その他
2024.11.20
周産期の患者さんと治療者との協働作業~双方に安全な抗うつ薬治療を考える~ 藤井久彌子先生
2024年10月27日
演題「周産期の患者さんと治療者との協働作業~双方に安全な抗うつ薬治療を考える~」
演者:滋賀医科大学 精神医学講座 准教授 藤井 久彌子 先生
場所:
内容及び補足「
精神疾患を持つ女性患者さんに対して『精神科の病気になったからといっていろいろ諦めずにやっていけたら』と思いつつ、勉強、仕事、結婚など、京は、それに関連した情報や心がけについて共有できる機会になればと思っています。
今日の内容
- 精神疾患の一般的なこと(周産期に関連して)
- 周産期で気になる一般的なこと
- 向精神薬と妊娠・授乳
うつ病の一般的なこと(周産期に関連した)
DSM-5-TR:精神疾患の診断・統計マニュアルによると、
有病率 アメリカ:12ヶ月有病率7%(p181)
18~29歳までの有病率は、60代以降に比べて3倍
青年期にピークを迎え、その後は横ばい
女性は男性の約2倍高い割合で、特に初経から閉経の間(妊娠可能年齢)に発症する
再発率は85%(Am J Psychiatry 156:1000-1006, 1999)や38%(Am J Psychiatry 143:24-28,1986)等の報告がある。
抗うつ薬を中止すると再発率は68%で治療継続群は26%(JAMA 295:499-507, 2006)との報告があり、服薬中断でうつ病の再発リスクが上昇する。
双極症での困りごと(周産期に関連した)
病歴が長い(再発予防のためにも治療期間が長い:妊娠可能年齢にかかわってくる)
発症年齢:20~30歳代(うつ病より早い)
妊娠に関連して使用しにくい薬剤がある
統合失調症での困りごと(周産期に関連した)
喫煙率が高い(半数以上に喫煙歴あり)
DSM-5-RTによると、ほとんど男性は結婚をせず自分の家族以外との社会的接触が限定されている。
女性に関連して、エストロゲンが保護的に働く可能性が記載された。
→エストロゲン濃度が低下する月経前に悪化、エストロゲン濃度が高い妊娠中は改善し、エストロゲン濃度が急激に低下する産後に悪化するようである。
病歴が長い(再発予防のためにも治療期間が長い:妊娠可能年齢にかかわってくる)
妊娠中の双極症の再発リスク
双極性障害と診断された1999年3月1日から2004年8月31日までの間にボストンのマサチューセッツ総合病院の周産期および生殖精神医学臨床研究プログラムに参加された妊婦89例において再発リスクと新しいエピソードの再発までの時間を観察した。
気分安定剤治療を中止した女性は、継続した女性に比べ、再発リスクが2倍高い。
最初の再発までの時間の中央値が4倍以上短い。
妊娠中の病相である割合が5倍多い。
再発までの期間は急激な中止は漸減した場合よりも11倍短い。
ほとんどの再発は抑うつまたは混合型(74%)。その47%は妊娠初期である。
Am J Phychiatry 164 1817-24 2007
https://psychiatryonline.org/doi/10.1176/appi.ajp.2007.06101639
精神疾患を持つ女性患者の周産期できをつけること:
妊娠する前:プレコンセプションケア
精神科の病気になったからといって、勉強、仕事、結婚など諦めずにやっていけたら:突然「妊娠した」ではなく「前もって相談してほしい」
薬剤調整、精神的な状態の安定、配偶者への説明など
