循環器系

2022.06.01

総合的視点を持った包括的な高血圧・循環器診療 -便秘の管理を含めて-苅尾七臣教授

2022年5月28日 

演題「総合的視点を持った包括的な高血圧・循環器診療 -便秘の管理を含めて-」

演者: 自治医科大学 内科学講座循環器内科学部門教授 苅尾 七臣 先生

場所: ホテル雅叙園東京

内容及び補足「

総合医的視点:時空間でとらえる必要がある。全身の上記の状態を時系列で把握しその連動を統合する必要がある。

循環器医としては、全身の血管疾患と戦っており、脳卒中、心筋梗塞、大動脈解離などの疾患が重要となる。

循環器疾患の発症様式を人の一生涯で表現すると下記の図のようになり、「一日にしてはならず、しかし、発症は非連続」であると言える。

2018年12月10日、第197回国会最終日に、「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が可決・成立した。脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、急性冠動脈症候群、急性動脈乖離、急性心不全といった疾患の予防、治療対策として、慢性リスク因子と病態を悪化させる急性リスク因子のコントロールが重要となってくる。

特に日本を含むアジア諸国絵は、高血圧に依存する脳卒中や心不全の頻度が高いため、徹底した24時間高血圧管理が有効な手段であると言える。

時相の異なる血圧サージ成分がそうか・相乗的に組み合わされ、より巨大な「サージ血圧」が生じ、循環器疾患の発症を引き起こすという血圧サージの共振仮説を我々は提唱している(下図)。個々のサージの時相がずれている際には、血圧の共振は増加しないので大きな問題にはならないが、各サージの時相が一致した際には、共振して巨大な「ダイナミック・サージ血圧」が発生し、循環器疾患を引き起こすという仮説である。

加齢とともに血圧は上昇するが、この「サージ血圧」の増大は平均値の増大よりも大きい。

SHATS全身血行動態アテローム血栓症候群:Systemic hemodynamic atherothrombotic syndrome

血圧サージの増大は血管疾患と悪循環を形成し、循環器疾患の発症と臓器障害を加速させる。この病態を我々は、SHATS全身血行動態アテローム血栓症候群と名付けた。

血管壁のスティフネスの増大は高血圧に先行し、「サージ血圧」が増大し、末梢血管壁への悪影響を増幅させる。つまり、血管疾患が進行している高血圧患者は、より厳格な血圧コントロールが重要となる。

 

本態性高血圧は異なる多因子による昇圧が集積した加齢現象である。加齢による血圧上昇は、血管障害の進展と食塩感受性の増大を基本プロセスとし、ストレス、肥満とメタボリックシンドローム、高食塩摂取や環境因子で促進される。その過程で、多くの循環調節にかかわる分子機構が、脳、心臓、血管、腎臓並びに内分泌系で働く。

若年高血圧患者は、肥満で交感神経やレニン・アンギオテンシン系が更新し、循環血液量が増加しているものが多い。神経内分泌性高血圧ともいわれており、心拍数増加や拡張期高血圧を伴い、代償的に小血管リモデリングが進行し、血管抵抗が増加する。この状態が持続すると大血管スティフネスが増大することにより、55歳以降で収縮期血圧が優位となり、拡張期血圧は逆に低下する。

さらに加齢による糸球体濾過量の低下が進行すると、尿中ナトリウム排泄量が減少し、肥満やストレスによる交感神経やレニン・アンジオテンシンの亢進が加わり、食塩感受性が亢進することが、本態性高血圧の発生機序として重要となる。

24時間の血圧変動を見てみると寝ているときに最低血圧になり、起きる前に血圧が上昇系となり、朝方上昇がみられる。

Circulation 2003;107:1401-1406

https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/01.cir.0000056521.67546.aa

 

重篤な呼吸・循環器系疾患を合併しない高齢者男性5人、女性7人(平均年齢70±5歳)と若年健常者男性6人、女性(平均23±3歳)において、室温27℃、湯温度41℃の入浴におけるにおいて、血圧、脈拍数の変動について検討した。男性は短パン型水着、女性はワンピース型水着を着用し、入浴前にまず膝から下にかけ湯をし、両腕は計測のため水面から出し、伸膝坐位で浴槽につかり、水位は乳首レベルになるよう推移を調節した。

下図のように血圧、脈拍数を測定した。

脈拍数は高齢者・若年者とも入浴全安静値に有意差はなかったが、それ以外の数値は有意差を認めた。

入浴に伴う変化は、脈拍数は両群で入浴直前よりは増加したが、若年者でより顕著であったが、症例数が少ないためか両群間での有意な差とはならなかった。

収縮期血圧は、高齢者において前半入浴直後に上昇したが、その後は上昇せず、逆に有意に低下した。拡張期血圧は、両群とも全測定で有意に低下した。

自律神経37(3)431‐439、2000

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcdp2001/40/1/40_1_28/_pdf/-char/ja

