その他
2023.05.22
COVID-19の最新知見 國島広之教授
2023年5月19日
演題「COVID-19の最新知見」
演者: 聖マリアンナ医科大学感染症学講座 主任教授 國島 広之 先生
場所: TKPガーデンシティ横浜
内容及び補足「
世界保健機関(WHO)は2020年1月に『我々は今や地球規模で感染症による危機に瀕している。もはやどの国も安全ではない』と『国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態』を宣言した。
2003年から2022年の間に新たに確認された新興感染症と新しい地域での人における顕著な病気の発生のタイムラインを見てみると下図のようになる。
一時は特定の地域における流行にとどまっていた感染症が、ヒトの交流のスピード化に伴い、感染症の伝搬速度が極めて速くなっている。2002年から2003年にかけて流行したSARSのケースでは、中国政府が国内での流行をWHOに報告した翌日には香港経由腕国境を越えベトナムやシンガポールで感染者が見つかっており、1週間で大陸を超えアメリカ大陸のトロントで感染者が確認されている。
https://www.mof.go.jp/pri/publication/research_paper_staff_rep
COVID-19の感染者数は2021年1月ピーク時には一週間当たり10万人以上報告されていたが、2023年4月24日には3500人強に減少して来ており、WHOは2023年5月5日、新型コロナウイルス感染症に関する『国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態』(PHEIC)の宣言を終了すると発表した。ただし、新型ウイルスは依然として大きな脅威だと警告した。今後は、各国が最善と考える方法で新型ウイルスに対処していくことになる。
参:2023年5月3日までで世界の累計患者数はおよそ7億6500万人、およそ690万人が無くなった一方でワクチンの接収回数は4月29日までで133憶4000万回以上になった。
現在においても我が国においては一定の陽性者と入院患者が見られている。
参:世界のCOVID-19の流行状況
https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/lb_virus/worldmutation/
川崎市内医療機関等で新型コロナウイルス感染症と診断され、新型コロナウイルス感染症等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)に入力されたものを陽性者として計上した経時変化は下図のようになる。
年代別に陽性者を見てみると20代が最も多く、次いで30代、40代である。
https://www.city.kawasaki.jp/350/page/0000116827.html
参:新型コロナウイルス感染症診療の手引き第9.0版
https://www.mhlw.go.jp/content/000936655.pdf
アメリカで検出された変異ウイルスの割合を下図に示す。「XBB.1.5」はオミクロン株のうち、2022年春ごろから広がった「BA.2」の二つのタイプが組み合わさった変異ウイルス「XBB」にさらに変異が加わったもので、WHOの1月25日の週報によるとこれまでに54カ国で報告されており、アメリカの75%、イギリスが9.9%、カナダが3.0%、デンマークが2.0%と報告されている。
WHOの1月25日時点でのXBB.1.5のリスク評価としては、
・ほかのオミクロン株の変異ウイルスより広がりやすい
・免疫逃れる性質最も強い
・重症度上がる兆候は初期段階では見られない
というものであった。
今までのワクチン接種で得られた抗体の中和活性は著しく低いため、感染予防の観点では弱くなっているが細胞性免疫は残っているので重症化予防効果は1年ほど見込めるとしている。
家族内感染を見てみるとアルファ株36.4%、ベータ株22.5%、出るが29.7%であるがオミクロン株では42.7%とかなり高くなっている。
メタアナ理汁のデータでみると感染既往による再感染防止効果はデルタ株では82.0%であるのに比べオミクロンBA1では45.3%と低くなっている。
2価ワクチンは1価ワクチンに比べ、入院・死亡抑制効果は58.7%vs25.2%とより有効である。
