その他
2022.09.26
痛風・心血管合併症・腎不全軽減戦略 岩崎滋樹先生
2022年9月8日
演題「新たな尿酸病型分類を応用した痛風・心血管合併症・腎不全軽減戦略」
演者:横浜市立市民病院腎臓内科部長 岩崎 滋樹 先生
場所: ホテルプラム
内容及び補足「
抗酸化物質として尿酸とビタミンCがある。
ビタミンC:水溶性で強い還元力を有し、スーパーオキシド(O2-)、ヒドロキシラジカル(・OH)、過酸化水素(H2O2)などの活性酸素類を消去する。
不足すると壊血病(疲労、倦怠感、筋肉痛、易怒性、数か月後に出血の生涯をもたらす)。
過剰に摂取すると下痢、シュウ酸蓄積症、腎障害、腎不全のリスクが上昇する。
アスコルビン酸の生合成の経路の最後の段階にかかわる酵素L-グロノラクトンオキシダーゼが霊長類と一部の哺乳類で突然変異により3500~5500万年前に失われたと考えられる。霊長類のヒト上科では尿酸オキシダーゼが欠損するとともに霊長類の直鼻猿亜目ではアスコルビン酸合成も欠損している.)。これは尿酸が抗酸化物質として部分的にアスコルビン酸の大葉となるためである(Nature vol 228, 1970, p868)。
尿酸: 鳥類や爬虫類の多くの種でプリンヌクレオチド代謝における最終産物である窒素化合物である。ヒトをはじめとする哺乳類、両棲類、軟骨魚類の場合には尿中の主要な窒素化合物は尿素、硬骨魚類の場合はアンモニアである。尿酸は尿素に比べ濃縮が可能であり、体内に一時的に保持するにあたって水分をあまり必要としないので、乾燥への適応だと考えられる。卵生の動物では、尿を空の外に排泄できないため、アンモニアでは有害であり、尿素では浸透圧が高くなり過ぎ、水にわずかしか溶けない尿酸の形で貯蔵することにより有害性と浸透圧の両方の問題解決になる。(Wikipedia:尿酸より)
尿酸を代謝する尿酸酸化酵素Urate oxidaseは、ヒト、チンパンジー、ゴリラなどの類人猿と一部の旧世界サル、鳥類、一部の爬虫類でその活性が失われている。尾田らはこの酵素の遺伝子を調べ、ヒト、ゴリラ、チンパンジー、オランウータンでは第2エキソンにCGAからTGAへのナンセンス変異を見出し、1500万年前に起こったと推定している。テナガザル、フクロテナガザルでは第2エキソンの異なる部位のナンセンス変異またはエキソン3の一塩基欠損、エキソン5ノ一塩基挿入を見出し、900万年前に起こったとしている。このように霊長類で異なる突然変異によって尿酸酸化酵素が失われたことは、進化学的に見て有利な突然変異であったと考えられる。
尿酸の代謝及び生体内の流れ:
尿酸の結晶の溶解度は温度により変化する。体の部位により体温も異なる。
深部体温が37℃であっても20℃の室温下において両手指は28℃、足はそれ以下になる。
したがって尿酸の結晶の溶解度はより低値で結晶化することになる。37℃において6.8㎎/dLであり、これ以下に保つ必要性がある。血清尿酸値の基準値が7.0mg/dLであることの妥当性の一つと言えよう。
Arthritis Rheum. Mar-Apr 1972;15(2):189-92.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/art.1780150209
Naturwissenschaften volume 45, pages477–485 (1958)
参:痛風発作の時間帯を示す。
明け方の6時~8時が一番多い
Arthritis & Rheumatology 67 555-562, 2015
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/art.38917
痛風エコーの特徴的な所見として次の二つがある。
- 関節表面の線状高エコー域(double contour sign:DCS)
2. 関節・腱の結節性沈着物(低エコー域に囲まれた卵状の点状高信号)
Hyperechoic cloudy area:HCA “wet sugar clumps”(湿った砂糖の塊)と呼ばれる
https://ctd-gim.hatenablog.com/entry/2019/10/18/181103
DCSのある患者さんの痛風に対する感度・特異度は44・99%(Osteoarthritis Cartilage. 2009 17:178-81.)、HCAは79・95%(Eur Radiol. 2008 18:621-30.)である。
参:関節エコーによる尿酸結晶症の沈着の描出には罹病期間2年を境に検出感度が上昇する。
Arthritis Rheumatol 69:429-438. 2017
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/art.39959
少数例の検討であるが、痛風患者の血清尿酸値を7~18か月間6㎎/dL未満に維持した症例では超音波上のDCSが消失した。
