糖尿病系
2024.11.10
血糖プロファイルから新しい糖尿病治療薬の使い方を考える 弘世貴久教授
2024年11月8日
演題「血糖プロファイルから新しい糖尿病治療薬の使い方を考える」
演者:東邦大学医学部 糖尿病・代謝・内分泌学教授 弘世 貴久 先生
場所: 横浜ランドマークタワー TKPガーデンシティPREMIUM
内容及び補足「
イメグリミンの開発コンセプト:乳酸アシドーシスを起こしにくいメトホルミンを作る。
化学式で記載すると構造的に似ている。
参:しかし三次元構造で見てみると異なる。
https://shiranenozorba.com/2021_10_09_imeglimin-launched7/
個々の薬剤特性を見てみても異なっていることがわかる。
Diabetes Obes Metab. 2021; 23:664-673
https://dom-pubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/pdfdirect/10.1111/dom.14277
ツイミーグ1000mgを1日2回単剤投与の国内第三相試験であるTIMES1試験を見てみる。
主要評価項目は、24週時のHbA1cのベースラインからの変化量で、重要な副次評価項目は24週時のHbA1c改善目標達成割合でその他の副次評価項目は異化の図の項目であった。
症例背景は平均62歳、罹病期間7年ぐらい、BMI25台のHbA1c8前後の対照者である。
HbA1cのベースラインからの変化量は24週時でプラセボ0.15±0.07なのに対し、ツイミーグ群では-0.72±0.07とSGLT2阻害薬に引けを取らない改善度であった。
その週に16週時に顕著になるゆっくりとした効き方であった。
投与24週時においてHbA1c 7.0%未満の達成率は35.8%にもなっていた。
それよりも驚いたのは、空腹時血糖値の変化量である。
グラフを見ると有意に空腹時血糖値を低下させているが、この変化量をみてみると-5.65mg/dLであり、HbA1cの変化量とはかけ離れた値である。
メトホルミン投与例では、有効例では空腹時血糖値がぐっと低下するが、個々が異なる点だといえる。
メトホルミンからツイミーグニ投与薬剤を変更する際には、空腹時血糖値は悪化する症例が多く見られる可能性があり、併用を進めたい。
インスリン抵抗性を評価するための指標で、
HOMA-R=空腹時インスリン濃度(μU/mL)×空腹時血糖値(mg/dL)/405
で計算され、2.5以上でインスリン抵抗性があると判断される。
HOMA-βはインスリン分泌能を評価するための指標で、
HOMA-β(%)=空腹時インスリン濃度(μU/mL)×360/(空腹時血糖値(mg/dL)-63)
で計算され、30%をきってくるとインスリン分泌能が低下すると低下しており、15%をきると著名な低下と判断される。
ツイミーグ投与においてはHOMA-Rは変化なく(インスリン抵抗性には影響せず)、HOMA-β(インスリン分泌能)が改善していることが示された。
安全性:この試験においては、プラセボとの間に有意差は認めなかった。
Sumitomo Pharma ~医療関係者向けサイト~
https://sumitomo-pharma.jp/information/twymeeg/useful/clinical/clinical02.html
1500mgのイメグリミン投与者30例とプラセボ患者29例において、ベースラインから18週目までのOGGT時のAUCとインスリンインデックスを検討した。
イメグリミン投与によりインスリンインデックスは改善した。
Endocrinol Diabetes Metab. 2022 Oct 14;5(6):e371.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9659655/
糖尿病治療ガイド2022-2023の病態に合わせた血糖降下薬の選択の一覧表の中にはイメグリミンは血糖依存性インスリン分泌促進薬として掲載されている。
市販後調査の副作用を見てみると悪心が最も多く、下痢や食欲減退などの消化器症状が多く見られた。
インスリン治療を行っていて血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者にツイミーグ2000mg追加投与を行った国内第3相試験TIMES3試験がある。