日本において5月16日に公表されたワクチン接種割合は、1回目81.1%、2回目80.1%、3回目68.7%、4回目45.4%、5回目23.8%であり、オミクロン株対応ワクチン接種は45.0%である。
ワクチン接種はウイルス排出期間が短くなり、ウイルス排出量も減少する。
感染した日に力の日数と無症候性感染者、発症前の感染者、発症後の感染者から起こる感染の頻度との関係は下図のように示されている。
COVID-19感染症は幅広い症状を呈する。
半分近く無症状で、軽症者は7日程度で治癒し、中等症では1週間前後で肺炎症状が出現し、重症者では10日前後で肺炎が増悪し、人工呼吸器管理になる。
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_drug_230217.pdf
以前のコロナ感染症とオミクロン株では症状の出現頻度や重症度が異なってきている。
Int J Infect Dis 2023 128 140-147
https://www.ijidonline.com/article/S1201-9712(22)00656-7/fulltext
COVID-19の感染の86.4%は軽症であったが、その1/4に後遺症が見られ、1年以上症状が持続している割合は記憶障害が11.7%、集中力低下11.4%、嗅覚障害10.3%、ブレインフォグ9.3%認めている。
東京10429例の検討では2か月以上症状が持続しているものが25.8%にみられ、そのうち85%に生活に支障をきたし、約半数が仕事を休んでいるという。
遷延性のリスク因子は青壮年層で486149人の検討では、18~29歳の群に比較して60-69歳では0.74、70歳以上では0.75であり、幼少者は少なかった。
複数回の感染数で増加、未感染群と比較して、1回1.37、2回2.07、3回2.37であった。
ワクチン非接種者や接種回数少ないものほど多かった。
参:
COVID-19後の症状の定義「post COVID-19 condition」SARS-Co-2にり患した人に見られ、少なくとも2か月以上持続し、また、他の疾患による症状として説明がつかないもの。症状には、疲労感・倦怠感、息切れ、思考力低下や記憶への影響などがあり、日常生活に影響することもある。COVID-19の急性期から回復した後に新たに出現する症状と、急性期から持続する症状がある。症状の程度は変動し、症状消失後に再度出現することもある。
イギリスのアプリを使用した大規模研究ではデルタ株流行時の症例では10.8%、オミクロン株症例では4.5%が罹患後症状を経験していると報告されており、オミクロン症例では頻度が低下している。
海外知見:
45の報告(9751例)の系統的レビューがある。
入院患者を主にフォローした16の報告では、診断・発症・入院後2か月あるいは退院・回復後1か月を経過した患者では、72.5%が何らかの症状を訴えていた。倦怠感40%、息切れ36%、嗅覚障害24%、不安22%、咳17%、味覚障害16%、抑うつ15%と続いた。約25万例(79%入院患者)の57の報告の系統的レビューでは、診断あるいは他隠語6か月かそれ以上で何らかの症状を有するのは54%と報告されている。
12か月時点での後遺症を検討した18報告(8591例)の系統的レビューによると、倦怠感28%、息切れ18%、関節痛26%、抑うつ23%、不安22%、記憶障害19%、集中力低下18%、不眠12%であった。
リスク因子の検討では4報告で、女性であること、3報告からCOVID-19急性期の症状が重症度が高いことがリスクであることが示されている。
オランダの342例(男性192例)の前向きコホート研究では、罹患所12か月の時点で軽症群、中等症群、重症群の参加者のそれぞれ16.4%、49.5%、52.5%が少なくとも一つの罹患後後症状を有していた。
国内知見:
1066例の追跡調査では、診断12か月後でも罹患者全体の30%程度に一つ以上の罹患後症状が認められたものの、いずれの症状に関しても経時的に有症状者の頻度が低下する傾向と認めた。12か月後に頻度の多い症状は、疲労感・倦怠感13%、呼吸困難9%、筋力低下8%、集中直低下8%、睡眠障害7%、記憶障害7%、関節炎6%、筋肉痛6%、咳、痰、脱毛、頭痛、味覚障害、嗅覚障害は5%程度認めた。
年代別では12か月後に症状を認めたのは40歳以下で39.0%、41~64歳で37.7%、65歳以上で34.1%と中年層で罹患後症状を認める割合が高かった。