Rheumatol Int 30 495-503 2010
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19543895/
したがって血清尿酸値の基準は6.0㎎/dLは妥当といえるかもしれない。
尿酸結晶は尿酸の濃度や温度だけでなく、溶解液のpHも大事になってくる。
Postgrad Med J 55 Suppl 3,26-31, 1979
慢性腎障害CKD患者は代謝性アシドーシスが腎臓の増悪を進展させる。ステージ3-5の患者における重炭酸ナトリウムの治療効果を検討した。通常治療364例と重炭酸ナトリウム治療376例で比較してみると、クレアチニンの二倍増悪、全死亡、透析導入も明らかに、重炭酸治療群のほう良好であった。
Journal of Nephrology (2019) 32:989–1001
https://doi.org/10.1007/s40620-019-00656-5
横断調査で5618人の被験者で血清尿酸四分位数におけるCKD有病率は、5.3㎎/dL以下、5.4―6.4㎎/dL、6.5-7.6㎎/dL、7.7㎎/dL以上でCKDの有病率はそれぞれ1.8%、3.6%、5.5%、11.9%であり、多変量調節オッヅ比は第1四分位に比較してそれぞれ、2.38、4.17、10.94であり、高い血清尿酸レベルはCKDの有病率の増加と独立して関連していた。
Nephrology 2010, 15:253-258
file:///C:/Users/jeffbeck/Downloads/pone.0137449.pdf
CKDを有さない40歳以上の地域住民日本人被験者2059名を5年間追跡調査した。血清尿酸値4.0㎎/dL以下、4.1-4.9㎎/dL、5.0-5.8㎎/dL、5.9㎎/dL以上の四分位数で分けてCKDの発症、腎機能障害、アルブミン尿の発症の頻度は上昇した。
Circ J 80(8):1857, 2016
https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/80/8/80_CJ-16-0030/_pdf/-char/en
血清尿酸レベルに応じた5年間の推定糸球体濾過率eGFRの年間変化は6.0㎎/dL以下でも高値になるに従い、有意に増加した。
Circ J 2016; 80: 1857–1862)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/80/8/80_CJ-16-0030/_pdf/-char/en
1990年から2007年まで毎年健康診断を受けた痛風発作の病歴を持たない40歳以上の男性工場労働者1285名で最大18年間経過を見た。7.0㎎/dL以下とそれを超える二群に分けて検討した。収縮期血圧140㎜Hgまたは拡張期血圧90㎜Hg以上の高血圧あるなしよりもより強くCKDの発症頻度を上げた。
BMC Nephrology 2011, 12:31-7
https://bmcnephrol.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-2369-12-31
15のコホート研究のメタアナライシスの結果、血清尿酸の上昇によるCKDの相対リスクは1.22であった。
PLoS ONE 9(6): e100801.https://doi.org/10.1371/journal.pone.0100801
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0100801
沖縄の男性4222名、女性2181例の解析の結果、血清尿酸値が高値であれば血清クレアチニン値の上昇が高頻度に出現し、男性におけるよりも女性においてよりその上昇率が高いことが示された。
Hypertens Res 2001;24:691-7
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hypres/24/6/24_6_691/_pdf/-char/en
沖縄県総合健康維持協会が1993年に実施したマススクリーニング参加者のうち尿酸データが入手可能な20以上のスクリーニング対象者男性22949人、女性25228人で血清尿酸値が男性で7.0㎎/dL以上、女性で6.0㎎/dL以上の高尿酸血症が末期腎疾患(ESRD)の発症リスクとなるかという研究が行われた。スクリーニング対象者1000人当たりのESRDの予測発生率は、高尿酸血症のない男性で1.22、高尿酸血症の男性で4.64(ハザード比2.004)、高尿酸血症のない女性で0.87、高尿酸血症の女性で9.03(ハザード比5.770)であった。
Am J Kidney Dis. 2004 Oct;44(4):642-50.
