川村所長の勉強会参加記録
2023.06.10
超音波検査で便を見て治療する 津田桃子先生
2023年6月8日
演題「患者満足度がすべて! ~超音波検査で便を見て治療する~」
演者:公益財団法人北海道対がん協会 札幌がんセンター内科部長 国立病院機構函館病院消化器内科 津田桃子 先生
場所: 横浜グランドインターコンチネンタルホテル
内容及び補足「
便秘の定義:
慢性便秘症ガイドライン2017では便秘の定義は
『本来体外に排出すべき糞便を十分かつ快適に排出できない状態』
であり、便秘症とは
『便秘による症状が現れ、検査や治療を必要とする状態』である。
診断基準は下記のように定められている。
(BSFS:ブリストル便形状スケール)
便秘の分類は下図のように定められている。
便秘診療において以下のような問題点もある
・便秘と自覚していない
・恥ずかしくて便秘だと言えない
・通院が面倒くさい
・市販薬の下剤で対応している
・どこを受診していいのかわからない
・何をやっても治らないと思っている
便秘外来における流れはCSSやPAC-QOLを用いた問診を行い、診察を行って、採血、レントゲン、CT、エコー検査をおこなっている。一年以内に大腸内視鏡を行っていない症例においては、原則行うようにしている。
便秘の診断には、排便困難による力み、硬便または兎糞上便、残便感、特徴校門の閉そく感、排便時の用手的な介助、自発的な排便回数が3回/週未満、Rome4の6項目のうち3項目は自覚症状の評価が必要である。
認知機能や運動機能が低下した場合にはこれらの自覚症状を評価することが極めて困難である。
AgachanらのConstipation Scoring System
合計点数が0点:便秘なし、30点:最悪便秘で、Cleveland Clinic Constipation Scoreとも呼ばれる。経時的に比較する場合は、治療によって変化することのない病気冠を除いて0~26点で評価する。
Dis Colon Rectum 39 681-685 1996
MarquisらのPatient Assessment of Constipation Quality of Life Questionnaire(PAC-QOL)の日本語版であるJPAC-QOL
J Gastroenterol 49 667-673 2014
便秘外来受診者の分析
2019年5月から2023年3月にかけて便秘外来を受診された236人で男性72人、女性164人と女性が多かったが、70歳以上では、男性52人、女性60人と差はなくなってくる。
第一主訴は残便感が56.2%、排便困難感(全然でない、途中ででなくなる)32.0%、排便回数の減少11.8%であった。
症状が出てから当施設受診までの期間を見てみると、1年未満43人、1-5年67人、6-10年28人、11-20年33人、21年以上65人とさまざまであるが、男性では短期間で受信する人が多く、女性では長年患った後での受診が多かった。
下剤の使用頻度は、他院処方が130人、市販薬の内服が53人、服薬なしが53人で、77.6%の人が下剤を内服していた。
ブリストルスケールでは、1:81人、2:25人、3:26人、4:30人、5:35人、6:27人、7:11人で、コロコロ便である1が最も多かった。
患者の問診が客観的評価に立っていない可能性があるし、便がたまっていない人に下剤を大量投与している場合、直腸に硬便がある人に浣腸をして直腸穿孔を起こす危険性、直腸瘤や巨大結腸などの器質的疾患の存在の可能性、必要な薬剤追加が行われていない場合などの問題症例の可能性もある。
便秘の診断は、触診や問診、レントゲン、CT検査などの画像検査で行われているが、患者の訴えのみの問診では個人によってその訴えが多様化する点、被ばくを伴う画像評価である点が問題である。腹部超音波検査は、非侵襲的な検査であり、簡便に繰り返し実施でき、便秘治療効果判定には複数回にわたる評価が必要であり、超音波検査は便秘の検査に適している。
超音波検査の問題点としては、術者の技量により描出力が異なるため、客観性に乏しい面は存在する。
超音波のスキャンの手順は以下のように10段階で行っている。
横行結腸、S状結腸の描出は、固定腸管の間を追跡する意識で描出していく。
質的診断が必要な大腸がんの描出の場合には、腸管壁の層構造を描出する必要があるが、便秘のエコー像には、便の存在の有無、硬さ、長さが問題となるので層構造の描出は不要となる。