便秘と心血管イベントの開始との関連の基礎となる可能性のあるメカニズムを示すと下図のようになる。

J Clin Hypertens 2019 21 421-425

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jch.13489

 

排便時強くイキムときには、呼吸を停止し、胸腔および腹腔内圧を上昇させ、胸・腹腔内の大静脈が圧迫されることにより静脈血の心還流量が減少し、動脈血としての心拍出量が減少し、それに伴う急激な血圧低下に反応して、心拍数の増加及び末梢血管抵抗が増大し、血圧が上昇する。

 

便秘の閉経後の女性は、6-9年間の追跡期間中、便秘の無い女性よりも心血管イベントリスクが23%高かった。(Am J Med. 2011;124:714-723.)

 

高齢者では、血圧の変化は、排便の直線から観察され(+15mmHg)、排便中上昇(+29mmHg)が持続し、排便一時間後(+11mmHg)も認められたが、若年者ではこれらの所見はみられなかった。

30mmHgの胸腔内圧において、収縮期血圧の変化は41.43±13.30mmHgであった。(Jpn J Nurs Art Sci.2011年;10:111-120)

などの報告がある。

特に大動脈弁狭窄症においては、測定の体血圧よりもより高値の圧負荷が心臓にかかっており、緊張した排便中に心拍出量を維持できず、胸痛、失神、心不全を引き起こす可能性がある。重度の大動脈弁狭窄(大動脈弁のピーク流速>5m/s、弁面積<0.5cm2)によるうっ血性心不全で入院した患者が治療で改善し、病棟内自由に歩行できる状態になったある朝排便後、顔面蒼白、チアノーゼ、発汗した状態でトイレに横たわっている状態で発見され、その際に撮影されたレントゲンが下図のBであり、排便の際の怒責により急性肺水腫になったと考えられた。

J Clin Hypertens 2019 21 421-425

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jch.13489

 

参: バルサルバ試験法の分類に基づいて、怒責中の最大値(Ⅰ相)、最小値(Ⅱ a 期)、怒責終了時(Ⅱ b 期)、怒責終了直後の最小値(Ⅲ相)、終了直後の最大値(Ⅳ相)、Ⅳ相に分けられる。

循環器、消化器疾患を有さない健康成人男性13人、女性10人に病院と紙パンツを着用してもらい、測定器具を装着した状態で仰臥位および剤の体位にて、10分間の安静の後、一回につき15秒間の怒責をかけた。怒責圧は研究者がそれぞれ10、20、30mmHgの順に孵化するように指示し、水銀圧計で示される怒責圧を見ながら被験者に調節してもらい、各科圧のあと二分間の無圧時間を設け、次に剤を取り10分間の安静のあと、同様の圧負荷をかけた。

怒責圧10.20.30mmHgの時の血圧・心拍数の推移は下図のように変化した。

それぞれの測定値を表にすると下表のようになる。

排便時における怒責圧が循環器系に及ぼす影響

Japanese Journal of Nursing Art and Science Vol. 10, No. 1, pp 111 ─ 120, 2011

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnas/10/1/10_111/_pdf

file:///C:/Users/jeffb/Downloads/AA11820056-36-24-kita%20(1).pdf

 

心停止の大部分は自宅で発生している。

4年間に心停止の治療を受けた907例のうち101(11%)がトイレで発症した。そのうち心停止の状況が目撃されたのは10例(10%)に過ぎず、低頻度であったが、回復率は41%であった。

ROSC:return of spontaneous circulation

トイレでの心停止の頻度は10-3月に多く、発生時間は6-12時の間が多かった。

Environ Health Prev Med. 2013 Mar; 18(2): 130–135.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3590314/

最大家庭収縮期血圧は、脳卒中の独立した危険因子である。

3.9年間にわたる16762人-年の観察で、72件の脳卒中を解析した結果では、139.7mmHgに比較して139.7-149.0mmHgでは3.70倍、149.0-158.0mmHgでは4.27倍、158-170.3mmHgでは5.83倍の危険度であったが170.3mmHg以上になると10.99倍の危険度になった。

Hypertension. 2021;78:840–850

https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/HYPERTENSIONAHA.121.17362

 

