川村所長の勉強会参加記録
2022.06.05
心臓リハビリテ―ション 北島龍太先生
2022年6月3日
演題「心臓リハビリテ―ション」
演者: 横浜市立市民病院循環器内科副医長 北島 龍太 先生
場所: TKP横浜駅西口カンファレンスセンター
内容及び補足「
心臓リハビリテーションとは、心臓疾患患者が主体的に「身体機能の改善」、「快適な家庭生活や社会活動への復帰」、「心臓病の再発、再入院の予防」、「心臓突然死の予防」などをめざして行う治療プログラムのことである。
運動療法、生活指導、講義(病気や薬の知識)、個人面談などで構成されている。
運動療法としては、有酸素運動、レジスタンストレーニングがあり、エルゴメーターのほかに、自重スクワット、レッグスエクステ―ションなどを行っている。
心臓リハビリテーションの概念は、再発予防・長期予後改善、QOL向上、運動耐容能増加に加え、近年フレイル予防、抑うつ改善も重要と考えられるようになった。
心臓リハビリテーションで期待される効果として以下のものがある
運動能力、体力向上による自覚症状の軽減
筋肉量の増加
動脈硬化の進展予防
血糖値の改善(インスリン抵抗性の改善)
抑うつや不安の解消
自律神経機能の改善による不整脈の頻度低下
心筋梗塞の再発や心臓突然死の減少
心不全患者での再入院の減少
急性期は入院の1~2週間、回復期は、入院中の前期回復期、退院後外来での後期回復期で3~5週間、それ以降の維持期に分けられる。
心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン 2021年改訂版 p16
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Makita.pdf
急性期(第1相):ICU・CCUまたは病棟において監視下で実施される。目標は、食事・排泄・入浴などの身の回りの生活が安全に行われる様になること(ADLの自立)、二次予防教育を開始することである。6分間歩行試験を実施し、300m以上歩行可能であれば、離床プログラムから運動療法プログラムに移行する。
回復期(第2相):前期回復期心リハは、入院中に心リハ室において監視下で開始され、退院後は外来心リハ室での監視下運動療法に引き継がれる。低リスク例では、運動療法については在宅非監視下のみでも可能である。最終的には運動プログラムを自己管理できるよう指導する。回復期心リハは、運動療法、禁煙指導、食事療法、冠危険因子の適切な治療に加え、精神的評価、復職指導、心理サポートといった包括的な疾患管理プログラムが重要である。
維持期(第3相):維持期心リハは、社会復帰以降、生涯を通じて行われるべきもの。回復期心リハで獲得した運動能力、生活習慣の是正、冠危険因子の是正を維持すること自己の健康管理が主となるなど。年齢、職業、日常生活レベルなどの個人背景を考慮し、個々の生活レベルに合ったプログラムが自宅または民間運動療法施設などで行われる。地域医療機関や診療所に紹介した際には、病歴と現在の心機能、処方内容、運動プログラムを含めた診療情報提供書の作成と、定期的な評価と運動プログラムの見直しが可能なし菅無が必要である。
心臓リハビリテーションの対象となる疾患
急性心筋梗塞、急性冠症候群
安定狭心症、PCI後
急性・慢性心不全(慢性心不全:LVEF≤40%、peakVO2≤80%、BNP≥80pg/mL NT-proBNP≥400pg/mLのいずれかを満たす)
心臓手術後(冠動脈バイパス手術、弁膜症の手術など)
経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)後
不整脈、デバイス植め込み後
肺高血圧症
大血管疾患(大動脈解離、大動脈瘤、大血管手術後)
末梢動脈閉塞性疾患(閉塞性動脈硬化症)
虚血性心疾患の治療としては、心臓手術、カテーテル治療、薬物治療に心臓リハビリテーションを加えることによって、再入院、死亡率の減少や自覚症状の改善などが期待される。
日本全国の入院患者データーベースを用い430216の急性心不全患者を調査し、入院後2日以内に心臓リハビリテーションを開始した群63470人と、それ以降に開始した群において院内死亡率の低下オッズ比0.76、入院期間の短縮、心不全による30日間の再入院の発生率低下に有意な差を認めた。
Int J Cardiol 2021:340; 36-41
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0167527321013073
平均年齢59歳の2331例の安定した外来慢性心不全患者において、中央値30か月の追跡期間において、運動トレーニング行った結果、全死亡率については有意な減少は認めなかった(HR:0.91 P=0.09)が、心血管死亡または心血管入院は有意に減少した(HR:0.85P=0.03)
JAMA. 2009 Apr 8;301(14):1439-50
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19351941/
6ヶ月の経過観察期間において生活習慣・食習慣改善が冠動脈疾患の死亡率に与える影響を検討した。
禁煙で35%、運動で25%、複合的に行うことで45%の低下した。
この効果は、アスピリンで18%、スタチンで21%、βブロッカーで23%、ACE阻害薬で26%の低下を認める影響力とほぼ同等と言える。
Circulation. 2005 Aug 9;112(6):924-34.
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.104.503995
急性心筋梗塞・急性冠症候群患者の入院期間は、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)により短縮されたが、AMI院内死亡率は、約8%と依然として高く、生存例の約20%が1年以内に心血管イベントが発生し、腫瘍冠動脈イベントがMI既往例の約50%に発生している。急性期、前期回復期、後期回復期、維持期とシームレスに心リハを継続することで予後改善が期待できる。ガイドラインにおいてもクラス1として推奨されている。
安定狭心症の心リハの効果は、AMI後と比較して生命予後の改善という点ではエビデンスに乏しいが、運動耐容能・QOLの改善効果、心血管入院抑制効果は期待でき、また包括的なリスク管理に寄与するため、AMI後と同様に全患者に行うことが推奨されている。
慢性心不全:運動療法を含む包括的心リハは、慢性心不全患者の運動耐容能やQOLの向上だけでなく、左室の逆リモデリング、自律神経機能異常や血管内皮機能、心不全と全ての原因による再入院率の低下をもたらすため、心不全の重要な治療の一つに位置付けられている。
横浜市では、以下の7病院を「心臓リハビリテーション強化指定病院」に指定し、心臓病の患者が地域、在宅まで切れ目なく心臓リハビリテーションが受けられる地域連携体制の構築に取り組んでいる。
昭和大学 藤が丘リハビリテーション病院、聖マリアンナ医科大学 横浜市西部病院
横浜市立大学附属病院、横浜労災病院、横浜栄共済病院、済生会横浜市東部病院、横浜市立市民病院
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kenko-iryo/iryo/gan/cr/rehabilitation.html
医療従事者に向けた心臓リハビリテーションに関する啓発リーフレットも作成配布している。
運動施設も、区スポーツセンターやセントラルスポーツ、カーブスと連携協定を締結した。
運動施設スタッフに向けての心臓リハビリテーションの3テーマ概論、有酸素運動について、レジスタンストレーニングについての動画も作成したので一見してほしい。
①心臓リハビリテーション概論
②心臓リハビリテーション~有酸素運動について~
③心臓リハビリテーション~レジスタンストレーニング~
参:心臓リハビリテーションについて
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kenko-iryo/iryo/gan/cr/rehabilitation.html
参考文献:2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン
JCS/JACR 2021 Guideline on Rehabilitation in Patients with Cardiovascular Disease
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Makita.pdf