循環器系

2024.02.13

2024年2月9日 

演題「音声バイオマーカーを用いた地域包括心不全連携」

演者: 横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター内科講師 岡田 興造 先生

場所: 南区医師会館

内容及び補足「

65歳以上の高齢者の割合が人口の7%を超えた社会を高齢化社会、14%を超えると高齢社会、21%を超えた社会を超高齢化社会、28%超えた社会を超超高齢化社会と呼ばれている。

令和2年10月1日現在、我が国の総人口は1億2571万人で、65歳以上の人口は3619万人となり、そうじんこうにしめるわりあいは28.8%で超超高齢化社会になっている。

内閣府「令和3年版高齢社会白書」

https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf

2022年11月に出された「第7回孤独死現状レポート」では、孤独死した人数について下記表のように発表されている。

男女とも50~70代の高齢者が多く、特に60代が最も多い。

2040年には4割の世帯が単独世帯になると予測されており(国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(2018年)」)、母数が増える分、孤独死も増えると予測される。

https://www.shougakutanki.jp/general/info/2022/kodokushi.pdf

 

これからの医療で問題になるのは、

老々介護

老々医療

地域格差

社会保障費の増加:2018年121兆円が2040ねんには190兆円と1.6倍に増加すると推定されている。

厚生労働省は「健康寿命の延伸」政策を掲げている。

2019年5月29日の「第2回2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」において「誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現」のための3本柱として、「雇用・年金制度改革等」、「医療・福祉サービス改革プラン」とともに「健康寿命延伸プラン」が発表された。

健康寿命延伸プランでは、2016年は男性72.14歳、女性74.79歳だった健康寿命を、2040年までに男女ともに3年以上延伸することを目指すこととなった。

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/hale/h-01-004.html

 

誰でもどこでも等しく質の高い医療が受けられることが必要であり、デジタルトランスフォーメーション、AIやIoTの活用、個別化、スマート化、疾病予防・重症化予防が重要となってくる。

 

日本では心不全患者が120満人以上存在し、循環器系疾患における死因第一位となっている。

平均入院期間が14~28日であり、平均入院費用は約120万円、再入院率が年間35%あり、患者負担が大きい疾患である。

 

令和余念の死亡を死因別にみてみると、心疾患は約23万人、脳血管疾患が約11万人と両疾患で30万人を超えている。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/dl/gaikyouR4.pdf

予防的な視点で診断、治療までがシームレスで行える必要がある。

心不全は完治しない進行する再発性の疾患である。

心不全の治療は心不全のステージにより異なる。ステージA、Bでは予防が主体であり、ステージC、Dとなると限られた治療薬が主体となる。

心不全で入院した患者14374例のうち追跡期間中に7401例が死亡した。入院回数が多くなるほどその予後は悪くなる。

Am Heart J. 2007 Aug;154(2):260-6

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17643574/

 

心不全のステージでもAとB、CとDで大きく異なる。

Circulation. 2007 Mar 27;115(12):1563-70.

https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.106.666818

 

心不全では、軌道や肺の浮腫、倦怠感など音声に影響する症状が多く、PST株式会社の音声解析技術により、心不全に特徴的な音声症状を音声解析で数値化することに成功した。

https://digitalist-web.jp/trends/domestic/z36Mb

治療内容や目標は各ステージ毎により異なり

ステージA:高血圧、糖尿病、脂質異常症、CKDなどのリスク管理

ステージB:IHD、心房細動、弁膜症、心筋症などの基礎心疾患の治療・管理

ステージC・D:心機能の改善、リモデリングの予防

が主体となる。

慢性心不全に対して、RASS系阻害薬、β遮断薬、SGLT2阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の投与により予後が改善することが判明した。RASS系阻害薬をサクビトリルバルサルタン(ARNI)に置き換えた四剤はFantastic Fourと呼ばれ、GDMT(guidline-derected medical therapy 診療ガイドラインに基づく標準的治療)と位置づけられるようになった。

Eur Heart J. 2021 Feb 11;42(6):681-683

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33447845/

 

2022年のAHA/ACC/HFSAの心不全治療のガイドラインは下記の図のように提唱された。

J Am Coll Cardiol. 2022 May, 79 (17) e263–e421

https://www.jacc.org/doi/10.1016/j.jacc.2021.12.012

 

DAPA-HF試験において、SGLT2iであるダパグリフロジン投与により、心不全の死亡率は100患者年あたり9.5⇒7.9人年と減少した。

これらの患者の96%にβ遮断薬、95%にRAAS系阻害薬、71%にMRAが投与されていた。

JAMA Cardiol. 2020 Aug 1;5(8):948-951.

