その他
2021.05.16
めまい診療の手札を増やす 新井基洋先生
2021年5月11日
演題「めまい治療の手札を増やす! ~前庭リハビリと治療薬の選択~」
演者:横浜みなと赤十字病院 耳鼻咽喉科 めまい平衡神経科部長 新井 基洋 先生
場所: 横浜市中区医療センター
内容及び補足「
2009年めまい平衡医学国際学会であるBarany Societyがめまい平衡障害に関する症候の新分類を提唱した。
Vertigo:自己運動感のあるめまい
Spinning Vertigo
Non-spinning Vertigo
Dizziness:自己回転感の不明確な空間識の障害
浮動感、浮遊感
Unsteadiness:身体の不安定感
めまいの治療薬は45年前より新薬が無く、治療のトピックはリハビリである。
Drug Therapy
- 抗めまい薬
メリスロン:めまい時の過剰ヒスタミンのVNへの影響を打ち消す
トラベルミン:抗ヒスタミン 呕気・呕吐に効く 眠気
アデホス:アデノシンとなりプリン受容体を介し血管拡張作用がある
セファドール:呕気・呕吐の中枢抑制
各種漢方製剤:半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)など
- 循環改善薬
アデホス
カルナクリン
- 抗不安薬、抗うつ剤:前庭系システム、眼振抑制する、抗うつ薬
メイラックス、セディール、SSRI、SNRI、NASSA
リハビリ
今回6種類のめまいについてお話しする。
一側性前庭障害
加齢性平衡障害
BBPV
メニエール病
前庭性片頭痛
PPPD持続性知覚性姿勢誘発めまい
上3種類のめまいはリハビリが著効するので、治療に取り入れる必要がある。
下3種類のめまいはストレスの関与が強く、ストレスの対応も必要となる。
めまいの治療はリハビリが重要である。
『ご唱和ください。めまいは寝て手は治らない』月曜日の午後3時、みなと赤十字病院の耳鼻咽喉科外来において下図のようにリハビリを行なっている。
「では次に、座ったまま行う7つの基本動作を覚えます。私に続いて復唱してください。速い横、速い縦、ゆっくり横、ゆっくり縦、振り返る、上下、はてな!」
「速い横、速い縦、ゆっくり横、ゆっくり縦、振り返る、上下、はてな!」
コロナ下になったので現在は、この写真よりはスペースを取って行っている。
薬物治療が奏功しない難治性のめまい患者を対象に、4泊5日の入院治療も行っている。
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/report/t128/201102/518560.html
めまいやふらつきは、日常でよく見る症状で、その大半は内耳障害による。
2005年4月から2007年3月にかけてめまいを主訴に、横浜市立みなと赤十字病院の救急害を受診した884例の患者のうち全体の約7割が末梢性めまいで、6%が中枢性めまいで、残りの25%が循環器や精神疾患によるめまいだった。
N=283例のめまい患者統計での病名は以下の頻度であった。
めまいのリハビリは現在以下の三点を中心に行われている。
- 前庭系リハビリ
- 平衡訓練
- めまいの運動療法
2009年5月から8月にかけて薬物療法で改善しなかっためまい患者181例に対し、原則5日間の入院でリハビリを指導し4週間継続させた結果、めまい症状の指標であるDHIスコアの平均値はリハビリ開始時点から有意に低下した。
Equilibrium Res.2010;69:225-35
めまいのリハビリテ―ションで平衡障害が改善すると、自律神経、さらに睡眠障害、不安障害の改善と自信回復から社会復帰につながる。
動体視力の改善:前庭運動時めまい軽減と頚性眼反射介入の増進
耳石機能改善:体性感覚や自律神経機能改善
一側性前庭障害代償不全
回転性めまい発作が主であるが、突発性で一過性の眼前暗黒感や歩行や規律の際に特に頭重感を持ったりバランスが悪くなったりする。
