川村所長の勉強会参加記録

2019.09.24

脂質異常症のPrecision Medicine 伊藤 浩教授

2019年9月10日 
演題「脂質異常症のPrecision Medicine」
演者:岡山大学大学院医薬学総合研究科 循環器内科学 伊藤浩  先生
場所: ホテル横浜キャメロットジャパン
内容及び補足「
今日の一番伝いたいことは『LDLは質であり、レムナントは量が問題になる』ということである。
正常人であればスムーズに脂肪酸とLDLはdeliveryされる。
小腸から吸収された後コレステロールはカイロミクロンとして門脈中に分泌され、肝臓で代謝されCMレムナントやB-48VLDLになり肝臓に取り込まれる。肝臓では、遊離脂肪酸などからB-100VLDLが合成され、血中に分泌される。血管内でLPL、やHTGLにより加水分解され、FFAをいろいろな細胞に供給しながら、リポ蛋白はVLDL→IDL→LDL]と異化が進み、末梢組織や肝臓のLDL受容体により細胞内に取り込まれる。

日内会誌 106:682‐689、2017


J Hepatol 2011 55 1428-40

参:
空腹時におけるリポ蛋白の動態
苦副次におけるリポ蛋白はTGを多く含む粒子であるVLDL(TG:TC=5:1)と、中性脂肪をほとんど含まない悪玉といわれているLDL、善玉といわれるHDLである。

肝臓で放出されたVLDLは血流にのって全身運ばれる途中で、脂肪細胞や骨格筋細胞で作られ、細胞外に分泌され、血管内皮細胞にトラップされているLPL(Lipoprotein Lipase)により、TGが脂肪酸とモノグリセリドに分解される。
脂肪酸は脂肪組織や骨格筋細胞、心筋細胞に取り込まれ、TGに細胞性されたり、エネルギー源として利用される。
血中のVLDL濃度は、肝臓での合成速度とLPLによるTGの分解速度のバランスにより決定されている。
肝臓での合成速度は、肝臓へ運び込まれる糖、アルコール、脂肪などの栄養源の量に比例する。LPLはインスリンにより活性化され、アポC3やAntliopoietin-like protein(ANGPLT)4が活性を抑制する。薬剤ではフィブラート系薬剤やω-3系多価不飽和脂肪酸が活性化する。

VLDL中のTGがLPLで分解されてLDL粒子となる。LDL粒子はVLDLに比べゆっくり代謝を受ける。様々な細胞表面に発現しているLDL受容体によりLDLは細胞内に取り込まれる。コレステロールを多く必要としている副腎細胞や肝細胞にLDL受容体は多く発現しており、この受容体の量と働きがLDLの細胞への取り込み量を決めており、血中濃度に影響することになる。

食後におけるリポ蛋白の動態
食事により腸管から吸収された脂肪は、腸管上皮細胞でアポB-48を含むカイロミクロンを合成し、リンパへ分泌する。TGとコレステロールの比率が一定していないので、Friedewaldの式LDL-C=TC-HDL-C-TG/5が成り立たない。
カイロミクロンに含まれるTGもLPLや肝性リパーゼにより分解され、カイロミクロンレムナントと呼ばれる小経粒子となって肝細胞に取り込まれる。血液中からの消失速度が速いので空腹時には消失しており、存在しない。

血液中の脂質はリポ蛋白として代謝される以外に、CETP(Cholesterol ester transfer protein)などを介したリポ蛋白間での物質のやり取りによる変化もある。VLDLとHDL間でTCとTGの交換が行われると、HDL中のコレステロール含量が減り、TGが増加することになる。TGは速やかにLPLにより分解されるので、この交換反応の結果、HDLコレステロールが減少することになる。CETPの基質となる血液中のVLDLが多いほど、この交換反応が起こりやすいので、VLDLが多い人、すなわちTG高値の人ほど、HDLコレステロール値が低下しやすい

VLDLとLDL間でCETPによるコレステロールとTGの交換が行われたあとに。LPLや肝性リパーゼによりTGが分解されると小径で高比重のLDLすなわち動脈硬化惹起性の高いsd-LDLが生成される。