精神疾患のみならず、喫煙、糖尿病、飲酒などの身体疾患の妊娠・胎児への影響が懸念されることに対してのアドバイス
その際に奇形の自然発生率が約3%あること、臨床的に確認された妊娠のうち15%が流産することを伝える(周産期医学 51:229-233,2021)
妊娠してから:
本人がどうしたいかという希望を確認する
服薬を中断することのデメリットや服薬継続についての影響・不安の共有と説明を行う(胎児への影響、精神状態の悪化の可能性、精神状態の悪化の影響など)
出産してから:
授乳(夜間に起きずに対応できるようにするための役割分担など)、育児の負担について等
参:精神疾患を合併した、あるいは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド
https://fa.kyorin.co.jp/jspn/guideline/sALL_s.pdf
プレコンセプションケアについて
妊娠に向けた薬の調節の6つの原則
- 必要に応じた薬の変更を行う。
- 少なくとも妊娠する3ヶ月前までには、精神疾患が安定していることが望ましい*。
- より多くのエビデンスがある薬を選択する。使用実績の少ない薬を使用する場合には、催奇形性などの胎児への影響に関するエビデンスが不十分であることを考慮する。
- 胎児が暴露される薬の種類・容量は最小限に抑える。
- チーム医療とSDM(Shared decision making):妊娠成立後は、精神科、産科、小児科、保険行政などが合同して多職種でのカンファレンスを行うなど連携して、集学的に習慣期管理を行うことが望ましい。また、家族も含めて、治療した場合と治療しない場合のそれぞれのメリット、デメリット、注意すべき再発徴候や症状について情報を提供しておく。基本的な姿勢として、SDMを大事にする。
- 薬の使用など医療者が提案した方針について患者や家族の同意が得られない場合にも、支持的に対応する。同意しない理由を慎重に探りながら、ほかの方法を選択した場合のリスクを説明する。多診療科、多職種が連携して説明する鳥飼いが進むことが多い。
*双極性障害の場合には、再発のリスクを抑えるために、妊娠成立前少なくとも6ヶ月は安定していることが望ましいとの意見もある。
精神神経学雑誌 124 10 2022
精神疾患合併または既往歴がある女性に対するプレコンセプションケア
https://fa.kyorin.co.jp/jspn/guideline/sG7-12_s.pdf
アメリカの2016年から2019年の間にnationwide birth certificate dataを使い、12144972人の妊娠差か月前および妊娠中の喫煙と12種類の先天奇形の関連について検討した。
妊娠前の喫煙者の9.3%、第1三半期で7.0%、第2三半期で6.0%、第3三半期で5.7%に先天奇形が見られた。
喫煙本数が1日に1~5本であったとしても6種の先天奇形(先天性横隔膜ヘルニア、腹壁破裂、肢欠損、口唇裂、口蓋裂、尿道下裂)は有意に増加した。
一度も喫煙をしたことがない女性は、妊娠前・妊娠中に喫煙した女性と比較して有意に先天奇形は低かった(RR 0.77)。
妊娠前に喫煙していた女性・妊娠中に禁煙した女性のリスクは減らなかった。→妊娠を考えているなら禁煙が大切である。
ほかの報告では、禁煙で先天奇形が減少したとの報告もある。
BMC Med. 2022 Jan 11;20(1):4.
