消化器系

2019.04.08

慢性便秘症診療の実際 尾高健夫 先生

2019年3月24日 
演題「診療ガイドラインに準じた慢性便秘症診療の実際」
演者:尾高内科胃腸クリニック院長 尾高 健夫 先生
場所:品川プリンスホテル アネックスタワー プリンスホール
内容及び補足「
2016年4月~2018年3月まで当院を受診した7447人のうち2ヶ月以上便秘を有している患者は458人6.15%で、その内331人72.3%は基礎疾患があり、便秘のみの患者は127人27.7%であった。


基礎疾患は胃逆流症・慢性胃炎など消化器疾患が4割程度、高血圧2割、次いで脂質異常症、糖尿病、脳血管障害後遺症と生活習慣病が多かった。

2004年3月31日~4月23日かけてのウェブインタビューでアメリカ人37004人のデータでは、5年未満とそれ以上では若干頻度が異なるものの、お腹の張りStraining、ガス、硬便、腹部不快感、頻回の腸運動、腹満感Bloating、残便感、腹痛、直腸痛、急な便意など多岐にわたっている。

便秘に対しての治療で47%の人が満足しておらず、その82%が治療効果不十分というものだった。続いて副作用が%6%、費用の問題が3%、味が2%となっていた。
食物繊維を取った268例の80%で腹満感が良くならないと不満があった。
治療薬も一般薬、医療用薬品で不満足の割合は異なるが、以下の図のように多数症例において不満足のままである。

Aliment Pharmacol Ther 25 599-608 2007

便秘患者のPhysical Scaleは便秘が無い人よりは悪い。

Mental Scaleもよくない。

Aliment Pharmacol Ther 26 227-236 2007

日本人便秘治療受診患者700人とその担当医393名に治療の満足度について調査した研究では、医師は排便回数の減少や便の固さなどの客観的な症状を重視しているが、患者の困っている症状は腹部の膨満感、排便回数の減少、便の固さ、排便困難が一位であり、客観症状のみならず、腹部の膨満感や排便困難などの主観的な症状も多い。女性では腹部の膨満感は29%と特に多かった。

日本人における慢性便秘症の症状および治療満足度に対する医師/患者間の認識の相違
著者: 三輪洋人,  他
Therapeutic Research 38巻11号, 1101-1110 (2017);

便秘の定義:
2017年に『本来体外に排出すべき糞便を充分量かつ快適に排出劇ない状態』と定義された。Rome 4の定義やAmerican Gastroenterological Associationの定義は以下のようになっている。

便秘症の診断では、問診が重要である。AgachanらのConstipation Scoring Systemを用いて、便秘の重症度評価をする。

合計点数が0点:便秘なし、30点:最悪便秘で、Cleveland Clinic Constipation Scoreとも呼ばれる。経時的に比較する場合は、治療によって変化することのない病気冠を除いて0~26点で評価する。
Dis Colon Rectum 39 681-685 1996

便秘が生活の質に及ぼす影響については、MarquisらのPatient Assessment of Constipation Quality of Life Questionnaire(PAC-QOL)の日本語版であるJPAC-QOLを用いることが多い。

J Gastroenterol 49 667-673 2014

自分の外来(尾高内科胃腸クリニック)では
発症時期、排便の頻度、便の性状、自覚症状、症状の頻度、既往歴、常用薬、生活状況、QOLは必ず聞くようにしている。Medicina 53 1327-1331 2016

続発性慢性便秘の原因
1. 器質性便秘(症候性便秘):何らかの器質的異常を伴うもので、腸管の異常、隣接する腹腔内臓器の炎症、腫瘍などにより腸内容物の通貨障害を表すものや内分泌疾患、神経疾患、糖尿病、薬物中毒などによる腸管運動の麻痺によって便秘が起こる。
2. 機能性便秘:一過性単純性便秘、直腸性(習慣性)便秘、弛緩性便秘、けいれん性便秘などに分けられる。
3. 薬剤性便秘:薬の服用による副作用として便秘が起こる。抗コリン作用剤(パーキンソン病治療剤、抗うつ剤など)、癌疼痛目的として使用する麻薬、制酸剤、カルシウム拮抗剤などがある。

原発性慢性便秘の原因として、腸管拡張なしとして、normal transit constipation(59%)、outlet obstruction(25%)、slow transit constipation(13%)、腸管拡張ありとして、
Chronic intestinal pseudo-obstruction (CIPO慢性偽性腸閉塞)、chronic megacolon(巨大結腸症)がある。
日内科医師 105 429-433 2015