LDL粒子の構造を見てみると、疎水性のコレステロールエステルやTGの周囲を脂質二重膜が多い、その表面にアポ蛋白質が存在している。

https://www.cosmobio.co.jp/product/detail/cbl_20120417.asp?entry_id=10485

細胞の構造も、蛋白質が表面に存在する脂質二重膜に覆われた構造であり、基本的にリポ蛋白質との差は無い構造である。

https://www.kango-roo.com/sn/k/view/2053

したがって、LDL粒子そのものをマクロファージは貪食しない。
質が変化したLDLをマクロファージは貪食する。そのような状態として、酸化(酸化ストレス)、糖化(糖尿病、耐糖能異常)、Carbaminated(カルバミン化:CKD)、アセチル化(Acetylated)、メチル化(Methylated)、エチル化(Ethylated)、Serum Amyoid Aによる変化などがある。

このことはリスク区分別脂質管理目標値にも表現されている。
リスクが無い一次予防の低リスク群はLDL 160mg/dL未満であるが、上記LDLの修飾が起こっていると考えられる病態や集積していると考えられる病態ではLDL-Cの目標値は140、120、100、70と低値に設定されている。

ピタバスタチン1㎎と4㎎の比較試験であるREAL-CAD試験でLDL-Cは91.0㎎/dLに対して76.6mg/dLと有意に低下した。

その結果、Primary end pointで266(4.3%)対334(5.4%)となりHR0.81で四年間の累積インシデンスは4.6%対5.6%と有意な差を認めた。Secondary composite end pointは489(7.9%)対600(9.7%)となりHR0.83で4年間の累積インシデンスは8.5%対10.4%と有意な差を認め、1㎎より4㎎の方が有意に強い効果を認めた。

Circulation. 2018;137:1997-2009

スタチンの効果は、症例の背景による差はあまりなくOne size fits allである。

PCSK9の阻害薬であるEvolocumabの投与でLDL-Cは30mg/dLにまで低下させることができる。

LDL-Cを30mg/dLにまで低下させると3年間の累積インシデンスは12.6%にまで低下させることができHR0.85にまで低下させることができるが、85%の残余リスクがLDL-Cの低下療法だけでは残っているのである。

N Engl J Med 2017; 376:1713-1722 DOI: 10.1056/NEJMoa1615664

スタチンによるLDL-C低下療法の結果を見てみると一次予防よりも二次予防の方がより効果が高いことがわかる。違う見方をするとLDL-C130のところで一次予防では約5%、二次予防では約15%の冠動脈イベント発症率でスタチン治療を行ってもこれだけの差が存在する。

Precision Medicineとは、遺伝子情報、生活環境やライフスタイルにおける個々人の違いを考慮して疾病予防や治療を行うという新しい医療の考え方で、2015年1月20日に行われたオバマ元米大統領の一般教書演説において発現されたものでる。
従来型の医療(”one-size-fits-all”型医療)は、”平均的な患者”に対してデザインされたものであり、「ある患者群には大変効果のある医療ではあるが、その他の患者にはほとんど効果がない」医療であり、Precision Medicineは、生活環境やライフスタイルにおける個々人の違いを考慮して疾病予防や治療を行い、その患者個人に適した治療法を検討し提供していく医療である。

インスリン抵抗性を合併している脂質異常症患者は、HDL-Cは低下し、レムナントは上昇し、sd-LDLも上昇するが、LDL-Cの上昇はそれほどでもない状況にある。

空腹時の中性脂肪の値の変化よりも非空腹時中性脂肪高値ほど心血管事故が増加した。

メタボの2型糖尿病患者においては、カイロミクロン濃度が上昇し、LPLにより加水分解され遊離脂肪酸の濃度とTGリッチVLDLやレムナントが上昇する。その際アポC3も上昇している。
 