https://bmcmedicine.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12916-021-02196-x#Tab3
日本人妊娠前糖尿病女性における主要な先天性奇形の発生率を調査した。292例(1型糖尿病132例、2型糖尿病146例、そのほか4例)で主要な先天性奇形およびすべての先天性奇形の発生率は、それぞれ7.2%(21/292)、12.7%(37/292)で妊娠初期におけるHbA1c値のカットオフ値は6.5%であり、6.5%以上では、主要な奇形が有意に高値となった(aOR 3.5:p=0.018)。
発生率が低いことはHbA1cのカットオフ値の是非、12週未満の流産と中絶にいての解析がLimitationである。
J Obest Gynaecol Res 47 4164-4170 2021
https://obgyn.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jog.15015
カナダのオンタリオ州全域で2007年から2018年の間で妊娠前90日以内にHbA1cが測定された糖尿病女性で、妊娠~21週間までに再度HbA1cを測定した3459例の検討では、妊娠前から妊娠前半に、HbA1cの低下があれば、母子にとって有害な転帰のリスクの低下がみられた(7.2±1.6%→6.4±1.1%)。
HbA1cが0.5%下がると、先天異常を伴う妊娠497(14.4% aRR 0.93)、早産847(24.5% aRR 0.89)、母親の重篤な合併症と死亡191(5.5% aRR 0.90)低下する。
JAMA network open 3(12) e2030207.2020
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2774458
胎児性アルコール・スペクトラム障害(Fetal Alcohol Spectrum Disorders:FASD)
妊娠中の母親の飲酒は、胎児・乳児に対し、低体重や顔面を中心とする形態異常、脳障害などを引き起こす可能性があり、胎児性アルコール・スペクトラム障害と言う。治療法はなく、唯一の対策は予防であり、少量の飲酒でも、妊娠のどの時期でも影響を及ぼす可能性があり、妊娠中の女性は完全に禁酒することを勧める。
その中核が胎児性アルコール症候群(Fetal Alcohol Syndrome:FAS)である。
- 顔面の特異的願望(薄い上唇、平坦な人中、平坦な顔面中央)
- 発達遅延(低体重、体重増加の遅れ)
- 中枢神経系の障害(出生時の頭蓋の大きさの減少、小頭症・脳梁欠損などの脳の形態異常、感音性難聴、協調運動障害など、後年にADHDや鬱病、依存症などの精神科的問題が発生することがある)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-015.html
参:胎児性アルコール症候群の顔貌
「薬を飲んでいたら、赤ちゃんに異常(奇形)が起きる可能性がありますか?」
よく聞かれる質問である。
Update on Overall Prevalence of Major Birth Defects-Atlanta, Georgia, 1978-2005で下記のデータが図示されている。
薬を飲んでいなくても、約3%の頻度で先天的な形成異常が生じるベースラインリスクが存在する。
Morb Mortal Wkly Rep 57(1) 1-5 2008
https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5701a2.htm
ヒトの先天異常は出産の2~3%で、そのうちの65~70%は原因不明で環境要因が5~10%、染色体異常が5~10%、単一遺伝子異常が15~20%と推計されている。薬剤が原因とされるものは環境要因に含まれ、全体からすると1%程度である。
向精神薬と妊娠・授乳 改訂版p2 東京 南山堂 2023年4月
向精神薬と妊娠・授乳
周産期うつ病に対する治療方針の決定に関する一般的原則
精神神経学雑誌124巻 2022年
https://fa.kyorin.co.jp/jspn/guideline/kALL_s.pdf
- 本人・家族に、病気と治療に関してのリスク・ベネフィットを説明する(医療者と本人とそのパートナーなどとが共同して方針を決定する共同意思決定shared decision making:SDMの姿勢を基本とする)。
- リスク・ベネフィットの見積もりには不確実性伴うことも伝える。