https://www.ajkd.org/article/S0272-6386(04)00934-5/fulltext
参:米国民の1988年から1994年間に実施されたNHANES3の60歳以上のアフリカ系アメリカ人とメキシコ系アメリカ人の研究で血清尿酸値が6㎎/dL未満、6-7.9㎎/dL、8.0-9.9㎎/dL、10㎎/dL以上の四分位に分けた。高血圧症の発生頻度はそれぞれ24.5%、41.3%、60.7%、84.7%と尿酸レベルの上昇に伴い高血圧の発生頻度は上昇した。
Am J Med 120:442-447、2007
https://www.amjmed.com/article/S0002-9343(06)00890-4/fulltext
参:健診受信者14360例中、eGFR<60mL/min/1.73m2、蛋白尿陽性例、糖尿病、高血圧、高尿酸血症などの治療例、妊婦例、血圧140/90mmHg以上の症例を除外した6401名を8年間追跡調査でも血清尿酸値が6.6mg/dL以上で有意に上昇した。
痛風と核酸代謝40(1):33,2016
2004年1月から2010年6月にかけて聖路加国際病院予防医学センターで毎年健診を受けた日本人90143人(男性49.1%、女性50.9%、年齢46.3±12.0歳)のうち高血圧、痛風、高尿酸血症の薬を服用していない82722人が登録され、血清尿酸四分位数によって、拡張期血圧90㎜Hg以上および/または収縮期血圧140㎜Hg以上の有病率を比較した。
血清尿酸値は女性よりも男性で高く、高血圧を有する対象者で血清尿酸値は男女とも高値であった。
高血圧のオッズ比は、全体で1.79、男性で1.58、女性で1.60であった。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24671018/
Hypertens Res. 2014 Aug;37(8):785-9
特定検診・特定保健指導に参加した40~75歳の一般住民474725名(男性203087名、女性271638名)を血清尿酸値7.0 ㎎/dL超える高尿酸血症群と以下の非高尿酸血症群の2群に分け、前向きに追跡した(追跡中央値3.8年)。高尿酸血症群において累積死亡率は有意に高値であった。
Scientific Reports volume 10, 14281 (2020)
https://www.nature.com/articles/s41598-020-71301-6
参:健診受信者14360例中、eGFR<60mL/min/1.73m2、蛋白尿陽性例、糖尿病、高血圧、高尿酸血症などの治療例、妊婦例、血圧140/90mmHg以上の症例を除外した6401名を8年間追跡調査で高血圧の発症頻度は血清尿酸値が上昇するほど高頻度になった。
痛風と核酸代謝 40(1) 33 2016
1514人の参加者データから追跡期間中痛風を患った160人と参加者のうち53人と痛風のない参加者1354人のうち298人が死亡した。死亡リスクの痛風での増加はなかったが(ハザード比0.98)、心不全の再入院までの期間は痛風のない人と比較してふうふうのある人では有意に短かった(ハザード比1.42)。参加者が通風を患っているかどうかにかかわらず、血清尿酸レベルが上昇するにつれて、心血管イベントまたは心不全のいずれかの死亡及び再入院のリスクは増加した。
Arthritis & Rheumatology 2019 71, 1733-1738
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/art.41007
参 血清尿酸値と心血管イベントの関連
血清尿酸値が男性では6.2mg/dL以上において女性では3.9mg/dL以上において心血管イベントの増加が疑われる。
Hypertension 36(6):1072,2000
https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/01.hyp.36.6.1072
参:血清尿酸値と心血管疾患発症、死亡リスク
山形大学の今田恒夫氏は、第53回日本痛風・尿酸拡散学会で、全国の特定健診大規模データベースを用い、2008~14年に特定健診を受診した福島,茨城、新潟、大阪、福岡、宮崎、沖縄県の500011例(男性215728例、平均年齢62歳)を対象に7年(中央値3.6年)観察した結果を報告した。
補正後の多変量解析の結果、男性で血清尿酸値4.0~4.9㎎/dLで全死亡、心血管死亡リスクが最も低かった。心血管氏の場合には低値においてもリスクの上昇があった。
女性でも全死亡、心血管死亡ともに血清尿酸値4.0~4.9㎎/dLで最もリスクが低かった。
中年フィンランド人1423人の11.9年の平均追跡期間中157人の死亡があり、このうち55人がCVDによる死亡であった(3.4/1000人のpatient-years)。
上2/3の血清尿酸レベは下1/3の尿酸レベルに比較してCVDによる死亡リスクが2.7高地であった。
Arch Intern Med. 2004;164:1546-1551
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/217245
Dual Energy CT:二種類のX線エネルギーのデータを取得し、質量減弱係数が物質やX線エネルギーによって変化することを利用して画像化する技術。