Lancet. 2014 Aug 16;384(9943):626-635. doi: 10.1016/S0140-6736(14)61177-6

アポ蛋白C2はLDLの補酵素としてTGRL(Triglyceride-rich lipoprotein)の異化を促進する。アポC3はLPL活性の抑制やTGRLのアポE受容体への結合を抑制し、高TG血症をきたす。
この働きは見ようによってはアポC3が増加したためにTGRLが増加し高TG血症をきたし、動脈硬化を引き起こすことになるように見える。しかし現実には、筋肉やほかの細胞にはエネルギーが十分ある状態なので、これ以上レムナントを吸収しないためにアポC3を増やして細胞内に取り込まないようにしていると考えることもできる。

J Hepatol 2011 55 1428-40

食後に中性脂肪は4時間後にピークになるような血中変動をしている。その中性脂肪が低下する前に食事をするため下図Bのように血清中性脂肪が変化する。

デンマークのコペンハーゲンの20~93歳 女性7587名、男性6394名26年間のフォローアップの2004年までの26年間のフォローアップスタディで、非空腹時TG増加毎に、レムナントリポ蛋白コレステロールも増加
フォローアップ26年、心筋梗塞1793名(女性691名、男性1102名)、IHD 3479(女性1567名、男性 1912名)、死亡7818名(女性3731名、男性4087名)
TG基礎値で以下のようにカテゴリー化し
1 mmol/L 未満(<88.5 mg/dL)
1 ~ 1.99 mmol/L (88.5-176.1 mg/dL)
2 ~ 2.99 mmol/L (177.0-264.6 mg/dL)
3 ~ 3.99 mmol/L (265.5-353.0 mg/dL)
4 ~ 4.99 mmol/L (354.0-441.6 mg/dL)
5 mmol/L (442.5 mg/dL) 以上
MI、IHD、総死亡頻度比較した。
非空腹時のTG濃度とレムナントコレステロールの間には、Remnat-C≒非空腹時TG/5の関係がある。


結果は、心筋梗塞に対して女性では、1-mmol/L増加後との年齢補正・他因子補正HRs(aHRS)は2.2 (aHR, 1.7)、 4.4 (aHR, 2.5)、 3.9 (aHR, 2.1)、 5.1 (aHR, 2.4)、 16.8 (aHR, 5.4)、男性では、1.6 (aHR, 1.4)、 2.3 (aHR, 1.6)、 3.6 (aHR, 2.3)、 3.3 (aHR, 1.9)、 4.6 (aHR, 2.4)。
IHDに対して女性では、1.7 (aHR, 1.4)、 2.8 (aHR, 1.8)、 3.0 (aHR, 1.8)、 2.1 (aHR, 1.2)、 5.9 (aHR, 2.6)、男性では、1.3 (aHR, 1.1)、 1.7 (aHR, 1.3)、 2.1 (aHR, 1.3)、 2.0 (aHR, 1.2)、 2.9 (aHR, 1.5)。
総死亡に対して、女性では、1.3 (aHR, 1.3)、 1.7 (aHR, 1.6)、 2.2 (aHR, 2.2)、 2.2 (aHR, 1.9)、 4.3 (aHR, 3.3)、男性では、1.3 (aHR, 1.2)、 1.4 (aHR, 1.4)、 1.7 (aHR, 1.5)、 1.8 (aHR, 1.6)、 2.0 (aHR, 1.8)であった。
JAMA. 2007 Jul 18;298(3):299-308.

TGリッチLPは動脈壁の中には入れず、血管内皮に存在するLPLで加水分解され、遊離脂肪酸やモノグリセリドを放出して、小さなRLPに変化する。RLPは簡単に血管内皮細胞に入り込む。このレムナントはLDL粒子とは異なり、酸化などの修飾を受けなくてもマクロファージに貪食される。しかもLDL粒子よりも5~20倍のコレステロールを含有している。

JACC Vol. 61, No. 4, 2013 :437-9

インスリン抵抗性があると脂肪組織から遊離脂肪酸の分泌が増える。肝臓で脂肪酸の取り込みが増えるとVLDLが合成され血中に分泌される量が増え高中性脂肪血症となる。そうなると、HDLやLDLにあるCETPによりTG rich VLDLの中性脂肪とHDLやLDLのコレステロールが交換される。TGが多くなったHDL粒子からApoA-1が解離し、速やかに血漿中から除去され、そのためHDLのコレステロール逆転送能が機能しなくなる。TG rich LDLはその後sdLDLになり、より動脈硬化惹起性が増加する。

