消化器系

2022.05.29

精神科領域における慢性便秘症を考察する 坪井貴嗣 先生

2022年5月28日 

演題「精神科領域における慢性便秘症を考察する」

演者: 杏林大学医学部精神神経科学 准教授 

場所: ホテル雅叙園東京

内容及び補足「

コロナ窩においてロックダウン前とロックダウン下を比較してみると170人中79名47%に新たな便秘が認められた。

多重解析をすると女性、水分摂取量、身体活動度で有意に新規便秘患者数と関連があった。

BMJ Open Gastro 2021;8:e000729. doi:10.1136/bmjgast-2021-000729

https://bmjopengastro.bmj.com/content/bmjgast/8/1/e000729.full.pdf

便秘にという言葉に対する意味が患者と医師で異なっている状況を表している可能性があり、患者さんが特に困っている慢性的な便秘症状と医師が診断にあたり重視する症状は下記の様に異なっている。患者さんの側では腹部の膨満感が、医師が重視する症状は排便回数であった。

Therapeutic Research Volume 38, Issue 11, 1101 – 1110 (2017)

https://www.e-ben.jp/medical/03_issue/

便秘の有症率は一般人口の2~28%とされているが、その定義や調査方法によって数字は大きく異なるが、平成28年の国民生活基礎調査によると、日本人の有訴者率は、男性で2.5%、女性で4.6%であり、女性は20代から増加し、男性では60歳以上で増加傾向がある。

https://www.kenei-pharm.com/cms/wp-content/uploads/2018/04/shoudokukannrenn_05.pdf

慢性便秘症の分類は、下記の表のようになるが、精神科領域で対面する便秘はほとんどが機能性便秘である。

https://www.kenei-pharm.com/cms/wp-content/uploads/2018/04/shoudokukannrenn_05.pdf

原因としては薬剤性が多い。

(慢性便秘診療ガイドライン2017)

 

フィンランドの275名の統合失調症の患者において便秘症は31.3%にみられている。

Nordic Journal of Psychiatry, 26 Aug 2016, 71(1):48-54

https://doi.org/10.1080/08039488.2016.1217044

 

統合失調症の入院患者503名のうち184人(36.6%)で機能性便秘の診断がされたが、その内患者自身が便秘と気付いていた人は103人(50.6%)で、精神科医に便秘を告げていたのは34人(18.5%)に過ぎなかった。

General Hospital Psychiatry, 17 Jul 2013, 35(6):649-652

https://europepmc.org/article/MED/23871089

多くの統合失調患者は自身の便秘に気付いていないし、気づいていても主治医に告げず、治療にまで至っていないと言える。

 

統合失調症の治療ガイドラインは2015年に作成され2017年に改訂されたが、治療薬の副作用として錐体外路症状、悪性症候群、体重増加のみの記載であったが、2022年のガイドラインからは、上記3症状に加え、便秘、QT延長、性機能障害についても記載された。

https://www.jsnp-org.jp/csrinfo/img/togo_guideline2022_2_4.pdf

 

実際、抗精神病薬の長期多量投与の結果、腸管蠕動が低下し、便の停滞が起き、アウエルバッハ神経叢が変性し巨大結腸症をきたす症例もある。

日消誌 2008;105:1205-1212

https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/105/8/105_8_1205/_pdf

 

抗精神病薬を長期投与されている患者が、劇的に症状が悪化する場合があり、Bacterial Translocation(BT)がその原因と考えられている。BTは腸内に生息する生菌が腸管上皮を通過して腸管以外の臓器に移行する現象をいう。BTの誘発要因として、1.腸管内に通常少ない菌数で生息する大腸菌、腸球菌などの近が異常増殖した場合(抗生剤による菌交代症など)、2.粘膜上皮細胞の損傷、粘液層の損傷、粘液層の減少、熱傷時の粘膜上皮の虚血による損傷、放射線照射による粘膜上皮細胞のターンオーバー、異常、ザイモザン(酵母細胞壁抽出物で免疫賦活化作用のあるもの)やricinolic acid(リシノール酸:ω-9系の不飽和脂肪酸で鎮痛や抗炎の効果がある)などの薬物による障害、3.全身性・局所性の免疫機能の低下、免疫抑制剤の投与、免疫欠損など、4.糖尿病、癌、熱傷、外傷などの全身性消耗性疾患などがある。

