呼吸器系
2024.06.09
RSV感染症について我々が知っておくべき実情と対策 伊藤昭広先生
2024年3月31日
演題「RSV感染症について我々が知っておくべき実情と対策 ~喘息・COPDとの関連性を中心に~」
演者: 倉敷中央病院呼吸器内科部長 伊藤明広先生
場所:ホテルオークラ神戸
内容及び補足「
喘息増悪の成人における急性感染症の有病率を成人3511例43件の研究を検討したメタアナリシスでは、急性感染有病率は40.19%であり、増悪時にウイルスは38.76%、非定型病原体は8.29%、細菌は7.05%検出された。
検出されたウイルスは、ライノウイルス20.02%、インフルエンザウイルス6.93%、コロナウイルス4.14%、RSウイルス3.55%であった。
Ann Thorac Med. 2023 Jul-Sep; 18(3): 132–151
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10473064/
RSV感染がアレルギー赤道炎症を悪化させるメカニズム
HDM感作マウスをRSVに感染させると、IL-4Rαを強く発現するM2様肺胞マクロファージにより、高レベルのMMP-12が産生される。高いMMP-12レベルは、抗ウイルス活性を弱め、CXCL1およびIL-17Aの発現を促進し、好中球浸潤を促進し、気道過敏性AHRの増加をもたらす。HDM/RSVマウスにおける好中球数の増加およびAHRは、デキサメタゾン治療によって減弱されなかったが、増悪はMMP-12阻害剤の投与によって抑制された。
iScience. 2021 Oct 2;24(10):103201.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8524145/
PubMedを使い19の臨床研究1728例のCOPD症例のシステマティックレビューの結果では、ライノ/エンテロウイルス16.39%、RSV 9.90%、インフルエンザウイルス 7.83%が多く検出された。
COPDの増悪の主な原因であるRSVとインフルエンザウイルスの有病率は高かった。
J Clin Virol. 2014 Oct;61(2):181-8.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7106508/
2017-2018、2018-2019、2019-2020年のRSVシーズンにロチェスター、ニューヨーク、ニューヨークの3病院で急性呼吸器疾患を引き起こし、心配疾患の悪化を伴った18歳以上の入院患者で検討された。10078例でRSVの検査が実施され、1099例のRSV感染患者が同定され、3シーズンの熱間発生率は44.2-58.9/100000人であった。18-49歳、50-64歳、65歳以上では、7.7-11.9/100000、33.5-57.5/100000、136.9-255.6/100000であった。
COPD、冠動脈疾患、うっ血性心不全患者の発生率は、これらのない患者の発生率のそれぞれ、3-13倍、4-7倍および4-33倍だった。
Clin Infect Dis. 2022 Mar 23;74(6):1004-1011.
https://academic.oup.com/cid/article/74/6/1004/6318216?login=false
南カリフォルニアの2011年1月1日から2015年6月30日までRSV陽性と判定された60歳以上の入院患者の検討では、RASVで入院した664例(女性61%、75歳以上が64%)で、基礎疾患別では、うっ血性心不全が38.6%、COPDが35.4%、喘息が28.6%存在し、基礎疾患が悪化した割合はうっ血性心不全38%、COPD80%、喘息50%であった。
J Infect Dis. 2020 Sep 14;222(8):1298-1310.
https://academic.oup.com/jid/article/222/8/1298/5863549?login=false
2012年3月7日から2022年3月7日までPubMedに掲載された論文のシステマティックレビューでは、高齢、既存の併存疾患(心臓疾患、肺疾患、免疫不全疾患、糖尿病、腎臓病など)、生活環境(社会経済的地位、およびナーシングホームでの住居)が重篤なアウトカムのリスクを高めた。重篤な転帰の頻度のリスク増加はCOPDで2.08倍、喘息で1.39倍であった。
Open Forum Infect Dis. 2023 Oct 20;10(11):ofad513.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10686344/
気管支喘息患者におけるワクチンの位置づけ
日本アレルギー学会の『喘息予防・管理ガイドライン2021』ではインフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、新型コロナウイルスワクチンが推奨されている。
https://www.jsaweb.jp/modules/journal/index.php?content_id=4
日本呼吸器学会出版の『COPDのガイドライン2022』ではインフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、その併用が推奨されている。
https://www.jrs.or.jp/publication/file/COPD6_20220726.pdf
RSウイルスの表面にはFタンパク質とGタンパク質が存在している。
Fタンパク質はウイルス膜とヒト細胞の膜融合を媒介する。サブタイプ間で高度に構造が保存されている。
Gタンパク質はヒト細胞に吸着に関与しており、AとBのサブタイプが存在する。
健康な高齢者(65-85歳)と若年成人(20-30歳)のRSV特異的な体液性、粘膜、および細胞性免疫プロファイルを検討した研究がある。
RSV中和抗体価は高齢者10.5に対し若年者も10.5と類似していたが、RSVのF蛋白特異的γインターフェロン産生T細胞のレベルは、若年者1250 SFC/106PBMCに対して180 SFC/106PBMCと低値であった。PBMC培養上清中のインターロイキン-13のこうレベルとRSV F蛋白特異的CD107a+CD8+T細胞の低値が測定された。つまりRSV F蛋白特異的TNF-α細胞応答の欠損が、高齢者RSV住所化に寄与していると考えられる。