J Clin Invest. 2000 Aug 15; 106(4): 453-458. doi: 10.1172/JCI10762

Small dense LDLは以下の特徴があるため、超悪玉コレステロールと言われている。
① 血液中に滞在する時間が、通常のLDLの場合は平均2日なのに比べ、5日と長いこと
② 血管壁のプロテオグリカンに付着しやすいこと
③ 小型の粒子なので血管内皮下に侵入しやすいこと
④ Small dense LDL粒子には、通常のLDL粒子に比較してコレステロール含有量が少ないが、それ以外にも脂溶性の抗酸化ビタミンなどの抗酸化物質が乏しいため酸化されやすい
⑤ 酸化されるとマクロファージに取り込まれ、泡沫化し、動脈硬化巣へと進展していく

http://denka-seiken.jp/jp/content/files/pdf/lipid_journal/LipidJournal-small_dense_LDL_all.pdf

PPARα is key Nutritional and Environmental sensor for metabolic adaptation
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)は、核ホルモン受容体のスーパーファミリーに属する転写因子であり、高脂血症、糖尿病、肥満などのいくつかの疾患の発症に潜在的に関連する代謝プロセスに関与するいくつかの遺伝子の発現を調節する。
PPAR-αは、脂質、炭水化物、およびアミノ酸の代謝を調節する転写因子であり、多価不飽和脂肪酸や脂質異常症の治療に使用される薬物などのリガンドによって活性化される。PPARαの遺伝的変異があると、空腹時および食後の脂質濃度に影響を与えることにより、脂質異常症および心血管疾患の発症リスクと関連している。遺伝子変異はまた、2型糖尿病の発症と悪化に関連している。
肝臓、腎臓、心臓、骨格筋、褐色脂肪細胞組織に多く発発現し、①脂肪酸のβ酸化とω酸化促進、②FATP(fatty acid transport protein)・ACS(acyl-CoA synthetase)活性増加、③アポ蛋白A-Ⅰ合成・血清HDL-Cの増加、④LPLの合成亢進、⑤アポ蛋白C-Ⅲの合成抑制、
⑥ACC(Acyl-CoA carboxylase)・FAS(fatty acid synthase)活性低下に関与しており、フィブラート薬剤の主要な効果となっている。また、NF-κBと結合するIκBを細胞内に増加させ、炎症を抑制すると考えられている。

https://academic.oup.com/advances/article/4/4/439/4259631

参:PPAR(peroxisome proliferator-activated receptor)
PPARはステロイドホルモン受容体スーパーファミリーに属する核内受容体の1つで、α、β、γの3型が存在する。PPARの多くはレチノイドX受容体(RXR)とヘテロダイマーを形成する。肝臓ではα型が多く、そのほとんどがPPARα―RXRαの形で存在する。
PPARはインスリン存在下においてmitogen-activated protein kinase (MAPK)によるリン酸化を受け活性化する。
リガンド非結合状態ではPPAR-RXRヘテロダイマーにnuclear receptor corepressor、silencing mediator for retinoid and thyroid hormone receptorなどのコリプレッサーが結合していて、PPAR-RXRヘテロダイマーの余計な活性化を阻害している。PPAR、RXRにそれぞれのリガンドが結合すると、PPAR-RXRヘテロダイマーは安定化かつ活性化し、コリプレッサーが解離する。活性化したPPAR-RXRヘテロダイマーが標的遺伝子の転写開始点の上流に存在するペルオキシソーム増殖財応答領域(peroxisome proliferator response element:PPRE)に結合し、標的遺伝子のクロマチン構造が変化し、核内に存在するcAMP response element binding-protein、PPARγ coactivator-1などのコアチベーターが結合しやすくなる。コアクチベーターはそれ自身の持つアセチル化能によって、あるいはアセチルトランスフェラーゼと複合体を形成することによってヒストンをアセチル化し、クロマチンを緩める。それによりほかの転写因子やRNAポリメラーゼが標的遺伝子のプロモーター領域に結合しやすくなり、転車が開始される。