主要評価項目は16週時のHbA1cのベースラインからの変化量で、重要な副次評価項目は16週時のHbA1c改善目標達成割合であり、その他の副次評価項目は下図のものであった。
対象症例は、58歳前後でBMIは25前後、罹病期間は13年を超える長期の対照者で、HbA1cも平均8.7-8.8であった。
投与16週時のHbA1cの変化量は-0.63と有意に低下していた。
経時変化としては投与12週目に大きく変化が見られた。
この研究においては空腹時血糖値には有意な差を認めたが、その変化量はわずか11mg/dLであった。
安全性では低血糖と胃腸障害が少し多く見られる程度であった。
Sumitomo Pharma ~医療関係者向けサイト~
https://sumitomo-pharma.jp/information/twymeeg/useful/clinical/clinical04.html
イメグリミン200mg投与者180例、プラセボ182例の362例を4つのクラスターに分けた。クラスター1(青)は4つの指標がすべて低値、クラスター2(赤)は糖尿病期間が長くベースラインBMIが低い、クラスター3(緑)はベースラインBMIとインスリン総日量が高く、クラスター4(黄)はベースラインHbA1cが高値の集団である。
イメグリミンは緑以外でよくHbA1cを低下させていることがわかる。
Diabetes Obes Metab 26 3732-3742 2024
https://dom-pubs.pericles-prod.literatumonline.com/doi/10.1111/dom.15716
イメグリミンのメタ解析の結果をBMI別にイメグリミンの効果を見てみるとBMIが25未満でより効果があり、BMIが30以上では効果が乏しいことが推測される。
糖尿病治療薬のポジショニングを食後血糖か空腹時血糖値のどちらが高いかと糖尿病の罹病期間が短いか長いかの観点から考えてみる。
どんな症例においてもDPP4阻害薬、SGLT2阻害薬やGLP1受容体作動薬は処方可能である。
空腹時血糖高値の症例においては、メトホルミンやチアゾリジン薬が有効である。
食後高血糖症例においては、グリニドやαグルコシダーゼ阻害薬が有効である。
罹病期間が長く空腹時血糖高値例においてはスルフォニル尿素薬を併用することとなる。
そういった症例でも血糖値の改善が見られない、長期治療症例においてはインスリンの投与しか方法がなかった。
イメグリミンは食後高血糖、罹病期間が長い症例においても有効性が期待できることが示された。
他の薬剤との併用療法として国内第3相試験TIMES2試験がある。
HbA1cの低下作用を見てみるとDPP4阻害薬の併用が最も相性がよく見える。
ただし注意しておくべき点は、この試験は主要評価項目が有害事象と副作用を見ているのであり、臨床効果を評価する際には注意が必要である点である。
https://sumitomo-pharma.jp/information/twymeeg/useful/clinical/clinical03.html
そこで我々はDPP4阻害薬にイメグリミンを追加投与して効果を見るためにIMAGINE試験を行った。
2型糖尿病患者でHbA1cが6.5~10%で3ヶ月以上DPP4阻害薬のみの治療を行っている症例に対しイメグリミンを追加投与し1,16週間後のCGMと食事負荷試験を行った。323例のうち解析可能となった症例は11例で食事負荷試験は7例で行った。
平均年齢は70歳、罹病期間は7年、BMI平均は25.8、HbA1cの平均は7.5±1.3であった。
前値 6週後 16週後のHbA1cは7.5→7.0→6.5%と順調に低下し、随時血糖値は168→129.8→127.8と、BMIは25.8→25.5→25.2と変化した。体重変化は食欲低下によるもと思われた。
CGMの変化のうちTIR(Time in range:血糖値70~180mg/dl)は60%→90%、TITR(Time in tight range:血糖値70-140mg/dl)は46→71%と改善した。
食事負荷試験の際の血糖値の変化は、前値152.3→117.5、30分値198.3→153.0、60分値232.9→191.0、120分値231.1→184.5、180分値209.9→147.5mg/dLであり、有意に食後血糖値の上昇を低下させた。AUC0-180 minは38875.7→29434.3と有意に低下していた。