便の性状の評価としてはBristol stool from scaleがよく使われる。

回腸から結腸に移動した便は水分が吸収され液状→半流動状→粥状→固形へと形状を変化させながら結腸を移動していく。

随意筋である外肛門括約筋(横紋筋)の内側に不随筋である内肛門括約筋(平滑筋)がある。
便の移動により直腸内圧が40~50mmHg以上になると、直腸壁の骨盤神経から仙髄の排便中枢に刺激が伝わり、視床下部を経て大脳皮質に伝達され、便意を意識することになる。こうした刺激は、直腸内の内容物より上方の緊張や運動を高め、それより下方の緊張や運動を低下させる。この絞り出すような運動により、便は次第に肛門に向けて送り出される。
排便中枢に刺激が伝達されると副交感神経が刺激され、反射的に特徴菌が収縮し内肛門括約筋が弛緩し、内容物を絞り出すような運度が起こる。外肛門括約筋は随意筋であり。意識的に緊張させることにより、排便を我慢することができる。

https://www.kango-roo.com/sn/k/view/3099

大腸内圧検査:肛門管内圧検査とHAPC(High amplitude propagated contractions:排便時に大腸の口側から肛門側に伝わる強い収縮)を調べる検査がある。数が四か所における大腸の収縮の状況を示している。収縮していない時間が結構あることがわかる。

大腸の蠕動性収縮が下部結腸に伝達している様子が理解できる。
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000349.html


https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1432711/

ヒトでは、口から摂取された食物や硫酸バリウムは5~6時間で盲腸と上行結腸に達すると言われている。そして大体24時間でその一部は糞として排便される。上行結腸からS状結腸の末端まで115~130cmあり、この距離を通過するのに18~19時間を要している。平均1.0~1.2mm/分の速度で、内容物が肛門側に送られていることになる。
この結腸停留中に小腸で吸収しきれなかった水分と電解質が、主として近位結腸で吸収され、次第に固形化してゆき、遠位結腸では噴火位となる。この停留に寄与している動きに逆行波antidromic contraction waveあるいは逆蠕動antiperistalsisがある。実験動物では常に存在しているが、ヒトでは時々見られるのみである。

参:Ritchieはバリウム造影剤を経口投与した多数例において、摂取後12-15時間後の大腸運動を、安静時、昼食後、Calbachol(0.25㎎、i.m.)投与で比較検討した。
その際、1 右結腸(盲腸と上行結腸)、2 横行結腸、3 下行結腸、4 骨盤結腸、5 特徴に区分して観察した。安静時で観察した389区画のうち約1/3(34%)の134区画で全く収縮が認められず、その他の区画に現れた運動を1. 非推進分節運動(non-propulsive segmental activity)、2. 推進運動(propulsive movements)、3. 逆推進運度(retropulsive movements)の三つに大別しているが、いずれも内容を肛門側へ運ぶ収縮運動である。
1. 非推進分節運動:結腸の各所が局所的に輪状に収縮、次いで弛緩を繰り返すが、伝播しない。したがって結腸内容は収縮によって分割され、口側と肛門側の両方に移動し、弛緩によってまた戻る。結局内容を停滞、混和し、水分などの吸収に役立つ。
2. 推進運動
(ア) 単一膨起推進運動:単一の膨起haustra coliが収縮し、その中の内容を隣接した肛門側のhaustraへ送り込む
(イ) 多膨起推進運動:隣り合った数個の隆起が比較的同時に収縮し、内容物を一部あるいはほとんど全部肛門側へ運ぶ。これを受容した隣接部位は伸張され、膨起は消えるが、数分後この部が全体として収縮し、内容を肛門側へ送る(程度の弱い蠕動)
(ウ) 蠕動:haustraの中間で形成された環状の収縮輪が、15-20cmの距離を、内容物を押しながら肛門側へ進行するもので、弛緩状態が先行するものを蠕動という。この収縮は縦走筋と輪状筋がともに緊張性に収縮し、1-2cm/分で伝播してゆくもので、管腔を閉じ、その専攻の市幹部はしばしばガスで伸張される。この蠕動は安静時で出現率は6%で、横行結腸の中央部より肛門側によくあらわれる。昼食後は8%になり、carbachol投与後では28%になる。
3. 逆推進運動:逆蠕動antiperistalsisあるいは逆行波とも呼ばれている。安静状態で観察した全結腸区画の11%でみられ、右結腸では認められなかった。全結腸内容の逆行は2.3cm/時の速度で、正行の約半分である。食後この逆蠕動の発生率は安静時に比べ約二倍に増加する。もちろん、正行波の発生率も増加するので、結腸内容の正味の肛門側への推進距離も二倍になる。
大腸肛門誌 39:799-805、1986