PPARαに発現が制御されている分子種は以下のものがあり、ペルオキシソームβ酸化の律速酵素であるアシルCoAオキシダーゼ、ミトコンドリアβ酸化系の律速酵素中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ(MCAD)、リポ蛋白リパーゼなど、脂肪酸代謝に関連した分子種が多い。

PPARαはミトコンドリアβ酸化の定常レベルの維持に大きな影響を与えており、フィブラート系薬剤はPPARαの活性化を介してミトコンドリアβ酸化を著明に亢進させる。
また、炎症のマスターレギュレーターであるNuclear factor-kappa B(NF-κB)を強豪阻害することにより、TNF-α、interleukin-1β、intracellular adhesion molecule-1(ICAM-1)などの発現を抑制する。
血管内皮細胞においてもNF-κBとの競合阻害によりmonocyte chemoattractant protein-1やvascular cell adhesion molecule-1の発現を低下させる。
PPARγは白色脂肪組織において、脂肪酸をトリグリセリドとして貯蔵する際に重要な役割を担っている。
PPARγの標的遺伝子としてリポ蛋白リパーゼ(LPL:リポ蛋白の分解、脂肪酸遊離)、FAT(脂肪細胞への脂肪酸の取り込み)、脂肪細胞脂肪酸結合蛋白(脂肪酸輸送)、アシルCoAシンターゼ(脂肪酸の活性化)、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(脂肪酸やトリグリセリド合成促進)などがある。
また脂肪酸をトリグリセリドの形で保存する際に必要なグリセロールを合成するホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、糖代謝の恒常性を保つグルコーストランスポーター4(Glut4)もPPARγの活性化により発現が亢進する。
またPPARγの活性化によりTNF-αやレプチンの産生が抑制される。
PPARγはマクロファージにも豊富に存在し、動脈硬化巣の泡沫細胞においてPPARγが活性化されるとFATの発現が増加するが、スカベンジャー受容体の発現は抑制される。
PPARγはNF-κBを競合阻害して、泡沫細胞をアポトーシスへと誘導し、マトリクスメタロプロテイナーゼ9の発現を抑制することにより動脈硬化巣を安定化させる。
→PPARγリガンドはコレステロール逆転送系を活性化し抗動脈硬化作用を発揮する。
 

健常人に脂肪負荷をした際、TG値時間でピークに達し、6~8時間後にほぼ正常に戻る。
その際、血清のTC、LDL-C、glucoseはほとんど変化しない。

Postprandialprofilesofserumlipid,bloodglucose,andFMDafterthecookietestinhealthysubjects.(A)PostprandialchangesinTC,TG,LDL-C,andglucose.(B)PostprandialchangesinApoB-48andRLP-C.(C)Postprandialbrachialartery%FMD.N=20.
J Cardiol. 2016 Apr;67(4):335-9. doi: 10.1016/j.jjcc.2015.12.001. Epub 2015 Dec 29.

メタボリックシンドロームや2型糖尿病患者などのインスリン抵抗性が存在すると、脂肪負荷後のTGの上昇のピークはより高く、後ろにずれ、長時間負荷後のTGの上昇はもとに戻らないことが知られている。この背景には、小腸粘膜での形成されるTG、コレステロールエステル、アポB-48の合成が亢進し、腸管におけるカイロミクロンの産生が亢進される、LPLによるTGの分解低下があり、長時間カイロミクロンレムナントが存在することになる。

カイロミクロンレムナントは単球の活性化や血管内皮機能障害を伸展させる。その結果血管内皮のFMDが低下する。
この変化は、食後2時間後にピ-クとなる食後血糖値の変化や空腹時の血糖値では説明できない。

VA-HIT(Veterans Affairs High-Density Lipoprotein Cholesterol Intervention Trial試験で、低HDL-C血症患者約2500例を対象としたゲムフィブロジルは二次予防試験で、HDL-Cの6%の上昇、TGの31%の低下を認めたが、LDL-Cの有意な変化はなかった。この変化の結果、22%の心イベント抑制効果が認められた。(NEJM 1999;341:410-418)

