循環器系

2022.06.08

慢性心不全の新たな地域連携についての提案 根岸耕二先生

2022年6月3日 

演題「慢性心不全の新たな地域連携についての提案」

演者: 横浜市立市民病院 循環器内科部長 根岸耕二 先生

場所: TKP横浜駅西口カンファレンスセンター

内容及び補足「

自分は1984年に医師になった。この頃の心不全の治療薬は、サイアザイド系利尿薬またはループ治療薬とジキタリス製剤しかなかったし、治療効果は限定的なものであった。

参:心不全治療薬の変遷

Therapeutic Research 2021;42:157-162

http://therres.jp/3topics/images/pdf/202105_2_drKuwabara.pdf

 

1986年に静脈拡張作用のある二硝酸イソソルビドと動脈拡張作用のあるヒドララジンを組み合わせて治療することにより生命予後が改善されることが示された。(V–HEFT I:Vasodilator–Heart Failure Trial I)

N Engl J Med 1986;314:1547– 52

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM198606123142404

 

その一年後に、ACEIのエラナプリル2.5~40㎎投与例127例とプラセボ群126例でNYHA Class 4の重度のうっ血性心不全患者に平均188日の観察期間においてエナラプリル群で26%、プラセボ群で44%の粗死亡率であり、40%(P=0.002)の減少効果を認めた。

N Engl J Med 1987;316:1429– 35(CONSENSUS:Cooperative North Scandinavian Enalapril Survival Study)

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM198706043162301

 

ジゴキシンおよび利尿薬治療を受けている804人の慢性うっ血性心不全患者に対してエラナプリル20㎎とヒドララジン300㎎+硝酸イソソルビド160㎎の2群における2年後の死亡率は、エナラプリル群18%に対してヒドララジン-イソソルビド群は25%である有意に死亡率の低下を認めた(P=0.016)。

N Engl J Med 1991;325:303-10(V–HEFT II:Vasodilator –Heart Failure Trial II)

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM199108013250502

 

大学の循環器に戻った時には経口強心薬が盛んに投与されていたが、その中でピモベンダンのみが現在も使用されている。

逆に、1996年に心不全に禁忌薬剤であったβブロッカーの少量投与で心不全の予後が改善することが示された。

EF≦0.35の慢性心不全患者1094例に対して、プラセボ398例、カルベジロール696例の6か月間の心血管系の死亡率は、プラセボ群で7.8%、カルベジロール群で3.2%と65%のリスク減少がみられ、入院については、プラセボ群19.6%に対してカルベジロール群14.1%と27%の減少が確認された。

N Engl J Med 1996;334:1349– 55

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM199605233342101

 

1999年にスピロノラクトンが慢性心不全患者の予後を改善することが分かり、MRA(mineralocorticoid receptor antagonist)がアルドステロンのNa貯留左葉、心肥大・線維化などのリモデリング作用を阻害し、心保護効果が示された。

 

参:24か月の平均追跡期間の中間分析でスピロノラクトンが憂苦尾であると判断され、試験が早期に中止された。プラセボ群841例、スピロノラクトン群822例のうちプラセボ群386例(46%)、スピロノラクトン群284例(35%)が死亡し、30%の低下効果が確認された。

N Engl J Med 1999;341:709–17

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM199909023411001

 

ACEIは副作用が多く、副作用の少なく作用機序が類似しているARBが使われるようになり、心不全治療についても種々の臨床研究がなされたが、有意性は示されなかったが、非劣性及び忍容性の点で優れいていることが示された。

Lancet 2000;  355:1582– 7(Evaluation of Losartan in the Elderly Study II)

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(00)02213-3/fulltext

現在日米欧のそれぞれの心不全ガイドラインにおいて、ARBはACEIに忍容性の無いHFrEFに投与することが推奨されている。

SGLT2阻害薬は糖尿病の治療薬として開発されたが、DAPA-HF試験などで心不全に対して有効であることが示された。

EF≦40%、NT-proBNP≧600pg/dLまたは過去12か月以内に心不全により入院した場合は≧400pg/dL、eGFR≧30mL/min/1.73m2の心不全患者4744例の検討である。

プラセボ群に比較してフォシーガ10㎎投与群は「心血管死、心不全による入院・緊急受診」の発現リスクを26%有意に低下させた。

 

心血管死の発現期間、心不全イベントの初回発現までの期間も有意に低下させた。

N Engl J Med. 2019 Nov 21;381(21):1995-2008

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1911303

4744例中日本人集団343例の検討でも主要複合エンドポイントに対する有効性が示された。

 

