川村所長の勉強会参加記録

2023.07.03

糖尿病治療を腎症抑制の観点から考える 岡田浩一教授

2023年7月2日 

演題「糖尿病治療を腎症抑制の観点から考える」

演者: 埼玉医科大学腎臓内科教授 岡田 浩一先生

場所: ザ・プリンスパークタワー東京

内容及び補足「

我が国における新規度透析導入患者数を男女別、年齢別にみてみると、女性においては、ここ数年各年代において減少している。男性においては40~59、60~74歳においては減少しているが、75歳以上の高齢者においては増加している。

この高齢男性の増加の原因として、個体の寿命の延長に腎臓寿命の延長が追い付いていないと考えられる。

(岡田先生が示していただいた図が探せなくて、2005~2015年の慢性透析患者年齢分布図を参考に添付します。)

参:

日内会誌109:1698-1707,2020

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/9/109_1698/_pdf/-char/ja

2021年の新規透析導入の原因疾患としては、糖尿病性腎症が40.2%と最も多いが、ここ数年患者数が減少し続けており、Peak-outしてきているようにも見える。一方高血圧による腎機能障害を期待していると考えられる腎硬化症は増加の一途をたどっている。

透析会誌 55(12):665-723.2022

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt/55/12/55_665/_pdf/-char/ja

 

日本腎臓学会学術委員会の下部組織であるCKD診療ガイドライン改訂委員会では、「CKD診療ガイドライン2018」を基に2023年版への改定作業を行っている。近々公表する予定である。第4章で糖尿病性腎臓病について記載している。

https://jsn.or.jp/medic/newstopics/formember/ckd2023.php#:~:text=%E3%80%8ECKD%E8%A8%BA%E7%99%82%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B32023%E3%80%8F%EF%BC%88%E6%A1%88%EF%BC%89%20%E7%AC%AC1%E7%AB%A0%E3%80%80CKD%E8%A8%BA%E6%96%AD%E3%81%A8%E3%81%9D%E3%81%AE%E8%87%A8%E5%BA%8A%E7%9A%84%E6%84%8F%E7%BE%A9,%E7%AC%AC2%E7%AB%A0%E3%80%80%E9%AB%98%E8%A1%80%E5%9C%A7%E3%83%BBCVD%EF%BC%88%E5%BF%83%E4%B8%8D%E5%85%A8%EF%BC%89%20%E7%AC%AC3%E7%AB%A0%E3%80%80%E9%AB%98%E8%A1%80%E5%9C%A7%E6%80%A7%E8%85%8E%E7%A1%AC%E5%8C%96%E7%97%87%E3%83%BB%E8%85%8E%E5%8B%95%E8%84%88%E7%8B%AD%E7%AA%84%E7%97%87

我が国の糖尿病腎症病期分類は、1型糖尿病を対象としたMogensenの分類を参考に、2型糖尿病を含めた糖尿病を対象に策定され、アルブミン尿が増加して、その後eGFRの低下が観察される典型的な経過である糖尿病性腎症Diabetic nephropathyに基づいて策定されており、治療が不十分である場合や、未治療、治療中断がある場合にこのような経過をたどる。しかし、eGFRの低下があるがアルブミン尿が増加していない症例が増加し、これまでの病気分類に当てはまらない症例が増加してきた。2013年12月糖尿病成人症合同委員会において、そのような非典型的な症例も分類できるように糖尿病腎症病期分類が改定された。

なお、ADAガイドラインではDKDを、KDIGOのガイドラインでは、Diabetes and CKD(糖尿病合併慢性腎臓病)の用語が用いられており、近年我が国においてもDKDという用語が使用される頻度が増加して生きた。

DKD(糖尿病性腎臓病)は典型的な糖尿病性腎症に加え、顕性アルブミン尿を伴わないままGFRが低下する非典型的な糖尿病関連腎疾患を含む概念とし、さらに糖尿病合併CKDは、糖尿病と直接関連しない腎疾患(IgA腎症、PKDなど)患者が糖尿病を合併した場合を含む概念とした。

エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018

 

平均58.2歳の260人の糖尿病患者で、平均8.1年の追跡期間において、腎イベントは118例、心血管イベントは62例、死亡は45例であった。

腎イベントや心血管イベント、死亡のHRはアルブミン尿の程度とeGFRで層別化されたサブグループで計算された。eGFR 60以上の群の顕性アルブミン尿の患者は8.99、eGFR60未満では20.82と著明に増加していた。しかし、アルブミン尿がない症例でもFlatな変化ではなく、低下していた。

青:正常アルブミン尿、緑:微量アルブミン尿、赤:顕性アルブミン尿

A,C:eGFR ≥60 mL/min/1.73 m2 group B,D:eGFR <60 mL/min/1.73 m2

Diabetes Care 2013;36(11):3655–3662

https://diabetesjournals.org/care/article/36/11/3655/38128/Long-Term-Outcomes-of-Japanese-Type-2-Diabetic

526例の2型糖尿病患者で腎生検を行った88例の蛋白尿がない患者と438例の蛋白尿患者を追跡した。蛋白尿を認めない症例においては血圧のコントロールが良く、典型的な形態学的変化が少なく、CKDの進行や死亡のリスクが低かった。

Diabetes Care 2019;42(5):891–902

https://diabetesjournals.org/care/article/42/5/891/40479/Nonproteinuric-Versus-Proteinuric-Phenotypes-in

 