FIELD(Fenofibrate Intervention and Event Lowering in Diabetes)試験で、約9800人の2型糖尿病患者を対照とし、フェのフィブラートの5年間にわたる長期投与効果を見た試験ではプライマリエンドポイントに有意さはなかったが、冠動脈イベント(非致死性心筋梗塞+冠動脈心疾患死)は11%抑制された。心血管疾患の既往が無い患者については、冠動脈イベント、全身血管イベントともに有意に抑制され、2型糖尿病患者におけるフェノフィブラートの一次予防効果が明らかになった。糖尿病腎症や網膜症などの微小血管障害のリスク低下し、下肢動脈硬化による切断の予防効果も確認され、LDLサイズを大きくさせた。
 

Lancet 2005 366 1849-61

高中性脂肪血症に対するフィブラート薬剤の投与効果を見てみると心血管疾患に対する予防効果はあると考えられる。

Lancet. 2014 Aug 16;384(9943):626-635. doi: 10.1016/S0140-6736(14)61177-6

米国のNational Cholesterol Education Program’s Adults Treatment Panel 3(NCETP-ATP3)のメタボリックシンドロームの診断基準を満たす2型糖尿病の患者に対してフェのフィブラートの投与効果を見た結果では、FIELD研究の80%の人がメタボに該当した。
糖尿病だけの場合に比べ、リスク因子が増えるごとにCVDイベントが有意に上昇した。
メタボリックシンドロームがあるか無いかで、駆血圧、腹囲の増加、高中性脂肪血症(1.7mmol/L:203mg/dL)、低HDLコレステロールが存在するほどCVDイベントがより増加していることが分かった。

フェのフィブラートの効果はウエスト周囲径が大きい群、TG高値群、HDL-C低値群でより強く、リスクの集合した人でより強い効果が出た。

メタボがある2型糖尿病患者においてはフェノフィブラートノ有効性が認められた。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18984774

10人のメタボ症例に対して、400㎎/日のフェノフィブラート4週間投与をクロスオーバし血管内皮の拡張能を比較してみた。

クッキー負荷後にFMDは健常者で低下していたが、ベザトールの投与で改善していた。

クッキー負荷試験においてコントロール群は食後四時間後にTGは上昇し、Apo B-48、RLP-Cも上昇していた。これらの上昇はベザフィブラート400㎎の投与において改善した。

食事におけるリポ蛋白変化は、空腹時(A)の濃度と、負荷テスト4時間後のあたり(B)その変化量(C)を比較してみるとVLDLのTGの変化が著しかった。

Cardiovascular Diabetology volume 13, Article number: 71 (2014)

2型糖尿病患者において検討した結果フェノフィブラートの効果として、脂質に対する効果、抗炎症作用、抗血管新生効果、抗酸化機能、アポトーシス抑制効果が指摘されている。

Diabetes 2013 Dec; 62(12): 3968-3975.