このDECTで尿酸沈着物は、無症候性高尿酸血症の6/25:24%、3年以内の早期痛風症例の11/14:79%、遅発性痛風症例の16/19:84%で観察された。
Ann Rheum Dis. 2015 May;74(5):908-11
痛風患者59人、47人の対象症例及び6人の死体を分析。尿酸ナトリウムの沈着物(MSU)の心血管への沈着を検討した。心血管MSU沈着の頻度は痛風患者の方が(51:86.4%)コントロール(7:14.9%)に比較して高く、冠状動脈MSU沈着も痛風患者(19:32.2%)の方がコントロール(2:4.3%)よりも高かった。6人の死体のうち3人は心血管MSU沈着を示し、偏光顕微鏡によって尿酸ナトリウムの存在が検証された。
患者1:Aの大動脈根(白矢頭)及び左前下行動脈(黄矢じり)の広範な石灰化プラークを示すところに一致して、Dの画像ではMSU沈着を示す画像が対応するDECTに認める。
JAMA Cardiol . 2019 Oct 1;4(10):1019-1028.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31509156/
今後、痛風の病態解明に役立つ可能性も示唆されている。
人体において尿酸のプールは1200㎎あり、およそ毎日700㎎食事からの摂取と体内からの産生があり、尿から2/3の500㎎が便から1/3ノ200㎎排泄されている。
高尿酸血症は、今までは排泄低下型と合成亢進型、それの混合型に分けられていたが、
近年では、尿酸排泄低下型、腎負荷型、その混合型に分けられる。
高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 診断と治療社 2018:95-8
尿酸排泄低下型(日本人の55-60%)に対しては尿酸排泄促進薬を処方することになる。
プロべネシド(ベネシッド)、ベンズブロマロン(ユリノーム)がある。
尿中の尿酸濃度が高まると尿は賛成に傾き、結石ができやすくなる。したがって尿酸結石を防ぐために、尿のpHを調節する薬を併用する必要があり、尿アルカリ化薬(クエン酸カリウム:ウラリットなど)が併用される。
過剰産生型(日本人の10-15%)に対しては、尿酸産生抑制薬を処方することになる。
アロプリノール(ザイロリック、アロシトール、サロベール)、フェブキソスタット(フェブリック)、トピロキソスタット(トピロリック、ウリアデック)がある。
アロプリノールはキサンチンと構造が似ているため、キサンチンオキシダーゼを占拠するため尿酸の合成を抑える働きがメインであるが、そのうちキサンチンの量が増加して、効果が弱くなる(peak outする)。フェブキソスタットはキサンチンオキシダーゼを阻害するのでpeak outすることはない。
尿酸は腎臓の糸球体で100%濾過され、近位尿細管上皮細胞にある尿酸トランスポーターを介して再吸収(99%)と分泌(50%)、分泌後再吸収(40%)が行われ、最終的には糸球体でろ過された尿酸の7~10%が尿中に排泄される。
近位尿細管における尿酸の再吸収にはURAT1が、分泌にはABCG2、OAT1、OAT3などが関与している。腎外排泄低下型にはトランスポーターABCG2の機能低下が主な原因と考えられている。
ベンズブロマロンのURAT1阻害作用はかなり強いので投薬量としては12.5㎎位が丁度よいが、市販薬は25㎎、50㎎なので高用量となっており、副作用が高頻度で出ているようにおもう。
Folia Pharmacol. Jpn. 155 426-434 2020
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/155/6/155_20047/_pdf
ABCG2(ATP結合カセットトランスポータ―G2)は、ヒトにおける様々な薬物および血清尿酸レベルを調節する原形質膜たんぱく質である。尿細管においてURAT1とABCG2によって尿酸輸送活性は変化する。高尿酸血症治療薬のそれぞれの阻害効果を見てみると下の図のようになる。
Front Pharmacol. 2016 Dec 27;7:518.(赤印の部分は追加記載)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28082903/
ABCG2が尿毒症毒素の主要なトランスポーターであることが判明。1214人の血液透析患者を対象とし、ABCG2遺伝子型および死亡率の関連を調査。期間中に220人の患者が死亡し、ABCG2機能が1/4以下の群においてより死亡率が高かった。
抗高尿酸薬の非使用者においてはABCG2機能の低下に伴い尿酸値は上昇し、
抗高尿酸薬使用者においても尿酸値はABCG2機能低下症例においては高値であった。
Human Cell volume 33, pages559–568 (2020)
https://link.springer.com/article/10.1007/s13577-020-00342-w
参:
ABCG2の推定機能と痛風発症のオッズ比はABCG2機能が1/2の場合には4.334倍、1/4以下の場合には25.8倍となることが示された。
Sci Transii Med 2009;1 Sta11
このABCG2の機能1/4低下は、体重5.7㎏の増加、飲酒ウイスキー1.7L/週の飲酒、47.6歳の加齢に該当する計算になる。
Sci Rep 2014;4:5227
参考サイト
高尿酸血症.jp(富士薬品)