便秘を病態からみると、結腸の通過時間が正常なのか遅延しているかに分けられる。

20人の健常者と40人の深刻な難治性慢性便秘患者の24時間の大腸の動きを記録した。
HAPC(high-amplitude propagating contractions)は慢性便秘患者で明らかに減少していた。25%でHAPCを認めず、12.5でS状結腸の分節運度の亢進を認め、42.5%で異常運度は認めなかった。
Neurogastroenterol Motil. 2004 Aug;16(4):397-402.

73人の健康人の結腸通過時間を測定した。全結腸通過時間は35.0±2.1時間(右結腸11.3±1.1時間、左結腸11.4±1.4時間、直腸S状結腸12.4±1.1時間)であった。
男性は女性よりも通過時間は短いが、その時間差は直腸S状結腸時間以外の通過時間違いによっていた。

Gastroenterology 92 40 1987

20-50個のマーカーを含んだカプセルを飲んでもらい、腸内の分布をみることにより、便秘を分類することが可能である。
下図のように、R:右側、L:左側、RS:直腸S状結腸の3領域に分けて考える。

1回の服用で5日後に20%以上残っていたら通過遅延と考える。
J Neurogastroenterol Motil. 2012 Jan; 18(1): 94-99.
Evansらは25人の健常男性と18人の健常女性の95%の人が120時間以内にマーカーの80%以上が通過したと報告している(Int J Colorectal Dis. 1992;7:15-17)。

便のSlow transit症例では、マーカーは内服一日経過しても、主に脾彎曲よりも近位に分布している。3日経過した時点では、左側に分布するタイプと、右側に分布するタイプに分けられる。
日本大腸肛門病会誌 47:393-400、1994

75%以上がRS領域にある場合には排出障害があると考えられる。

機能性便秘の場合には、排便を我慢することから始まり、長期繰り返されることにより、直腸の知覚が鈍麻してしまう。

過敏性スパスムが起こる場合には、直腸脱や直腸瘻などの直腸肛門疾患の可能性も考えられる。肛門のつまりや過度の怒張が便秘に寄与する。

エコーで便の分布を見ることができる。
盲腸や上行結腸に便が充満しているのか、直腸に便が充満しているのか、便の性状も容易に観察できる。

熊本大学 大学院自然科学研究科 情報電気電子工学専攻 田邉将之助教

便秘を改善するためには排便時の姿勢が大切である。
ロダンの考える人のような姿勢で、肘が膝につく姿勢で股関節が35度前後になるようにすると良い。この角度を作るために、体の小さい人は、足置きを使うのも一つの方法であろう。

この姿勢を取ると、直腸肛門角が鈍化して便が出やすくなる。

治療法:
生活習慣の改善:
1日3食、食物繊維の多い食べ物をよく噛んで食べ、水分もしっかり飲む。
便意は我慢せず、朝食後に排便をする時間が取れるように行動する。
ウォーキングやラジオ体操など、腸に刺激を与える運動習慣を身につける。
便形状を改善する内服薬:
浸透圧性下剤:酸化マグネシウム、ラクツロース、D-ソルビトール、バルコーゼ、コロネル
     クロライドチャネル刺激薬:アミティーザ、
大腸運動を促進する内服薬:リンゼス、アコファイド、ガスモチン、ガナトン、プリンペラン、パントール、
    大建中湯、六君子湯、プロスタルモン、ワゴスチグミン
大腸内水分分泌と大腸運動促進する内服薬:グーフィス
排便を誘発する外用薬:レシカルボン坐剤、テレミンソフト座薬
刺激性下剤の連用や多様は危険:下剤性大腸症候群になる危険がある
   プルゼニド、アローゼン、ヨーデル、アジャスト、ラキソベロン

理想的な排便:毎日朝一回、丁度良い硬さの便が、トイレに入って直ぐに排便され、残便感が無い状態

「身体の調子が悪い」
「生活習慣を改善して健康な身体になりたい」
「病気ではないけれど健康に不安がある」 045-313-5055
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