C-peptideは、前値2.14→2.08、30分値3.14→3.05、60分値4.01→4.42、120分値5.47→6.39、180分値6.05→5.98であり、有意差を認めなかった。
つまり食後血糖値の改善は、インスリンの分泌量の変化ではないと考えられるデータであった。
グルカゴンの値は、前値44.7→54.9、30分値78.5→66.7、60分値65.3→55.9、120分値45.5→34.5、180分値39.4→47.4であり、イメグリミンの投与前後で統計上有意な変化はなかった。
川村昌嗣の私見 ①
イメグリミン投与前後のグルカゴンの値に10近く差があり、食事負荷後のグルカゴンの値の変化量を計算してみると下表のようになる。
明らかに、イメグリミン投与後において、食後に分泌されるグルカゴンの量が減量していると思われる(弘世先生に解析を公演後にお願いした)。このため、食後血糖値の上昇が改善していると考えられる。
実際インスリンが分泌されないマウスにおいて、グルカゴンの受容体欠損マウスでは食後血糖値の上昇が見られない。
このグルカゴン上昇の低下がイメグリミンの食後血糖改善作用に寄与していると考えられると思う。
参:
Lee Yらはα細胞欠損マウスではなく、グルカゴン受容体欠損マウス(Gcgr-)を作製し、下 図のCのように、グルカゴン受容体欠損マウスGcgr-では、STZを投与してインスリンの分泌がなくなっても、血糖値が上昇してこなかった。このこと は、グルカゴンが存在していても、肝臓にグルカゴン受容体が存在しない=肝臓にグルカゴンが作用しないと、血糖値が上昇してこないことを示している。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21270251
川村昌嗣の私見 ②
前値のグルカゴンが44.7→54.9の変化で優位さが出ていませんでした。症例数が少ないか、値にばらつきがあるからではないかと考えます。
弘世先生がイメグリミンのチャンピオンデータとして示された症例は、二か月(?)ごとの受信であったため、受診直前の二週間イメグリミンを内服してもらい、血糖値やHbA1c値が低下し効果を認めたため、2週間ごとに受診されるようになったそうです。
この症例はおそらく空腹時のグルカゴン値の上昇はなく、またはかえって低下していたため、空腹時血糖値も低下や早期のHbA1c値の低下が実現できた症例ではないでしょうか。
イメグリミンの投与で早期から血糖プロファイル改善例がみられることを実感されている先生もいらっしゃると思います。
おそらくこれらの患者さんは空腹時のグルカゴン値の上昇がみられない症例だと思います。
私見②は、2週間程度のイメグリミンの投与で空腹時のグルカゴン値の上昇を認める症例では2か月ほどしてHbA1c値が下がってくるが、空腹時のグルカゴン値の上昇がみられない・低下する症例では、早期より血糖プロファイルが改善するのではないでしょうか!?
この私見が外れていなければ、グルカゴンの分泌抑制の効果がある薬剤とのイメグリミンの併用投与は理想的だといえます。
有害事象は13例中9例に見られ、腹部不快感6例、食欲不振2例と消化器症状が多く、2例が脱落した。
本日のまとめ
糖尿病治療薬のポジショニング
イメグリミンは単独では食後高血糖を抑え、空腹時の血糖値の低下作用は少ない。
多剤との併用では、空腹時血糖値も低下させる可能性がある。
インスリン投与で13年も治療されているヒトに追加投与したさいHbA1cが0.6%も低下させる作用がある。
食後のインスリン分泌は血糖依存性に刺激され、AUCも低下する。
DPP4阻害薬との併用は血糖プロファイルを改善する可能性が強い。
参:1日の投与量が1000mg2回投与となった理由
国内後期第2相試験(用量反応検討試験)において、HbA1c低下作用は1000mg、1500mg一日二回投与で有効となっている。
副作用の発現は1500mg一日二回投与で上昇していることから、投与量が1000mg一日二回投与と決定した。
https://sumitomo-pharma.jp/information/twymeeg/useful/clinical/clinical01.html