- 妊産婦を対象とした多くの研究は、倫理的な問題からランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)が実施できず、観察研究である。
- 観察研究は、うつ病の重症度、治療薬や併用薬、喫煙・飲酒などの生活環境、家族歴などの様々な交絡因子の影響などのバイアスが存在する。
ここからは 藤井久彌子先生の行われている個人的な方法です。
患者さんへの説明方法
- 添付文章の妊産婦のところをコピーして渡して説明する
- オーストラリアの基準(Australian Drug Evaluation Committee)を提示する
https://www.tga.gov.au/australian-categorisation-system-prescribing-medicines-pregnancy
- Medications and Mother’s Milk 2023を提示する (会費が必要)https://www.halesmeds.com/
- 妊娠と薬外来があることを紹介する
- その上で、Shared Decision Makingを行う。
- 添付文書の妊産婦のところをコピーして説明する。
一般的な添付焚書の妊婦および授乳婦の記載は異化のようになっている。
- オーストラリアの基準(ADEC:Australian Drug Evaluation Committee)
The Australian Drug Evaluation Committee(ADEC)のデータベースにアクセすると下記の画面になる(講演のスライドはMarch 2024であったが現時点ではSeptember 2024)
https://www.tga.gov.au/news/news/updates-prescribing-medicines-pregnancy-database-september-2024
上記画像の赤丸のところをクリックすると下図のようになる。
この画像の赤丸をクリックすると下図のようになる。
そしてSearchの欄に薬剤名を入力する手順となる。
- Medications and Mothers’ Milk 2023を提示
内薬もある。下記の表示で示すことになる。
最新版が出た。
アマゾンなどで購入できる。
インターネット上での検索も可能。
- 妊娠と薬外来があることを紹介する。
滋賀医科大学医学部附属病院 妊娠と薬外来
https://www.shiga-med.ac.jp/hospital/doc/department/special_opd/ninshin.html/index.html
東京の世田谷区にある国立成育医療研究センターでも妊娠や授乳中の薬に対する情報を公開している。
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/
精神疾患の患者さんは妊娠糖尿病に注意を払うことが望ましい
滋賀大学病院で2017年1月から2019年12月末までに出産した多胎妊娠者を除く1282例の妊婦を対象とした多変量解析では、99例の妊婦が精神障害を煩っており、62例が向精神薬を服用していた。
精神障害患者の妊娠・出産では、NICUへの入院と、喫煙が多かった。
基礎疾患の内訳は下表の通りである。
内服薬内訳を下表に示す。
精神疾患患者では、年齢が若い、喫煙(禁煙しない)、妊娠糖尿病が多い、胎児異常は少ない。
妊娠糖尿病に関連があったのは、母体年齢、抗精神病薬・抗うつ薬の服用であった。
妊娠糖尿病患者のうつ症状への配慮が必要である。
ただ、妊娠糖尿病の発症時期と服薬時期の確認はできていないし、服薬と妊娠糖尿病の因果関係は不明である。
Women’s health reports 5 1 2024
https://www.liebertpub.com/doi/pdf/10.1089/whr.2023.0112
2005年10月から2016年12月の間に出産予定日の1ヶ月後に質問票を記入してもらい、妊娠転帰、出産日、出産時の在胎週数、小児科医の報告で確認された乳児の奇形、出産時の身長・体重・頭囲・胸囲を、第2世代抗精神病薬(SGA)の暴露群と(404例)対照群の比較検討をした。
404例中、出生が351例、死産が3例、自然流産が34例、選択的中絶が16例であった。出生時における主要な先天性奇形の発生率は暴露群で、3/351例0.9%、対照群で70/3899例1.8%であリ、統計上有意差を認めなかった。
初産率はSGA群で有意に高く、妊娠間のBMIはSGA群で高く、妊娠判明後の飲酒はSGA群で2.2%、対照群で1.6%、非喫煙者の割合は、SGA群で73.8%、対照群で86.1%、妊娠判明後も喫煙を継続しているのは、SGA群で10.4%、対照群で3.7%で、SGA群で喫煙が有意に多かった。