蝸牛症状は全く伴わない。
責任病巣は、半規管、耳石器から前庭神経系に至る基質疾患。
30~50歳代の患者に多く、性差はない。
何らかの発熱疾患、または耳鼻咽喉科領域の感染症のエピソードがある。
急性発症で持続性の回転性めまい。
非患耳側へ向かう水平回旋混合性自発眼振、起立時不安定性(閉眼時に患耳側への転倒)。嘔気・呕吐がみられる。
Head thrust試験で患耳側に回旋させたときの眼球運動が遅くなる。
カロリックテストにて反応低下(重度または中等度)が異常所見として必ずある。
前庭神経以外の神経疾患は認めない。
ガルバニックテスト(直流電気刺激検査)で反応が低下し、Scarpaの神経節(前庭神経節)よりも中枢側の病巣を示す。
良性疾患で、感染病巣の治療によく反応して治る。
リハビリは馴化・前庭代償促進が目標でGaze Stabilizationが中心となる。
手を前に出し親指を立てたまま固定して、頭を30°ずつ左右に振りながら目は親指を見続ける。20回、数を数えながら、親指から目線を外さないようにして頭を左右に振る。このリハビリでクラッとくるということは、めまいを直すのにこの方法が有効である可能性が高い。1Hz(1秒間に1回首を動かす)程度の速い動きの方がより有効である。くらっと来る事もあるので座ってやること。首が悪い人や高齢者の場合にはゆっくり行い、過剰にやりすぎないこと。
眼が離れたほうの三半規管が悪い。下図では左の三半規管が悪い。
参:グルグル回転を頻回に行うフィギアスケート選手は、生まれつき回転しても目が回らないのではなく、訓練により開店した後の目の揺れを急に止めることが可能なシステムを獲得することにより目が回らなくなる。
『バラニーの回転椅子』を用いた、頭部・体幹を前屈した姿勢で目を開けたまま椅子に座り、椅子を回転させてから停止させた後の目の揺れを見る検査で、回転の停止後は、半規管の慣性による内リンパ流動により、回転後眼振という回転中と逆向きの目の揺れが出現する。繰り返しこの検査をすると、小脳片葉を介する前庭神経核抑制が起こることにより止めた後の目の揺れが出にくくなるRDレスポンス・ディクライン現象が出現する。
めまいのリハビリは、上記の機序をうまく使い、バランスの左右差を改善していく方法である。
加齢性平衡障害とフレイル
定義は60歳以上で3ヶ月以上持続するめまいで、めまいの性質は慢性浮動感であり、前庭機能の両側軽度低下を認める。さらに、姿勢のアンバランスを認め、繰り返す転倒と歩行障害を有する。そのため、外出困難となり、自宅安静が続き、サルコペニアを合併する。このため、従来のめまいのリハビリに加えて、筋肉増強と転倒予防を包括したリハビリが必要となる。
前庭機能障害のリハビリとしては、視刺激と深部感覚刺激による便低機能補充および代用を考えたリハビリが必要で、急速眼球運動Saccadeを用いた『早い横』と緩徐眼球運動Smooth-pursuitを用いた『ゆっくり横』を行う。これは動体視力の改善にもつながるリハである。
『早い横』:肩幅より広く両手を広げ親指を立てる。頭を動かさず、20回目だけを動かして左右の親指の爪を交互に視る。
『ゆっくり横』:利き手を眼前正面に伸ばし、親指を立て、その爪を見ながら、左右30°の振幅角度で、手を10往復する。頭が動かないように反対の手で顎を抑えておくとよい。
馴れてきたら手の動きを速めて1秒に1回動かすようにする。
加齢性めまいは、筋力低下による立位での前後左右方向でのふらつきが継続することが多いので、抗重力筋を鍛える『つま先立ちリハ』を行う。開始当初は、1秒に1回背伸びをする要領で行い、1セット10回を毎日行う。慣れたら1日2セット、朝夕2回行うようにする。
また、『片足立ち』を継続して行うと階段昇降時の脚のふみはずしが減り、立っている状態で靴下をはくことができるようになる。1回の片足あげ時間を15秒、回数は左右3回ずつ行う。慣れたか片足30秒揚げるように頑張る。不得手な側がわかるので、不得手な側を多く行うようにする。