若年者では、間隔花瓶、脱毛、頭痛、集中力低下、味覚障害、嗅覚障害が、中年者。高齢者では、咳、痰、関節痛、筋肉痛、眼科症状が多かった。
罹患後症状とワクチン接種に関する研究:
感染前のワクチン接種が、その後の罹患後症状のリスクを減少させる可能性が示唆されている。
罹患後症状がある人へのワクチン接種の影響については、症状の変化を示すデータと示さないデータがある。(私見:症状によりワクチン接種は有効かもしれない)
病態機序:
諸説あるが、ウイルスに感染した組織(特に肺)への直接的な障害、微量なウイルスによる持続感染、ウイルス感染後の免疫調節不全による炎症の進行、ウイルスによる血液凝固能の更新と血栓症による血管障害・虚血、ウイルス感染によるレニン・アンジオテンシン系の調節不全などがあげられている。単一の病態ではなく、これらのいくつかが複合的に絡み合ったものが症状をとして表れている症例もあると考えられている。
新型コロナウイルス感染症診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント第2.0版
https://www.mhlw.go.jp/content/000952747.pdf
令和5年5月8日より感染症法上の位置づけが2類相当から5類に変更となる。
↓
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
これに伴い、法規上の就業制限がなくなり、今まで発熱外来で対応していたものが一般外来で診療することになる。
外来検査は抗原定性検査のみとなり、入院患者に対してPCR検査を行うことになる。ただしPCR検査は遺伝子のかけらが残存していても陽性になるので、感染した既往を見ていることになる。
BMJ 2021;372n208
https://www.bmj.com/content/bmj/372/bmj.n208.full.pdf
無症状者の呼気検体中のウイルスRNA量は、診断0~5日までは多くの症例でウイルス分離可能で、6日以降は減少してきて8日目以降は認めなかった。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10942-covid19-70.html
療養期間は7日から5日に短くなったが、ウイルスを輩出しているので、高齢者や医療機関を訪問する際には10日間で対応してほしい。
参:米国からの報告(n=10324)で、オミクロン株陽性例のほうがデルタ株陽性例よりもウイルスRNAのピーク値が低く(Ct値23.3vs20.5)、クリアランス期間も短かく(5.35日vs6.23日)感染期間もみじかかった(9.87日vs10.9日)。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2022.01.13.22269257v1.full.pdf
参:
重症度分類:
重症度の分類は下の表のようになる。
治療:
重症度別のマネジメントをまとめると下の図のようになる。
軽症:
特別な医療によらなくても、経過観察のみで自然に軽快することが多い。
診察時は軽症と診断されても、発症2週目までに急速に病状が進行することがある。病状悪化は、低酸素症の進行として表れることが多い。高齢者では衰弱、誤嚥性肺炎、撰モナドが出現し、入院治療が必要となることもある。
飲水や食事が可能なら、必ずしも輸液は必要ない。
病状が進行しているにもかかわらず、呼吸困難を自覚しない症例があり、可能な限りパルスオキシメーターによるSpO2測定を行う。
療養期間が解除されるまで、ヒトとの接触はできるだけ避けること、同居家族がいる場合には生活空間を分けること、マスク着用や手洗いの励行を指導する。
中等症:
中等症の患者は入院して加療を行うことが原則。薬物療法を行うとともに、さらなる増悪に対して、酸素療法など早期に対応するためである。
中等症1 呼吸不全無し:
安静、十分は栄養摂取と水分補充が重要
バイタルサイン及びSpO2を1日3回程度測定する。
重症化リスク因子を有していたり、ワクチン非接種者は病状の進行に注意が必要。
中等症2 呼吸不全あり:
https://www.mhlw.go.jp/content/000936655.pdf
治療薬:
SARS-CoV-2ウイルスがヒトの粘膜上皮細胞に吸着し、膜融合が起こり、ウイルス膜を脱殻し、ヒト細胞内に侵入する。RNAゲノムが複製され、ウイルス蛋白質が合成される。このRNA翻訳で合成されたたんぱく質は非常に大きな分子であるため、適切なサイズに切り取られウイルス粒子が細胞内で合成され、細胞から遊離し、ほかの細胞に感染する。このたんぱく質を適切なサイズに切り取る際に働くのが3CLプロテアーゼで、ゾコーバ(エンシトレルビル)はこれを阻害することで抗ウイルス活性を示す。RNAの複製を行うRNAポリメラーゼ(レプリカ―ゼ)を阻害するのがラゲブリオ(モルヌピラビル)とベクルリー(レムデシビル)である。
ラゲブリオ(モルヌピラビル):重症化リスクがある患者の入院や死亡を約30%低下させ、症状持続を抑制し、1割後遺症を減らすとされている。
https://passmed.co.jp/di/archives/16908
パキロビッドパック(ニルマトレルビル/リトナビル):
3日以内に投与をはじめた場合には、入院や死亡リスクが89%低下し、発症から5日以内に投与を始めた場合でも88%低下したとされている。ただし、併用禁止薬が40種類あることや腎機能低下者に対して容量調節が必要である。
https://passmed.co.jp/di/archives/17252
ゾコーバ(エンシトレルビル):
咳やのどの痛み、鼻水・鼻閉、息切れ、熱っぽさがあることの5つの症状の改善が見られ、感染性のあるウイルスが検出された人の割合は90%g燃焼し、ウイルスが陰性になるまでの時間が1~2日短縮された。
https://passmed.co.jp/di/archives/18148
ゾコーバにも併用禁忌薬・注意薬がある。
併用禁忌薬は以下のものである。
併用注意薬は以下のものである。
https://www.shionogi.co.jp/med/products/drug_sa/xocova-att/XCV-C-0006.pdf
併用注意薬の場合、薬剤濃度が2倍になっても効力が2倍になるものではなく、血中濃度が5倍以上になるものは原則併用はやめたほうが良いが、他の薬剤に変更できない場合には、ゾコーバの投与期間が5日であることを考えると、患者の病態及び使われている治療薬の期待されている効果を考え、薬の投与量などを検討する。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001024113.pdf
5月8日からの変更に伴い以下のように対応が変更となる。
https://www.mhlw.go.jp/stf/corona5rui.html
医療機関としては、今まで行っていた個人防護具をフル装備する対応から、ゾーニングで基本的な対応を行い、感染の拡大を抑えることになる。
エアロゾルを吸入することで100人に1人発症するといわれている。
無症状者の新型コロナウイルス検査によるスクリーニングは感染拡大防止につながっておらず、入院時のスクリーニング中止によりクラスターの発生頻度の上昇は認めていない。また病院への家族の面会を中止解除しても入院冠者の感染者数の有意な増加も認めていない。
発熱や咳嗽患者のコロナ、インフル陰性者において、悪化するマイコプラズマ肺炎や心筋炎患者は死亡するリスクがあり、他の疾患も念頭において患者を診ていく必要がある。
今後感染症のパンデミックに備えるために
・合同カンファレンス
・新規感染症の机上訓練
・地域連携と症候群サーベイランス
が重要になってくる。
実際新型コロナウイルス感染症の初期において、原因不明の重症肺炎に対して警鐘を鳴らしたことが疾患の発見に寄与した。つまり、普段見られない数の同じ症状の患者についてのサーベイランスが必要である。
川崎市において、インフルエンザのサーベイランスに75%の病院が参加してくれていて、コロナについてのサーベイランスも始めた。
ある疾患に対する定点観測のみでなく、イベントベース、下水、血清のチェック、リスク動物のサーベイランスを適切に組み合わせて情報をチェックしていく必要がある。
ヒト、動物、環境に関するOne Health情報プラットホームによる横断的なチェックが必要である。
そのためには正確な情報の共有が不可欠である。
過去においては、無癩(らい)県運動、HIVの診療忌避、新型インフルエンザ診療忌避、コロナ差別などがある。
日本の保険診療の効果か、国民性のためか、新型インフルエンザの最新の情報共有と、検査・治療体制の構築の結果、迅速診断キットの使用とタミフルなどをはじめとする治療薬の早期投与により2009年のインフルエンザA(HN1)の死亡率は、10万人当たりの死亡率は0.16と極端に少なく、世界中から注目させた。