基礎疾患別にCKDのeGFRの低下を見たREACH-J研究では、PKD患者の進行が早かった。DKDではCKDG5のほうがCKDG4よりも進行が有意に早かった。NSc:Nephrosclerosis腎硬化症は進行が緩やかであり、今まで臨床的に注目もされず、治療薬の開発も行われてこなかった。

尿中のアルブミン・クレアチニン比で見た場合、DKDもNScもeGFRの低下はそれほど差がないように見えるので無視できない。

Clinical and Experimental Nephrology volume 25, pages902–910 (2021)

https://link.springer.com/article/10.1007/s10157-021-02059-y

現実的に考えると、腎硬化症の予備群は膨大な患者数であり、しかも長期に管理していく必要があり、Cost-Benefitに配慮した治療戦略が必要となる。

尿中アルブミンの測定が重要である

今までのCKDの重症度分類は、蛋白尿・アルブミン尿とeGFRの値により、下記表のように分類していた。

2023年度版では、G3までとG4以降で区分を付ける下記表のような案を考えている。

この表の中でアルブミン尿やタンパク尿が悪化した後にeGFRが急激に低下するルートが大事である。当然、アルブミン尿・タンパク尿が悪化せず、eGFRが低下するルートもある。

 

2型糖尿病患者の糖尿病性腎疾患発症・進行に対して多因子介入の効果をみたJ-DOIT3研究において、従来の治療目標(HbA1c 6.9%未満、血圧130/80mmHg以下LDL 120mg/dL)と多因子介入により就学的治療を行った軍の目標(HbA1c 6.2%未満、血圧120/75mmHg以下LDL 80mg/dL)を比較した。

合計438の腎イベントが起こった。従来療法群では257、強化療法群では181で、細小血管障害とクレアチニン倍増の両者で有意な差を認めた。

eGFRの低下は全症例で見れば両治療群で低下していたが、eGFR<60ml/min per 1.73m2

で見てみると強化療法群では、ほぼ横ばいであった。

a:全症例 b:eGFR<60ml/min per 1.73m2

Lancet Diabetes Endocrinol. 2017 Dec;5(12):951-964.

https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(17)30327-3/fulltext

Kidney International, 99, 2021, 256-266

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0085253820309741

 

就学的ケアの開始前及び6、12、24ヶ月後eGFRの変化は有意に改善している。

糖尿病症例でも非糖尿病症例でもその効果はみられている。

G3、G4、G5でもeGFR低下抑制効果はしっかりとみられ、G5より効果的であるように見える。

多職種の参加によりその効果は強くなるが、特に栄養士DieticiansとPT:Physical Therapistsの参加が有効であった。

Clinical and Experimental Nephrology volume 27, pages528–541 2023

https://link.springer.com/article/10.1007/s10157-023-02338-w

 

SGLT2阻害薬による治療で腎機能の悪化が阻止できることがEMPA-REG OUTCOME試験で示された。HRが0.61であり39%のリスク低減ができたことになる。

腎機能悪化も、アルブミン尿もクレアチンの倍加期間も、透析などの腎代償治療も抑制できている。

SGLT2阻害薬投与において早期にeGFRが低下することinitial dipが知られている。

N Engl J Med 2016;375:323-34

https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1515920

 

これは、アルブミン尿がない症例でも、微量アルブミン尿、県政アルブミン尿の症例でも同様にみられ、治療効果はアルブミン尿がひどいほどより強く見られた。

Lancet Diabetes &Endocrinology 2017 5 610-621

https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(17)30182-1/fulltext

臨床医として一番気になるのが有害事象であり、急性腎症が嫌体重減少も血栓症の頻度プラセボと有意な差を認めなかった。

N Engl J Med 2016;375:323-34

https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1515920

 

CKD患者でのDapagliflozinの投与は糖尿病の有無にかかわらず、少なくとも50%のeGFRの低下、末期腎疾患、腎・心関連死を抑制することが示された。

NEJM 2020; 383:1436-1446

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2024816

これらの試験はeGFRの低下の改善をOutcomeにしていないと判断できないので、蛋白尿のないDKDの症例の評価は困難である。 

 

CKD進行のサロゲートエンドポイントとしてGFRスロープが使用可能かどうかを47RCT試験、計60620症例のメタアナリシスを行った。

3年時のGFR slopeに及ぼす治療効果はChronic slopeを予測できることが示された。

JASN 30(9):p 1735-1745, September 2019

https://journals.lww.com/jasn/Fulltext/2019/09000/GFR_Slope_as_a_Surrogate_End_Point_for_Kidney.18.aspx

 

日本慢性腎臓病データベース(J-CKD-DB)を用いて、SGLT2阻害薬開始スコアを開発し、他の血統低下薬を開始した患者と1:1でマッチングし、主アウトカムをeGFR低下率、副次アウトカムを50%eGFR低下または末期腎疾患の複合アウトカムとした。SGLT-2阻害薬群1033例、その他の抗糖尿病薬群1033例で、18か月後には群間差は年間0.75mL/min/1.73m2と有意な差を認めた(P<0.001)。

タンパク尿の有無や急激なeGFRの低下の有無、eGFRの高低、高齢者かどうか、ACEIやARBsの併用の有無にかかわらず、SGLT2投与群のほうがeGFRの低下が抑制されていた。

Diabetes Care 2021;44(11):2542–2551

https://diabetesjournals.org/care/article/44/11/2542/138505/Kidney-Outcomes-Associated-With-SGLT2-Inhibitors

腎臓寿命の延長にSGLT2阻害薬は新たな治療戦略と言える。

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