Systemic hemodynamic atherothrombotic syndrome (SHATS)全身血行動態アテローム血栓性症候群

高血圧は失血管疾患の重要な危険因子であるが、平均血圧だけに注目していても不十分であり、血圧変動性も重要な要素である。血行力学的ストレスおよび血管疾患の加齢関連および相乗的な悪循環に注目する必要がある。特に血管疾患合併例においては、変動血圧の管理を含めた厳格な降圧が必要である。

Prog Cardiovasc Dis 2020;63:22-32

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31810526/

 

血圧上昇変動と動脈硬化の進行との関係が心血管疾患(CVD)イベントリスクに与える影響を検討した研究がある。血圧変動の評価として、標準偏差OSD:standard deviation)、変動係数(CV:coefficient of variation)、及び平均日変動性(ARV:average real variability)を変動性の指標として評価し、上腕足首脈波速度(baPWV)によって動脈硬化を評価し、1800cm/sをき順に2群に分けた。SD、CV、ARVが高値であるほど、またbaPWVが高値群でCVD発生率が高いと言える結果となった。

The Journal of Clinical HypertensionVolume 23, Issue 8 p. 1529-1537

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jch.14327

60-80歳の中国高血圧患者8511人を、収縮期血圧を110-130 mmHg:intensive treatmentと130-150mmH:standard treatmentに分け、脳卒中、急性冠症候群、急性心不全、冠動脈血行再建術、心房細動、心血管死亡の発生頻度を見た。 平均収縮期血圧はintensive treatment群で127.5mmHgで、standard treatment群では135.3mmHgであった。平均3.34年の追跡中にstandard treatment群では196人(4.6%)にintensive treatment群では147人(3.5%)であり、ハザード比は、脳卒中で0.67、急性冠動脈症候群で0.67、急性心不全0.27、冠動脈血行再建術0.69、心房細動0.96、心血管死亡は0.72と有意に発生率が低かった。

N Engl J Med 2021 Sep 30;385(14):1268-1279.

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2111437

 

STEPおよびSPRINT試験、並びにBPLTTCメタアナリシスにおけるオフィス収縮期血圧の5mmHgの低下に関連する推定心血管シルク低下は、それぞれ、CVD:心血管疾患-18%、-11%、-10%、Stroke:脳卒中-23%、-4%、-13%、CAD:冠動脈疾患-23%、-11%、-8%、HF:心不全-58%、-15%、-13%の変化を見た。

Hypertens Res. 2022 Apr;45(4):555-572.

https://www.nature.com/articles/s41440-022-00874-8

 

2004年から2013年までのすべてのデンマークの病院と病院外来診療で、便秘患者83239人と便秘の無い832384人について心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患、静脈血栓塞栓症、心房細動および心不全のリスクを比較検討した。

便秘患者は、静脈血栓塞栓症で2.04、心筋梗塞1.24、虚血性脳卒中1.50、出血性脳卒中1.46、末梢性動脈疾患1.34、信号細動1.27、心不全1.52とHRが高値であった。

BMJ Open. 2020 Sep 1;10(9):e037080. doi: 10.1136/bmjopen-2020-037080.

https://bmjopen.bmj.com/content/bmjopen/10/9/e037080.full.pdf

 

世界的に心不全患者の入院後の1年生存率は、国によってばたつきがあるが20-40%の範囲であり、患者の55-95%が息切れを経験し、便秘は25-30%、口渇は35-74%に認めている。

心不全の治療に使われている、利尿剤やカルシウム拮抗薬、モルヒネが便秘を増悪させている。

ESC Heart FailureVolume 4, Issue 2 p. 81-87

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ehf2.12125

 

オピオイド誘発性便秘の初期治療に対して

非癌性のオピオイド使用者の41%に便秘はみられ、癌患者においては94%に患者において認められるとする研究もある。非癌性患者においてはアミティーザやchloride channel activatorの使用が薦められている。

Gastroenterology Volume 150, Issue 6, May 2016, Pages 1393-1407.e5

https://sci-hub.se/10.1053/j.gastro.2016.02.031

 

アミティーザを使用することにより自発排便レスポンダー率は1週間後から上昇した。

Am J Gastroenterol. 2015;110(5):725-732.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4424379/

 

早朝高血圧、中間高血圧、夜間高血圧などの患者において、血圧のサージが加わりCVイベントが起きている。

トリガーとしては環境因子や心的ストレス、喫煙、ランニングなどの運動などいろいろとあるが、いろいろなサージが重ならないように気をつけていくことが大切である。

そのためにはいろいろな状況下での血圧のモニタリングが重要となる。排便時に強くいきまないで済むように便秘の治療も重要であり、アミティーザやchloride channel activatorの使用が推奨される。

Hypertension  2020 Sep;76(3):640-650

https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/HYPERTENSIONAHA.120.14742

 

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