月1日~2015年6月30日までの60歳以上の入院症例のデータを用いて解析した。645例のRSウイルス感染症と1878例のインフルエンザ感染症症例で検討した。それぞれ平均年齢は、78.5歳、77.4歳、うっ血性心不全は35.3%、24.5%、閉塞性肺疾患は29.8%、24.3%、喘息は26.0%、18.6%であり、RSウイルス感染症例で高齢であり、頻度が高かった。

インフルエンザ感染者と比較し、RSウイルス感染者は7日間以上の入院のORは1.5、ICU入院のORは1.3、COPDの増悪のORは1.7、喘息の増悪のORは1.5、退院後の在宅医療サービスを必要とした症例のORは1.3、入院中の死亡率のORは1.1、入院後6か月以内の死亡率のORは1.2であった。

入院後1年以内の生存率は、下図のように変化しており、インフルエンザ感染症よりもRSウイルス感染症例で有意に低値を示した。

Clin Infect Dis 2019 Jul 2;69(2):197-203

https://academic.oup.com/cid/article/69/2/197/5193205?login=false

 

Hospitalized Acute Respiratory Tract Infection (HARTI) Studyは2017年から2019年にかけて12カ国40施設で、急性気道感染症で入院した成人の入院中及び入院後の重症化及び医療資源利用(MRU)への進展の危険性を比較した研究である。

全体として366例のインフルエンザ、238例のRSウイルス、100例の人メタニューモウイルス(hMPV)感染者が登録された。

RSウイルス群はインフルエンザ群よりも恒例で危険因子の頻度が高く、入院前の症状の持続が長かった。RSウイルス群とhMPV群は、より多くの気管支拡張薬、副腎皮質ステロイド、酸素供給を受けた。集中治療室への入院や合併症には有意差はなかった。退院後3か月以内の再入院は、20~33%で発生し、RSウイルス群とhMPV群の割合が高かった。院内死亡はRSウイルス群で2.5%、インフルエンザ群で1.6%、hMPV群で2%に発生した。

Open Forum Infect Dis. 2021 Oct 5;8(11):ofab491

https://academic.oup.com/ofid/article/8/11/ofab491/6381446?login=false

 

乳児期のウイルス誘発性喘鳴エピソードは喘息の発症に先行することが良く見られており、RSウイルストライのウイルスの感染による差を終生から6歳まで259例の小児で前向きに追跡した。

喘鳴疾患の90%でウイルスが確認され、出生から3歳までの喘鳴は6歳での喘息リスクの増加と関連していた(RSウイルスのOR:2.6、ライノウイルスRVのOR:9.8、RSウイルスとRV両者のOR:10)。

Am J Respir Crit Care Med. 2008 Oct 1;178(7):667-72.

https://www.atsjournals.org/doi/10.1164/rccm.200802-309OC

 

肺樹状細胞(DC)は、アレルギーとウイルス感染において重要な役割を果たす。システイニルロイコトリエン(cysLT)のレベルは、アレルゲン感作およびウイルス感染後に増加し、DCの遊走と機能を調節すると考えられている。Dermatophagoides farinase(Df)アレルゲン感作とRSウイルス感染によるマウスの肺組織におけるCD11陽性DC数とLT濃度を測定した。

Dfアレルゲン感作マウスDf群(b)、RSV感染マウスRSV群(c)、Dfアレルゲン感作RSV感染マウスDf-RSV群(d)とコントロールマウス群(a)で検討したところ、RSウイルスの感染は、Dfマウスのアレルギー性気道炎症を有意に増強し、Th1およびTh2免疫の増加を伴い、DC数とcystLT濃度は、Dfマウス群とRSV群で有意に増加し、Df-RSV群ではDf群よりも増加した。

RSウイルス感染により、喘息患者の肺組織におけるDC数とcystLT濃度が増加し、アレルギー性気道炎症が増強する可能性が示された。

Allergology International. 2007;56:165-169

https://www.jstage.jst.go.jp/article/allergolint/56/2/56_2_165/_pdf/-char/ja

 

参:

イエダニ抗原誘発喘息モデルにRSウイルスを感染させ喘息が増悪するグループでは気道抵抗性(AHR)の値や、MMP-12レベル、好中球数の顕著な上昇が見られる。

野生型WTマウスとMMP-12ノックアウトKOマウスを用いて喘息増悪モデルを作成したところ、MMP-12KOマウスではAHRと軌道への好悪中級浸潤が抑制された。皿も、増悪グループで増加する好中球を枯渇したところ、AHRの上昇が抑制された。MMP-12が好中球を浸潤させ、好中球の増加が喘息の増悪に関与していることが判明した。このMMP-12はM2様マクロファージにより大量に産生されることが見いだされた。

喘息グループに多く存在するM2様マクロファージは、喘息を増悪させるMMP-12を大量に産生する。喘息増悪グループのマクロファージは、インターロイキンIL-4受容体(IL-4Rα)を高発現する。In vitroの実験で、マクロファージにIFN-βを加えるとIL-4Rαが抗発現し、これまでと同じ濃度のTh2サイトカイン(IL-4やIL-13)を加えると、限界を迎えていたMPP-12レベルがさらに促進された。

以上の結果から、RSウイルス感染によって誘導されるINF-βがM2様マクロファージのIL-4Rαの発現を上昇させ、Th2サイトカインに敏感に反応させ、MMP-12を抗発現させていることが示唆された。

MMP-1は好中球走化性因子であるCXCL1やTh17細胞からのIL-17A産生を促進する。上皮細胞にMMP-12が作用するとCXCL1が誘導され、また、MMP-12はINF-β産生を阻害するため、喘息増悪グループではウイルス量が増加し、結果としてIL-17A産生が誘導される。

喘息治療に使用される吸入ステロイドの一種であるデキサメタゾンを投与しても喘息増悪の改善は見られなかった。一方、MMP-12阻害剤(MMP408)を投与すると好中球浸潤が抑制され、喘息の増悪が改善された。

https://www.u-presscenter.jp/article/post-46857.html

 

19の研究1728例でCOPDの増悪におけるウイルスの役割(AECOPD)を検討した。ライノ/エンテロウイルス16.39%、RSウイルス9.90%、インフルエンザウイルス7.83%、コロナウイルス4.08%、パラインフルエンザ3.35%、アデノウイルス2.07%、ヒトメタニューモウイルス2.78%であった。

J Clin Virol. 2014 Oct;61(2):181-8.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1386653214002583?via%3Dihub

 

2011年1月㏠から2015年6月30日までの間に南カリフォルニアのカイザーパーマネンテで664例のRSウイルスによる入院があった。61%が女性で、64%が75歳以上であった。慢性疾患が30%にみられ、肺炎に至った症例は66%であった。26回/分以上の頻呼吸が56%にみられ、21%が人工呼吸器が必要であり、18%が集中治療室に入院した。

入院中の死亡率は5.6%(60-74歳は4.6%、75歳以上では6.1%)、入院後の一か月、3か月、6か月、12ヶ月後の死亡率はそれぞれ、8.6%、12.3%、17.2%、25.8%であった。

J Infect Dis. 2020 Sep 14;222(8):1298-1310

https://academic.oup.com/jid/article/222/8/1298/5863549?login=false

 

COPDは、慢性気管支炎、肺気腫、リモデリングを特徴とする肺疾患であり、効果的な治療法はほとんどなく、現在利用可能な治療法はどれも病気の進行を予防したり、特徴的な症状を標的にした治療法ではなかった。発症と親交は不均一であり、2009年時点では新しい治療法の開発もあまり進んではいなかった。

Lancet 2009 374 744-755

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0140673609613428

 

COPD患者241例から喀痰サンプルを四半期ごとに収集し、2年間にわたって安定した状態でRSVのPCRでRNA量を測定したところ32.8%で検出された。高頻度に検出された18例の一秒量の低下速度は101.4ml/yearであり、低頻度で検出された56例の一秒量の低下速度51.2ml/yearに比べ2倍の低下速度であった。

Am J Respir Crit Care Med. 2006 Apr 15;173(8):871-6.

https://www.atsjournals.org/doi/10.1164/rccm.200509-1489OC

 

 

RSウイルスはヒトにおける多くの観察から、肺外組織が血行性にRSウイルスに感染し、このウイルスを保有し、潜伏感染の持続を可能にする考えを支持している。動物実験からRSウイルスが胎盤を介して母親の気道から胎児の気道に伝染し、発育中と成人期の方法で肺に持続する可能性が示唆された。

Curr Opin Pharmacol. 2014 Jun:16:82-8.