日耳鼻123:307-314、2020
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/123/5/123_307/_pdf
BBPV:良性頭位変換性めまい
一番多い疾患。耳石(大きさ約0.01nm)がはがれて症状は出現するが、100粒ほど落ちて塊にならないと症状は出ない。
40歳以降の中高年に見られ(50-60歳台最多:男性:女性=1:3)、発作時の耳鳴りや進行性の難聴といった蝸牛症状は伴わない。
頭位・体位の変換(起居動作、寝返り、後方や上方を見る動作の後の特定の頭位)長くても1分以内(多くは数秒)の回転性のめまいが出現する。後半規管型では、起床・就寝時、上方視時に多く、水平半規管型では寝返り時に多い。
頭位変換とめまいの出現の間に1~数秒程の潜時がある(見られないときもある)。同じ動作を繰り返すと次第に強度が減弱する(疲労現象)。
自発眼振や注視眼振は確認できないことが多く、Frenzel眼鏡を用いての頭位試験、頭位変換試験で、方向交代制で回旋性の一過性眼振が認められる。
多くは2~3週間以内におさまる。平均すると水平半規管型で7日、後半規管型で17日。
耳石は角砂糖のようなもので、水の中に入れておくと自然に溶ける。後述するリハビリをやって耳石の位置をより良い位置にずらさなくても、こまめに動いていれば、角砂糖を入れた水をかき回すことになり、早く溶けてよくなる。
発生率は10万人当たり10.7~64例、生涯罹患率24%、年間再発率15%
2014~2015年度と2016~2017年度の診断基準化委員会で検討し『めまいの診断基準化のための資料 診断基準 2017年改訂』(Equilibrium Res Vol.76 233-241, 2017)で頭位変換性めまいは以下の4つに分類されることになった。
- 後半規管結石症
- 外側半規管型結石症
- 外側半規管クプラ結石症
- すでに自然寛解したprobable BPPV
参:BPPVは耳石器から剥離した耳石が半規管内に迷入することにより生じ、その病態には半規管結石症とクプラ結石症の二種類がある。迷入した耳石が頭位変換時に動くことにより、半規管内に内リンパ流動が生じ、その結果クプラが偏倚し、めまい、および眼振が生ずる病態が半規管結石症であり、迷入した耳石がクプラに接着することによりクプラの比重が増し、めまい頭位を取ると重力方向にクプラが偏倚し、めまい、および眼振が生ずる病態がクプラ結石症である。
日本めまい平衡医学会とBarany学会のBPPVの新診断基準にて、後半規管内に耳石が迷入した後半規管型半規管結石症、外側半規管に耳石が迷入した外側半規管型半規管結石症、外側半規管のクプラに耳石が接着した外側半規管型クプラ結石症の三つのタイプがBPPVであるとされ、自然寛解されたと考えられるものは、probable BPPVと診断されることになった。
BPPVの頻度は約半数が後半規管型半規管結石症であり、残りの二つが20-24%程度である。
参:診断基準
両性頭位変換性めまいの原因である耳石器の構造は、親指は小指をくっつけた際の残り三本の指が三半規管とみなせる。人差し指が前半規管で、中指が外側半規管、薬指が後半規管に該当する。
前半規管に石が入り込んでも、自然と前半規管からは落ちてくるので稀である。半分以上が後半規管の耳石症である。
後半規管型半規管結石症のエプレ法の効果は1時間後で67.6%、24時間時点では79.6%、と良好である。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/lary.28005
別の検討では、一回のエプレ法の成功率は80%、四回繰り返し行うと92%改善したとの報告もある。
自分自身で行うエプレ法:後半規管型:寝起き型
夜床に就くときや、枕に頭をつけるときに『グルグル・フワーン』とめまいがする場合に行う。
首や腰が悪い人や骨粗鬆症が酷い人は避ける。