Clin Vaccine Immunol. 2013 Feb;20(2):239-47.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3571266/
RSVワクチンであるアレックスビーはRSVのF蛋白である抗原RSVPreF3にアジュバンドであるAS01Eを結合させたものである。
https://gsk.m3.com/contents/arexvy/2023/202310O09O/index.html?cid=202310O09O&from=pc
2019年1月から8月の間に48例の若年成人(18-40歳)と1005例の高齢者(60-80歳)を登録し、RSV PreF3ワクチンアジュバンドなしまたは、AS01アジュバンドワクチンまたは、プラセボを2ヶ月間隔で二回接種した。
RSV PreF3特異的免疫グロブリンGおよびRSV-A中和抗体はRSV PreF3ワクチンにより抗原濃度依存的に増加し、1回目の投与後に最も高かった。ワクチン接種前と比較して、多機能CD4+T細胞の幾何学平均頻度は各投与後に増加し、アジュバント投与群は非アジュバント投与群よりも有意に高かった。ワクチン接種後の免疫反応は、追跡調査が終了するまで持続した。ワクチン接種による有害事象は、ほとんどが軽度から中等度で一過性であった。
J Infect Dis 2023 227 761-772
https://academic.oup.com/jid/article/227/6/761/6651941
RSV OA=ADJ-006試験は、RSVワクチンの接種歴及び免疫抑制状態などのない60歳以上の成人24966例(日本人1038例)を対照に行った、無作為化、観察者盲検、プラセボ対照の国際共同第3相試験である。
3シーズンを追跡、シーズン2開始前にアレックスビーを年一回追加接種群と痰回接種群、およびプラセボ群で免疫学的検査をDay1、Day31に行い、抗体価/抗体濃度を測定した。
主要評価項目はRSV感染による下気道疾患の初回発現に対する有効性を検討し、副次評価項目としては、RSV感染による下気道疾患の初回発現に対するベースライン時の併存疾患別有効性などを検討した。
本試験におけるアレックスビーの有効性は82.58%で予防効果が検証された。
また、一つ以上の注目すべき併存疾患(慢性閉塞性肺疾患、喘息、慢性呼吸器/肺疾患、1型または2型糖尿病、慢性心不全、進行した肝疾患または腎疾患)を有する集団におけるRSV感染による下気道疾患の初回発現に対する有効性は94.61%であった。
サブタイプA,Bに対する効果84.6%と80.9%も有意差は認めなかった。
30日後6ヶ月後の経時的変化を見てみてもサブタイプAとBで有意な差は認めなかった。
アレックスビーの副反応は下図のように局所の反応が主であり、プラセボとの差があった。
死亡に至った有害事象は、アレックスビー群で49例(0.4%)プラセボ群で58例(0.5%)にみられ、アレックス例で死亡に至った主な有害事象は心筋梗塞7例、COVID-19 肺炎5例であった。
https://gskpro.com/ja-jp/products-info/arexvy/clinicalstudy/#2
18ヶ月間のデータを見てみても12ヶ月でのデータが82.6%から67.2%への変化しており、有効性は持続できていると考えられた。
GOLD 2024のVaccination for stable COPDにおいてインフルエンザワクチン、新型コロナワクチン、肺炎球菌ワクチンの推奨レベルはEvidence Bであるのに対して、60歳以上の高齢者や慢性心・肺基礎疾患のある症例において、RSVワクチンはEvidence Aと強く推奨している。
file:///C:/Users/jeffb/Downloads/GOLD-2024_v1.2-11Jan24_WMV.pdf
Covid-19パンデミック期における奈良県総合医療センターにおけるマルチプレックスPCRを用いた気道感染の疫学が発表されている。
3177例のうち、1215例38.2%に少なくとも1つの原因ウイルスに感染しており、1641のウイルスが検出された。最も多く検出されたウイルスは、ヒトライノ/エンテロウイルスで655例39.9%、次いでSARS-CoV-2で264例16.1%で、RSVは245例14.9%あった。61歳以上で見てみると、これらの例数は12例10.5%、87例76.3%、5例4.4%でRSVは小児に多い感染傾向にあった。
Heliyon. 2023 Mar 11;9(3):e14424.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10007720/
2009年から2011年の間に香港の3つの急性期総合病院に入院した18歳以上の成人の607例の検討では、RSV感染症で入院した患者の87.3%に併存疾患が一つ以上あり、30日以内の死亡が9.1%、60日以内の死亡は11.9%あり、その多くが肺炎で死亡しており併存患者の平均入院日数は12日に及んでいた。
脂肪に関連する変数は、75歳以上の高齢、肺炎の存在、換気サポートの必要性、細菌の重複感染出会った。
Clin Infect Dis. 2013 Oct;57(8):1069-77.
https://academic.oup.com/cid/article/57/8/1069/529795?login=false
2016年10月から2017年1月にかけて実施された日本老年医学的評価調査の横断データで肺炎球菌のワクチン接種率は40.0%、インフルエンザ予防接種率は58.8%でかかりつけ医がいるヒトにおいて接種率が高かった。
J Epidemiol 2022;32(9):401-407
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jea/32/9/32_JE20200505/_pdf/-char/en
担当医のワクチン接種に対する働きかけが重要であるといえる。