日本腹部救命医学界雑誌 2003;23:455-461

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaem1993/23/3/23_3_455/_pdf/-char/ja

 

参:統合失調症患者では、易感染性とは思えない時期でも、急激に敗血症を発症することがあり、その起因菌が腸内細菌である症例を認め、その原因の一部はBTであると想像されている。370床の単価精神科病院で、原因不明の敗血症が5年間で26例認められ、それらの内消化管専攻が否定され、なおかつ血液と糞便より同一の菌が検出された症例(BTと考えられる症例)は15例であった。(1)慢性期の統合失調症で、無為・自閉傾向がある。すなわち陽性症状に乏しく、感情の平板化や意欲の低下が認められた。(2)敗血症発症の数日前まで著変がなかった。(3)年齢が中年以降であった。(4)男性が多かった。(5)感染症に対してリスクがあるとすれば、活動性に乏しく便秘傾向にあることくらいで、極端に易感染性の状態とはいえなかった。(6)血液より検出された菌は、グラム陰性桿菌であった。(7)糞便より血液培養と同じグラム陰性桿菌が検出された。(8)腸管の穿孔などの機械的な損傷を疑わせる所見を認めなかった。

日本未病システム学会誌2004;10:237-244

https://www.jstage.jst.go.jp/article/mibyou1998/10/2/10_2_237/_pdf/-char/ja

参:BTの治療としては、宿主に有用な作用を示す生菌を摂取するProbioticsや結腸内の有用菌を増殖させたり、有害菌の増殖を抑制するPrebiotics、および両方の作用を目指すSynbioticが重要であるが、それ以外にSDDも推奨されている。

SDD:Selective Digestive Decontamination(選択的消化管除菌)非吸収性抗菌薬を消化管内に投与して好気性グラム陰性桿菌や真菌の増殖を選択的に抑制する方法

葛飾医療センター麻酔部 岩井先生 2013.6.25 ICU勉強会

http://www.jseptic.com/journal/71.pdf

 

統合失調症の治療薬でざるクロザリル(クロザピン)の代表的な副作用としては、傾眠(63.6%)、悪心・嘔吐(48.1%)、流涎過多(46.8%)、便秘(33.8%)、頻脈(26.0%)、振戦(19.5%)、体重増加(18.2%)である。

重篤な副作用である好中球減少症と無顆粒球症は、本剤投与開始18週までに70-90%がみられ、それ以降の頻度は大きく低下する。本症は、加齢に伴い発現リスクが上昇し、女性の方に頻度が多く、アジア人は白人に比べ、無顆粒球症の発現リスクは2.4倍である。

 

統合失調症治療ガイドラインでは、日本の臨床研究による便秘の発生頻度は、クロザピンが約30%、ハロペリドール、オランザピン、リスペリドン、プロナンセリン、パリペリドン、ペルフェナジン、クエチアピン、アリピプラゾールが約5~15%、アセナピン、プレクスピプラゾール、ルラシドンが約3%であり、クロザピンが圧倒的に便秘の頻度が高い。

https://www.jsnp-org.jp/csrinfo/img/togo_guideline2022_2_4.pdf

 

向精神薬の副作用として、パーキンソニズムや体重増加は、容量依存的に副作用発現頻度は高く、次いで抗コリン作用も容量依存性に出現するが、痙攣や起立性低血圧はあまり容量依存性に発現頻度は上昇しない。便秘に関しては長期大量に投与されていると多いと推察されるので、患者が訴えなくても、確認していく必要がある。

 