間隔をあけて1日3回:特に朝起きる時と夜寝る前に行うとよい。
- ベッドに座る。悪い方向を向く。
- そのまま寝る。30数える。
- ゆっくりと反対を向く。30数える。
- 寝返りをうつ。顔と鼻を下に向ける。30数える。
- 起きあがる。
- 下を向く。100数える。
寝返りをうつ時にグラッとする。外側半規管型:寝返り型
首や腰が悪い人や骨粗鬆症が酷い人は避ける。
間隔をあけて1日3回:特に朝起きる時と夜寝る前に行うとよい。
基本の姿勢から始めて3/4回転。1回転はしない。
悪い耳が分からない場合には18番(下図)の寝返りを行う。
メニエール病
20分~2-3時間続く回転性めまい発作が一側性の耳鳴り・難聴、自閉塞感を伴って生じる。初期には難聴は変動・改善するが次第に聴力を喪う。
診断基準は以下のようになっている。
メニエール病の場合には、前庭機能が変動する疾患である。聴力変動期にめまいリハビリを開始すると、不安定な前庭が刺激され、めまい症状が悪化、遷延することがしばしばある。ストレスが強く関与しており、耳のストレス病と自分は言っている。
発症の6か月前からのメンタル面の情報をしっかり聴取する。
生活指導が重要で、規則正しい生活、睡眠と休養をしっかり取り、有酸素運動を行い、禁煙し、アルコールもできるだけ控える。充分な水分摂取も重要である。
中耳加圧療法:EFET(エフェット01)
2018年9月から難治性メニエール病、遅発性内リンパ水腫に対して中耳加圧装置による治療が保険適応となった。耳の中に機械で圧をかける器具で、在宅や職場で毎日3分間2階、耳の中にあてる治療法である。
国内臨床治験では、1年以内の治療で80%の臨床的寛解率であり、4か月の継続使用で9割の症例で眩暈に有効であった。
日本めまい平衡医学会の中耳加圧装置適正使用指針に従い、耳鼻咽喉科専門医の指導の下、中耳加圧装置を自宅に持ち帰り行う治療法なので、適応と考えられる患者さんがいた場合にはぜひ御紹介を。
https://www.memai.jp/wp-content/uploads/2020/07/chujikaatsusochishishin2018.pdf
前庭性片頭痛(片頭痛性めまい)
欧米では、再発性自発性のめまいで最多の原因といわれ、前庭障害性めまいではBPPVに次いで多いと言われている。本邦では欧米より少ないと考えられるが、まだまだ見過ごされている。
自発性ないし頭位性めまいや頭を動かすときの乗り物酔い様の不快感があり、頭痛や感覚過敏を伴う。めまいと頭痛の時間的関係は一患者内でも患者間でもさまざまである。睡眠不足や月経などの誘因によることがある。発作間期には異状がなく、発作中には中枢性ないし末梢性の自発眼振や中枢性頭位眼振、軽度の運動失調を伴う。
めまい前後に頭痛があり、めまい症状は、自発性めまいや視覚刺激・頭部運動で誘発されるめまいや浮動感であり、少なくとも5回以上のめまい発作があり、5分から72時間持続し、めまい発作の半分以上に片頭痛の徴候(頭痛、光・音過敏、前兆)がある。めまい発作時には、高度難聴はないが、耳鳴りや耳閉感を伴うことが多い。
めまい発作時の治療は、トラベルミン、セファドール、ナウゼリンの投与で、トリプタンは頭痛には有効であるがめまいの改善効果はない。
片頭痛の予防治療が発作の予防に有効であり、ミグシス、トリプタノール、インデラル、デパケン、SSRI、呉茱萸湯が有効である。
強い光や騒音、人込みを避け、寝過ぎや寝不足、ストレスを避ける。ワイン、チーズ、アルコール、チョコは誘発因子と考えられており、避けることが望ましい。マグネシウムを摂る。空腹時に頭痛が起きやすいので朝食を抜かない。
PPPD持続性知覚性姿勢誘発めまい
ドイツのBrandtらが報告した恐怖性姿勢めまいと同類の疾患で、以下の頭頂を有するものである。