1996-2000年に血清クレアチニン値の測定をした血液透析や腎移植を受けていない成人1120295人を対象に、eGFRを長期的に推定し、死亡、心血管イベント、入院リスクを検討した。平均年齢52歳(55%女性)で、追跡期間中央値は2.84年の臨床研究の結果は、補正後、eGFRが60mL/min/17.3m2未満になると死亡リスクが増加した。

N Engl J Med 2004; 351 : 1296 – 305

https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa041031

ということは、SGLT2阻害薬はeGFRが60あたりから使用するのが良いと言える。

eGFRが25-75mL/min/1.73m2で尿中アルブミン/クレアチニン比が200-5000の患者4304例をフォシーガ10㎎とプラセボ群に分け、eGFRの50%以上の低下の持続、末期腎不全(ESKD)、腎臓または心血管系死亡を主要転機とした検討では、追跡中央値2.4年間にフォシーガ群で2152例中197例(9.2%)に対しプラセボ群では2152例中312例(14.5%)に主要転帰のイベントが起こり、フォシーガ10㎎の投与の有効性が示された。

またeGFRの3年間の推移において投与最初にフォシ-ガ群でイニシヤルディップは認められるが、1年後には同じ数値となり、その後は有意にeGFRの低下が抑制することも示された。

N Engl J Med. 2020 Oct 8;383(15):1436-1446

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2024816

参:SGLT2阻害薬は糖尿病の治療薬として開発されたが、下の表10に示すような薬理学的作用があり、心不全に対する効果が数多く確認され、欧米のガイドラインのみでなく、日本の心不全治療ガイドラインにも積極的使用が推奨されるようになってきた。

2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療 p17-18

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf

 

アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬ANRI:Angiotensin receptor-neprilysin inhibitor

ARBであるバルサルタンとネプリライシン阻害薬(sacubitril)の合成薬であるANRIはアンジオテンシン2受容体阻害作用と同時にBNPなどの内因性ナトリウム利尿ペプチドの群下位にかかわるネプリライシンを阻害し、内因性ナトリウム利尿ペプチドなどの分解を抑制することにより血中濃度を上昇させ、血管収縮やナトリウム貯留などをもたらす神経ホルモンの過剰な活性を妨げる作用を示す。

NYHA2度以上、BNP≧150pg/ml、EF≦40%の収縮性心不全患者8442例に対し、ANRI(LCZ696) 200㎎1日2回投与群とエナラプリル20㎎1日2回投与群に分けられて比較された。ANRI群21.8%に対しエナラプリル群26.5%に心血管死+心不全による入院が認められ、20%のリスク減少効果が認められた。

 

NEJM 2014;371:993-1004(PARADIGM-HF 試験)

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1409077

 

洞結節細胞のIfチャネルを阻害するイバプラジンは、心収縮能に影響を与えず純粋に心拍数を低下させ、HFrEF患者の治療に有効であることがSHIFT試験で示された。

Lancet. 2010 Sep 11;376(9744):875-85

https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0140673610611981

 

これら薬剤療法に加え、経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)や循環補助用心内留置型ポンプカテーテル(Impella)も使用可能となった。

また心不全療養指導士による疾患管理プログラムが作成され、心不全リハビリテーションも行われるようになってきた。

 

HFrEFの治療薬は、ACEIまたはARB、βブロッカー、MRAが基本的な治療薬であったが、βブロッカー、MRA、ANRI、SGLT2阻害薬の4種類に変わりつつあり、「Fantastic 4」と呼ばれている。

European Heart Journal, 2021; 42(6):681-683

https://europepmc.org/article/PMC/PMC7878007

 

日本においてはベルイシグアトが使用できるので「Fantastic Five」と言ってもよいかも。

ベルイシグアト(ベリキューボ)は可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC))刺激薬であり、心不全の状態でNOの利用障害によるsGCを刺激されず、血管収縮や心機能低下が引き起こされている状態を改善する薬剤である。

 

参:EF<45%の慢性心不全患者プラセボ2524例とベリシグアト投与群2526例で、プライマリアウトカムはベリシグアト群で897例(35.5%)、プラセボ群で972例(38.5%)、心不全入院は、ベリシグアト群で691例(27.4%)、プラセボ群で747例(29.6%)、心血管死は、ベリシグアト群で414例(16.4%)、プラセボ群で441例(17.5%)であった。

N Engl J Med 2020; 382:1883-1893(VICTORIA試験)

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1915928

 

当院においては、患者の管理においてハートノートを作成し、心不全患者の自己管理を促している。水分摂取量の推奨のみでなく、予定外来受診の体重を設定し、体重が増加してきた際には利尿剤の追加投与、低下した場合には、利尿剤の内服スキップを指示している。

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