虚血性心疾患、心筋梗塞、総死亡の危険度はLDL-C濃度よりもレムナントコレステロール濃度の方がより強い影響力を持っているといえる。

Clinical Chemistry Mar 2015, 61 (3) 533-543

PPARαは主に肝臓に発現しており、腎臓、心臓、骨格筋、褐色脂肪組織、小腸にも分布し、脂肪酸代謝において重要な役割を担っている。一方、PPARγは脂肪組織、マクロファージや大腸に存在し、細胞の分化や脂質の貯蔵、インスリン作用の修飾などに関与している。PPARδは生体内に広く分布し、これまでに脳内脂質代謝、高比重リポ蛋白代謝や、脂肪生成、前駆脂肪細胞分化を調節することも報告されている。
PPARαのリガンドとしては、多価不飽和脂肪酸(リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの数個の2重結合を有し16~20の炭素鎖からなる脂肪酸)やアラキドン酸由来の8-S-hydroleikosatetraenoic acid(8-S-HETE)やロイコトリエンB4などのエイコサノイド、合成リガンドとしてフィブラート系薬剤がある。
フィブラート系薬剤によってPPARαが活性化されると、①脂肪酸のβ酸化とω酸化、
②Fatty acid transport protein(FATP)、Carnitine palmitoryltransferase-1α(CPT-1α)、ACS(Acyl-CoA synthetase)等の酵素の発現抑制、③Acetyl-CoA carboxylase(ACC)、Fatty acid synthase(FAS)等の酵素の発現抑制、④アポリポ蛋白A-1、A-2、A-5の発現増加、⑤アポC-3の発現抑制、⑥リポ蛋白リパーゼ(LPL)の発現増加、⑦アポA-1やHDLによるコレステロール引き抜きを制御するATP-binding cassette transporter A1、G1(ABCA1、ABCG1)の発現増加、⑧コレステロール排泄にかかわるABCG5、ABCG8の発現調節、⑨省庁のコレステロールトランスポーターNiemen-Pick C1様1蛋白質(NPC1L1)の発現抑制等に関与する。
その結果、肝臓からのVLDL産生の抑制、VLDL異化の促進、LDL粒子径の増大、HDLコレステロールの増加などを介して、脂質代謝を改善する。さらにPPARαの活性化は脂質代謝に影響を及ぼすのみでなく、炎症の抑制につながり、血管内皮機能障害、活性酸素主、血栓形成、血管新生への影響を介して動脈硬化の抑制をもたらし、膵β細胞などの機能にも影響を及ぼす。

フィブラート系薬剤はLPLの活性化、アポC3濃度低下、血漿アポ蛋白構成変化(C-3:E比低下によるTG richリポ蛋白のクリアランス効率上昇およびsmall dense LDLの産生減少)をもたらし、TG richリポ蛋白のクリアランス増加に働き、LDL粒子径を増大させ、肝臓でのアポA-1,A-2、ABCA1発現増加、HDLコレステロールの増加、アディポネクチンの増加、コレステロールの逆転送系の賦活かをもたらす。
フィブラートを用いた18個の大規模試験の約45000人のメタ解析の結果、総死亡率には有意さが無かったが、複合心血管イベント、冠動脈イベント、非致死的冠動脈イベント、冠動脈血行再建術などのリスクがフィブラートの投与により有意に減少した。さらに、最小血管障害であるアルブミン尿の進行、網膜症も有意に減少した。さらに、TG<177.2mg/dLの群に比し、TG≧177.2mg/dLの群では冠動脈イベント発生リスクの有意な低下が認められ、TGの約9mg/dLの低下が冠動脈イベントを5%低下させる計算となる。
しかし、フィブラート系薬剤の副作用として肝機能異常、血清ホモシステインやクレアチニンの上昇、横紋筋融解症等がある。

Cardiovasc Diabetol. 2013 May 31;12:82. doi: 10.1186/1475-2840-12-8

Selective peroxisome proliferator-activated receptor α modulators(SPPARMα)
パルモディアはPPARγやPPARδに比べ、それぞれ5000倍、10000倍以上PPARαへの選択的な活性化が示されている。

SPPARMαの1つであるペマフィブラートは、きわめて強いPPARαアゴニスト活性をもち、PPAR subtypeの選択制も高い。肥満動物モデルで、ペマフィブラートはフェノフィブラートノ1000倍以上の容量(300mg/kg)よりもTG低下効果は強く、fibroblast growth factor-21レベルの上昇も大きかった。


臨床第2相の用量設定試験では100μg/日の投与量でフェノフィブラートの100mg/日よりも脂質改善効果(TG、non-HDL-C、VLDL低下、HDL-C上昇)は大きかった。

また、リポ蛋白粒子サイズ変化はより好ましい影響が認められた。

有害事象はプラセボとほぼ同様でフェノフィブラートに比べて少なく、フェノフィブラートで認められた、血清クレアチニンやホモステインの上昇は認められず、肝機能の改善効果も認めた。
Atherosclerosis 2016;249:36-43

作用機序としては核内受容体であるPPARαに選択的に結合し、PPARαの立体構造を特異的に変化させ、レチノイドX受容体(RXR)と複合体を形成し、コファクターを動員してPPARα転写を促進させ、LPLの活性化遊離脂肪酸からのTG合成を阻害する。
 

参考文献『そうだったんだ! 脂質異常症』伊藤浩編集 文光堂

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■電話番号
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