浮遊感、不安定感が3ヶ月以上ほぼ毎日継続する。朝より夕方になると症状が悪化し、少なくとも2日に1度はめまいを認めるため、日常生活において顕著な機能障害を認める。座位から立位で症状は増悪し、視覚でも誘発される。70%の患者においては、前庭疾患が先行するので、過去のめまいのヒストリーを確かめる必要がある。30%においては急性ストレスによる精神疾患が先行している。
J Vestib Res 27: 191-208, 2017には、下記のような先行疾患が認められてとしている。
中枢性または末梢性の前庭疾患(PPPDの25-30%)
前庭性片頭痛の発作(15-20%)
パニック発作(15%)
全般性不安(15%)
脳振とう・むち打ち(10-15%)
自律神経障害(7%)
治療としてはSSRIのセルトラリンが1/2~2/3に有効である。
前庭リハビリテーションや認知療法も有効である。
https://www.fukushi-shinsho.com/2014/03/000107.html
2017年にBarany SocietyがPersistent Postural-Perceptual Dizzinessの診断基準を策定した。
- 浮動感、不安定感、非回転性めまいのうち一つ以上が、3ヶ月以上にわたってほとんど毎日存在する。
- 症状は長い時間(時間単位)持続するが、症状の強さに増悪・軽減がみられることがある。
- 症状は1日中持続的に存在するとは限らない。
- 持続性の症状を引き起こす特異的な誘因はないが、以下の3つの因子で増悪する。
- 立位姿勢
- 特定の方向や頭位に限らない能動的あるいは受動的な動き
- 動いているもの、あるいは複雑な資格パターンを見た時
- この疾患は、めまい、浮動感、不安定感を引き起こす病態、あるいは急性・発作性・慢性の前庭疾患、他の神経学的・内科的疾患、心理的ストレスによる平衡障害が先行して発症する。
- 急性または発作性の病態が先行する場合は、その専攻病態が回復するにつれて症状は基準Aのパターンに定着する。しかし、症状は初めに間欠的に生じ、持続性の経過へと固定して行くことがある。
- 慢性の疾患が先行する場合は、症状が緩徐に進行し、次第に悪化していくことがある。
- 症状は、顕著な苦痛あるいは機能障害を引き起こしている。
- 症状はほかの疾患や障害ではうまく説明できない。
注記:前庭症状
Dizziness(浮動感):空間認知の混乱や障害に伴う非運動性の感覚
Unsteadiness(不安定感):立位あるいは歩行時の不安定な感覚
Internal non-spinning vertigo(内的な非回転性めまい):自分自身が揺らぐ、揺れ動く、上下に揺れる、弾むという疑似運動感覚
External non-spinning vertigo(外的な非回転性めまい):それに類似した外界の運動感覚
立位姿勢:起立あるいは歩行のこと。立位姿勢の影響に特に過敏な患者は、支えのない財で症状が増悪すると訴えることがある。
能動的な動作:患者が自ら起こした動作のこと。
受動的な動作:患者が乗り物や他人によって動かされること。乗り物やエレベーターに乗る、動物に乗る、人込みで押されるなど。
視覚刺激:視覚環境の中の大きな物体(行きかう車、床や壁紙のごてごてした模様、大画面に表示された画像)の場合もあり、あるいは近距離からみた小さな物体(本、コンピュータ、携帯用の電子機器)の場合もある。
PPPDを発症させる頻度の高い病態は、末梢性または中枢性の前庭疾患(PPPD症例の25~30%)、前庭性片頭痛の発作(15~20%)、顕著な不動感を示すパニック発作または不安(それぞれ15%)、脳震盪またはむち打ち症(10~15%)、自律神経障害(7%)である。
Equilibrium Res Vol.78 228-229 2019
http://memai.jp/guideline/pppd2017.pdf
(J Vestib Res 27:191-208, 2017)
米国では医師のみでなく、理学療法士によっても下記のリハビリテーションが行われている。
