川村所長の勉強会参加記録

2013.09.24

『食べる』を考えた糖尿病治療の現状とこれから 武田純教授

2013年9月21日 日石横浜ホール
演題「『食べる』を考えた糖尿病治療の現状とこれから」
演者: 岐阜大学大学院医学系研究科内分泌代謝病態学教授 武田 純 先生
内容「糖尿病に至る日本人の耐糖能変化は下図のような変化をたどる人が多い。

とすると空腹時血糖値を見ていても、糖尿病になるまで気付かない場合が大いに存在することになる。そのため、他の検査項目でチェックをしていく必要がある。
空腹時血糖値が126mg/dl以上の症例を除いて、糖尿病を検出できる感度と特異度をHBA1cの値を変えてみてみると、JDS6.5(NGSP 6.9)以上で糖尿病の診断特異度は96%であった。診断感度、特異度を細かく見てみると、60歳以上では81.6%と70.9%であるが、60歳未満においては、83.3%と79.5%であり、働き盛りの人においてはより有効であること、BMI<23.0のさほど太っていない人においても、それぞれの値は81.8%と78.7%と良好な値であり、スクリーニング検査値としては、非肥満で働き盛りの人においてより有効であることが推察される。
そこでJDS 6.5(NGSP 6.9)以上を糖尿病、JDS 6.1~6.4(NGSP 6.5~6.8)を糖尿病型に相当し要医療、JDS 5.5~6.0(NGSP 5.9~6.4)を糖尿病予備群に相当し要指導、JDS 5.2~5.4(NGSP 5.6~5.8)をメタボリックシンドロームの初期段階と考え対応することにした。12000人の住民健診でHBA1c JDS 5.5%以上の耐糖能障害を疑われた人は、男性で14%、女性で12%であった。これらの人の一部に糖負荷試験を行い、糖尿病型、境界型であると判定された人に6か月生活指導を行ったところ、糖尿病型の大半が境界型や正常型に改善し、境界型の約半数が正常型に移行した。一年後には改善者の数も増加していたが、糖尿病型も増加していた。この糖尿病型になった人の大半は、痩せている人でインスリンの分泌能が低下している人と考えられた。
近年話題になっている『低炭水化物ダイエット』の問題点とも共通する機序がある。
先ず、糖の貯蔵体であるGlycogenは一分子あたり4分子の水と結合している(グリコーゲン1gと水3gが結合している)ので、低炭水化物ダイエットでGlycogenの減少による体重減のうち75%は水を失ったためということになる。
糖質が枯渇するとエネルギー源として脂質ばかりでなくタンパク質も利用されるため、筋肉量が落ちてくる。特にサルコぺニアが問題となってくる高齢者においては、非常に危険なダイエットである。
赤みの肉はいくら食べても糖尿病に問題ないと言われる人もいるが、肉の中に含まれているアルギニンに注目してみると、アルギニンの摂取量が多くなると糖負荷時のインスリン分泌反応が低下してくること、血糖を上昇させるグルカゴンの分泌量が増加してくることを考えると、好ましいことではない。
糖尿病の判定使用する、糖負荷検査75gOGTT(https://selectra.jp/sites/selectra.jp/files/pdf/946.pdf)実施に当たっては、正確な判定を得るために,次の条件を守ることが必要であるとされている。
① 糖質を150 g 以上含む食事を3 日以上摂取した後,早朝空腹時にグルコース75 g(無水物として),あるいはそれに相当する糖質を250~350 ml の溶液として経口負荷し,経時的に採血して血糖値を測定する.5 分以内で服用し,飲みはじめてからの時間で評価する.
② 前日から実施までの空腹時間は10~14 時間とする.
③ 検査終了まで水以外の摂取は禁止し,なるべく安静を保たせ,また検査中は禁煙とする.
④ 同時に尿糖を測定することは,尿糖排泄閾値を推定するのに役立つ.
⑤ 糖尿病診断の目的には少なくとも,空腹時および2 時間目の血糖値を測定する.
⑥ 飢餓時や食事からの糖質摂取が少ない場合には耐糖能は低下する.また,胃切除を受けたものでは,糖負荷後早期に血糖値が著しく上昇することがある.

ここに挙げられている①の『糖質を150g以上含む食事を3日以上摂取すること』が重要である。
実際1935年に低炭水化物食と高炭水化物食をそれぞれ継続してOGTT検査をした場合の結果がある。

この時ほどこまめに血糖採血をされてはいないが1998年にLancetにも同様の報告がある。

このような変化を知らない患者さんは、糖質を150g以上3日関取り続けて下さいと繰り返し言われたとしても、良い結果を出したいために糖質制限食をしてしまう方も少なからずいる。そのため、糖尿病ではない方も偽陽性の結果となってしまうこともある。
長期的に見ても、炭水化物の摂取量が多い群と少ない群では、インスリンの応答の仕方も異なってくる。

インスリンの分泌が多ければ、細胞内に糖を運び込むため、体重も増加してくる。

短期間的には、糖質をとると耐糖能障害や糖尿病の方は血糖値が異常に上昇する。

この急激な血糖値の上昇を抑えるためには時間をかけてゆっくり食べる必要があるが、現実的には困難である。
薬剤では、αグルコシダーゼ阻害薬がこの働きをする。
糖質、タンパク質、脂質の順に血糖値の上昇時間や血糖の上昇値に差がある。

近年、動物実験ではあるが低糖質高蛋白食LCHP、標準食SC、西洋食WD(LCHPよりも脂肪やコレステロールが多い食事)で比較したところLCHP群で最も動脈硬化が進行していた。しかも骨髄や末梢血液中のendothelial progenitor cells(EPCs)が減少していた。

二糖類から単糖類に分解する酵素αグルコシダーゼの阻害剤であるアカルボース(グルコバイ)の投与により耐糖能異常者1429例(714例対715例のプラセボ:40から70歳:平均追跡期間3.3年)により糖尿病への進展率がプラセボ群では41.5%であったのに対して32.4%と有意に25%低下した(P=0.0015)。
その機序は事時点ではわからないとされていたが、αグルコシダーゼが投与されない症例においては、糖質の殆どは空腸で吸収されるのに対して、αグルコシダーゼ投与例においては、糖質の吸収が阻害されるため、回腸末端まで糖質の吸収に携わることになる。このことが内因性のGLP-1(Glucagon-like peptide-1)の分泌を増加させることに寄与し、糖尿病の進展が抑制されたのではないかと現在においては考えられている。
食事の際に野菜を多くとりましょうという話をよく聞くけれど、例えばほうれん草を例に取って見ると、栄養素を1950年と比較してみると2001年のデーターではビタミンAで約20%、ビタミンBで22%、ビタミンCは23%、鉄分で15%と栄養価が低下している。なぜかというと、旬の2月~4月にかけての栄養価の豊富な時期より、それ以外の時期においては栄養価が減少しているからである。できるだけ旬の食材を利用した栄養価の高い食事を心がけるべきである。

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