参:抗精神病薬は主にドパミンに作用する薬であるが、それ以外にも作用がある。

それぞれの受容体への影響(左葉・副作用)は以下のようになる。

セロトニン1A受容体作用:抗うつ効果・抗不安効果

セロトニン2A受容体遮断作用:睡眠が深くなる

セロトニン2C受容体遮断作用:体重増加

α1受容体遮断作用:ふらつき・立ちくらみ・射精障害

ヒスタミンH1受容体遮断作用:体重増加・眠気

ムスカリン受容体遮断作用:口渇・便秘・排尿困難

表記した薬剤のなかで便秘をきたしやすい薬は、ロセナン、ジプレキサ、コントミンとなるが、坪井先生の薬剤使用感覚としては、ロセナンは便秘を起こしやすいという印象はないとのことでした。

https://cocoromi-cl.jp/knowledge/psychiatry-medicine/major-tranquilizer/about-major-tranquilizer/

https://cocoromi-cl.jp/knowledge/psychiatry-medicine/major-tranquilizer/about-major-tranquilizer/

https://www.phamnote.com/2018/12/blog-post_29.html

 

薬剤の中段の理由として、体重増加41%、日中の眠気29.6%、手の震え27.0%、便秘14.8%、口渇20.9%、じっとしていられない19.1%、食欲更新16.5%であった。

 

うつ病患者の診断はハミルトンのうつ病スケールなどで診断されるが、その基準の一つに胃腸症状:便秘があるが、抗うつ薬の副作用としても便秘があり、便秘の対応も重要である。

参:うつ病のサイン・症状

表情が暗い、自分を責めてばかりいる、涙もろくなった、反応が遅い、落ち着かない、飲酒量が増える、食欲がない、性欲がない、眠れない、過度に寝てしまう、体がだるい、疲れやすい、頭痛や肩こり、動悸、胃の不快感、便秘や下痢、めまい、口が渇く

(みんなのメンタルヘルス 総合サイト:厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_depressive.html

 

参:抗うつ剤

セロトニン、ノルアドレナリンの作用を増加させ、コリン、アドレナリン、ヒスタミンの作用を減弱する形で作用するものが多い。これらの物質の副作用は以下のようになる。

セロトニン:嘔吐・下痢・不眠・性機能障害

ノルアドレナリン:動悸・尿閉

抗コリン:口渇・便秘・尿閉

抗アドレナリン(α1):眠気・立ちくらみ

抗ヒスタミン:眠気・体重増加

またこれ以外に稀であるが注意すべき副作用として、不整脈(QT延長)と賦活症候群(治療開始時や増量時に中枢神経が刺激され、不安や焦燥感、イライラが急に高まる状態)がある。

 

228310名の登録患者のうち過去1年間に抗うつ薬を投与された1305人の患者に副作用についてインタネットアンケートを行った。1187名から回答があり、副作用は参加者の73.4%に認められた。男性80.4%、女性68.3%と男性に多かった。頻度で多かったのは、眠気、だるさ、胃部不快、便秘、めまい、口渇、体重減少の順であった。

European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience 2011;261(2):103-9

https://www.researchgate.net/publication/45189249_Patients’_attitudes_toward_side_effects_of_antidepressants_An_Internet_survey

 

抗精神病薬の副作用として便秘が発現した際には、De Hartらによる後方視的研究をもとにすると、ラクツロース、マグネシウム製剤、ピコスルファートナトリウムなどの緩下剤投与を推奨し、非薬物的介入として適切な運動、栄養補助食品の使用、十分な水分摂取を促すことが推奨されている。(Ear Psychiatry 26:34-44, 2011)しかし、これ以降に新しい下剤が多く発売されており、この対応に縛られる必要はないと考える。

精神科領域の便秘に対して、抗コリン作用による薬剤性便秘に対して、これまで子酸化マグネシウムとともに刺激性下剤が用いられてきたため、便秘のさらなる悪循環が起こっていたと考えられるので、刺激性下剤の使用は頓服にすることが望ましい。腎機能の低下などがある場合には、マグネシウムの血中濃度の上昇に気を付ける必要があり、金銭的に問題がなければ、アミティーザなどの新規便秘薬を中心とすることが進められる。

 

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