https://midori-hp.or.jp/examination-blog/web20200427/
直腸糞便エコー
参:
エコー画像は、硬いものほど、反射が強く表面が白く見え、その後ろはエコーが届かないため黒くなる(音響陰影の影響)。水分量が多いほど便は柔らかくなり、表面は白さが薄れ、便後部も見えてくる。
実際のエコー画像は便の硬さや量により、下図のようになる。
https://www.almediaweb.jp/expert/ad/ac2011_01.html
CT画像を基準として、腹部エコーと腹部レントゲンの所見による便局在を大腸の部位ごとに比較検討した結果は、下表のようになり、直腸の画像のみ、エコーで描出が良好であったが、この時点では、排尿後にエコー検査を行っていたので、膀胱に尿をためていたらもっと描出頻度は上昇していたと思われる。
US上の便の正常診断と検査後の最初の便のブリストルスケールの比較では下表のように、ほぼ一致していると言える。
直腸は解剖学的に深部にあり、正面からのみのアプローチとなるだけでなく、小腸が前面を走行している場合があり、皮下脂肪が多い場合などには観察困難となる。
仰臥位で直腸を観察する場合、膀胱の背側に直腸が位置するので、同行に尿がたまっている状態で観察するほうが容易になるし、見える範囲も変わってくる。
上左図は膀胱に尿がほとんどないため直腸が見えないが、上右図では、尿がたまっているので赤矢印の範囲で直腸内便が見えている。
https://www.almediaweb.jp/expert/ad/ac2011_01.html
慢性便秘の病態分類は下表のように分類されている。
日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会編:慢性便秘症診療ガイドライン2017,p.3,2017,南江堂
病態別に画像所見で見てみると下表のようになる。
病態分類ごとのエコーでの便性状の頻度を見てみると下表のようになる。
エコー検査で直腸に便があるかどうかや便の性状が判別できるので、認知機能の低下している患者、意思疎通が困難な患者、寝たきり患者においての評価が容易であるし、AIを併用することで、看護師や非医療者でもトレーニングをすることにより、エコー検査所見を医療に利用することが可能となる。
FUJIFILMが開発したiViz air ver. 5
https://www.fujifilm.com/jp/ja/healthcare/ultrasound/iviz-air/iviz-air-linear
便(-):全周性の低エコー域、便(+):半月型の高エコー域、硬便(+):三日月型の高エコー域として描出される。
直腸観察した際に、画像をフリーズすると、直腸の煮え方を判断するための参考画像も表示され、その中で最も見え方が似たものを「便(-)」、「便(+)」、「硬便(+)」、「該当なし」から選択する。
AI技術を用いて開発された直腸観察ガイドPlus(便有無判別アシスト機能)を搭載した機種も2022年12月1日発売された。
便があると黄色で、便がない場合には青色で表示されるので、ナースや家族のみでの検査も補助診断付きで実施することが可能となった。
https://www.eizojoho.co.jp/newspr/16056
さらには、排便中にiViz airを用いて、直腸が屈曲しない排便をトレーニングするバイオフィードバックの治療にも活用できる。
当院での便秘薬の処方に関しては、
75歳未満:エロビキバット(グーフィス)→PEG(モビコール)追加→ルビプロストン(アミティーザ)12~24㎎→リナクロチド(リンゼス)
75歳以上:ルビプロストン(アミティーザ)12~24μg→PEG(モビコール)追加→エロビキバット(グーフィス)→リナクロチド(リンゼス)
で行い、使用している刺激性下剤や漢方薬はできるだけ中止するように指導している。
高齢者に対してはルビプロストン12μgを4カプセル処方して、便の性状に応じて量の調節をしてもらっている。
こうした治療を行ったところQOLの評価は45.5から10.5に低下した。
高齢者は咀嚼の低下、繊維食品の摂取減少、加齢に伴う併存疾患による影響、腸の全道の低下、筋力低下怒責力の低下、直腸の感覚の低下、直腸の内圧の閾値低下が便秘を増悪することになっている。
参:2019年5月~2020年9月までのデータ