- Habituation/Compensatory:症状を起こしやすい動作を繰り返し訓練することにより症状を軽減する純化訓練
- Adaptation/Gaze Stabilization:前庭動眼反射の適応を図る適応訓練
- Substitution:視覚や体性感覚による刺激により前庭感覚を代用する代用訓練
- Canalith Repositioning Maneuver:BPPVの標準治療法として耳石置換方法
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jser/76/2/76_79/_pdf/-char/ja
抗めまい薬の比較
慎重投与が無い分アデホスは使いやすく、セファドールは口渇・排尿障害などの副作用が7.63%とそれなりに見られ、慎重投与疾患は頻度が多いものが多く、頓服で使用するほうが良い。
めまいの漢方治療
参:
漢方医学では望診、聞診、問診、切診からえられえた情報を整理し、個々の患者の漢方医学的病態である証を診断し、治療に必要な漢方方剤を決定する。
漢方医学の病態としては陰陽、虚実、寒熱、表裏、血気水、五臓、六病位などがある。
陰陽:陽証は『暑がり』のタイプで、陰証は『寒がりの』タイプであると言える。
陽証は、熱がりで、薄着を好み、冷たい飲み物を好み、顔面が紅潮しており、高体温の傾向がある。一方、陰証は寒がりで厚着を好み、熱い飲み物を好み、顔面が蒼白で低体温の傾向がある。治療に当たっては、陽の患者には体を冷やす作用の漢方剤を用い、陰の患者には体を温める作用の漢方剤を用いる。
虚実:急性と慢性に分ける。
急性の症状の場合は、実証では症状が強く激しく、虚証では症状が弱く穏やかな傾向にある。
慢性疾患の場合には、実証の場合にはがっちりとした体格で、虚証の場合は華奢な体格で虚弱な場合であることが多い。
寒熱:生体が外乱因子によって恒常性を乱された場合、生体が呈する病状が熱性(熱感、充血、局所温度の上昇)であるか、寒性(冷汗、冷え、血流低下、局所温度の低下)であるかを分ける考え方が寒熱の概念である。陰陽の認識の一部を構成する要素であるが、主に局所的な病状の認識法として用いられる。
表裏:基本的には生体の部位を指示するものである。体表部付近を『表(ひょう)』(具体的には、皮膚、筋肉、関節、神経など)といい、身体の深部を『裏(り)』(具体的には消化管付近)という。そして、『表』にも『裏』にも相当しない、肺・肝などの横隔膜周囲の部分のことを『半表半裏』という。頭痛、発熱、広背筋のこわばり、関節痛など体表部に闘病反応の結果が表出されている状態のことを表証といい、腹満、下痢、便秘など身体の深部に闘病反応の結果が表出されている状態のことを裏証という。
また、咳嗽、胸痛などの胸郭内症状や、悪心、呕吐など上部消化器症状は半表半裏証として捉えられている。
表証は太陽病期、半表半裏証は小陽病期、離床は陽明病期から厥陰(けっちん)病期に対応する。
気血水:生体の恒常性を維持する三つの重要な要素であり、気:生命活動を営む根源的エネルギー、血:生命体を物質的に支える赤色の液体、水:生命体を物質的に支える無色の液体として捉え、これらが体の中を円滑にめぐっている状態を健康的な状態と考える。
気虚(ききょ):気の量に不足をきたした病態。症候としては体がだるい、疲れやすい、気力が無い、食欲不振、下痢しやすい、風邪をひきやすい、日中の眠気、眼光・音声に力が無い、舌が半白・腫大、脈が弱い、腹部軟弱などがある。
気鬱(きうつ):気の循環に停滞した病態。症候としては、抑うつ傾向、意欲が出ない、症状が変わりやすい、頭重・頭感冒、喉の使え感、胸の詰まった感じ、腹部膨満感、月賦・おなら、腹部の鼓音、朝起きにくく調子が出ないなどがある。
気逆:気の順行に失調をきたした病態。更年期障害でよくみられるホットフラッシュは、気血水の観点からは気逆と解釈される。症候としては、冷えのぼせ、のぼせ寒、顔面紅潮、下肢・四肢の冷え、発作的発汗、動悸発作、発作性の頭痛、咳嗽発作、腹痛発作、物事に驚きやすい、焦燥感にかられやすいなどがある。