https://jamanetwork.com/journals/jamacardiology/fullarticle/2765274

 

HFrEFに対する大規模RCTのデータで、ARNI+SGLT2iにβBlocker+MRAを加えた症例と従来のACE阻害薬あるいはARBにβBlockerを加えた場合の世簿の比較趣味レーションを行ったところ、ARNI+SGLT2i治療を行うことで、心血管死亡、心不全入院をすべて減らし、80歳の患者に投与すると、1.4年の寿命延伸効果が認められた。

 

Lancet. 2020 Jul 11;396(10244):121-128.

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30748-0/fulltext

 

CHARM試験において、糖尿病が合併しているとEFに関係なく、心不全患者の心血管罹患率及び死亡率を低下させた。

Eur Heart J. 2008 Jun;29(11):1377-85.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18413309/

 

冠動脈疾患は基礎に動脈硬化性疾患を有しており、動脈硬化性疾患の危険因子を生活習慣の改善や薬物治療でコントロールすることが重要である。特に、心機能、腎機能、糖代謝の状態の悪化は悪循環を招くことになる。

European Heart Journal, Volume 41, Issue 3, 14 January 2020, Pages 407–477

 

DELIVER試験

2型糖尿病の有無を問わず、左室駆出率LVEFが40%超えの心不全症例6263例に対してフォシーガ10㎎とプラセボの比較試験で、心血管死、心不全による入院または心不全による緊急受診のいずれかが最初に発生するまでの期間を主要評価項目とした。有意なリスク低下は投与13日目から認められた。

全体集団とLVEF60%未満群で主要複合エンドポイントのうちいずれかの初回発現までの期間を比較したところ、フォシーガ群におけるリスク低下効果は同等であった。

JAMA Cardiol. 2022 Dec; 7(12): 1259–1263.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9531091/

 

4744例のNYHA2~4のEF40%以下の心不全患者を登録した。最新の心不全入院がない群52.6%、12か月以内の群27.4%、12か月以上の群20%で心血管死または心不全の悪化の複合エンドポイントで追跡期間の中央値は18.2か月であった。

プラセボ群では、直近の心不全入院のタイミングに応じて主要アウトカムのリスクが段階的な勾配があり、2年間のカプランマイヤー率は21.1%、25.3%、33.8%であった。

ダパグリフロジン群は、主要アウトカムの相対リスクをそれぞれ16%、27%、36%低下させた。

 

より最近の心不全入院の症例は、2年後にダパグリフロジン投与に夜より大きな絶対リスク低下(2.1%、4.1%、9.9%)がみられた。

JAMA Cardiol. 2021 May; 6(5): 499–507.

https://europepmc.org/article/MED/33595593#free-full-text

 

DAPA-HFおよびDAPA-HFのメタアナリシスの結果11007例がエントリーされ、平均EFは44%であり、ダパグリフロジン群の心血管系死亡リスクのHRは0.86、全死亡リスクのHRは0.90、心不全による総入院及びMACEのHRは0.90と低下させた。

Nature Medicine 28 1956–1964 2022

https://www.nature.com/articles/s41591-022-01971-4

 

音声バイオマーカー

13種類の定型文を読み上げ、AIを用いて、音声による「軽症or中等症1」の心不全の判別を行った。

https://techable.jp/archives/180873

 

「あー」と発音させる。心不全患者の増悪時においては5秒以内に途切れるようになる。普段の会話では5秒以内に発語が終わるため、この変化に気づきにくい。そのほかには「ぱたか」を繰り返しえて発語してもらうことも行う。

AIで解析を行うと13個の特徴的な項目が検出できた。

 

心不全悪化により入院した38例を含む、心不全患者726例の音声データを記録し、心不全の臨床上の変化(NYHA分類)と、時間経過中のBNP濃度を比較した。いくつかの音声バイオマーカーと臨床症状およびBNPレベルとの間に有意な相関関係があり、データセットから抽出されたバイオマーカーに基づいてMLモデルのプロトタイプを作成すると、NYHA2以上を予測するためのMLモデルでは感度0.78、特異度0.75、AUC0.79、制度0.77の相関関係が認められた。

Circulation. 2022;146:A11315

https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/circ.146.suppl_1.11315

 