糖尿病の病歴は、SGA群で3.0%と対照群の1.1%より有意に多かった。
J Clin Psychiatry 83 21m14081 2022
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35687862/
日本精神神経学会『精神疾患を合併した、あるいは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド』
https://fa.kyorin.co.jp/jspn/guideline/sALL_s.pdf
精神神経学会雑誌 第124巻 別冊2022 で詳細は確認してほしいが、
抗精神病薬による治療によって、先天大奇形と早産のリスクが高まるという明確なエビデンスは得られていない。
児に対するリスク
先天異常・先天性心疾患
第1三半期のSSRIの使用は先天異常との関連を示唆する報告があるが、大奇形とは関連が見られていない。なお、パロキセチンの添付文章には、先天性心疾患のリスクが増加することが記載されているが、第1三半期のパロキセチンしようと先天性心疾患との関連を示唆する報告と否定的な報告があり、結論は出ていない。なお、SSRI以外の抗うつ薬使用と戦線異状・先天性心疾患の関連を検討した報告は少ないため、リスク評価は現状では困難である。
新生児へのリスク
抗うつ薬使用は、新生児遷延性肺高血圧症や新生児薬物離脱症候群のリスクを高めるという報告もあるため、出産後、その点も加味して児の慎重な経過観察を行うことが望まれる。
新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)
出産後数時間以内に、頻呼吸・陥没呼吸を認め、酸素投与に反応しないチアノーゼを呈する疾患である。母親の抗うつ薬使用により、PPHN発症に影響を与える因子(喫煙、糖尿病、肥満など:いずれもうつ病医に伴う可能性がある)wp調節した場合、母親の抗うつ薬使用とPPHNとの関連は示されていない。
新生児薬物離脱症候群
妊娠中に服薬していた場合、新生児薬物離脱症候群として、出生後数時間から数日以内に、離脱症状として、振戦、易刺激性、興奮状態などの神経症状、哺乳不良、嘔吐や下痢などの消化器症状、そして、発熱や多感の自律神経症状を発症
する場合がある。第3三半期に抗うつ薬を使用した女性の方が認められやすく、まれに、無呼吸発作や痙攣などの重篤な症状が出現することがあるが、いずれも一過性で数週間以内に自然回復する。なお、新生児薬物離脱症候群については、薬物の離脱だけではなく、薬物の直接作用影響の可能性もあることから、最近では「新生児不適応症候群」と呼ばれることもある。
母体に対するリスク
流産と早産
第1三半期のSSRI、SNRI、TCAの抗うつ薬使用は流産と関連を示唆する報告と、関連しないとする方刻苦があり、結論は出ていない。関連を示唆する報告において、一般的な流産の頻度(10~15%程度)の範囲内である。なお、妊娠期のSSRIの使用は、早産とは統計学的有意な関連は認められていない。一方で、妊娠期にうつ病の治療を受けないこと自体が、治療を受けるよりも早産並びに胎児発育不全と関連することが示されている。
同じ量の薬物を服用しても、女性は男性に比べ39%の薬物量で20%以上血中濃度が高いとの報告もあり(臨床薬物動態学改訂第4版 臨床薬理学・薬物療法の基礎として 南江堂 2009)、海外の臨床データでは、女性は男性より優位に少量の向精神薬を処方されていたにもかかわらず、血中濃度は女性の方が有意に高かったとのほうこくもあるし、医薬品の副作用は、女性の方が男性に比べて高い頻度で起きていることが知られている。したがって、妊娠前から、女性に対しての昼用以上の量の薬物が処方されていないかどうか検討することが提案されている。
妊娠中(特に後期)は肝血流量および腎クリアランスが増加する。向精神薬は一般的に脂溶性が高いため、肝臓で代謝されて水溶性代謝物となることで排泄される。そのため、肝血流量増加の影響を受ける可能性がある。クリアランスが腎臓に依存している薬物は妊娠中に血中濃度が下がりやすい。
妊娠中CYP1A2活性は低下し、2D6、3A4、2C9、UGT1A活性は増加するため、これらの代謝酵素でd代謝される向精神薬の量を調節することが提案されている。
妊娠12週以降、胎盤関門を介して母体間の薬物の移動が高まる。器官形成期である妊娠4~12週(特に7週まで)は母胎間の薬の移動は活発ではないが、一部の薬物は胎児に到達し、形態的以上を引き起こすことがある。