血虚(けっきょ):血の量に不足をきたした病態。症候としては、集中力低下、眼精疲労、めまい感、顔色不良、頭髪が抜けやすい、皮膚の乾燥・あれ・あかぎれ、爪の異常(もろい、ひび割れ)、知覚障害(しびれ、知覚鈍麻)、筋痙攣・こむら返り、腹直筋の緊張、貧血・月経障害などがある。
瘀血(おけつ):血の流通に停滞をきたした病態。症候としては、顔面・眼瞼がどす黒い、口唇・歯肉・舌の暗赤紫化、手掌紅斑・細絡(毛細血管拡張、クモ状血管腫など)、皮下溢血、月経障害、頭痛・肩こり、腰痛・四肢痛、不眠・精神不穏、臍傍圧痛、回盲部・S状結腸の圧痛、痔などがある。
水滞(すいたい):水の偏在をきたした病態。水毒とも言われ、症候としては、身体の重い感じ、頭痛・頭重感、車酔いしやすい、めまい・立ちくらみ、水様の鼻汁、悪心・嘔吐、水瀉(しゃ)性下痢、関節のこわばり・腫脹、浮腫傾向、尿量減少・多尿などがある。
六病位(ろくびょうい・りくびょうい):疾病状態は、「生体の側の気血水の量と外乱因子の変化に伴い時々刻々と流動する」という理念が六病位による疾患のステージ分類である。先に記した気血水の認識や陰陽、虚実などの病態把握は、このように流動する生体の一断面をとらえるものと位置づけられる。疾病のステージを陽と陰に大別し、陽を太陽病期、少陽病期、陽明病期に分け、陰を大陰病期、少陰病期、厥陰(けっちん)病期に分類する。
五臓(ごぞう):西洋医学の臓器の概念とは全く異なる精神機能を含めた漢方医学独特のものである。
具体的には、肝・心・脾・肺・腎であるが臓器そのものを指しているのではなく、下の表のような働きを想定しており、その異常により表のような症状を呈することになる。
めまいに対する漢方医療
めまいを訴える患者を診察する際、参で述べた漢方医学的病態である証に基づいて治療薬を決める。
気・血・水の異常ごとに分類して下記表に提示する。
代表的なものについてコメントする。
五苓散(ごれいさん):病態 小陽病期・虚実間・水滞+気逆
浮腫、口渇、尿量減少、下痢などがある症例に適応となる。メニエール病などの内耳性めまいを含め広くめまい症に用いられる。
半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう):病態 大陰病期・虚証・水滞+気虚
胃腸虚弱、食欲不振、冷え、頭重感の有るような症例に適応となる。腹部は軟弱である。起立性調節障害、肩こりに伴うめまい、食後のめまいなどに用いられる。
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう):病態 小陽病期・虚証・水滞+気逆
四肢の冷え、動悸、不安、息切れ、尿量減少症例に適応となる。
種々のめまいに頻用される処方であり、特にメニエール病などの内耳性めまい、起立性調節障害、動悸を伴うめまいなどに用いられる。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう):病態 小陽病期・虚証・気虚
全身倦怠感が強く、消化器機能が低下している症例に適応となる。元気がない、疲れやすい、食後眠くなる、体動が無くても発汗する、声が小さい、頭痛などの症状を伴い、腹力が弱く、起立性調節障害、疲れた時にふらつくようなめまいに用いられる。
Equilibriium Res Vol 71(4) 219-225
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jser/71/4/71_219/_pdf
参考サイト:
標準的神経治療:めまい
https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/memai.pdf
めまいガイドラインの一覧
http://memai.jp/guideline/guideline.html