外来診療において、「あー」の発声持続時間を測定しているが、BNPが一過性に上昇していても、この持続時間に変化がない場合には、心不全の悪化によるBNPの上昇ではなく、それ以外の要因での変化であり、経過観察で元に戻るが、逆に、この持続時間が短くなっている場合には心不全の潜在性増悪の場合があり、早期治療介入で心不全入院を回避することが可能であったと考えられる症例を経験している。

音地域包括心不全連携に声バイオマーカーを利用することにより心不全の悪化を予防したり、早期治療介入ができる可能性があり、現在取り組んでいるところである。

 

 

参:音声バイオマーカーの研究は、はじめ神経性変性疾患の分野で行われてきた。

特にパーキンソン病では、音声障害が非常に頻繁(89%)であり、声の変化は早期診断のバイオマーカーまたは、疾患振興のマーカーとしての利用が期待されている。

パーキンソン病

パーキンソン病患者の音声障害は、主に発生と調音に関連しており、ピッチの変化、高周波スペクトルの高次の部分のエネルギーの減少、母音と子音の不正確な調音など、明瞭度の低下につながっている。声の変化は、病気の初期段階では、患者と医師の両方によって見落とされがちであるが、客観的な測定は初期段階のパーキンソン病患者の最大78%で声の特徴変化を認めている。

アルツハイマー病と軽度認知障害

声と言語の微妙な変化は、アルツハイマー病の前駆症状が現れる何年も前から観察されており、軽度認知障害の初期段階でも検出されている。両方の患者で、話すことを躊躇したり、発語速度を遅くしたり、単語をにつけるのが困難になったりするなどの障害、迂回やフィラー音(uh、um)の頻繁な使用、意味エラー、不定語、改訂、繰り返し、慎吾、語彙的および文法的な単純化、一般的な意味能力の喪失などが見られる。アルツハイマー病患者の談話は、一貫性の低下、信じがたい無関係な詳細が特徴的である。変化は、韻律的特徴(ピッチの変化と変調、発語リズム)があり、患者の感情により影響される。

 

多発性硬化症

多発性硬化症患者では、構音、呼吸、韻律の変化などに変化が見られ、声の特徴と発生行動を長期観察することで、脳深部刺激療法などの治療を開始する最適な時間帯を決定することが示されている。

関節リウマチ

高騰の病理学的変化が疾患の進行とともに起こり、音声品質機能の追跡が患者のモニタリングに役立つことが示されている。

メンタルヘルスと感情のモニタリング

ストレスレベルと発声機能、言語的相互作用の持続時間には関連がある。

うつ病患者ではコルチゾールの血清濃度が高い人ほど声に症状が見られ、うつ病症状の発見やうつ病の重症度の推定が可能である。

精神疾患では、音声の言語的側面が影響を受けやすく、統合失調症では、談話は支離滅裂になる傾向があり、ばらばらのアイデアの流れ、言葉の間の無意味な連想、またはトピックからの脱線がしばしばみられる。

消極性および演技性パーソナリティ障害患者では状況発派が顕著である。

冠動脈疾患

メイヨークリニックのチームが、冠状動脈疾患の病歴に関連するいくつかの特徴を特定した。

糖尿病

jitter, shimmer, smoothed amplitude perturbation quotient, noise to harmonic ratio, relative average perturbation, amplitude perturbation quotient などが、糖尿病患者と非糖尿病患者で有意な差を認めたとする報告があり、血糖コントロール不良や神経障害のアル2型糖尿病患者では、緊張感が強く、声の弱さがあることも示されている。

COVID-19

ケンブリッジ大学では音声バイオマーカーによるCOVID-19の診断はAUC80% であると報告しており、咳の音に基づく診断のプロジェクトが進行中である。

 

Digital Biomark 2021 5 78-88

https://karger.com/dib/article-pdf/5/1/78/2576243/000515346.pdf

 

参:PTS株式会社の研究開発:研究事例:

https://www.medical-pst.com/research/case

うつ病:音声バイオマーカー(Arousal Level Voice Index:ALVI)値がうつ病傾向の検出において有効な指標となることが明らかになった。

Sensors 2020, 20(18), 5041

https://www.mdpi.com/1424-8220/20/18/5041

 

認知症:「あー(3秒間)」と「ぱたか」の繰り返しのシンプルな発語タスクから非言語的な音響特徴量を抽出し、機械学習モデルにより、健常者・MCI患者・認知症患者の3群間判別を試みた。195件の音声データを用いて5分割検証を行ったところ、平均AUCは0.81、3群判定の正解率は66.7%であった。

Journal of Aging Research & Lifestyle, 12:72-76 2023

file:///C:/Users/jeffbeck/Downloads/2012645.pdf

 

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