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1471489214000393?via%3Dihub

 

RSウイルスワクチンの歴史

RSウイルスが1956年に発見されてワクチンの開発が間もなく始まった。

不活化ワクチンが試作されたが、予防するどころか感染を招き死者まで出て1960年代の臨床試験は悲惨な結果であった。『抗体依存性感染増強』という適切な保護作用のない抗体を人体が作り出し、感染をむしろ悪化させてしまう現象である。

この原因は、RSウイルスのGタンパクが誘導する過剰な2型免疫応答であった。現在はFタンパクを光源としたワクチンが開発されている。

2013年に厚生労働省が開発企業に対してRSウイルスワクチンの開発要請を行った。

2023年5月にFDAが2023年9月日本でも承認された。

GSKが開発したアレックスビーは不活化ワクチンの一種で、RSVのFタンパク質の抗原RSVPreF3と細胞性免疫応答を高めるアジュバンドであるAS01Eを組み合わせたもので、液性免疫応答及び細胞性免疫応答を持続的に誘導する構造になっている。

https://gsk.m3.com/contents/arexvy/2023/202310O09O/index.html?cid=202310O09O&from=pc

 

アジュバントAS01の量は、シングリックスの半分の量となっている。

アレックスビーの投与によりCD4+T細胞の出現頻度は191から、31日後には1339に増加し、6か月後でも666認めた。

RSV OA=ADJ-006試験は、RSVワクチンの接種歴及び免疫抑制状態などのない60歳以上の成人24966例(日本人1038例)を対照に行った、無作為化、観察者盲検、プラセボ対照の国際共同第3相試験である。

3シーズンを追跡、シーズン2開始前にアレックスビーを年一回追加接種群と痰回接種群、およびプラセボ群で免疫学的検査をDay1、Day31に行い、抗体価/抗体濃度を測定した。

主要評価項目はRSV感染による下気道疾患の初回発現に対する有効性を検討し、副次評価項目としては、RSV感染による下気道疾患の初回発現に対するベースライン時の併存疾患別有効性などを検討した。

本試験におけるアレックスビーの有効性は82.58%で予防効果が検証された。

また、一つ以上の注目すべき併存疾患(慢性閉塞性肺疾患、喘息、慢性呼吸器/肺疾患、1型または2型糖尿病、慢性心不全、進行した肝疾患または腎疾患)を有する集団におけるRSV感染による下気道疾患の初回発現に対する有効性は94.61%であった。

サブタイプA,Bに対する効果84.6%と80.9%も有意さは認めなかった。

N Engl J Med 2023; 388:595-608

https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa2209604

安全性については下表のように、特定有害事象/重篤な有害事象が認められた。

摂取後4日間の特定有害事象はアレックスビー群で多く認められたが、接種後6か月間に報告された重篤な有害事象においては、両群間で有意な差は認めなかった。

健常者、プレフレイル、フレイルの3郡に分けた有効性ではそれぞれ79.95、92.92、14.93であった。ただこの研究におけるフレイルの定義は寝たきりの状態であり、一般的に日本で言われているフレイル状態は、この分類のプレフレイルに該当するので、フレイル状態の高齢者に対してアレックスビーは有効であると考える。

N Engl J Med 2023; 388:595-608

https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa2209604

アレックスビーの副反応は下図のように局所の反応が主であり、プラセボとの差がある。

しかし、死亡に至った有害事象は、アレックスビー群で49例(0.4%)プラセボ群で58例(0.5%)にみられ、アレックス例で死亡に至った主な有害事象は心筋梗塞7例、COVID-19 肺炎5例であった。

https://gskpro.com/ja-jp/products-info/arexvy/clinicalstudy/#2

 

現在呼吸器感染の主な病原体である新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、肺炎球菌、RSウイルスについて、はじめの3者は治療薬もありワクチンも存在するが、RSウイルスはまだ治療薬が存在しないので、ワクチンでの抵抗力増強が必要である。

 

参:RSウイルスによる下気道疾患及び重症疾患に対する、RSウイルス流行期2シーズン(追跡期間中央値:18か月)にわたる単回投与の有効性が示された。

https://jp.gsk.com/ja-jp/news/press-releases/20230706-gsk-shares-positive-data-for-arexvy-its-respiratory-syncytial-virus-older-adult-vaccine-indicating-protection-over-two-rsv-seasons/

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