薬物の母乳以降正の指標として、母乳中濃度の母体血漿中濃度に対する比(milk/plasma ratio:M/P比)や、母体への体重あたりの投与量に対して、乳児体重あたりの摂取量が何%2相当するかを示した相対的乳児薬物投与量(relative infant dose:RID)があり、いずれも低いほど乳児への影響は少ない。RID<10%とは、体重あたりの投与量が母体の10%未満であることを意味している。
各薬のM/P比、RIDをそれぞれ以下の表に示す。
各論12妊産婦と向精神薬 精神神経学雑誌第124巻 別冊2022
https://fa.kyorin.co.jp/jspn/guideline/kG114-126_s.pdf
周産期うつ病に対する治療方針の決定に関する一般的原則を再掲載する。
精神神経学雑誌124巻 2022年
https://fa.kyorin.co.jp/jspn/guideline/kALL_s.pdf
- 本人・家族に、病気と治療に関してのリスク・ベネフィットを説明する(医療者と本人とそのパートナーなどとが共同して方針を決定する共同意思決定shared decision making:SDMの姿勢を基本とする)。
- リスク・ベネフィットの見積もりには不確実性伴うことも伝える。
- 妊産婦を対象とした多くの研究は、倫理的な問題からランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)が実施できず、観察研究である。
- 観察研究は、うつ病の重症度、治療薬や併用薬、喫煙・飲酒などの生活環境、家族歴などの様々な交絡因子の影響などのバイアスが存在する。
2000年から2007年の期間における全米メディケイド分析抽出コホート内コホート研究でメディケイドに登録された最終月経期間前3ヵ月から分娩後1ヶ月までの妊娠女性949504例と、その出生児を対象に検討された。
64389例6.8%の女性が妊娠第1期に抗うつ薬を使用していた。抗うつ薬に暴露されなかった児のうち6403例が先天性心疾患を有して出生した(72.3/10000人)。これに対して暴露された児では580例(90.1/10000人)であった。抗うつ薬使用と先天性心疾患との関連は交絡因子による補正レベルを高めるにつれ減弱した。
SSRI使用にともなるあらゆる先天性心疾患の相対リスクは、補正なしの解析では1.25、うつ病の女性に限定した解析では1.12であリ、うつ病女性の背景因子で調節すると1.06であった。
NEJM 370 2397-407 2014
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1312828
2018年10月17日までに発表された論文から46の適格論文を抽出し、自閉スペクトラム症と関連の可能性がある環境因子やバイオマーカーの関連を検討した。
母親の年齢が35歳以上 RR 1.31、母親の慢性高血圧 OR 1.48、母体の妊娠高血圧症 OR 1.48、妊娠前または妊娠中の母体の過体重 RR 1.28、子癇前症 RR 1.32、妊娠前の母親の抗うつ薬の使用 RR 1.48、妊娠中の母親の一部の抗うつ薬の使用 OR 1.84であった。
妊娠前or妊娠中の母親の過体重と妊娠中の一部抗うつ薬使用が関連していた
Lancet Psychiatry 6 590-600 2019
https://www.thelancet.com/journals/lanpsy/article/PIIS2215-0366(19)30181-6/abstract
出生前のSSRI暴露と幼児の自閉症症状に関して関連があるとの報告があるが、SSRIは基礎疾患の重症度の単なるマーカーである可能性があり、治療の盈虚と結論するには時期尚早である。妊娠中にうつ病に直面している女性の不安や罪悪感をさらにあおり、一部の助成が治療を受けられなく可能性があることが懸念される。
心の不調や病気と妊娠・出産のガイド(一般向け)が2024年9月30日に更新された。是非参照してほしい。
日本精神神経学会 「心の不調や病気と妊娠・出産のガイド」
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=71
https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/about/kokoro_ninshin_syussan.pdf
まとめ
妊娠に関連して
『薬は危険』と決めつけて中断しないこと
授乳については、基本的には可能な薬剤が多いが、新生児への影響を見ながら、母体の負担も考慮して検討する
患者さんの病状を評価し、希望を加味しながら、協働作業で可能な範囲で、そのときそのときに応じて、よりよいものを選択する・
☆患者さんと諦めないことを協働詐病をするために☆